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q130「美術準備室とは」

今年最後の投稿です。



 楠木先生先生の機転で、美術室の隣にある準備室へと移動した僕と天野先輩。

 これで漸く、本来の目的である生徒会業務について話が聞けるね。


「それで、どういった御用ですか? 天野先輩」


「え? だから会いたくて呼び出したんだってば?」


「そういうのはいいですから、そろそろ本題を」


「だから、本当だってば。ミケ君ったら全然会いに来てくれないんだもん。春休み前から全然だから、寂しくなっちゃって」


「……楠木先生?」


 ずっと冗談を続ける天野先輩に、僕は一抹の不安を覚えた。

 そこで、この場の良心である楠木先生に助けを求めたのだが。


「それが、どうやら本当らしいんですよね、それ」


「……帰ります。お疲れ様でした」


「わーっ⁉ ま、待って待って! もうちょっと付き合ってよぉ!」


「こんな危険な場所にいられるか! 僕は生徒会室に帰らせてもらう!」


 死亡フラグっぽい台詞を言い放ち、僕は縋る天野先輩を振り払う。

 まさか本当に会うことだけが目的だったとは。ちょっと嬉しい気もしないでもないが、今は本当に忙しい時期だから勘弁してほしい。


「まあまあ、少し待ってください。柳谷君」


 すると、急に楠木先生が間に入って僕を止めた。

 流石に先生も天野先輩の我儘には呆れるかと思いきや、なんだか違うみたいだ。


「そうは言っても、ずっと会っていなかったのは本当のことでしょう?」


「それはまあ、そうですが」


「ですよね。天野さんは美術室では割と本音を言いますから、寂しかったというのは彼女の紛れもない本心なんだと思いますよ」


「そう……言われると、なんだか申し訳ない気がしないでもないですが。けど、そこまで言うなら先輩の方から遊びに来てくれれば……」


 すると楠木先生がフルフルと首を横に動かした。

 そして彼は、呆れ顔で溜め息を吐く。


「あのね、柳谷君。彼女がそんなことできるはずないでしょう」


「え?」


「彼女、天邪鬼なんですよ? 自分から会いたい人に会いに行くなんて不可能に決まっているでしょう。一日中「別に会いたくなんかないんだからね」とか言いながら自分の部屋に引き籠っているのがデフォルトなんですから。私が何度アドバイスしても聞く耳もたなかった、魚焼き機にこびり付いた焦げの如き頑固な引き籠り天邪鬼が……」


「ちょっと、楠木? わたしのこと、そんなふうに思ってたの?」


 珍しく楠木先生が多弁だ。

 この人も協力者として色々苦労してきたんだろうなァ。


 そういえば楠木先生って今、何歳なんだろう?

 そしてどのくらい協力者としてやってきたのかな?


 そんなことを考えつつ、ふと天野先輩に目を向けると。

 彼女は少し顔を赤らめて僕から目を逸らした。止めてよね、そんな可愛い仕草をされたら勘違いしちゃうから。


「……はあ、分かりました。でも今日は本当に忙しいので、ゆっくり話をするなら、後日改めてでいいですか?」


「うん! もちろんだよぉ!」


「よかったですね、天野さん。それまでに狂信者……もとい見学者が減っていればいいですね。美術室で会うなら」


「先生? 今、生徒たちにとんでもないこと言いませんでした?」


 今日はちょっとだけダーク楠木先生が出ている気がするんだが。

 ジキル楠木先生とハイド楠木先生の他に、まだまだ別人格があるのかな?


 そう思っていると、天野先輩の口から予想外の台詞が飛び出した。


「それは別にどっちでもいいよ? わたしの家で会えばいいんだし」


 天野先輩がそう言った瞬間、楠木先生が阿修羅像のような顔で彼女を見遣る。

 そして、そのまま絶句して立ち尽くす。全く微動だにしないから、本当にただの阿修羅像に見えるや。


「あの、楠木先生?」


「……今、なんと?」


「え? だから、わたしの家で会えばいいって……」


「わたしのいえっ⁉」


 すると楠木先生の大声に反応し、隣の美術室からガタガタッと物音が。

 たぶん今のが聞こえたせいで誤解したのだろうが、そこだけ聞いたらそりゃ誤解するよね。今のは全文聞こえていた方がヤバかったけど。


「く、楠木先生。声が大きいです」


「あ、ああ、失礼しました。あまりのことに、つい取り乱しました」


「そんなに驚くこと? 先輩が後輩を自宅に招くってだけの話じゃん?」


「……これまで一度も、ただの一度も自宅に人を入れたことのない君が言ったのでなければ、私もここまで驚きませんけどね。熱でもあるんですか?」


「酷くない? まあ、確かに楠木が来てからは一度も無いけど……」


 二人の話を聞いて、僕は唖然とした。

 これが見た目通りの高校生なら、たかが十数年の話なのだが。天野先輩の場合の「これまで」だと、下手すれば十数年で済まない可能性があるのだ。


「ええと……ちなみに今まで無いって、何年くらいの期間なんですか?」


「何年というか、百何十年かな?」


「桁が違った⁉」


「えへへ、久しぶりだなぁ。前にお客さんが来たのなんて、明治時代だよぉ」


「一年ぶり~みたいなテンションで言ってますけど、明治時代って僕の親の親すら生まれてないですからね⁉」


 それどころか、祖父母の親世代さえ生まれていない可能性もある。明治何年かにもよるが、軽く百二年くらいは経ってるんじゃなかろうか。


(アイミス? ちなみに令和五年って明治からだと……)


〖明治元年からカウントすると百五十五、大正元年でも百十一年ですね〗


(どちらにせよ百何十年ぶりなんだね。うん、ありがとう)


 そんな時代の重みを噛み締めつつ、僕は天野先輩から目を逸らして楠木先生とアイコンタクトを取った。

 だが、楠木先生は僕の目を見てくれない。今、あからさまに逸らしたよね?


「その……避妊はしっかりしてくださいね」


「それが教師の言うことですか⁉」


「えへへ、大丈夫だよぉ。わたしは妖だから、避妊せずそのままでもぉ」


「何も大丈夫じゃない⁉ 貞操の危機があるなら絶対に行きませんからね⁉」



 ……その後、話し合いの末。

 家に行くのはいいけど、必ず第三者も同行させるという条件の上で納得してもらったのだった。


 さて、誰を連れて行こうかな。

 それにしても、なんだかとんでもないことになったなァ。



来年は正月明けくらいを予定しています。


皆様、よいお年を。

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