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q104「期末テストとは」



 二学期最後のビッグイベント、期末テスト。

 それが終われば間もなく、待ちに待った冬休みだ。


 学期末テストを呑気にイベントと言い切れるこの余裕、球体をくれたラスターさんに心から感謝せねば。昔の僕ならこの時期、ゾンビみたいに蠢いてたと思うし。



「ぐげげ……おばよう、柳谷」


「おはよう、七曲君。調子は……聞くまでもなく、見たら分かるね」


「元気だぞー? 今にも宙を飛べる気がするくらいになー」


「生きて、七曲君。そっちに行っちゃ駄目だよ」



 ゾンビみたいに蠢く七曲君は、見ているこっちが不安になるような足取りで自分の教室に向かって行った。あんな状態だと変化が解けないか心配だよ。


「おっす、コーメイ。さっきのゾンビ、知り合いか?」


「おはよう、灰谷君。勉強会で俺たち友達だぜって宣言してた相手に対して、酷い言い草だね。さっきのは一応、まだ辛うじてギリギリ七曲君だよ」


「お前も酷いな。しかし、あの状態でテストの最後まで起きていられるのか?」


「さあね。けど、たぶん大丈夫だと思うよ」


 何故なら、彼は妖怪ぬりかべだから。

 妖怪の睡眠は人間のそれとは別物だから、勉強疲れでテスト中ついうっかり……なんてことにはならないはずだ。きっとたぶん。


 けど、実際どうなんだろう。

 人間に化けている妖怪の場合、そういう部分も人間化するのかな?


〖いえ、食欲や睡眠欲などは妖族のままです〗


(へえ、そうなんだ。トイレとか恋愛感情とかは?)


〖その二つを並べたミケのセンスには脱帽ですが、排泄はミケと同じく不要です。恋愛感情に関しては、個体差が大きいようです。ただ人間の本能的なものと違い、妖族の場合は自らの存在を強く認識してくれる相手として……謂わばアイドルにとってのファンに近いです〗


(分かりやすい譬えをありがとう。つまり、学友(クラスメイト)の笠井君ってことだね)


 アイミスからテストに出ない豆知識を教えてもらいつつ、意味不明な結論に達したところでテスト前のチャイムが鳴る。

 僕は頭を真面目モードに切り替えると、今回も高得点……ではなく平均点を目指してテストに臨むのだった。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 テストが終わり、結果が発表されたその後で。

 僕らは高校初めての冬休みに突入しようとしていた。


 なお、テストの結果は狙い通りの平均点に終わった。

 生徒会の補佐も二学期の分は問題無く片付き、カミングアウト以降は実に平和な日々だったと言えよう。勉強会も楽しかったし。


「あの、光明君」


「どうしたの、識那さん」


 とある日の帰り道、識那さんが緊張した面持ちで口を開く。

 急に改まってどうしたんだろう?


「あの、デ、デ、デ、デデデ……」


「デデデ?」


 その瞬間、僕は彼女の言いたいことを察した。

 そうだ、これから冬休みなのだ。言い方を変えれば、僕と識那さんが付き合って初めての長期休みなわけで。


「もしかして、デートの約束とか?」


「は、はい……」


「それじゃあ、何時にしようか?」


「……どうして光明君は、そんなに冷静なの?」


「あ、ごめん。なにせ改造人間なもので」


 これは僕が球体になったデメリットだ。

 普通なら赤面したり焦るような場面でも、僕の場合は淡々とモノが言えてしまう。もちろん照れたり焦ったりすることもあるが、余程大きな感情の動きでなければ僕の場合は秒でフラットになるのだ。


 だからこそ、僕は当初、識那さんへの告白を躊躇っていた。

 いざ告白して恋人になれたとしても、恋愛感情までフラットになってしまわないか不安だったから。そうなれば、恋人関係が偽りになりかねない。


 けど、その懸念はあっさりと払拭されることに。

 こうして恋人になれた後も、僕の心には常に識那さんへの恋心が存在し続けていたからである。どうやら、ときめいたりドギマギしたりが続かないだけで、感情自体が消えることはないみたいだ。本当によかったよ。


「その……ごめんね。僕、こんな感じで」


「え? あ、ううん。別にそんな……」


「でもね、誤解しないでほしいんだ。こうやって冷静にはなるけど、識那さんを好きな気持ちはずっと変わらないからさ」


「はぅぅ……」


「相変わらずだにゃ」

「たらしなのじゃ」

「天然モノだポン」

「つまりは天然たらしですニャ」

「パパ、たらしてるの」


「光理、たらしを動詞にしないでくれる? なんだか僕が公然でオシッコでも漏らしてるみたいに聞こえちゃうからさ」


 当然、下校はこの賑やかな面々のおまけ付きである。

 前と違うのは、頻繁に識那さんと一緒に帰るようになったことと、その識那さんに隠し事が無くなったことだ。つまりは光理も普通に喋れる。


 ちなみに光理は現在、小学校低学年くらいの姿に成長しているが、流石に下校中だと高校生カップルと小学生の組み合わせが目立ってしまうので眼鏡モードだ。

 これが嘘偽りない組み合わせなら問題は無いのだけれど、僕たちの場合は目撃情報が拡散されると色々とマズいからね。僕には癸姫がいるし、じゃあその子は誰なんだとなったら家族会議モノで、識那さんにまで迷惑が掛かりそうである。


「それで、どうするのじゃ? ワシらとじゃれていないでそろそろ真剣に決めてやらんと、識那が可哀想じゃぞ」


「あ、うん。そうだよね。識那さん、どうしようか?」


「ふぇっ⁉ えっと……今は顔が熱いから、後でメッセージ送りましゅ……」


「熱いのは顔よりハートだと思うにゃ」

「いや、脳とか頭だと思うポン」

「お姉ちゃん、急にロマンティックどうしたのニャ?」

「どうせ、また動画配信かドラマ辺りで見た台詞を真似したくなったんじゃろ」

鈴子(りんこ)、琴子をよく理解しているの。最早夫婦なの」

「……お姉ちゃんに嫁? そんなのわたし、許しませんけど?」

「琴音、語尾忘れてるポン。姉馬鹿はいいけど、冗談にマジになるなポン」


「みんな、自由すぎない? 識那さんが可哀想なの、僕より皆のせいじゃない?」


 こうして僕らはいつもの感じのまま、冬休みに突入するのだった。

 さーて、初めての冬休みは平和でありますように。



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