この世界からいなくなったトップアイドル百瀬くるみはどこにいるでしょうか?
『浜辺の恋人』
『海底戦隊ウミカワ』
『滝の川の呪い』
彼女の代表作だ。
黒髪ロングの清楚系。
手足はスラッとしていて体の凹凸と
その美貌は行き交う人々を虜にする。
一見、静かな感じのキャラクターではあるが
それは彼女の一面に過ぎない。
根っからの役者なのだ。
さらっと髪を手の甲で棚引かせれば、
化粧品モデルのオファーがくる。
ライブでの感極まった涙をきっかけに
ドラマや映画の主役が決まる。
彼女はアイドルだ。
今日日こんな表現を使う人はいないが、
敢えて言うとしたらスーパーアイドル。
なんでもできる。
だが・・・・
アイドルとして一つ抜きんでいた彼女は
もういないのだ。
ツギハギだらけの顔。
いや、正確には全く違う顔。
『いかがでしょうか。』
『悪くないわ。』
中目黒の美容外科で整形を施した彼女は
もはや、彼女ではなかった。
彼女はしばらく身を潜めた。
そして数年が経ち、彼女がいないのは当たり前の世界になった後、彼女は4通の封筒をポストに投函した。
「私、後継者にふさわしいヒロインを決めるオーディションを行いたいと思います。
台本のご用意とオーディション通過者には、来期の連続ドラマの主役のご用意がございます。
つきましては、8月1日から2週間ほど伊豆の絶海の孤島であります、月城島にお集まりください。この孤島こそ、私の後継者を決めるにおあつらえ向きの島はございませんので・・・」
そうこれは彼女の復讐なのだ。
こんな紙切れだけでは来ないだろう。
だから、お金を包み、なおかつ出演契約書と企画書を同封した。無論、ホンモノのヒロインがいれば、登用する。
これはビジネスなのだ。
舞台は整った。
次はあなた達の番だ。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『見てごらんなさい!青い海!青い空!これこそ、ヒーローにふさわしい門出!』
肩にマントをつけて中に着ているのは、
セーラー服。
目元には真紅のアイマスク。
青いショートヘアを棚引かせて、
船頭で両手を広げているのは、彼女、北島玲だ。
彼女は特撮モノやアメコミヒーローが好きでよく
こんな服装をしている。
伊豆沖の周りは何もない海を
チャーターした船が走る。
落っこちたら終わりなのに、揺れまくっている
船頭に立ちながら何かを叫び続けている。
『さあ!!お困りとあらば、どこへでも!うーん?今回は彼女がお困りかあっ!!』
玲は封筒を天高く掲げる。
『アンタその中身見てないんでしょ?バッカじゃない!?』
玲がヒーローごっこをしている間に
気の強そうな言葉遣いをする声がする。
控えめな胸元の前で、腕を組む
赤い長めのポニーテールが印象的な少しつり目の
女性。
『これは!これは!うーん、いつ見ても・・・小さっ!!かわいい、我らがマスコット!うーん、、でも戦隊モノに出るには胸元が、、うーん、足りないよおな・・・・。そうだな。さしずめ疫病神役がお似合い!!』
『うるさいわね!胸にしか栄養がいってないんじゃないかしら!バッカみたい。』
高野ケイ。
『ケイ殿はすこしたぎりすぎじゃあないですかな。まだ、医学部を目指されていると聞きました!!医学よりヒーロー!!これからヒーローの時代ですよ!!』
『年中たぎっているアンタと一緒にしないでよ、、、バッカみたい。』
彼女もまたこのクルーザーに乗っている1人だ。
差し障りのないやりとりがしばらく続く。
『あー、、、もう1人いたんだっけ・・・嫌なのよね、、なんというか、陰湿でさあ・・・。』
物陰でゴソゴソと音を立てている人影に声をかける。
『ケイ殿!お金がないのは、みんな同じ!!金が無ければ稼ぐしかない!私もこのマントの為に・・・身を粉にして働きました!』
『ふん。忘れたわ、そんなこと。働いた、なんて言えるのかしらねえ・・・・。』
物陰の人物はビクビクと震えてる。
「まあ・・・・あんたのおかげで・・・生活はできているから・・・まあ・・・・いいけど。」
ケイは歯切れ悪く物陰の人物に伝えている。
クルーザーがざばーんと波をかき分けていく。
「もうすぐなのかしら・・・・熱海からずいぶん離れているけど・・・」
「まあまあ・・・・こうやって海の警備をしていると思えば!!ヒーロー冥利につきるというもの!!」
「はあ?ばっかじゃない。嫌なのよ・・・潮風は。髪が痛む・・本当不快だわ。」
「まあまあ。こうやって・・・都会の喧騒から離れると・・・こう、なんだから悪役の基地がありそうな
感じがして・・・くうぅぅぅぅぅぅ!!!!!ジャスティス!!!」
玲は拳を握りしめて天高く掲げた。
そうこうしていると目的の島が見えてくる。
月城島。
こういう企画にはうってつけの島で、1日単位で貸切ることのできる珍しい島だ。
貸し切りなので、基本的に第三者が入り込むことはない。
当然、警備員がいるわけではないので、完全なプライベートビーチならぬ、
プライベートアイランドと思ってもらって大丈夫だろう。
第三者が入り込む余地はない。
基本的には難しいだろう。
島の位置はレンタルした人間にしか伝えられておらず、
はっきり言ってそこまで大きい島でもないので探すのが困難なのである。
クルーザーが島に接岸する。
うみねこがわんさかと近づいてくる。
にゃあにゃあとうるさい声が耳にまとわりつく。
それは心のざわつきを象徴するかのようなうるささだ。
接岸する。
少し揺れた後、船の振動音が止まる。
「よっしゃー!ここから私のヒーロー伝説は始まるのだああ!!!!」
玲はクルーザーから飛び出す。
