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q121「妖の団欒とは」



 僕の部屋に集まった妖怪軍団。

 もとい、いつもの妖怪組と校長、ぬーさん、そして神妖のユノさん。


 どうやら皆の姿は僕の家族に見えていないようなので、僕が念話で声を出さないように気を付ければバレる心配は無さそうだ。

 そんなわけで、狭い僕の部屋で妖怪たちの交流会が始まってしまった。


「いやはや、ご無沙汰しております」


「そんなに硬くならないでくださいまし。緩々で大丈夫ですわ」


「のっぺらぼうは堅苦しいにゃ。神妖様がいいと言ってるにゃ」

「たわけ。神妖様が寛容じゃからと、おのれのような態度でいいわけないじゃろ。あとで折檻されても知らんのじゃ」

「お姉ちゃん、失礼だニャ。謝るニャ」


(まあまあ、ユノさんがいいって言ってるんだから)


「相棒は神妖様の怖さを知らないから、そんなふうに言えるポン」

「パパ、神妖様は本当に凄いの。本気を出したらこの町だって……」


「あら、わたくしがそんな野蛮なことするように見えまして? 心外ですわね、滅ぼしてしまいましょうかしら」


「ギャハハ……神妖様が仰ると冗談に聞こえねぇなぃ」

「ありゅじしゃま~りゃめ~」


 三者三様……というか十者十様に喋る姿は、人間と大差ない気がする。

 けれど雪女が人間の男を氷漬けにする話然り、たぶんだけど光理の言っていることは大袈裟では無いのだろう。


 のっぺらぼう校長やぬーさんが穏やかだから忘れがちだが、百々目鬼や一反木綿みたいな恐ろしい妖怪も実際いたのだから。

 その上位存在である神妖とやらが恐ろしくないわけがない。


(あの、ユノさん? 滅ぼさないでくださいね?)


「人間さんの頼みなら仕方ありませんわね。滅ぼさずにおいて差し上げますわ」


「パパ、流石なの。救世主なの」

「ありゅじしゃま~しゅてき~」


「なんなら他のお願いも聞いて差し上げますわ。小麦色の肌のお礼ですもの」


(え? いえ、特には……)


「冷房代わりや冷蔵庫代わりでも構いませんわ。今なら特別に、邪魔者の排除や暗殺、欲求不満の解消からお部屋のお掃除、なんでも聞いて差し上げますわよ」


(僕が構いますから。冷房や冷蔵庫は既にありますし、物騒なことや淫らなことも間に合ってますので。あと部屋の掃除なんて神妖(ユノ)さんに頼んだら、僕がのっぺらぼう校長やぬーさんたちに怒られそうですし)


 チラッと校長たちの方に視線を向けるが、彼らは僕と目を合わせようとしない。

 心の中で「こっちに話を振るな」とでも思っていそうだが、どちらにせよユノさんの鶴の一声で一蹴されそうではあるけれど。


 というか、何故に最後の部屋掃除だけやんわり緩いんだろう?


「あら、つまらないですわ」


「これ、柳谷君や。神妖様を退屈されるでない。折角じゃから何か頼みなさい」

「ギャハハ。神妖様と交われる人間なんて稀少だなぃ。確実に氷漬けだがなぃ」


(駄目じゃん! というか彼女いるんで、その手の話は止めてください。そもそも思春期の男子にもっと気を遣ってくれません?)


 本気なのか冗談なのか、のっぺらぼう校長とぬーさんがノリノリである。

 ぬーさんも神妖様に失礼とか言っておいて、今の話の方がよっぽど失礼ではなかろうか。まあ言い出したのがユノさんなんだけど。


「あら? それなら愛しの彼女さんに、永遠の美しさを差し上げましょうか?」


(え? そんなことができるんで……待って、察しが付きました。結構です)


「ただの氷漬けと違って、わたくしの力なら見事な氷像にできますわよ? しかも何百年経とうと融けませんわ」


(絶対に止めてください! そんなことしても幸せになれませんからね⁉)


 どうやら予想通りだったようで、危うく識那さんが凍死するところだった。

 百々目鬼たちの時もハラハラしたけど、こっちの方が余程危険な気がする。これから先、充分に気を付けないとな。


「ちなみにじゃが、神妖様の御力なら氷漬けでも死ぬことは無いぞい」


(は?)


