q125「進級とは」
今話から新章です。
よろしくお願いいたします。
春休みが終わり、僕は高校二年生になった。
今年からは後輩が入学してくるから、去年までのように気楽ではいられない。しっかりと気を引き締めねば。
それより先に、ドキドキのクラス替えが待っているわけだが。
「おう、柳谷」
「あ、おはよう。七曲君」
「俺と小豆洗いと河童は同じクラスだったぜ。あと識那さんと灰谷もな」
「うん、周りに人いるから妖怪の名前は止めようか。あと、色々台無しだよ。その言い方だと僕だけ違うクラスってことじゃん?」
速攻で気分だだ下がりである。最悪だ。
七曲君に悪気が無いのは分かるんだけど、僕だけ皆とお別れなんて知りたくは無かったな。少なくとも伝聞では。
「あ、光明君。おはよう」
「おーっす、ミケちん。久しぶりぃ」
「なんだか、いつものメンバーという感じね」
すると、どこからともなく皆が現れて声を掛けてくれる。
ぼっちになってしまった僕を差し置いて、皆いつも通りだ。
「ああ、うん。みんな同じクラスでよかったね……」
「奇跡だよな。また一年、よろしくな、コーメイ」
「うん、よろし……あれ?」
「お? どうした?」
違和感を感じて皆の顔を見ると、全員がキョトンとしていた。
そこで漸く僕は、自分が騙されていたことに気付く。
「……七曲君?」
「おう、お前も同じクラスだぜ」
「遅いよ。というか、紛らわしいよ」
七曲君のことだから、悪意があってのことじゃないだろう。
けれど、言い方や紛らわしさに意図を感じる。今回は狙ったな?
「悪い悪い。ちょっと揶揄ってみただけだ」
「もう、ハラハラさせないでよね」
「なんだ? 新学年早々、仲良さげだな。浮気か?」
「灰谷君? 識那さん目の前にいるんだけど。そういう冗談は止めてくれる?」
相変わらずの賑やかさである。
でもまあ、みんなと一緒だというなら結果オーライかな。できればクラス分けの張り紙は自分で見たかったけど。
「今年も一年、よろしくね。光明君」
「わたしも~」
「わたしも、よろしく」
「俺もな」
「うん、みんなよろしくね」
「あと、私もついでによろしく」
「えっ?」
声のした方を見ると、そこにいたのは綾垣さんだった。
空間認識で周囲の気配は探っているものの、まだまだ常時敏感にとはいかないみたいだ。いつまで経っても油断大敵が治らないなァ。
「今年は私も同クラよ」
「そうなんだ? よろしく」
「そうなんだって……もしかして未だ見てないの? クラス分け」
「う、うん。実は」
「さっさと見て来ないと、始業のチャイムが鳴っちゃうわよ」
「そうだね。急いで行ってくるよ」
そう言うと、僕は皆から離れて足早に掲示板へと向かった。
特別遅く登校したわけじゃないんだけど、七曲君に揶揄われたせいもあって出遅れてしまったようだ。急がなきゃ。
「あ、これだ」
やっとクラス分けを見ることができた僕は、球体の冴えた頭脳で一気に目の前の名簿を記憶してしまう。ゆっくり見てたら遅刻になっちゃうし、一度しっかり見たら何時でも思い出せるからね。便利便利。
そうして名簿を見終わって周囲を見回すと、そこには既に僕しかいなかった。
どうやら皆は既に自分のクラスへ向かったようだ。僕も急がないと、本当に進級早々遅刻になっちゃうよ。
――――と、向きを変えた直後。
僕は空間認識におかしな反応を捉えた。
それは、人間の気配ではない。
最近は当たり前のように感じていた、妖怪のもの。
しかしながら、僕が見知った誰かのものではない。
それに妖怪の気配でありながら、何かがいつもと違う。妖怪のようで妖怪じゃないというか、何かこう微妙な違和感があるのだ。
気配のする方を向くと、そこにいたのはワンピース姿の小柄な少女であった。
人間とは思えない儚げな気配……って、妖怪だから当たり前なのだが。
(あれ? どこかで見たことがあるような……)
ふと、その姿に既視感を感じた。
だが、球体の記憶力ならば一度見たものは忘れない。僕がうっかりミスをすることはあっても、それ以外では確実に分かるはずなのだ。
だが、ワンピース姿の少女の妖怪なんて見た記憶が無い。
強いて言うならクラスメイトや先輩だけど、それなら人間の姿でも妖怪の姿でも知っている。つまり、これまで出会った妖怪ではないということだ。
(……どういうことだ?)
不思議に思っていると、その少女はキョロキョロと辺りを見回して何かを探し、その後ですぐに走り去ってしまった。
疑問が解消されないままモヤモヤとしていたが、僕の意識は始業の予鈴で現実に引き戻されてしまう。
(おっと、急がなきゃ。あの子のことは、あとで校長先生にでも聞いてみよう)
そうして気を取り直し、僕は新しいクラスへ急いで向かうのであった。
新学期早々にギリギリだなんて、僕は改造人間になっても成長しないなァ。