「ふん・・・・まあ。悪くないわ。」
ケイも静かに降りる。
ケイの姿も独特で、白衣に身をまとい、その下はセーラー服という釣り合っていない
服装をしているのだ。
そしてもう一人。
「え・・・ああ・・・なんか・・・きれいな島ですね。そんなところに・・・私みたいな
汚物が来てごめんなさい・・・」
ピンクヘアにハーフアップ。
そして黒のゴスロリに網タイツ。
胸元はどっぷりと豊かな双丘が実っている。
それでいて絞るところは絞られている。
鎖骨が魅惑的だ。
地雷系といっても差し支えないが、究極にネガティブな女子。
柳井みずほがクルーザーからこれほどかというくらいの猫背で降りてきた。
「あんた・・・・本当陰湿よね・・・・」
ケイが吐き捨てるように言う。
「ひいっつつ!!!ごめんなさい・・・」
みずほは頭を抱えるようにして地面に伏せる。
どうしてこんなにネガティブな人間がいるのだろうと訝しるくらいネガティブなのだ。
さて、こうしてユニークな面々である、山北ガールズーーーーすなわち彼女らのグループ名である。
彼女らはアイドルだ。
申し訳ないが3流もいいところ。
そんな3流アイドルにしてみれば、企画あり、ギャラありの宿泊型の仕事であれば
ありがたい仕事だった。
「でもさ・・・・ここ私たちだけしかいないのかしら・・・・」
「どうだろうね!!ヒーローならば道は自分で切り開け!!ってことかな!!」
「ひい・・・・穀つぶしでごめんなさい・・・・」
それぞれの反応を一通り見た後であった。
「ようこそお越しくださいました。」
それはふわりと現れた銀髪のショートヘアの女の子。
前にかかっている髪を耳元でかける仕草は、ぐっとくるものがある。
そうその名は・・・・
「私、百瀬しろい、と申します。」
百瀬という苗字を聞いた瞬間、場の温度が一気に氷点下まで下がったような空気に包まれた。
「へえ・・・・百瀬・・・」
ケイは白衣で前を隠すように構える。
「百瀬さん・・・・ですか。」
玲はマントをぎゅっとつかむ。
「も・・・ももももも!!!」
みずほはきりっと歯を噛む。
百瀬は目をバチバチバチと瞬きする。
冷えた空気を感じてはいるが、原因はよくわかっていないようだ。
「今日から2週間ですが、皆さまが企画を円滑にすすめられるようお手伝いいたしますので、
何卒よろしくお願いいたします。」
両手をスカートのあたりに添えて、ペコリと一例する。
「折しも、海水浴にはうってつけのシーズンでございます。ビーチにはBBQの用意をさせていただきました。
どうぞ夕刻のディナーまで、思い思いのお時間をお過ごしくださいませ。近々に冷えたお飲み物のご用意もございます。」
一同はそれを聞くと目を輝かせた。
「ひ、ヒーローには必要なもの!!エネルギーと休息は必要不可欠!!」
「まあ・・・・勉学をすすめるには、頭に血が回っていないとね。」
「わ、私なんかクズ人間。むしろ焼かれた方がいいのかもしれないわ・・・・」
「あんた・・・どこまでネガティブなのよ。ばっかじゃない。」
「バカです。クズです。芋虫です。」
「はあ・・・・」
「まあまあ。それよりこの青い空、青い海を堪能しようではありませんか!!もしかしたら、
怪人うみ星人も現れるかもしれませんし!!!ヒーロー日和ですな!!!」
シャキーンと玲はポーズを決める。
「はあ・・・なんだか・・しらけちゃったわね。」
ケイがそうつぶやく。
そう百瀬しろいの名前を聞いた瞬間に比べるとだいぶ空気も和らいできて
先ほどまでの空気感に戻っていたのだ。
「じゃあ・・・いきましょうか。どうせすぐに企画に移らないといけないのだから・・・少しくらい
羽伸ばししたいわ・・・。」
「ごゆるりとお寛ぎください。あと離岸流だけにはお気をつけください。」
しろいはそれだけ伝え、後ろを振り返った。
一同はビーチに向かうことにした。
しろいは彼女らと反対側のこの島にある洋館で夕食の準備などをするために戻っていった。
♦♦♦♦♦♦
ビーチにはEDMが流れている大きめのスピーカーとBBQセット、くつろぐチェアなど
ふんだんに用意されていた。
一同は水着に着替えて、思い思いの時間を過ごす。
「はーはっつはっつは!!!われこそは海底戦隊ウミカワ!ウミカワレッド!!」
玲は凹凸が素晴らしい体型に、青い髪、青い水着、そしてアイマスクはレッドという色がとてもうるさい
感じのスタイルだ。
海辺でヒーローのポーズを決めている。
「えっと、ここかコサインだから・・・えっとタンジェントは・・・・・」
赤いビキニに控えめな胸元。
ケイはチェアに横になり、サングラスにテーブルにはハワイアン色のトロピカルジュースを置き、
勉強にいそしんでいた。
「わ・・・わたしはクズ人間・・・誰か私を慰めて・・・」
みずほはピンクの水着に体育座りでビーチの端の岩場でスマホを使ってSNSにひたすら書き込みをしていた。
強烈な個性を放っている彼女らは、アイドルなのだ。
アイドルグループ、山北ガールズ。
もともとは4人メンバーがいたが、|1人いなくなり≪・・・・・・・≫、現在は3人で活動している。
非常に個性的だが、いまひとつアイドルグループとしての売り上げ貢献は弱い。
今回の企画は、ある種バズを狙えるセンセーショナルな企画になるだろう。
こういった彼女らの変わらない姿を見せるのも悪くない。
どうせここから彼女らは変貌を遂げていくのだから。
そうでなければ意味がない。
一同はビーチでの束の間の休息を楽しみ、
洋館へと戻る。
『はあ・・・変わらないわね。』
ケイが吐き捨てるように呟く。
『まさに、悪役とのラストバトルに相応しい!
