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q100「初カノとは」



 識那さんへの一大カミングアウト作戦が成功してから、数日後。

 彼女は漸く色々なことを呑み込めたのか、完全に落ち着きを取り戻す。


 流石にカミングアウトの翌日や翌々日は表情が引き攣っていたし、委員長や七曲君とすれ違う時も少し落ち着かない様子で。

 けれど一方で、遠野さんとは何事もなかったかのように接していたのには驚きだ。二人は本当に親友なのだと感じた。


「おお、可愛い後輩ちゃん。元気かー?」


「あ、カナ先輩。こ、こんにちは」


「どうだ、ラブラブか? 倦怠期なら言えよ、私がまた色々ヤラせてやっから」


「誤解を招く言い方は止めてください。識那さんが本気にするでしょ」


「誤解も何も、裸……」

「おい、クソ餓鬼。大事な後輩の邪魔すんな。つーか生徒会の仕事しろ」


 僕はともかく、識那さんのコミュニティは確実に広がったと思う。

 一応念のため、本人から了承を得て気配察知を設定し、識那さんに近付く相手を監視させてもらったのだが。今のところ危険な相手が近付いた様子はない。

 単に面倒見のいい妖怪たちが彼女を気にかけてくれてるなら、むしろ僕にとっても安心できるというものだ。


「……ねえ? そういえば綾垣さんって普通の人間なんだよね?」


「え? うん、そうだね。身近な人だと、灰谷君と綾垣さんが人間かな。あと生徒会も、カナ先輩と根古先輩以外は人間だね」


「はぁ。なんだか色々な人を疑っちゃうね。実は妖怪なんじゃないかって」


「アハハ、そうだよね。けど、これからは全部正直に話すからさ。安心してよ」


「うん、ありがとう。頼りにしてる」


 そう言ってフニャリと微笑む識那さんに、ドキッとする。

 相変わらず、とんでもない破壊力の美少女だ。こんな可愛い子が僕の彼女だとか、夢じゃないよね?


「おっす、夫婦! セッ〇スしてるかぁ?」


「遠野さん、その挨拶はどうかと思う」

「ふぇぇ、夫婦じゃないよぉ。まだ……」


「いや、小声でまだとか言って、まんざらでもないじゃない」


 クラス内での僕たち二人の日常も、かなり変化した。

 秘密が無くなったおかげか、識那さんと遠野さんは前より一層仲良くなったし、委員長との距離も縮まった気がする。あと、たまに七曲君や天野先輩が遊びに来るようになったかな。


「やるな、コーメイ。マジで。すげぇぜ」


「あ、うん。僕もビックリだよ」


「まさか七股を成立させるとはな」


「待って。誰と誰と誰たちで七股のつもり? あと識那さんの前でそういう冗談はマジで止めてくれない?」


 灰谷君はあっさりと僕らの仲を認めてくれた。

 まあ、彼の場合は前から応援してくれてたようなものだから、当然か。


 それからクラス内の反応だけど、男子は一部から嫉妬の視線は感じるものの、今のところ目立った動きは起きていない。というかバレるの早すぎ。

 そして女子はというと、大半が識那さんに好意的な態度みたいだ。


「いやあ、まさか奥手っぽい識那ちゃんがねぇ?」

「どうなの? どこまで行ったの? キス? それとも……」

「まさか、もう……⁉」


「ふぇぇ⁉」


「こらこら、三重籠を虐めんな。付き合ってはいるけど、まだ何も進んでないんだから。みんな、温かく見守ったげて?」


 たぶんだけど、遠野さんが裏で根回しとかやってくれているんだろう。

 面白く思わない人だって多少はいるはずなのに、そういう反応が表立って目に入らないからね。百戦錬磨……かどうかは分からないが、長生きしてる遠野さんならそのくらいできても不思議じゃない。

 非常にありがたいけど、遠野さんが不利益を被ったりはしないのかな?


