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q124「高一の最後とは」



 この一年、実に色々なことがあった。


 高校に入学してワクワクやドキドキが溢れていた一年前。

 それから友達ができたり、クラスメイトと交流したり。運動音痴だから体育の授業で失敗したこともあったなァ。


 大きな変化があったのは、五月のこと。

 嘘みたいな話だが、僕は謎の現象に巻き込まれて一度死んだらしく、その後で宇宙人のラスターさんに改造人間として復活させてもらったのだ。


 それから徐々に新しい体である「球体」を使いこなせるよう、ナビゲーションシステムのアイミス頼りで適合(シンクロ)率を少しずつ上昇し。

 数々の機能を獲得しつつ、それを自分のものにできるよう努めて来た。


 途中、それまで見えなかった妖怪たちが急に見えるようになった時は驚いたけど、出会ったのが琴子や鈴子(りんこ)のように友好的だったから助かった。

 それからは驚愕の日々で、クラスメイトの遠野さんや校長先生が実は妖怪だったり、これまたクラスメイトの識那さんが妖怪を見ることのできる人間だったり。他にも学校内や町中に色々な妖怪がいて、しかも中には人に危害を加える危険な妖怪もいたり。


 そんなこんなで大変な一年だったけど、皆の助けもあって大事無くここまで来れたように思う。識那さんとお付き合いすることになったのは今でも信じられないけど、今は全部ひっくるめて幸せだと言いたい。

 最近だと、妖怪の上位者である大妖、その更に上の立場の神妖なんて存在と出会ったりもしたけれど、なんだかんだでいい出会いばかりな気がするよ。


 そして、僕は今、非常に平穏な日々を過ごしている。

 三学期は特に大きな行事も無く、三年生のために卒業式の準備を(つつが)なく進めるくらいだろうか。進路相談はあったけど、一年生の段階では灰谷君の「獣医師になりたい」みたいなハッキリした目標がある人以外は、ぼんやりとした夢を語る感じで充分だし。

 かく言う僕も、将来は「最先端の科学とか宇宙の謎とか、色々なことを勉強したい」なんて小学生みたいな答えだった。まあ、僕の場合は嫌でも最先端科学のその先や、最終的には人類が辿り着けない宇宙の謎すらも解き明かす日が来るのかもしれないけど、何千年後かに。



〖なんです? あの小学生みたいな進路は〗


(別にいいでしょ。まだ高校一年生なんだし、どうせ何時かは全てを知る日が否応なく来るんだからさ。僕も小学生の夢みたいだなとは思ったけどさ)


〖そんなことを言ってボーっとしていると、あっという間に数千年経ってしまいますよ。もっと気を引き締めてください〗


(……アイミスが言うと、本当っぽくて怖いんだけど)


〖それに、まだ高校一年生と言っていられる時間も残り僅かですよ〗



 アイミスの言う通りである。


 三学期が終わって、卒業式が終わり、終業式を迎えたら。

 僕たちは春休みに入り、その先に待つのは進級。遂に二年生になるのだ。


 妖怪たちはともかく、普通の現二年生は三年生。そして受験が待っている。

 僕たちも二年生になれば進路を考え始めなくてはならないし、新一年生も入って来る。初めての後輩ができるのだ。


 二年生になったら責任感も増すし、修学旅行や生徒会選挙など重要なイベントも待ち受けている。一生に一度の思い出作りだから失敗できない。

 それに僕の場合、それ以外にもきっと色々なことが巻き起こるに違いない。学校の妖怪たちも、我が家にいる妖怪組の皆も、危険妖怪たちだって継続して付き合っていくのだから、何も起こらないわけがない。



 ……まあ、楽しそうではあるけどね。

 たぶん普通の人間のままでは味わえなかったような刺激的な思い出が沢山できるのだろう。それはそれでいいのかと、最近は思えるようになってきた。


 この先、何十年、何百年、何千年と生きるであろう僕にとって、きっと大切な思い出になる今の記憶。そんな僕だからこそ、大切にすべき今の記憶。

 後悔しないよう、でき得る限り一所懸命に取り組まねばなるまい。


 この先、どんなことが待ち受けているか分からないけど。

 まずは目の前のことから順に、目いっぱい楽しんでいくとしますか。


「それでは、期末テストの説明をしますね」


「マジかよ。またテストとか、俺を殺す気なのか?」

「な、七曲君? こういうテストは来年も再来年もあるんだから、今から死にかけてたら大変だと思うよ」

「放っておきなさい、柳谷君。彼はもう駄目、置いていきましょう」


「ほら、私語は慎みなさい。それから七曲君、授業中にそんな軟体動物みたいな溶け方しないでください。きちんと座りなさい?」


 担任の楠木先生と過ごすのも、あと僅かなのかな。

 この期末テストが終わってしまえば、本当にあっという間なのだろう。楽しみな反面、不安も大きいよなァ。


「来年も一緒のクラスだといいね」

「まだ気が早いって。そういえば留年する人っているのかな?」

「どうだろ。うちの学校は留年しそうでも補習授業を受ければ大丈夫らしいけど、過去にはいたらしいからな」

「そもそもこんな田舎の学校で留年したら悪目立ちするよねぇ」


「こらこら、皆さん。私語は止めてください。説明を続けますよ?」


 そうして最後まで賑やかな僕のクラスは、大きなトラブルもなく三学期を終えようとしていた。もちろん留年者なんていなかったし、事故や病気も無し。


 やがて卒業式と終業式が終わって、春休みを迎え。

 心地良い暖かさが近付いて来た頃、僕たちは二年生になった。



 新たな一年が、始まる。



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