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q1「人生とは」

久しぶりの投稿になります。

精一杯書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。



「おはよう。光明(みつあき)くん」



 どこにでもあるような住宅地、その一角で。

 僕は自宅の玄関を出てすぐ、近所のお姉さんと挨拶を交わす。



「あっ、おはようございます。観人(みと)さん」



 彼女は六歳年上の誾乃(ただの)観人(みと)さん。綺麗で落ち着きのある大人の女性だ。


 この辺は、都会と無縁な田舎町。

 だというのに、観人さんみたいな都心でOLをしていても違和感ない人がいるとは。これって奇跡なのかもしれない。

 そんなふうに、僕は高校生の偏見に満ちた感性を剥き出しにして、朝から観人さんに会えた幸運を噛み締める。


「これから学校?」


「あ、はい。えっと……観人(みと)さんは仕事ですか?」


「そうなのよ。お互い大変だね? 頑張りましょ」


「そうですね。き、気を付けて。いってらっしゃい」


「ありがとう。光明くんもね」


「はい」


 そう言って、僕と彼女は真逆の方向に歩き出す。


 子どもの頃からの付き合いだが、歳も家も少し離れているせいか、会話の度に緊張してしまう。それに僕みたいな所謂“陰キャ”に、年上のお姉さんと軽快に会話するスキルなんてあるわけがない。


 さっきだって思わず「あっ」とか言っちゃったし、自信なく俯きがちだし、人とすれ違う時は大袈裟に避けがちだし、ファッションセンスだって()()()ない。そこそこガチの陰キャだ。

 観人さんみたく第一印象からデキる人とは、なにもかも違い過ぎる。世の中って不平等だよね。


「ハァ。もっと堂々としたいけど、急にそうなっても周りに笑われたり嫌われたりしそうだしなァ」


 こんな独り言も陰キャっぽいなと思いながら、僕は学校へ向かう。


 自信を持てない一番の理由は、何をやっても中途半端だから。

 勉強は中の下、運動と歌は音痴だし、多趣味が唯一誇れるところだが、結局どれも半端で。胸を張れるほどに極められたものは一つとして無い。


 当然、十五年の人生で彼女がいたことなんて無いし、モテ期というのも「なにそれおいしいの」である。

 でも僕にだって、小学四年生の時に女子二人からバレンタインチョコを貰ったという栄光の記録はある。義理だし、ひと口チョコだし、その二人がクラス全員に配っていたものではあったのだが。


「なんか、朝から暗い気持ちになってきた。もう考えるの止めて景色でも見ながら歩こう……」


 そうして無理矢理に頭を上げ、周囲を見渡す。


 しかし道中は辟易するほど田畑ばかりで、それ以外といえば古い神社があるくらい。

 小さな住宅地だから同年代の子もいなくて、登下校時はいつも独り寂しく道路のシミを数える毎日である。


 余計に暗い気持ちになりかけたところで神社の鳥居に差し掛かり、僕は暗い気持ちを少しでも振り払おうと鳥居の前で柏手を打った。


 賽銭をケチって鳥居を潜らないわけではない。

 この神社は鳥居から賽銭箱までかなり距離があり、学校に遅刻するのを危惧してのことだ。なにせ拝殿は山の中にあって、ここからでは見えないのだから。

 作った人は、どうしてそんな長い参道にしたのだろうか。


 ともあれ、誰もいない――神主さんさえいない鳥居の前は、陰キャな僕が祈るには都合がよかった。



「神様、仏様、ご先祖様。あとは……道祖神様? 他にもご利益をくれるなら誰でもいいので、どうか僕に何か特別な力をお与えください」



 そんな御利益(ごりやく)より(ばち)が当たりそうな祈願を済ませ、僕は「叶うわけがないよな」とこれまた罰当たりな態度を取る。

 不思議な力だとか(ばち)だとか、非現実的なことなんて起きやしない。分かってはいるが、思春期真っ盛りゆえ願わずにはいられないのだ。

 妄想は男子高校生(DK)の必修科目なので。


 そうやって巫山戯(ふざけ)た考えを巡らせていると、不意に鳥居が眩しく輝いていることに気付く。


「あれ? この鳥居って赤かったよな。なんで真っ黒に見えるんだ?」


 光の加減か、目の錯覚か。

 そう思って黒い鳥居を見つめていると、僕はあることに気付いてしまった。



 ()()()な鳥居が()()()()()なんて現象は、絶対にあり得ないということに。



 今、僕の目は真っ黒と白銀の両方を同時に映している。

 交互でも、一部が重なっているでもなく、完全に同時に存在している。その不可思議な現象を理解しようにも、不出来な僕の頭では処理しきれず、頭が真っ白になる。


 それはまるで、ブラックホールが恒星と重なったかのような――――











 次の瞬間、音もなくその場の全てが吹き飛ばされた。

 当然、僕の体も一緒に。


 バラバラに散らばる体の欠片を眺めながら、僕は僕が死んだことを悟る。

 そして僕の意識は、暗い闇の底へと沈んでいったのだった。



四話までで区切りとなりますので、そこまで読んでいただけるとありがたいです。

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