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q126「新入生とは」



 二年生になると、始業式と入学式が執り行われる。


 僕たちの学校では実際に始業した日ではなく、その翌日が始業式、そして入学式の日だ。始業の日に始業式をやらないとは、これ如何に……と思わなくも無いが、そこは大人の事情だろう。

 僕たちも式典を二日に渡ってやらなくていいから、助かる部分もあるし。


 そんなわけで、その日は午前中に二・三年生で始業式を。そして午後から新入生を交えて入学式を行う予定だ。

 去年は僕たちが新入生だったから、自分たちが迎える立場というのは新鮮である。中学校でもあったけどさ。


「どんな子たちが入って来るんだろうね。いい子たちだといいなぁ」


「識那さんよりいい子はいないだろうけどね」


「もう、光明君ったら。お世辞はいいから、そろそろ体育館に行こう」


「お世辞では無かったんだけど……そうだね、遅れないよう行こうか」


 ちなみに、新しいクラスにはバッチリ遅刻した。

 正確には時間前だったから遅刻では無かったが、僕が到着する直前に先生も来ていたらしく。進級早々、教室に入った瞬間に全生徒&担任から注目されるという生き地獄を味わう羽目に。実質遅刻だ。


 まあ、それはモタモタしていた僕が悪い。

 そして、見知った顔ぶれだったから気まずさが少なくて済んだのと、七曲君たちが「いきなり遅刻か、廊下に立たなきゃな」みたいなことを言って茶化し、笑いを取ってくれたおかげで空気も悪くならずに済んだから、助かった。

 そもそも七曲君が遅刻の元凶だった気もするけど。


 それはさておき、担任も一年生の時とは違い、美術教師の楠木先生から理科教師の黒家守先生に変わった。

 黒家守先生は見た目がマッドサイエンティストという感じなのだが、毎年のように「一番優しいと思う先生ランキング」でぶっちぎり一位に輝いている優しさの権化だ。今年は平和に過ごせそうな気がする。