はーはっはー!!!』
『・・・・こんな立派な洋館に、私みたいな虫ケラが・・・ごめんなさい・・・。』
みずほは、言葉の途中から思い出したかのようにスマホでフリックを始めた。
丘陵に立つ洋館。
島一帯を見渡すことができる。
島の北側に視線をやると崖の上に鐘が聳え立つ。
南側はビーチだ。
他は鬱蒼とした木々に囲まれており、山々を切り開いて作った舗装路が目立つ。
島の東側は灯台が1つ。
こちらは舗装路はあるが、木々が屋根のようになっており、洋館からは見えない。
西側には妙に開けた、木々がきれいに刈り取られた、東京ドームのアリーナくらいの空間がある。
『・・・・。』
玲はその空間を凝視する。
その視線の先には、一際地面が抉れた一区間がある。
遠目からでもわかるくらい抉れた地面。
『・・・玲ちゃん・・・?』
『おわっ!?あー、みずほちゃんか!悪役かと思ったー!!!』
わざとらしくそっくりかえる玲。
じとっとその様子をみずほは見つめる。
『な、、、なにかしら?』
玲は額の汗を拭いながら、歯切れ悪く言葉を捻り出す。
『いや、、、まあ、、悪とか正義って・・・その時その時の立場によって・・・変わるよね。』
みずほはニカッと笑う。
『な、、何が、、、言いたい、、、』
玲の目が見開いた。
『私と玲ちゃんとケイちゃんは同じ穴のムジナ・・・。』
玲が今まさに飛びかかろうとしたその時。
『皆さま、夕食までは少しお時間がございます。ささやかではありますが、お部屋にハーブティーのご用意がございますので、ごゆるりとお過ごしくださいませ。』
百瀬しろいが、スカートの端を持ち上げ、
膝を少し折り、会釈する。
『く・・・・。』
玲とみずほの間に割って入るかのように、
タイミングよく遮った。
『ふん・・・・。』
ケイは鼻をならす。
『全く・・・育ちが悪いのはよくわかったわ。あのメイド。』
『・・・あの子も・・・私と同じ・・・虫ケラ?』
『知らないわよ。あー!疲れた!少しハーブティーやら飲んでゆっくりしようかしらあ!!』
『キャッ!』
ケイの肩にみずほがぶつかり、よろける。
『あ・・・ごめん。』
ケイは手を差し伸ばす。
『ふふ・・・いいの。所詮、、虫ケラだから。』
みずほが、目を見開き、口角をニッと上げる。
『ふ、、ふん。そこにいるのが悪いのよ!!』
ケイはスタスタ歩いていった。
『・・・』
無言でケイを見つめるみずほ。
『ケイちゃんも・・・一緒。』
みずほはそう呟くと、部屋へと消えていった。
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『私は・・・。』
玲は、ベッドに腰掛ける。
『私は・・・私の正義を・・通したまでだ。』
マントを外す。
『海底戦隊ウミカワ』のマントだ。
彼女の最後の作品。
あれ以来彼女は・・・。
『私は・・・何も、、間違っていない!!』
気を落ち着けるためか、
玲はハーブティーを手にとる。
『ん・・・・?』
ハーブティーのポットの影に、一冊の冊子が置いてある。
『何かしら?これ、、、』
冊子の表紙を見る。
『山北ガールズ 玲の死に方』
表紙を恐る恐るめくる。
『何よ・・・これ!!!』
それは、キャスティングとセリフが延々と書いてある脚本だった。
登場人物
・山北ガールズ みずほ
・山北ガールズ 玲
・山北ガールズ ケイ
・百瀬しろい
・犯人
・百瀬くるみ
舞台はこの月城島が舞台で、この月城島で
玲がどういう最後を迎えるかが書いてある。
『誰よ!悪趣味!!』
冊子を壁に叩きつける。
『登場人物に百瀬くるみがいる。そしたらこの島に百瀬くるみがいるってこと・・・!!!?』
玲は自分の肩を抱きしめた。
『そんなはずは、、、ない。私らは合わせて5人。その中に百瀬くるみは、、いない。』
玲は台本を取る。
マントを身につけた。
『これは、、もしかしたら、、企画書・・・?』
だとしたら、、と呟き、玲は部屋を飛び出した。
向かうは、レセプションルームだ。
レセプションルームには、ケイもみずほもいた。
それぞれ台本をテーブルに置き、何も言わず座っている。
『やあ!みんなの机にもあったのかい!?これは恐らく!私らヒーローに対する挑戦状だと受け取った!!』
ケイがため息をつく。
『はあ・・・全く悪趣味よねえ!?』
ケイは睨みつけてくる。
『ケイちゃん、、、そんな目で、、睨まなくても、、、』
『アンタは黙ってなさい!!ったく、なんなのよ!この仕事!!バッカみたい!!こんなのやめてさっさと帰りたいわ!!』
見ると、ケイは自分のボストンバッグを足元に置いてある。
本当に帰るつもりなのだろうか。
ボストンバッグを担ぐケイ。
『ちょっと!帰るんだから!クルーザー動かしてちょうだい!!』
なんて傲慢なのだろうか。
レセプションルームでケイがイラついていると
しろいが血相を変えてやってきた。
『み、、、、皆さま!』
しろいの手には同じような冊子があった。
しかしその冊子の表紙は・・・・
『月城島で全員死ぬのを避ける為にやるべきこと』
と書かれていた表紙であった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『はっ、バッカじゃない。これもただの企画でしょ。』
『企画にしては、、、悪質、、です。私は企画で殺される虫ケラですね、、、』
『アンタ、それ私のこともディスってない?』
『・・・これをやるのが正義なんじゃないでしょうか??』
『は?どういう・・・。』
玲は唾をゴクリと飲み込む。
自室で外していたマントとアイマスクをしっかり着用している。
服装はなぜか青のゴム製の全身タイツのようなものを着ていた。
『ずいぶん、ぴちぴちのムチムチじゃない。こんなところでいつもみたいに、セックスアピールしてどうすんのよ?』
ケイは鼻で笑うように言葉を吐き捨てる。
『これは、私の気合の表れです!気合を入れてこの企画に臨めばきっといい未来になる!そう信じてます!』
『気合・・・なんだか、、私にはおこがましい・・・。』
みずほは、ソファの上で体育座りになりながら爪を噛む。
『だってそうでしょう?私らは同じ目的でこの島に来ている。手元のギャラと、未来にある輝かしい、ヒロインになる為に!!それに、、みんな、、困っているから、、ここに来たんだよね?』
チラッとケイを見る。
ケイは舌打ちをした。
『まあ・・・確かに金はもらったものね。でも気持ち悪いじゃない・・・くるみの名前なんかで、、、』
『くるみ・・・?』
しろいが首を傾げる。
『あ、いや、、なんでもないわ。とにかく気持ち悪いわ。お金は返すからクルーザーを出してちょうだい。』
『あ、、、いや、、クルーザーなんですが、、、』
