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q114「スキー旅行とは」



 正月の三箇日が明けて、少しずつ日常が戻って来た頃。

 我が家では、一泊二日のスキー旅行が計画された。


 ちなみにスキーは毎年恒例ではなく、二~三年に一度くらいの頻度だ。

 スキー旅行が無い年は温泉地や遊園地など、家族旅行自体はほぼ毎年行っていて、今年がたまたまスキー旅行というだけである。


「では、五日と六日は空けておいてくれ」


「はーい」

「あいあーい」


「あらあら、楽しみで眠れなくなりそうだわ。出発まで起きていようかしら」


「いや、まだ二日も先じゃん。行く前に倒れるよ?」


「ハハハ、父さんはそんなヤワじゃないぞ。鍛え方が違う」


「論点、そこじゃないから。今は母さんの話だし」


「じゃあ、あたしも徹夜するぅ!」


「待て待て。出発当日に僕以外の家族三人が徹夜でグロッキーとか、地獄絵図すぎるでしょ。普通に寝てください」


 お茶目な家族にツッコミを入れつつ、出発当日を楽しみに待つ。

 僕の場合は本当に当日まで徹夜できるんだけど、皆には無理だからね。




「……と、そういうわけだから。皆はどうする?」


「もちろん行くにゃ!」

「べ、別に、付いて行ってやらんこともないのじゃ」

「行きたいポン! 相棒が心配だからだポン!」

「パパ、ぼくをスキー板にして、ぼくの上に乗って楽しむといいの」

「お姉ちゃんの意見に賛同しますニャ」

「ありゅじしゃま~わりぇも行きましゅ~」


「分かった。それじゃあ、今回もイリエ以外は全員で…………なんですと⁉」


 想定外のことに、全員の視線がイリエに注がれる。

 まさかイリエが留守番以外を選択するだなんて。


「イ、イリエ? 今、行きたいって言った?」


「言ったのれしゅ~」


「マジ? 当日、大雨でも降るんじゃ……」


「いや、そこは時期的に大雪じゃろう」

「それを言うなら豪雪だと思うポン」

「若しくは超豪雪ですかニャ」

「敢えての超晴天かもしれないの」

「きっと真夏日にゃ」


「琴子のは、最早この世の終わりっぽいけど。というか、このままじゃ話にならないか。イリエ、ちょっと失礼するよ」


 そう言って、僕はイリエを抱え上げてクッションから離す。

 すると、彼は途端にキリッとした顔に変貌した。


「おお! 光明殿、我の血肉をご所望か? 多大な御恩のお返しができるのであれば、この身を切るなり千切るなり弄ぶなり……」


「いきなり何言ってるの? 話の流れ、完全にスキー旅行だったよね?」


「これは失礼した。我、海以外を知らぬゆえ。許されるのであれば随伴したく」


「あ、そういえばそうか。イリエ、人魚だもんね。というか人魚って雪山に連れて行って大丈夫? 凍死しない?」


「その点は大丈夫じゃ。今の此奴は眷族化しとるようじゃし、謂わば不老不死じゃからな。ミケが死なぬ限り、此奴も死なんと思っていいのじゃ」


 鈴子(りんこ)の説明で、僕はホッとした反面、不安にもなった。

 それって僕が永遠に生きている限り、永遠に死なないってことなのかな。僕、この宇宙より長生きらしいんだけど。


「……ちなみにだけど、もしも僕が一万年生きたらイリエも一万年生きるの?」


「それは……どうじゃろうか。そこまで生きた者がおらんから、何とも……」

「ミケなら本当に一万年生きそうにゃ」

「そもそも一万年って想像が付かないポン」

「神妖でも一万年は生きてないと思うのですニャ」

「パパ、ぼくは何処までも一緒なの。一万年でも百万年でも、どんと来いなの」


「うん、ありがとう、みんな。けど、イリエはそれでいいの?」


「もちろんですとも。我、この身朽ち果てるまで光明殿の剣にも盾にもなりましょうぞ。ご希望とあらば家臣でも、性転換の後に伴侶でも妾でも……」


「ご希望しないから、普通に友達でお願いします。あと性転換は無しで」


 話の流れがおかしな方向に行きそうだったので、慌てて軌道修正を図る。

 スキーの話が、いつの間にか全然違う話題になってたや。危ない危ない。


「とにかく、今回はイリエも含めて全員参加ってこと……だけど、光理以外はどうやって連れて行こうかな? スキー場、隣県なんだよね」


「それなら、のっぺらぼうにお願いすればいいのじゃ」

「誰かが車を出してくれると思うポン」

「もしくは公共交通機関で先に向かうという手もありますニャ」

「ウチはミケの膝の上でいいにゃ」

「小さい妖しかいないから、車の後ろのトランクでもイケる気がするの」

「我など車の上にでも置いていただければ大丈夫です。張り付いたまま千キロでも二千キロでも耐え抜いてみせましょう」


「トランクはたぶん、荷物でいっぱいになるから無理だろうね。のっぺらぼう校長に相談してみようかなァ……」


 そう話しながら、僕は一反木綿に乗って移動する妖怪たちの姿を想像した。

 こういう場合って、空飛ぶ妖怪に乗せてもらうとかじゃないんだね。人化した妖怪が車で運ぶというのは想定外だったよ、逆に。


「でも、向こうに到着したら何するの? スキーやスノーボードはレンタルできないし、そもそも人目があってできないよね?」


「雪遊びにゃ」

「普通に遊ぶのじゃ」

「心配しなくても、昔から毎年のように雪で遊んでるポン。俺らには俺らなりの楽しみ方があるから、大丈夫だポン」

「お姉ちゃんと久々に雪遊びできるだけで昇天モノですニャ」

「パパ、ぼくたちのことは気にせず普段通りに楽しんでほしいの」


「そっか。みんな、ありがとう。イリエもそれで大丈夫かな?」


「我はそもそも雪自体が初めてですので。すきぃ、すのぉぼぉど……なる物が何なのかすら存じ上げませぬゆえ。お心遣い感謝致す」


「うん、分かった」



 そうして話し合いを済ませ、僕たちは計画を進めていくのであった。

 少しだけ不安はあるけど、アイミスも付いてるし大丈夫だろう。たぶん。



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