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q123「三学期とは」



 冬休みが明け、僕たちは三学期を迎えた。

 それまでの非日常満載な日々から一転、新学期のスタートは至って普通で。



「久しぶり、元気だったか?」

「おー、ちょっと痩せた?」

「いやいや、むしろ太ってね?」

「あれか、幸せ太りってやつか?」


「いやあ、風邪引いちゃってさ」

「プチ整形してみたんだよね、二重(ふたえ)に」

「うう、クリスマスに彼氏にフラれた……」

「正月のお年玉って、まだ貰ってる?」



 各々が再会を楽しむ中、僕も友人たちと久々に顔を合わせた。


「おーっす、久々」


「本当だね。元気だった?」


「当ったり前じゃん! だって、わたしだよ?」

「相変わらず賑やかだな、お前は」


「七曲君も久しぶり」


「で、三重籠とはどこまで行ったん?」


「えっと……水族館とか?」


「カーッ! そういうことじゃねーんだよ! そういう……」


「いのりちゃん、ごきげんよう。光明君と仲いいのかな? かな?」


「……あはは、それじゃあわたしはこれで! また後でな~!」


「お、逃げた」


 どうやら新学期も賑やかになりそうだ。

 僕がそんなことを考えながら逃げ去る遠野さんを眺めていると、識那さんがヒョコッと僕の視界に立ち塞がった。


「駄目だよ、光明君。他の女の子ばっかり見てちゃ」


「ええ……? そんなことしてないよ」


「フフッ、冗談だよ。三学期もよろしくね」


「うん、よろしく」


 僕たちが話していると、七曲君が「お幸せに」と言い残して去って行く。

 もしかして気を遣わせちゃったのかな。別に学校では普通でいいのに。


「えへへ、久しぶりだね」


「そうだね。正月以来?」


「うん、そうかも。頻繁にメッセージは送ってたけど」


「ほぼ毎日だったよね。いつも付き合ってくれてありがとう」


「そんなことないよ、わたしの方こそ」


「ヒューヒュー、熱々にゃ」

「たわけ。新学期早々邪魔してやるでない、馬鹿猫」

「この感じも久々だポン」

「お姉ちゃん、新学期もムードメーカーですニャ」

「姉馬鹿も相変わらずなの。パパ、駄猫姉妹にムードメーカーの正しい意味を教えておくべきだと思うの」


(光理、口が悪いよ。そんな子に育てた覚えはありません)


 こうなってしまうと識那さんとイチャつくどころじゃないな。

 でもまあ、いつも通りという感じで安心感もある。これでいいのかも。


「相変わらずね、あなたたち」


「あ、委員長。久しぶり」

「こんにちは、黒大角豆さん」


「ええ、久しぶり。二人とも宿題は終わった?」


「もちろん」

「僕も。というか、終わってない人なんているの?」


「……冬休みも手伝ってあげればよかったかしら、彼」


 そう言って委員長は、七曲君に視線を向けた。

 夏休みは部活で大変だと分かるけど、冬休みって部活はほとんど休みじゃなかったっけ。それに宿題も少ないのに、何故?


「ま、まあ、なんとかなるでしょ」


「それもそうね。最悪、校長の前で正座か土下座で朝までコースで済むわ」


「厳しすぎない⁉ しかも正座でも土下座でも、体罰駄目! 絶対!」


「いいのよ、あいつは常習犯だから。妖に体罰も何も関係無いし」


「ふぇ……それより、ぬりかべさんに正座って効果あるの?」


 そんな無駄話をしていると、授業開始のチャイムが鳴って先生が教室に入って来る。担任の楠木先生と会うのも久々だ。


「はい、皆さんお久しぶりです。誰一人欠けることなく元気な姿が見られて、先生幸せです。それでは三学期もよろしくお願いしますね」


 先生の挨拶が済むと、三学期のスケジュールなど色々な配布物が渡された。

 三学期の予定は主に、三年生の大学受験と二年生の進路決め、そして二年生と一年生合同の卒業式準備である。


 受験と言われても、一年生の僕たちにはまだ実感が湧かない。

 けど、来年の今頃は進路を考えないといけないのかと、少しだけ憂鬱になる。




「そういえば、妖の進路ってどうなるの?」


 その日の昼休み、僕は気になったことを妖怪メンバーに聞いてみた。

 すると、一緒に昼食を摂っていた皆が次々と口を開く。


「うーん、どうなるんだろ? まだまだ先だから、特に決めてないけど」

「三年過ごして、次の年にまた中学一年生とか高校一年生から再スタートって手もあるけど。普通に大学に通ってもいいし、そこは自由かな」

「スポーツ推薦とか東大合格みたいに目立ちすぎるのは駄目だけどな。校長先生たちが協力してくれっから、結構好きに選べるぜ」


「ふぇ……中学生に戻れるなんて、羨ましいかも」


「ウチも中学生になりたいにゃ」

「馬鹿猫、おのれは小学生からが打倒じゃ」

「お姉ちゃん、私と一緒に幼稚園でもいいニャ」

「まあ、俺たちミニマムな妖は下手に化けるとボロが出るポン」

「パパなら、ぼくの時みたいに何とかしてくれそうなの」


「でも、大学なんて……校長先生の庇護下を離れて大丈夫なの? それこそ遠野さんなんかは土地から離れるのも厳しいんでしょ?」


「そうなんだよねぇ。そうなってくると、神妖様とかシン族の方にも協力してもらわないといけなくなるし」


「シン族?」


 遠野さんが不用意に発言した単語に、識那さんが反応する。

 すると委員長や七曲君、それに妖怪組の面々までもがあからさまに焦りを顔に出すが、当の本人は平静なままだ。


「そだよ。わたしらの上にお偉いさんがいて、その上に神妖様って人間でいう社長とか会長みたいな存在がいんのよ。で、それとは別方向にシン族って凄い人たちがいて、何かあれば助けてくれるってわけ。言うなれば人間社会のお役所みたいな感じかな?」


「ちょ、ちょっと。人間の識那さんにそこまで話すのはマズくない?」


「え? 三重籠なら別にいいっしょ。絶対に他人に漏らしたりしないし、その辺わかってるもんな、三重籠は」


「おお、なんか凄ぇな」

「うん、ちょっと感動した」


 あまりの信頼の深さに、僕と七曲君は顔を見合わせて頷いた。

 そこで漸く自覚したのか、遠野さんが顔を赤らめて焦り出す。


「べ、別にそんなんじゃねーし! あ、あれだよ、いざとなったら彼氏君がなんとかしてくれんだろ、なあミケちん!」


「そんな照れ隠ししなくても、識那さんのこと心の底から信頼してますって言っていいんだよ、遠野さん?」


「ふぇっ⁉」


「べ、べべべ、別にそういうんじゃないってば! ああもう、余計なこと言うんじゃなかった! 三重籠のせいだかんな!」


「ふえぇ⁉」


 なんだかとばっちりを受けてしまった識那さんが可哀想だが、ツンデレな遠野さんがキュートだったのでよしとしよう。


 それにしても、妖からここまで信頼される識那さんって、実は僕より凄い?

 気付けば僕抜きでも妖怪と関われてるし、もしかして僕の彼女って凄すぎ?


「柳谷君、バカップルが顔に出てるわよ」

「考えが手に取るように分かるな」


 そんなことを考えていたら、妖の二人にツッコミを入れられてしまった。

 確かに彼女贔屓だったかもだけど、そんなに顔に出てたかなァ?



 そうして、僕たちの新学期は賑やかに始まったのだった。

 さて、この先は平穏に過ごせるのかな?



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