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q128「再会とは」

第三章が誤って「第二章」となっていた点、指摘をくださった方、ありがとうございました。



「それじゃあ、僕がガラス水槽を運ぶから。二人は、持ち上げた水槽が周りに接触しないようにサポートしてくれる?」


「はーい。了解でーす」


「わ、分かりました」



 何の因果か、謎のヒーロークダンとして助けた二人と再会し、生物部の活動で絡むことになった僕。

 多少の気まずさはあるが、向こうは僕のことなど知らないし、普通に初対面として接するようにしなきゃ。


「灰谷君、運んだよ」


「おう、サンキューな。それじゃあ次はこれを頼む」


「うん、分かった」


 灰谷君から頼まれた仕事を、黙々と熟していく。

 仮入部の子たちを部外者の僕がアレコレ指図するのも気が引けるので、二人には申し訳ないけど本当に簡単なサポートだけ頼んでおく。


 決して、気まずいから話しかけないわけではない。ないったらない。


「あの、先輩?」


「えっ? あ、何?」


 すると、急に滝村さんから声を掛けられた。

 僕は驚いて彼女の顔を見る。まさか、あの時のことがバレたり……?


「水槽からコンセントが垂れ下がってます」


「え? あ、ああ。それなら見てるから大丈夫だよ」


「そうでしたか。余計な口出ししてすみませんでした」


「ううん、気遣ってくれてありがとう。その調子でお願いね」


 どうやら、ただの思い過ごしだったようだ。お面も付けてたし、バレようが無いのだから、心配するだけ無駄なんだけど。

 それはともかく、僕に褒められて嬉しかったのか。滝村さんは「ははん!」と胸を張っている。


 ……特に意味は無いんだけど、巨乳の女の子はあまり男子の前で胸を張らないで欲しいな。特に意味は無いんだけど。


「五月ちゃん、流石だね」


「花子も、もっとしっかりしなきゃ駄目よ! あたしたち高校生……じゃなくて、女子高生なんだから!」


「う、うん。頑張るよ……」


 何故、女子高生と言い直したのかな。JKの肩書きが嬉しいの?

 それより、二人は随分仲良くなった印象だ。前に見た時は「滝村さん」「花子さん」と呼び合っていたのが名前呼びになっている辺り、あの事件以降で仲が深まったのかもしれない。そういえば男子の二人は元気だろうか。


