表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/163

q11「擬態とは」


「ところで、今日は他にまだ何かやるの? 時間が余ったけど」


 地獄の参拝修行を終えてから、僕はアイミスにそう問いかけた。

 普通ならヘトヘトで動けなくなり、家のベッドに飛び込んでいるところである。しかし疲労感を消せてしまう今の僕は、熟睡したあとみたいに元気だ。


〖次は擬態機能に挑戦してみましょう。参道の階段横にある林に入れば、誰にも見られる心配がありません〗


「それなら家でもよくない? アイミスが気配とやらを察知しててくれれば、家族が近付いてきても大丈夫でしょ?」


〖部屋でゴソゴソと音を立てたり不自然に息を切らせていても妹さんや親御さんに変に思われないと言うなら、そうしますが〗


「……ここでいいです」


 先日の失敗を反省して、今日は是非ともここでやろうではないか。

 妹はませているだけだからまだいいが、色々と察した母親から優しい目で見られたら立ち直れない気がする。


〖では、擬態を解除します〗


「え?」


 その言葉の意味が分からず首を傾げていると、急に視界が地面スレスレまで下がる。この感覚には覚えがあるぞ。

 何故なら、ラスターさんと出会った時に一度経験しているからだ。


「そっか、僕の姿も擬態機能だったんだね」


〖はい。ミケの疑似人体は擬態機能の初期設定です〗


 そう話し、アイミスが僕の視界を切り替える。すると僕の目に、先日見たばかりの球体が映し出された。どうやら今は第三者視点になっているみたいだ。


「これ、僕の姿になりたい時はどうするの?」


〖ミケの意識と擬態機能はリンクしています。なりたい姿を強く思い浮かべて、音声または心の声で「擬態」と言ってみてください〗


 アイミスに言われた通り、僕の姿を想像してみた。

 自分の姿なんて普段からマジマジと見ていなかったが、ラスターさんに姿見で見せられた際の()()()()()()()鮮明な記憶があるから、今ならハッキリと浮かぶ。


「……擬態」


 だが、僕の声によって何かが起きることはなかった。

 どうやら失敗してしまったようだ。


〖姿を固定しようという意識が弱いものと推測されます。もっと強く〗


「……擬態」


〖もっとです〗


「擬態。擬態、擬態、擬態……」


〖もっと、もっと〗


「――――擬態っ!」


 すると何度目かの挑戦で、僕は元の姿に変身することができた。

 第三者視点に映るその姿は紛れもなく柳谷光明のそれである。


「やった。なんとなくコツが掴めた気がするよ」


〖ミケのオリジナルの姿は初期設定に登録されています。今後は「擬態、初期設定」と音声コマンドを入れるだけでも変身可能です〗


「そうなの? それじゃあ今のは何のために……」


〖ここからが本番です。次は()()()()姿()になってみてください〗


 そう言われて、僕は漸くこの機能の凄さに気付く。

 擬態機能と言うからには、きっとどんな姿にでもなることができるのだろう。


「なら、最初は……父さんの姿に、擬態!」


 するとコツを掴んだおかげか、僕はあっさりと父の姿に変身した。

 続けて、母、妹、学友、先生、子どもの頃の自分など、様々な姿になる。


〖さらに、架空の姿にも擬態可能です〗


「架空? たとえば?」


〖分かりやすく言えば、漫画やゲームのキャラクター、物語の登場人物、想像上の生物、過去の偉人、故人、化石から復元された恐竜像など、なんでも可能です。要はイメージさえできればいいので、ミケが創ったオリジナルキャラクターなどにもなれますよ〗


「それは凄い! じゃあ……」


 物は試しと、僕は教科書に載っている織田信長や夏目漱石、聖徳太子、ティラノサウルスや三葉虫など様々な姿に変身してみせた。

 さらにはスライムやドラゴン、ゲームのキャラクターに映画の怪獣まで自由自在である。サイズは全て二メートル以内に抑えているけど。


〖とても上手いです。この機能と相性がいいのですね〗


「僕、想像力ならそれなりにあるからね。ゲームも好きだし」


〖先ほどの怪獣であれば、実物大でも擬態可能ですよ〗


「それは止めておくよ。そんなのに変身したら町から丸見えだもの」


〖賢明です。それではこの機能は大丈夫ですね〗


 その後も、僕は様々な姿への変身を試し続けた。

 そして人外の姿で嬉しそうに飛び跳ね、興奮のあまりハアハアと息を荒くして、アイミスの忠告が正解だったと思い知る。もし自室だったら今頃は家族会議だ。


「なんだか楽しくなってきたよ。それで、次は何?」


 テンションが上がった僕は、自分からアイミスに次なる機能を要望した。

 すると、珍しく沈黙が続いた後でアイミスからの返事が来る。


〖……次は、ありません〗


「えっ?」


〖今の適合(シンクロ)率ではこれ以上の機能は解放できません。まさかこんなに早く擬態を使いこなすとは想定外だったので、今日はこれで終わりです〗


「ええっ⁉ そんな、折角テンションが上がってきたのに……」


〖今日は大人しく自室で勉強でもしてください。あまり急激に適合(シンクロ)率を上げるとよくないので、また今度にしましょう〗


「はーい。残念だけど仕方ないかァ」



 そうして僕は修行地獄と変身天国を終えて、帰路に就くのであった。

 まだまだ先は長いみたいだな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