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q127「仮入部とは」



 新入生が加わってから、僕の学校生活は一気に慌ただしくなった。


 自分たちのスケジュールもさることながら、今年度からは上級生として色々やらなければならないことがあるからだ。

 灰谷君のように部活動がある人たちは新入生の勧誘や歓迎会を。そして僕たち生徒会関係者は、それを指揮したり、トラブル対応したりと大忙しである。



「会長! 柔道部の主将が新一年生に投げ飛ばされました!」

「こちらでは、陸上部の新入りが砲丸投げの弾を隣の中学校まで!」

「副会長! 副会長宛てのラブレターが、こんなにたくさん!」

「綾垣書記! 個人的なメッセージアプリの申請が大量に来てます!」


「いやぁ、今年の新入生はなかなか強者揃いだねぇ」

「笑い事じゃないですよ。入学早々ハッスルし過ぎでしょ」

「生徒会って、こんなんだっけ……?」



 そんな珍事はさておき、真面目な仕事も本当に山積みで。

 お手伝いの立場ながら、僕も一所懸命に働いた。


「柳谷君、悪いんだけど頼まれてくれるかい?」


「はい、なんでしょう」


「生物部から二時間だけサポートを頼まれていてね。君なら適任だろう」


「え? 僕……って、ああ。灰谷君の」


「そういうこと。よろしく頼むよ」


 参田会長に頼まれ、僕は生物部へと向かうことに。


 基本的に部活動と直接やり取りするのは生徒会長たちなのだが、今回は灰谷君と交渉だから僕が適任だと思ったのだろう。

 二年生に三年生が交渉しに行くと、身構えさせてしまうからね。


 なお、科学部の部長は三年生だ。

 しかしながら僕たちの高校の科学部は化学、生物、地学の三つに分かれていて、生物部門は三年生がいないので灰谷君が代表なのだとか。


 今回のは新学期の活動補助が主らしく、僕でも問題無く熟せる内容なのである。

 それにしても灰谷君、二年生にして代表なんて出世したなァ。


「お邪魔しまーす。灰谷君、いる?」


「おお? コーメイ、珍しいな。入部希望か?」


「なんでだよ。生徒会で手一杯なの知ってるでしょ?」


「なんだ、違うのか? 何か用か?」


「ええと、会長から頼まれてね……あれ?」


 よく見ると、灰谷君の奥に見知らぬ生徒が何人かいる。

 二年生の部員とは前から何度も顔を合わせているが、その子らを見るのは初めてだ。この時期に初対面ということは、まさか……?


「その子たちって、もしかして新入部員?」


「おお、そうだぞ。数日前に入ったばかりのな」


「へえ、よかったね。これで来年まで安泰かな?」


「いや、まだ仮入部だけどな。だけど、俺にも負けず劣らず生き物大好きな子たちなんだ。同志ができたってだけで嬉しいわ」


 喜ぶ灰谷君を微笑ましく思い、僕は再びその子たちに目を向ける。

 すると、そこには以前見たことのある人物がいた。


「あれ? 君たちは……」


「え?」


 そこまで言って、僕は慌てて口を閉じた。

 何故なら、相手は僕のことを知らないからだ。だって、僕が彼女たちを見たのは口外できない場所だから。


(……ねえ、アイミス。あの子たちって、あの時のだよね?)


〖はい。正義のヒーロー、クダンが助けた者たちです〗


(ああああ……黒歴史リターンズ!)