しろいが気まずそうにケイを見る。
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『ガソリンが、、、ない?』
『はい。』
一同はクルーザーまで来ていた。
『なんでないのよ、、、』
『私も緊急時に備えて確認するよう指示を頂いていたのですが、、、来たらこんな状況で、、』
『ふふ・・・私らは・・袋小路に落とされた・・・ふふ・・・。』
『アンタうるさいわね!はあ!どうすんのよ!そうだ!携帯で救援を・・・。』
『さっきから携帯を見ているのですが、どうも圏外のようで、、』
『これでこの企画に向き合うしか無くなったわけだ!はーはっはっは!』
玲はこの非常事態すら楽しんでいるようだった。
『なんなのよ!!割に合わない仕事ばかり!聞いてんの!?アンタに言ってんのよ!このクズ!』
ケイが蹴りを入れた。
『ふふ・・女王様みたい・・。』
『ああん!?てめえは黙ってろ!!!』
『いいのかな・・・そんな乱暴して・・・。』
『くっ・・・・。』
ケイが蹴りを入れるのをやめる。
『と、、とにかく洋館に戻りましょう。その、、企画書とやらを読んでみないことには、、何も・・・』
『そうだっ!私らの目的は、この島を抜けることでなく、この島で成し遂げることなのだっ!』
シャキーンと音がしそうなポーズを取り、
玲は5秒ほど固まる。
『はあ・・・仕方ないわ。とりあえず戻りましょう・・・。』
『ふふ・・・洋館で、、死ぬのかしら・・・。』
ケイはみずほを睨みつけるが、舌打ちだけして洋館へと向かった。
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『何これ、、、あほくさ。』
『・・・企画すら、渡す価値がないんだ、、私は・・・。』
企画書、もとい台本を読む一同。
この中に犯人がいる。
しかし犯人は姿を現さない。
犯人を探す為の手がかりはある。
だとしたら、この台本通りやって、この台本が
終わるまでに犯人を見つければいい。
そして第一のヒント。
犯人は台本から逸れた行動を取る。
1ページ目にはそう書かれていた。
『うむー。つまり、みんなで力を合わせて悪役を倒せってことかな!?』
『・・・アンタ単純でいいわね・・・。』
『ですが、、これは、、』
『アンタは、ここの雇われメイドなんだから!書かれているものを用意すればいいのよ!』
『はあ・・・。』
しろいは、そう言われると『小道具』の準備を始める。
『しかし、何なのよ、次のシーン。だいぶ意味不明なんだけど・・・。』
そう読み進めると、次のシーンが、浜辺でみんなでキャンプをやっているシーンなのだ。
『とりあえずやるしかないよね!』
『キャンプとかマジ嫌なんだけど。』
『・・・ホームレスの方が・・・いいかしら?』
みずほの発言に対して、玲が睨む。
『怖いわ・・・ええ、どうせゴミ。ゴミを見るような目で見て・・・。』
玲が2人のやりとりを見て、ため息をついているとしろいが戻ってきた。
『キャンプ一式、用意がありました。』
『じゃあ用意しといて。』
『え、、、でも台本にはみんなで用意するって・・・』
『はあ!?あたしらは、客なのよ!?何なめたこと・・・・。』
そこまで言いかけると、玲が台本の1ページ目を見せてきた。
この中に犯人がいる。
しかし犯人は姿を現さない。
犯人を探す為の手がかりはある。
だとしたら、この台本通りやって、この台本が
終わるまでに犯人を見つければいい。
そして第一のヒント。
犯人は台本から逸れた行動を取る。
『ケイちゃんは、悪役なのかっ!ならば!ウミカワキックをお見舞いしなくては、ならないっ!!』
『くっ・・・・。』
ケイは舌打ちをする。
しろいもみずほも、じっとケイを見つめる。
『はあ・・・わかったわよ。やりましょう。』
『良かった・・・ケイちゃんは悪役じゃあないんだね。』
『当たり前でしょうよ、、何の為にここまで来たと思ってんのよ・・・・。』
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
キャンプの設営が完了した。
問題は食糧である。
『食糧は・・・あるのですが、、台本には・・・。』
玲、ケイ、みずほの3人は素潜りでそれぞれ自分の食糧は自分で用意することになった。
台本にはそう書いてある。
モリも3人分用意があった。
『はあ・・・どうしよう・・・私に死んで欲しいのかしら・・。』
みずほは、ため息をついていた。
『どうしたんですかっ!?』
玲もケイも、水着に着替えていた。
しかしみずほは、普段着のままだ。
『私・・・泳げないんです・・・。』
『そうですかっ!大丈夫ですよ!私がみずほさんの分もしっかりと魚、取ってきますからっ!』
『玲さん・・・さすが、正義の味方は違います・・・。』
みずほは頭をぺこりと下げた。
『・・・・・。』
しろいはそのやりとりをじっと見ていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『はあ・・・取れたわね。』
『よ、、余裕であったー!!ワハハ・・・。』
3時間の素潜りの結果、3匹。
玲が2匹、ケイが1匹。
『これで、夕飯にありつけるわねえ。』
『塩焼きがいいなっ!海水から塩を作るっ!』
『えらい時間がかかりそうね、、、じゃあBBQセットを使いましょうか、、、』
一同がビーチにあるBBQセットに手をかけようとした時であった。
『皆様、お待ちください。』
しろいが台本を手に取り、立ち尽くしていた。
『玲さん、みずほさん。お二人は、台本から逸れようとしている・・・私にはそう見えるのですが、、、』
『え・・・それは・・・どういう・・・。』
しろいは台本を見せてきた。
玲、ケイ、みずほの3人は素潜りでそれぞれ自分の食糧は自分で用意することになった。
『自分の食糧は自分で・・・・って。』
『あ・・・・。』
みずほは顔を伏せる。
『アンタさ、みずほ泳げないんだよ!?死ねってこと!?』
『いえ・・・私はただ・・台本から逸れようとする人は犯人かと・・・。』
玲もケイもピタリと動きが止まる。
山北ガールズの活動で水着を着たことは何度もあるが、泳ぐという仕事はしたことがない。
恐らく彼女らが思ったのは1つ。
泳げないというみずほの話は真実なのだろうか、という事。
でもそれは、私が犯人ですと言っているようなものだ。だとしたら嘘をつくメリットはない。
そしたらみずほが泳げないという申告をしたのは本当だ。
しかしだ。
泳げない人間が素潜りをしたらどうなる?
ただ、台本通りにやれば死ぬことはない。
犯人がみずほが泳げないという事を知らなかった?知っていたとしたら?