「でも、みんな一緒のクラスで本当によかったね」


「うん、本当にね。ここだけの話、校長先生が気を遣ってくれたのかもね」


「もしかして妖怪関連のお手伝いをしているご褒美、とか?」


「それもあるのかなァ? まあ僕としては他の誰より、識那さんと一緒なのが一番嬉しかったけどさ」


「もう、またお世辞? そんなに喜ばせても何もあげられないよ~」


 どうやら喜んでくれているようだ。全部本音なんだけどなァ。

 だけどまともに受け取られても恥ずかしいし、これでいいのかも。


「よぉ、新婚さん。あんまりイチャつくと男子に狩られるぞ」


「怖いこと言わないでよね、七曲君。あとハラスメント止めて?」


「男子だけじゃなく、女子も嫉妬し……ないか。まあ、ミケちんだもんね」


「どういう意味かな、遠野さん? 僕も傷付くんだよ?」


「今年度も、やるな。コーメイ」

「皆、仲いいなぁ。私、ハブられないか心配だよぉ」


「今年度もそれなの? 灰谷君は。あと、生徒会役員で人格者の陽キャをハブれる人類なんていないから、安心していいと思うよ。綾垣さん」


「ほら、みんな。騒いでないでさっさと並びましょう」


 委員長の言葉で、僕たちはそそくさと自分の椅子に着席した。

 委員長は二年生になっても相変わらずである。まだクラス委員は決まってないから、委員長呼びはおかしいのだけれど。


 そうして僕らは、長ったらしい式典を日に二度も味わうことに。

 午後の入学式は新入生を見る楽しみがあるけど、午前中はただの苦行だ。


「あー、であるからして、この一年をより一層……」


 その中でもウンザリなのは、教頭先生の長話である。

 うちの学校は校長先生が地域を取り仕切っている関係で、普段は教頭先生が様々な役割を一任されているらしく。こういう代表挨拶も基本的に教頭先生だ。


 午後の入学式は校長先生がスピーチするらしいが、隣にある中学校や離れた場所にある小学校、そして恐らく妖怪関連もと、アレコレと飛び回っているようで。

 割合としては高校の校長室にいることが多いみたいだけど、大変そうだ。そりゃ僕みたいな特殊なのがいたら、頼りたくなるのも無理ないわ。


「以上、教頭先生の挨拶でした」


 苦労人大妖怪へと想いを馳せていると、どうやら長話が終わったようで。

 僕たちは一旦教室に戻って昼食を摂った後、新入生を迎えるための準備へと移行する。ちなみに新入生たちは午後からの登校だ。




「……お、来たぞ。コーメイ」


 体育館で在校生が待つ中、先生が開けたドアから新入生がチラッと見える。

 それを見た灰谷君が、僕の上着の袖をクイッと引いた。


「あ、本当だね。初々しいなァ」


「今年はどんな子がコーメイの毒牙にかかるんだろうな」


「人聞きの悪いこと言わないでくれる? 毒牙にかけたことなんて、これまでただの一度も無いからね?」


 すると灰谷君は、無言で女子たちの集団に視線を向けた。

 何か言いたげだけど、あそこにいるのは僕の彼女と友達だけだ。決して変な関係の女子なんていない……とは言い切れないけど。


 とにかく、いないったらいない。妖怪が見える人も、河童も小豆洗いも、シレッと参加している猫又や座敷童子なんかも、いないったらいない。

 ついでに、体育館の二階部分……キャットウォークだかギャラリーだか言う所で全員集合している危険妖怪たちも、いないったらいない。助けて校長先生。



「それでは、在校生の皆さんは席に着いてください」



 準備が終わると、僕らに向けたアナウンスが聞こえてくる。

 そして愈々(いよいよ)入学式が始まる。


「新入生の皆さん。ご入学、おめでとうございます」


 先生方や生徒会長の参田先輩が挨拶をし、新入生代表の挨拶も終わった頃。

 式典の途中で漸く校長先生が姿を現し、ほぼ間を空けることなくスピーチのため登壇する。きっと色々と大変だったのだろう、お疲れ様です。


「新入生の皆さん。この学校には様々な生徒がおりますが、どうか偏見や差別無く受け入れ、仲良くなってくださるよう願っております」


 校長先生の挨拶は、午前中の教頭先生とは打って変わってあっさりしていた。

 だが、それは非常に心に響くもので。特に僕にとっては「僕に向けて言ったのかな?」と思うような刺さる内容であった。


 たぶんだけど、校長先生は全員に向けてそういう意図を含ませて喋ったんじゃなかろうか。この学校には実際に妖怪たちがいるわけだから、ちょっと変わった雰囲気の人がいても仲良くしてくれと、遠回しに伝えたのだろう。

 そう考えつつ、ふと識那さんの方に目を向けると。彼女もちょうど同じことを考えていたのか、バッチリ目が合ってしまった。


(……式典の真っ最中なんですけどぉ? 新入生の皆様方が清く正しい心で居られる最中、不純な異性交遊で愛を確かめ合うのはお止めくださいませんかぁ?)


(目が合っただけで、酷い言い草じゃない? というか、念話なのをいいことに好き勝手言うよね、遠野さんってば。後で識那さんに言い付けてやろ)


(ごめんなさい。三重籠にお仕置きされるから、それだけはご勘弁を。代わりと言ってはなんですが、ミケちんにならエロいお仕置きさせてあげっからさ?)


(……式典が終わったら、速攻で伝えておくね。心の準備しておいてね、マジで)


(いやぁ⁉ ほ、本当にごめんて! 嘘、冗談だから、ほんとそれだけは!)


 まったく、どっちが不純なんだか。


 そうして一部賑やかに、しかしながら概ね厳かに。

 式典は無事に進行し、僕たちは新たな生徒たちを迎え入れたのであった。



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