 墓穴を掘ってしまった。そんなふうに聞いたら、アイミスは喜んで掘り起こすに決まっているのに。大失態である。

 そうやって僕が一人で悶えていると、灰谷君がフォローしてくれた。


「ああ、みんな。こいつは俺の親友で柳谷光明。あだ名はコーメイ。生徒会補佐として学校を裏から牛耳るスーパー高校生だ」


「ちょっと待って。後半は全部捏造じゃない。新入生が信じたらどうするのさ」


「おっと、すまんすまん。こいつが学校を裏から牛耳るスーパー高校生なのは本当だが、それ以外の部分は冗談だ。忘れてくれ」


「ちょっと⁉ それだと僕の名前すら忘れられちゃうよ⁉ 最初くらい、しっかりと紹介してくれないかな⁉」


 そんな掛け合いに、新入生たちがクスクスと笑う。

 なんだかなァ……だけど、楽しんでくれたなら別にいいか。


「それで、今日は何? 手伝うよう言われて来たんだけど」


「え? ああ、コーメイがそうだったのか。てっきり生徒会の誰かが来るのかと」


「本来ならね。でも灰谷君が委縮するだろうからって配慮してくれたんだと思う」


「流石だな、生徒会。まあ正直、今日は力仕事がメインだ。先輩には頼み辛かったと思うから助かるわ」


「力仕事?」


 どういうことか詳細を聞くと、どうやら新年度ということで、生物部で飼育している生き物の容れ物を掃除する予定なのだとか。

 でも生物部は三年生がいなくて、しかも二年生の男子は灰谷君一人という状況。ゆえに大掛かりな活動には人手を借りる必要があるのだとか。


「頑張れば女子にもできるんだが、ガラスの水槽なんかだと腰を痛めるかもしれないだろ? それに万が一破損してしまったら、生き物たちが可哀想だからな」


 ガラス水槽は空っぽでも意外と重い。そこに砂利や用品が入っていると、サイズによっては大の大人でも苦労する重量になる。

 女子高生でも腕力次第では二人掛かりで運べるのだが、生物部の女子はあまり体力に自信のあるタイプでは無いようで。


「なるほど。それで僕が呼ばれたわけか」


「おう。化学部門や地学部門に頼んでもいいんだけど、今はあっちもあっちで勧誘やら何やら大変な時期だからな」


「そういうことなら頑張らせてもらうよ。あんまり力自慢では無いけど」


「コーメイなら大丈夫だろ。それじゃあ早速、始めるか」


 灰谷君の号令で、女子部員たちが一斉に動き始めた。

 去年一年間、親睦を深めたおかげか。灰谷君と部員たちは息ピッタリだ。


「灰谷君ってば。すっかりハーレムだね」


「コーメイと一緒にしないでくれ。それに彼女たち、みんな彼氏いるぞ」


「え? 交際率100%? それって地味に凄いね」


「皆、いい人だからな。生き物好きに悪い子はいないのさ」


 何故か誇らしげな灰谷君を見て、僕は愛想笑いをする。

 元々灰谷君は人間嫌いの変わり者だ。普通の男子なら自分以外が全員彼氏持ちの女子高生なんて、気まずくて居辛いはずなのにね。


「灰谷っちも、早く彼女作りなよぉ」

「そうそう。それでダブルデートしようぜぇ」


 すると作業の動線上に僕らがいたからか、女子部員が話しかけて来た。

 生物部の大人しいイメージに反して、二年生の女子部員は陽キャばかりだ。


「御免被るよ。それに君たち、俺が人嫌いなの知ってるだろ」


「え~? 灰谷っち素敵だしぃ、中身イケメンだからモテるのに~」


「どう思う、コーメイ? このJKども、決して俺を外見イケメンとは言わないんだ。やんわり酷くないか?」


「アハハハハ。灰谷っち、ウケるぅ」

「面白いよねぇ、灰谷さん。サイコー」


 うん、充分ハーレムだと思う。

 揶揄われてるのは分かるんだけど、他の男子が見たら爆発しろって言うはず。


「それに、人嫌いの灰谷さんだから私たちの彼氏も安心してるって言うか」

「彼氏、部室来て灰谷さんとも談笑するもん。普通なら自分の彼女が男子と一緒って、気が気じゃないと思うよ。牽制とかするかも」

「それなのにウチらの彼氏なんてぇ、灰谷っちに「俺の彼女をよろしく」とか言っちゃってるし? マジヤバくね?」


 それはヤバいね。彼氏公認ハーレムなの?


 冗談はさておき、前から思ってたけど灰谷君って本当に人間嫌いなのかな?

 部員の彼氏とも仲良くできるとか、詐称じゃない? 人間嫌いって何?


「ほら、みんな。お喋りしてたら時間無くなるぞ。そろそろ始めよう」


「はーい。部長」

「流石の仕切りだね、部長」

「よっ、部長」


「部長じゃないけどな。それじゃあ頼む、コーメイ」


「あ、うん」


 やっぱりハーレムだと思う。

 これは間違いないよね。爆発しろ。


 二年生は彼以外に四人の女子がいるけど、そこに新入生も加わるんでしょ?

 今のところ新入生も女子しかいないみたいだし、ハーレム拡大じゃない?


「あの……私たちも手伝います」


「お? そうか? なら、お願いしようかな」


 すると、仮入部の子たちも自主的に参加を申し出てくれた。

 なんだか気を遣わせちゃったのかな。


「何をすればいいですか?」


「それじゃあ、二人はコーメイの手伝いをしてやってくれ。残りの二人は二年女子のサポートを頼む。まだ仮入部だし、無理のない範囲でな」


「はい、分かりました」

「どうする? クラスごとで二人ずつにする?」

「それでいいと思う」


 仮入部の段階だと見学や活動体験が多いのだが、こういう作業の手伝いなら簡単だし目配りもしやすいから最適だね。

 新入生たちはスムーズに組み分けし、うち二人が僕のところにやって来た。しかも何の巡り合わせか。その二人は見事に例の子たちであった。


「あ、あの、よろしくお願いしま……」


「あたし、滝村(たきむら)五月(さつき)でっす!」


「……あ、あたしは川谷(かわや)花子(はなこ)です」


「うん、よろしくね。滝村さんと、川谷さん」


 そう挨拶しながら、僕は黒歴史をフラッシュバックさせていた。

 中学校の大時計の下で、滝村さんを庇おうとしてたのが川谷さんだったよね。うん、しっかりと覚えているよ、僕の黒歴史と共に。



 そうして僕は、奇妙な縁で懐かしい顔ぶれと絡むことになったのだった。



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