ただ一つ言えるのは、台本から逸れようとする人は犯人というヒントが事実として横たわっている事だ。
『私・・・犯人じゃないわ・・・。』
みずほがやっと捻り出した言葉に
反応を示さない2人。
しろいは相変わらず台本をじっと読んでいる。
『ねえ!玲ちゃん。ケイちゃん。私は!犯人じゃないの!!!』
玲の肩を掴むみずほ。
顔を逸らす玲。
玲は恐らく、こう考えているだろう。
ここで困っているのはみずほだ。
ただこの企画の正義は台本通りにやる事だ。
だとしたら・・・・。
『みずほちゃん、ごめん。魚はあげられない。』
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『はあ!はあっ!!』
足先に水がかかるのすら、だめだ。
みずほは肩を掴みブルブルと体を震わせている。
2人は浜辺から少し離れて茫然とみずほを見守る。
しろいはその場には居なくなっていた。
みずほは、少しずつ海へ入っていく。
『はあっ、、ああっ!!』
海水の流れに足を取られて転ぶ。
だいぶ浅瀬のはずだが、みずほはパニックになっているのか、腕と足をバタバタさせた。
『ねえ、、あれ、、大丈夫かしら・・・?』
『私らは、、見守るしかできないっ!!』
海水が沖へと流れていく。
『ああ!嫌だっ!!』
みずほは浅瀬で、一回転した後海面から顔を出した。
泳げないにしても、こんな浅瀬で巻き込まれるようにぐいぐいと海へ沈んでいく。
『ねえ!あれ、、まさか・・・・。』
しろいが言っていた。
『離岸流にお気をつけください。』
『ああーー!!!』
みずほは一気に沖へと流されてしまった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『みずほちゃん!!!』
玲はあたりを見渡す。
かなり沖に流されたみずほに追いつく為に、何か
ないか。そんな風に何かを探しているように見える。
『あった!』
ビーチのはずれにあるのは簡易的なモーターボート。
玲は走る。
『玲、アンタ、何をするつもり!?』
『みずほちゃんが死んじゃう!助けなきゃ!』
『アンタ、モーターボートなんて使ったことあんの!!?』
『ない!でもやるしかないっ!』
モーターボートへと走る。
『重っ、うーっ!はっ!』
砂浜に少し埋もれている、モーターボートをどうにか水辺に出す。
そのまま飛び乗り、エンジンをかける。
けたたましく鳴るエンジン。
『ちょっと・・・音が・・変じゃない!?』
『知らない!みずほちゃんを助けなきゃ!』
玲はパニックになっていたのだろう。
みずほを助けたいという思いからなのか、
その方がおいしいから助けるのかはわからない。
ただみずほのいる沖へとモーターボートを走らせた。
『みずほちゃん!待ってて・・・。』
海上を見つめるケイの目に映ったのは
爆発するモーターボートと空中に放り出される玲だった。
脱力した傷だらけの玲は空中を舞い、
そのまま海面に叩きつけられてしまった。
『いやっ・・・・いやああああああああああああ!!!』
みずほの姿は海面になく、ケイは1人浜辺に取り残されてしまった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『アンタのせいで!!アンタがしっかりしなかったから!!』
傍らに倒れている人を介抱する事なく、
殴り続ける。
『なんなのよ!ふざけやがって!アンタに任せたから!!』
赤いポニーテールを揺らしながらケイは怒りをぶつける。
殴られたせいか、唇は切れて血が流れている。
いつもそうだ。
こうやって責任転嫁をする。
わかっているさ。
手をかけたのは、アンタなんだってことくらい。
お気に入りの服も汚れてしまっている。
ひとしきり気が済んだのか、ケイは去っていった。
『冷たいなあ・・・。』
傷口が冷たい床で、しみる。
明日も仕事だ。
私はこの仕事を全うしなくてはならない。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
朝だ。
さざなみが心地いい。
昨日あんな事があったとは思えないくらい清々しい朝。
真夏の太陽がカーテン越しに、差し込まれる。
『良かった・・・目・・・さましたんだ。』
奇跡的に、みずほは助かった。
玲も爆発を予期したのか自分でボートから飛び出して爆破によって怪我はあるもの、しろいの手当てにより軽傷。
みずほはすぐに水上スキーで駆けつけたしろいに救われた。
ケイはぼろぼろ泣いていた。
仮にも苦楽を共にした仲間なのだ。
だからほっとしたのだろう。
それは少しうらやましかった。
『お目覚めですか、みずほ様、玲様。』
寝室のドアが開く。
唇が切れて、少し顔にもあざがある、しろいだった。
『ああ・・・アンタね。助かったわ。2人を助けてくれて。』
『いえ、めっそうもない。間に合って良かったです。』
しろいは、トースト、ベーコンエッグ、コーヒーを人数分持ってきていた。
『良かったら食べましょう。』
『ああ。うん。』
『ありがたいです、正義とはこの事をいうのですね。』
『こんな・・・クズに・・・ありがとう。』
だが、あんなことがあった、翌朝だ。
食欲なんかないだろう。
『私ら、、一歩間違ってたら死んでたね。』
『はい・・・・。』
『台本通りなのにね。』
そう台本通りだ。
台本通りなら死なない。
これは間違いないのだ。
『でも・・・生きてます。』
しろいは静かに、しかし強い口調で言った。
『私が死なせません。その為のメイドですから。』
『まあ・・たしかにアンタに救われたわ。』
『ヒーローのセリフ取られてしまったなあ。』
玲はニカっと笑う。
『ホント・・・・なんだか、海底戦隊ウミカワでも、同じようなセリフ・・・あったわね。』
『ウミカワね・・・。』
『あ!皆さん!そう言えば、台本の続き読まないとですね!台本通りやったから生き残ったわけですし!!』
しろいがパン!と両手を叩いた。
『あ・・・うん。そうね。えっと・・・台本は。』
キャンプお疲れ様。
これから罪を暴くヒントをくれてやる。
全てを曝け出すならば、赦してやろう。
『これって・・・・。あ!何か書いてある!えっと・・・・ヒントは、、レセプションルームにあるみたいです!私が取ってきます!』
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
一同の前には3冊の台本。
表紙には何も書かれていない。
『何でしょう・・・これは。』
『さあ?開いてみたら?』
『はい・・・。』
しろいが開く。
『みずほは、性の象徴。生業は下賤。罪深い。』
瞬間、室温がぐっと冷えたような空気感になる。
玲とみずほ、ケイは下を向く。
『これは・・・何のこと?』
しろいはみずほを見る。
みずほはガタガタ震えている。
今まさに獅子に牙を剥かれている小鹿のように。
しろいは次々と台本を開く。
『ケイは間違いを犯した。あの人はもう戻らない。過ち。』
『玲は偽りのヒーロー。ヒーローは燃え盛る炎の中、微笑んだ。』
『皆様のことが書かれています。どういうことですか??』
誰1人顔を合わせようとしない。
俯いている。
『この企画で、皆さま死ぬかもしれないんですよ!台本に従わないと!!』
しろいは声を張り上げる。
すると、観念したかのように目を瞑り、口を開く1人の人物。
『みなさん・・・聞いてください。・・・私のことを・・・話します。』
みずほだった。
『私が性的ね。仕方ないと思います。』
『みずほ、アンタ・・・・。』
ケイが立ち上がるが、みずほは手をかざすようにしてその動きを止める。