「二人は仲良しなんだね。中学から友達?」


「あ、はい。そうです」


「親友よ。先輩、中学校の時計台が壊れたの知ってる……ますか?」


 その言葉に、一瞬ドキッとした。

 昔の僕なら「べ、別にお面を付けて居合わせたりしてないよ?」と口走ってただろう。けれど今の僕はすぐフラットになるから、冷静な対応ができる。


「ニュ、ニュース! そう、ニュースで見たよ」


「あの時、時計台の下にいたのが、あたしとこの子なの。しかも、花子ってばあたしのこと庇ってくれて」


「い、いやぁ? でも結局、助けてくれたのは別の人だし。あたしが頑張っても、あのままじゃ二人とも下敷きだったよ?」


「そんなのどうでもいいのよ! 花子があたしのために命懸けで動いてくれたって部分が大事なんじゃない! だからあたし、花子が大好きなんです!」


「え、ええ……先輩に何言ってるの、五月ちゃん」


 大好きと言われて照れたのか、川谷さんは顔を真っ赤に染める。

 なんとも微笑ましいなァ。こういうの、青春って感じだよね。


 それにしても滝村さんって子は、声が大きいタイプらしい。相当自信家かな。

 一方の川谷さんは大人しいけど、友達のために行動できる優しいタイプってところか。なんともいいコンビだなァ。


「素敵な友達なんだね。それにしても、二人が無事で本当によかったよ」


「ありがとうございます。助けてくれた人にお礼が言いたいんですけど」


「あの変な人、何処の誰なのかしらね? すぐいなくなっちゃったし」


 変な人呼ばわりに、少し傷付いた。まあ僕だと知らないから仕方ないけど。

 それにしても、まさか既に感謝が伝わっているとは思うまい。君たちの目の前に居ますよとは、死んでも言えないけどね。変な人だし。


「へ、へえ。そんな人がいたんだ」


「はい。本当にあっという間にいなくなってしまって」


「たぶん、シャイだったんじゃないかな? 顔を隠しているくらいだし」


「まあ、そうよね! そうじゃなきゃ、こんな可愛い子……じゃなくて女子高生に感謝されるチャンスを逃すはずないもんね!」


「もう、五月ちゃんったら。確かに五月ちゃんは凄く可愛いけど、自分で言っちゃうのはどうかと思うよ? あと、先輩には敬語使おうよ」


「あら、花子だって凄く可愛いじゃない。もっと自信持たなきゃ駄目よ」


 やはり、滝村さんは自信家らしい。川谷さん、君が普通だからね。


 そうしているうちに、生物部の仕事はどんどん進んで行く。

 僕が力仕事担当で、仲良しコンビがサポートとお喋り担当。灰谷君は生き物の安否確認をしながら、全体の指揮と手の足りないところに動く感じで、二年生の女子と新入生の残り二人が手分けをして生き物のケースや用品を運んだり、洗って再びセットしたり。


 こうして見ると、生き物の用品って色々あるんだなァ。

 ケージ一つ取ってみても、ガラスの水槽やアクリル水槽、プラスチック製の虫かご、普通のペットボトルを再利用した容れ物まである。


 飼育している生き物も、魚や虫、カエルにイモリ、ハムスターやラットなど様々だ。これは昔から飼われているのか、それとも灰谷君の私物かな?


「コーメイ、ここまでサンキューな。もうそろそろ約束の二時間だし、あとは俺たちでなんとかできるから」


 そんなことを考えていると、灰谷君から終了のお知らせが。

 まだ仕事は残っているけど、僕に気を遣ってくれたのだろう。


「本当にいいの? もう少しなら手伝えるけど」


「ああ、もう用済みだ。ご苦労だったな」


「言い方! 散々手伝わせておいて、酷くない?」


「冗談だって。本当に助かったよ、ありがとな」


 すると、周りにいた他の部員たちも僕を労って、頭を下げたり手を振ったりしてくれる。灰谷君の言った通り、皆いい人ばかりのようだ。

 それなら戻ろうかと、僕は最後に灰谷君に声を掛ける。


「それじゃあ、またね。ハーレム王さん」


「だから、お前と一緒にするなって」


「ライカさんというものがありながら、浮気だなんて。見損なったよ」


「ラ、ラ、ライカさんは関係無いだろ⁉ さっさと消えろよ、親友!」


「はいはい。またね、親友。それじゃあ皆さん、お邪魔しまし……」


 だが、僕がその場を立ち去ることは叶わなかった。

 急に背後から、複数の誰かに腕や胴体を掴まれたからだ。


「え? 何?」


「……ちょっと、柳谷君? ライカさんって誰?」

「コーメー君。その話、もうちょっと詳しく」


「え? え? 何なに何なに⁉」


 そこにいたのは、物凄い形相の鬼……ではなく、女子部員たちだった。

 さっきまでとは別人みたいなんだけど、いったい何事なの?


「あ、もしかして嫉妬とか……?」


「……これまで一つも浮いた話の無かった灰谷っちだよ? 初の恋バナの香りがすんのに、逃がすわけないっしょ?」


「ああ、そういうことか。でも、時間が……」


「ウチ、生徒会の副会長とガチで仲良いんだわ。連絡して許可貰っとくから、気にせず話してよ。いいよね、柳谷っち?」


「……あ、はい」


 そうして僕は、最後の最後で余計なことを口走ったばかりに、強制的に延長戦へと突入させられるのであった。

 なお、そんな僕を灰谷君が恨めしそうに睨んでいたことも、その後の灰谷君が彼女たちの質問攻めにあったことも、説明するまでもないだろう。



 ……なんかごめんね、親友。



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