「ギャハハハ。今風に言うなら、コールドスリープってやつだなぃ。実際、妖絡みで時を跨いだケースは結構あるなぃ」


(そう……なんですか?)


 さらっと言ってるけど、とんでもないことじゃない?

 しかも雪女ってずっと昔からいるはずだから、人類の最先端科学も真っ青だね。僕が言うのもなんだけどさ。


「その通りですわ。何も神妖に限った話ではなく、そこにいらっしゃる人魚さんの肉で不老不死になった人間もいますわよ」


「八百比丘尼だにゃ」

「お姉ちゃん、物知りだニャ」

「姉馬鹿だポン」

「有名な話じゃ。大抵の者は知っとるじゃろ」

「人間の間でも有名なの。究極の美魔女なの」

「わりぇ~ありゅじしゃまになりゃ~いつれも~」


 そういえば、そうだった。

 完全に部屋の置物と化しているから忘れがちだが、人魚の肉って凄いんだった。


「他にも、浦島太郎の話なんかも有名ですわね。あれは神妖ですらありませんが」


(そうなんですか? というか、実話なの?)


「ええ、実際にありましたわね。シン族の乙姫様が……」


「し、神妖様! 流石にそれは」

「あ、相手は人間だなぃ。いくら何でも話しすぎだなぃ」


(な、何も聞こえませんでした。僕は何も……)


 僕がそう言うのとほぼ同時に、隣の部屋からドタンと大きな音がした。

 たぶん癸姫が部屋で躓いたか何かした音だろうが、おかげで話を有耶無耶にできそうだ。妹よ、ナイスタイミングだ。


「おっと、そうですわね。今の話は聞かなかったことになさって、人間さん」


(何のことでしょう? 僕は最初から何も聞いてませんよ)


「うふふ、賢明ですわ。わたくし、ますます貴方のことが気に入りましてよ」


 そう言ってユノさんが微笑むと同時に、再び隣の部屋からガタッと音がした。

 あまりに美しい笑顔にドキッとしかけたが、癸姫のおかげで気が逸れた。今日は本当にファインプレーばかりだな、妹よ。


(それはどうも)


「あら、つれないですわねぇ」


(というか、いつまで居座るんですか? 皆さん、そろそろ解散しません?)


「これ、神妖様に失礼じゃぞ、柳谷君!」


「では、そろそろお暇いたしましょうか」


「そうでございますですな、神妖様。柳谷君、お邪魔したのう」

「ギャハハ、面白ぇがったなぃ」


(相変わらず、掌返しが酷過ぎる……)


 僕の中で校長とぬーさんの株が大暴落である。

 それはともかく、漸く帰ってくれるみたいだ。これでひと安心だよ、まったく。


「そのうち、また遊びに来ますわ」


(もう来ないでくださいよ。神妖なんだから忙しいでしょう?)


「そうでもありませんわよ。暇で暇で仕方ありませんわ」


「なら、いつでも来るといいにゃ」

「たわけ! 神妖様に失礼じゃと言ってるじゃろが!」

「そもそも、それはミケが言うことだポン」

「お姉ちゃん、罰せられる時はわたしも一緒だニャ」

「怖いもの知らずも、ここまで来ると勇者なの」

「ありゅじしゃま~しゅき~」


(本当にもう、みんな好き勝手なことを……)



 こうして賑やかな妖怪軍団の会合は、漸く終わりを迎えたのであった。

 本当にまた来そうだけど、まあ……そのうち飽きるでしょ。



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