『大丈夫。ケイちゃんには迷惑かからないから。』
ケイは舌打ちをして、椅子に腰掛ける。
『えっと・・・そうね。この島に来た目的みたいなものなんだけど・・・うん。』
ポツポツとみずほは語り出す。
『うちはね、元々資産家の父のおかげでめちゃくちゃ裕福だったの。何も不自由はなかった。だけどね、ある日儲け話にのせられてね、財産のほとんどを失ったの。父は自殺。母は、気が狂って酒浸りになったわ。でも生活しなくてはならない。だからね、年頃の私は自分の体を売ったの。仕方ないの、父は借金を残してしまったし、、、でね、そんな中ある男性からアイドルに
ならないかって誘われたわ。アイドルになって売れれば、、、そう思ってこの業界に入ったわ。でも泣かず飛ばずじゃない?そしたら、この企画さえ乗り切れば、、肝入りの企画ね。ギャラも破格だし、これでブレイクすれば、、と思ってきたわ。』
みずほは啜り泣きながら、話す。
壮絶だったのだろう。
しろいも涙を流していた。
『ごめんなさい、そんなお辛い事情があったなんて、、、私、、、』
『いいんです、しろいさんも企画を成功させようとしてくれてのことでしょうから。はあ・・・疲れてしまったわ。』
『み、、みずほちゃんだけ話すのはフェアじゃないよね、、、』
玲が喉から泥玉を出すかのように声を絞り出した。
『私らも、、』
ケイも同意しようとしたところをしろいが
遮る。
『今日はやめませんか?私から振っておいて申し訳ないのですが、、まだ手当もありますし、、、明日以降でも、、、』
『うん、、まだ時間はあるからね、、、』
『じゃあ明日は私が話すわ。こういうのはさっさと終わらせたいもの。』
ケイは立ち上がると部屋を出る。
『ケイさん、、どこへ?』
『ちょっと外の風を浴びにね、、、』
そういうとケイは部屋を出ていった。
空が青い。
夏風が、木々を揺らす。
さんさんと降り注ぐ太陽に身を焦がされてしまう。
ケイはきっと洋館に至る階段に腰をかけながらそんなことを考えているのだろう。
『はあ・・・。』
ほら、ため息。
『うまいこと、言わないと。』
ケイはそれだけつぶやいた。
『私の本当の正体を明かしてはならない。だってそうでなきゃ、、、アイドルとして、、、』
終わってしまうから。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
布地がところどころ破けていて、
汚物にまみれている。
そうやって怪しげなライトに照らされて
床に力なく横たわる百瀬に投げ渡される札束。
『これで問題ないと思っています。』
紫のハーフアップ。
いつもとは違う黒の艶やかなドレスに身を纏った
みずほは腕を組んで見下ろしている。
『だって・・・そういう契約ですから・・・。』
カメラのシャッター音がけたたましく鳴る。
『とびきりなんですからね、、これで、、同じ穴のムジナ。』
みずほは倒れる百瀬に覆い被さる。
舌で頬を舐めとる。
『ふふ・・・美味しい。』
そうやって、、、
堕ちていく。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
翌朝。
『よく寝たわね。』
ケイは寝室から外を眺める。
『はあ・・・。』
玲が外にいる。
怪我はそんなにひどくないのか、
マントを着て、ヒーローのポーズの真似をしている。
海底戦隊ウミカワのポーズの真似だ。
『はーはっはー!我らウミカワの名において、悪は断つ!!』
悪は断つか・・・。
おっといけない。
『あいつ、バッカじゃない。』
玲はバカなのだろうか。
『とおりゃっ!!』
ケイは窓を開けた。
『ねえ!アンタ!こんな状況でも、よくそんな風にアホっぽく振る舞えるわねっ!!』
『正義の為!ですからっ!』
『アンタの正義って何よ!』
『何でしょう。困っている人の為にやれることをやるってことでしょうか!!』
『それが・・・社会悪でも!?』
しばらく玲は黙っていた。
しかしケイをじっと見つめてこう話す。
『社会とは?悪とは?誰かにとって困っていることは悪ですか?』
『それで誰かが困っても!?』
『そしたら!その時は、、その人を助けます!』
『だとしたら・・・ウミカワにこだわるのは・・・』
『それは!ウミカワを見たい人を助ける為ですっ!!』
『バッカじゃない!その役割すらもらえてないのに!!!』
ケイは窓を閉めた。
気がつくと、空は曇り、風はびゅうびゅうと
気味の悪い音を立てていた。
ケイは口に手を当てて考えているような仕草を見せた。
『離岸流がある中の、素潜り。泳げないみずほ、爆発したモーターボート。条件が揃いすぎている。』
ケイは立ち上がる。
『もしあの時、玲がボートを飛び出さなかったら?もししろいが気づくことなく、みずほが溺れていたら?そしてみずほはあれくらい水嫌いなのに、、』
ぶつぶつと独り言を念仏のように唱える、ケイ。
『私の正体は知られてはならない。だとしたら、やるしかない。』
ケイは立ち上がり、部屋のドアを開けた。
レセプションルームに行くとしろいが1人、
頭を抱えるように椅子に腰掛けていた。
『ちょっとアンタに付き合って欲しいところがあるんだけど。』
しろいはよく見ると、メイド服が汚れ、布地が露わになっている箇所が何箇所かある。
そのあたりから突っ込んであげて欲しいところだが、ケイは一つの事を思考し始めると周りが見えなくなるタイプだから、仕方ない。
『はあ・・・何でしょうか。』
『ちょっと、事件現場に同行してほしいの。』
『事件・・・。』
しろいの瞳は焦点があっていない。
ケイはそんなしろいの様子を見て、イラついていたのか、頬に張り手を入れた。
『アンタ、ここの使用人でしょう?少しはちゃんとしなさいよ。』
ケイはとにかく自分の目的の為ならば、平気で暴力を振るう。
最低だ。
感想を述べても仕方ない。
しろいは叩かれた頬を抑え、はっとなる。
『も、申し訳ありません。どちらまで同行すれば?』
『モーターボートを見たいの。少し気になることがあって。』
『わ、わかりました。ちょっとキッチンの火を止めて参ります。少々お待ちください。』
しろいは慌てるように走った。
しろいは火などつけていなかった。
持っていくものがあった。
シンクの下の戸棚を開ける。
昨晩、研いだ鋭利な包丁。
それを布で包み、懐に入れてケイの待つ、
レセプションルームへと戻った。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ケイは極めて頭がいい。
理系の知識もエンジニアリングもできる地頭の良さがある。ただし、万能ではない。
幾度となく医学部の受験に失敗している。
医学部は多浪する人も多いくらい難関なのは間違いないので、ケイだけに限ったことではない。
彼女もまた医学部を目指す1人なのだが、いかんせん金銭がかかることだ。
アイドル稼業もそうでない稼業も医学部の為。
医学部を目指すアイドルならこの、アイドル群雄割拠の時代に生き残れると踏んだが、あまり売りにはならなかった。
そんなケイがしろいを連れてボートを見ている。
『えらい壊れ方ね。』
『どうでしょうか・・・・。』
ケイなら気づく。
『あれ・・・?この回路。』
ほら。気づいた。
『なんでこんな配電に。これじゃあ・・・。爆発するじゃない。』
『お詳しいんですね。』
両手を後ろで組みながら、しろいが覗きこんでくる。
『アンタには関係ないじゃない。』
『そうですね。』
ニヤリと笑うしろい。
両手には白い布で覆われた包丁。
片方の手に持ち替えて、それをケイの前に出そうとした。
ケイは目の前の配線いじりに夢中で、
しろいの様子には気づいていない。
しろいは次第に呼吸が荒くなっていく。