「……なんで遠野がそんなこと知ってんの? まさか、あんた……」

「わあ、大人だぁ。まさか三人でとは……」

「うん、いいと思うよ。別に識那ちゃんがそれでいいなら、ねぇ」


「おい待て。どんな想像してるんだよ? そ、そんなんじゃないからなぁ⁉」


 いや、あれは遠野さんも含めて玩具にされてるのか?

 まあ、悪い意味じゃないなら問題無いか。識那さんも話せる女子が増えて嬉しそうだし、むしろプラスかもしれない。



 ちなみに僕らみたいな恋人(カップル)だが、実は各クラスで結構いたりする。

 田舎特有の狭さが要因なのか、昔馴染みや幼馴染も多く、そういう人たちが付き合うパターンは意外と多い。漫画とかだと逆に幼馴染は絶対に付き合わないなんてのがあるけど、どっちなんだろうね?


 あとは普通に告白成功したり、文化祭などのイベントきっかけで急接近したりで、一年生でもそれなりにいる。だから、僕らが付き合ったこともその一部という感じで、然程大きな騒ぎにはなっていないのだ。


「けどさ、柳谷は遠野さんとも仲いいよな。あと委員長とも」


「あ、うん。そうだね」


「生徒会の先輩とか、噂じゃ美術部の変人先輩とも仲いいらしいじゃん? まさかとは思うが、リアルでハーレムかよ?」


「そんなわけないでしょう。皆のことだってもちろん好きだけど、恋愛的な意味で好きなのは識那さんだけだからね」


「はぅぅ……」


「わあっ⁉ し、識那さん、聞いてたの⁉」


「……やるな、柳谷」

「……やるな、光明」

「……やるな、ミケ」


「そうだろう? やる奴なんだよ、コーメイはさ」

「なんで君がドヤ顔なのよ、灰谷君」



 余談だが、宿泊研修の前に皆で「二人は今月中に付き合うか」と賭けをしていたけど、全員が無理な方に賭けていたので勝者はいない。

 強いて言うなら僕と識那さんの勝ちかな。誰か僕たちにご褒美をください。




  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 そんな賑やかさが続く中、僕たちは残り少ない二学期を日々過ごす。

 二学期はあと、十一月の生徒総会と十二月の期末テストさえ終われば、あっという間に冬休みに突入だ。毎日が楽しいせいか、妙に早く感じるよ。


 生徒総会では生徒会のやることも多いから、僕もまたちょっとだけ忙しい。

 けど、仲間が多いおかげで仕事も捗るというものだ。なにせ、手伝ってくれる妖怪(なかま)がたくさんいるのだから。


「この程度ならワシでもできるのじゃ」

「ただ飯食らいにならないよう、頑張るにゃ」

「そう言うなら手を動かしてニャ、お姉ちゃん」

「豆狸の手でも借りたい忙しさなら、俺を頼るポン」


「いつも満足させてもらっているお礼です。できることはやりましょう」

「この、書類の束をキッチリ絞めるというのも中々に楽しいですねぇ」

「おいら、PCの扱いなら超得意なんだぜ? 任せとけぃ」

「こう見えてわたくしたち、普段はのっぺらぼう様の下で色々と手伝ってますからねぇ。この程度のお仕事なら、お茶の子さいさいですわ」


 普段ならギリギリまで多忙な生徒会も、多くの助力があって今年はスムーズらしい。というのも、普段なら凶悪妖怪たちが校長先生(のっぺらぼう)以外を手伝ってくれることなんて無いのだという。分体を提供した甲斐があったな。

 流石に生徒会のメンバーには明かせないが、適当な言い訳をして納得してもらい、おかげで僕らの生徒会活動は順調すぎるペースで進んだ。

 

 やがて生徒総会も終わった頃、僕たちは勉強会の名目で集まることに。

 こういうイベント、青春って感じでいいよね。識那さんに秘密のままだったら、こうはなっていなかっただろうし。打ち明けてよかったと今は思う。



 そうして、僕はすっかり妖怪だらけの環境に馴染んでいくのであった。

 普通って……なんだっけ?


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