『ケイちゃーん!!』
さっと包丁を懐に仕舞うしろい。
『?』
ケイはしろいの息が上がっているのを訝しげに見たが、声の方へと反応した。
『何よ?』
『あー、いや、姿が見えなくて、、しろいさんと一緒だったかあ。安心、安心。』
『ふん、私をアンタと一緒にしないでよ。』
玲に毒づく。
『何してたの?』
『いやね、ここの配電ボードが変でね。玲、アンタよくエンジンの異変に気づいたわね。一歩間違えていたら死んでたわよ。』
『なんか、エンジンの音が変だったからさあ。』
『あの・・・玲さんは、そのボートにはよく乗るんですか?』
『うわっ、しろいさん、服が汚れて・・・あ、いや、はじめてですよ?』
『そうですか。よく、本当に気づかれましたね。』
『アンタ・・・何が言いたいの?』
ケイがしろいに噛み付く。
『いえ、私は、、玲さんが無事で良かったと・・・』
『あ、そう。離岸流の存在も知っていたアンタがねえ・・・よくもまあ。ビーチの安全管理くらいちゃんとしなさいよ・・・うん?待てよ・・・離岸流・・・。』
しろいに苦言を呈するのも束の間、
ケイは1人でぶつぶつ何かを唱えるように1人の世界に入ってしまった。
じとっとその様子をしろいが見る。
玲は目をパチパチさせながら、思い出したかのように話した。
『そういや、今日も私たちのこと、話すんだよね?』
『え?ああ・・・そうね。先行ってて、私はあと少しボート調べるから。』
『では、玲様。私めと参りましょう。ちょうどアップルパイが焼きあがる頃ですので、、、』
『アップルパイかあ!楽しみ!』
2人は去っていった。
それを見送るケイ。
『不自然ね・・・。』
ケイは核心に触れたような感覚があった。
『離岸流の存在、、不自然なボート。タイミングよく助かる、玲。みずほ。少しカマかけてみないと。』
工具を仕舞い、ケイも洋館に向かう。
『決着をつけなきゃ。』
着くはずもないのに。
「私は、死んだ弟の為に、ヒーローになりたかった。弟はね、火事で死んでしまったの。」
「ふん・・・・私は・・・・大切な人が病気になってしまってね・・・ちゃんと判断できていれば
よかったのに。そうしていたら・・・・」
玲とケイは自分たちの生い立ちを離しをしていた。
「だから。間違いを犯した、ケイさん。偽りのヒーローは・・・?」
「偽りかは・・・よくわからないけれど・・・・たぶん私がヒーローになりたいのではない。
弟がそうなりたいから・・・・」
「それで、、この企画の高額のギャラと・・・・」
「そうね。百瀬くるみがやっていたような仕事、女優、声優、バラエティ番組などのキャスティングをして
くれるって、それを確約してくれる・・・・・そうでしょ?」
こちらを振り向くケイ。
キャスティングね。
「くるみちゃんは、スーパーアイドルだったからね。その子のようにキャスティングしてくれるなら
弟の為に戦隊モノに出るくらい・・・・」
「わけないわよね。」
「それで・・・・犯人はわかったのですか・・・・」
「さあ??その犯人に至る前に・・・・」
玲とケイ、みずほは視線をこちらにやる。
「な・・・・なんでしょうか。」
百瀬しろい。
彼女は百瀬くるみと何か関係があるのだろうか。
この絶海の孤島に何をしに来たのか。
「ねえ・・・・あなたはここに何をしにきたの??」
「えっと・・・・。」
「百瀬くるみとは何か関係あるの?」
「そんなことは・・・・」
「どころで・・・・しろいさんの・・・台本は・・・どうなっているんですか・・・・?」
「私の・・・・台本。」
台本がレセプションルームのテーブルに積みあがっている。
ケイが考察を深めたいとのことで集めさせたものだ。
「見せてもらうわ。」
「それは!!!」
ケイが動く前に、玲がひょいっと機敏にしろいの台本を手に取る。
「え・・・・・どういうこと・・・・?」
「何があったのよ?」
「えっと・・・・ケイちゃん、しろいさんの台本。真っ白なんです。」
「そんなはずは・・・!!!私だって。。。台本が!!」
しろいは玲から取り上げて台本をめくる。
「そ。。。そんなはずは・・・!!!」
「これは、部屋にあったものを集めたのよね?」
そう。
部屋にあったものをもってきている。
「白い台本ね。台本がないのに、よく玲とみずほを救うことができたわね。」
「離岸流・・・・そんなことをなんで知っていたのか・・・・私を虫けらのように殺したかった?」
3人はしろいに詰め寄る。
「わたしは・・・・ただ・・・この月城島にバイトで来ただけで・・・・」
「だったら、なんで離岸流のこととか、水上バイクのありかなんて知っているのよ!!」
そう。
しろいはよく知っている。
だって・・・・彼女の台本はしっかり用意されているのだから。
「わ・・・私の台本ではありません!!私の台本に水上バイクのありかもすべて・・・かかれていて・・・」
「でも真っ白よ?」
「だ・・・誰ですか!!!私の台本をすり替えたのは!!!」
「誰もそんな・・・・妄言・・・・信じません。」
「どうします?こいつ?」
玲が目を見開く。
「いや!!ち、近づかないで!!!」
しろいはパニックになっていた。
懐に忍ばせていた包丁を取り出す。
「きゃっ!!」
振り回す、包丁の切っ先がケイのポニーテールの先っぽを切り裂く。
「ふ・・・ふざけないで!!!あんたたちが・・・・あんたたちが・・・お姉ちゃんを!!!」
「ほら!!やっぱり!!」
しろいは洋館を飛び出す。
「待ちなさい!!殺人鬼をこのままにしておくわけにはいかないわ!!」
3人はしろいを追いかける。
「逃がすな!!」
「許すな!」
「殺せ!!!」
「ひいい!!!!やっぱり!!いやだ!!!」
しろいは叫びながら逃げる。
向かっているのは何もない、地面がえぐれれているだだっ広いあの敷地。
「くそう!!こんなところで死ぬわけには!!!!!!!」
しろいは包丁を構えた。
向かってくる3人に向ける。
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
♦♦♦♦♦♦
燃え盛る炎。
「熱い・・・熱いよお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
えぐれた地面。
肉が焦げるにおいが辺りに立ち込める。
百瀬の衣装が、
きれいな髪が、
美しい顔が。
赤い炎に包まれていく。
「ふふ・・・・・正義の味方が最後には勝つんだから・・・・。」
辺りが喧噪に包まれている中、玲は静かに笑っていた。
♦♦♦♦♦♦
「はあ・・・・全く、大変だったわね。」
「しろいさんが犯人だったとは・・・・ショックです。」
「虫けら・・・・私より・・・虫けら。」
3人はしろいを始末した後・・・・
ビーチでBBQを楽しんでいた。
「まあ・・・・でも結局どうなるの。犯人、みんなで捕まえたんだし・・・」
「そうね・・・・わからないけれど・・・・」
「まあ・・・・どう判断されるかね。ところで・・・。」
3人は顔を見合わせる。
同じ疑問を持っている。
しろいが始末されてから1週間。
「犯人捕まえたのに、なんで迎えの船は来ないのかしら・・・・?」
♦♦♦♦♦♦
「次のニュースです。アイドルグループ、山北ガールズのメンバー、玲さん、ケイさん、みずほさんが
伊豆沖の月城島で遺体として発見されました。3人はいずれも、バラバラ死体にされており・・・なお
本件、容疑者として月城島でバイトをしていた、百瀬しろい容疑者として東京地検特捜部に・・・・」
テレビを切る。
ナレーションを続けることにする。
この月城島での山北ガールズを葬る企画はいかがだっただろうか。
ああ・・ここかい?
ここは、私の部屋だ。
どうだろうか。
この動画タイトルにある通り。
百瀬くるみはどこにいる?
なんの変哲もないタイトルではあるが、整形してメンバーにわからないように
月城島にいた。
みずほは下賤な商売をしていた。
それは売春の元締め。
玲やケイもそれに絡んでおり、彼女らの生活を支える資金となっていた。
部屋で慰みものにされて札束を投げつけられていたのは、昔の私だ。
私ははめられた。
彼女らの商売道具にされた。
ケイは私の彼氏を殺した。
でもケイはストーカーで私の彼氏が自分のものにならないとわかると駅のホームで突き落とした。
とても巧妙に。
私が彼氏の後ろに立っていたところを私ごと押した。
だからあんたのせいだと。
彼が病気?
あんたの方が病気だよ。
百瀬の焦げたにおいなんて。
私は自分のやけどあとを見る。
月城島での海底戦隊ウミカワの撮影の爆発シーン。
私が爆発に巻き込まれるように取り計らった。
私は体中にやけどを負った。
このシーン。
ケイはとても暴力的な商品だった。
『なんなのよ!!割に合わない仕事ばかり!聞いてんの!?アンタに言ってんのよ!このクズ!』
ケイが蹴りを入れた。
『ふふ・・女王様みたい・・。』
『ああん!?てめえは黙ってろ!!!』
撮影係である、マネージャーの私に蹴りを入れるなんて。
クルーザーのガソリンを抜いたのも、
しろいの台本をすり替えたのも。
ボートのエンジンの回路を替えたのも。
すべてこの動画をまわしていた私だ。
島のいたるところにビデオカメラを仕掛けるのは心が折れた。
でも・・・・
それは報われた。
こうやって彼女らのスナッフビデオがこうして
販売することができるのだから。
動画配信サイトではなかなか垢バンされるだろうから、ダークウェブで高額で売る。
ああ・・・・しろいがどうなったかって??
「うわああ!!!!!!!」
しろいが包丁を向けたとき。足元がガラガラと崩れた。
「いやあ!!!!!!!!!!!」
しろいは落ちていく。
ドボン!!!
「あれ・・・・?」
海である。
そこは、あらかじめ落とし穴として作っておいた場所だ。
しろいが覚えておいてくれてよかった。
彼女の台本には・・・・
「追い詰められたら草が生えていない、あの場所の印がついている場所に来い。」
「もし、ケイがボートに気づいたら刺し殺せ。」
しろいは予想以上にキャパシティーがない、妹だった。
私は整形してから、消息を絶った。
しろいは重度のシスコンで手紙と音声ファイルだけ送り続けた。
私のことが大好きだった。
私をこの芸能界で働けなくしたあの3人が憎かった。
だから3人を消すためならなんでもやる女だった。
え・・・?なんで離岸流でみずほを殺し、
ボートで玲を殺さなかったって??
だって・・・・
その方が絶望にたたき落とせるじゃない。
ぼっかりと穴の開いた地面に落とされたしろいの行方を確認することなく、
油断した3人はBBQやらパーティやらを連日やっていたけど。
マネージャーとしてそこに残っていた私は洋館のレセプションルームに彼女らを呼んだ。
「ったく・・・・マネージャーのあんたがしっかりしないから・・・」
「いつ・・・お迎えは。。。来るんですか??」
「早く帰って、ウミカワを見たいです!!」
「・・・たく。なんかこの部屋くさいわね。ちょっと、マネージャー掃除してよ。ああくさい。」
バカな奴らだ。
「少し待っていて。」
私はその時。
百瀬くるみの声で彼女らに伝えた。
「今の声って・・・・」
「ま・・・さか・・・・」
「くるみ・・・ちゃん??」
部屋を閉めた。
ガソリンをまいた部屋に火のついたマッチを1本投げ入れて。
焼ける彼女らの動画は部屋の外にしかけておいたカメラがよくとってくれた。
轟轟と燃え盛る。
部屋は鍵をしめて、窓も開けなくして。
熱い、熱いと言いながら火の中でのたうちまわる彼女らは滑稽だった。
「ごめんね!!!!助けて!!!くるみちゃん!!!!」
玲が叫んでいた。
私だって苦しかった。
芸能界の未来を絶たれた。
だからこうやって全身整形して、
あんたらの本当のマネージャーを始末して
なりすまして、今日まで復讐の為だけに生きてきた。
復讐はろくなもんじゃなかった。
終わってみて思うのは心に穴が空いた。
実の妹に罪を擦り付けて、この様子をスナッフビデオとして売って金に換えて・・・
こんなことをしたかったのかはわからないが。。
私は声を出して言いたかった。
このスナッフビデオで伝えたかった。
私からのアンサー。
百瀬くるみはどこにいる??
ずっとずっとあなたの前にいたんですよ。
気づいてほしかった。
百瀬くるみはもういない。
もうこの世界に存在しない。
百瀬くるみとしての人生はすでに終わっていたのだった。