58話 魔術連盟:伊吹サイド
魔術連盟……それが、アタシ達を助けてくれた組織の名前。
連れてこられたこの豪華な建物は魔術連盟の基地。
基地の名前は『フォルト』、どっかの国で″砦″を表す言葉らしい。
たくさんの魔術師がここにはいて、悪い奴等を取り締まったり、魔術師の事を研究したりもしてるらしい。
なんて、アタシにはどうでもいい話だ。
ここに来るまでに連盟の事とか、結界がどうとか色々説明されたけど、はっきり言って全然頭に入ってこない。
風間は目を覚さないし、宇都見の怪我も一応心配。
でも一番心配なのは、やっぱりアサヒの事。
あんなに大怪我だった。
魔術師がここにいっぱいいたとしても、そう簡単に治るワケが無い。
こんな時、何も出来ない自分がただただ歯痒い。
カーペットが敷かれたホテルみたいな通路、その脇に設置された椅子で、窓の外を眺めながら溜め息をつく。
綺麗な草原が視界の奥の奥まで続いている。
走ってみたら楽しいかな。
寝そべったら気持ちいいかな。
だけど、こんな状況で散策する気分にはなれない。
無駄な事ばかり考えてしまう。
アタシの魔術が、どんな怪我も一瞬で治せる、そんな力だったらなって。
魔術師になれたのに、出来る事は限られているらしい。
「あー、いたいた。伊吹さん」
アタシを呼んだのは男の人だった。
背は少し低めで、声はちょっと高め。
長い髪を後ろで一本に結んでる。
ていうか、どこかで見た気が……
「ああ、すまない。助けられたのに自己紹介もしていなかった。僕の名前は幸村。覚えているかな? 月城さんと一緒に来た……」
「あっ! アンジェと戦ってる時に、助けてに来てくれた人……ですか?」
「覚えていてくれて嬉しいよ。まぁ結局助けられたのはこちらの方だったけどね。僕の事は記憶の片隅程度に残ってくれてればいいさ」
そう言って少年の様な微笑みを見せる。
なんだか、ちょっと童顔って言うか、母性本能がくすぐられる顔をしている。
スーツのお陰でちょっと大人に見えるけど、下手したら中学生くらいに見えるかも。
なんて……ほぼ初対面の人に思ったら失礼かな。
「あ、それでアタシを呼んだのって……」
「そうだった! 君の友達が目を覚ましたよ。それで君に伝えに来たんだ」
「本当!?」
気づいた時にはその場から駆け出していた。
「い、伊吹さん……!? 部屋の場所は……」
「さっき他の人から聞いた! ありがとう幸村さん!」
駆け出さずにはいられなかった。
ただアサヒに会いたくて、元気な顔が見たくて、重苦しい気分は、加速する気持ちがかき消した。
※ ※ ※ ※ ※
「アサヒ!!」
案内されたドアを開くと共に叫んだ。
目の前には簡易的に敷かれた布の上に座っているアサヒ。
その傍らにはヨルカと、学校で助けてくれた女の子もいた。
「涼香! ウチ、マジでびっくり。魔法って実在したんだねー。怪我が治っちゃったしさぁ……」
「アサヒ……!!」
気がついたら飛びついていた。
「どぉわ! ちょちょちょ! もう大丈夫だし! 勝手に死んだりしねーから、落ち着きな?」
「ほんっと心配した! 本当に……!」
「いやいやぁ……こんなに心配されたら流石に照れるっての。アンタさぁ、ウチの事好き過ぎな」
「え!? あ……ご、ごめん」
「もー、ほんとほんと、横に私達もいるんだけどなー。ねー、つーきしーろさん♪」
「……いえ、私は別に……」
少し我に帰りながら、アサヒの体から離れる。
そういえば色々と忘れていた。
アタシにはやらなきゃいけない事が残ってた。
「私はお邪魔ですので、外で待っています。他のお連れ様が起きるまでは時間もあるので、どうぞごゆっくり……」
「ま、待って……!」
まだ、礼を言っていなかった。
この子は、アタシがアンジェにやられそうになった時、間一髪で助けてくれた。
雪の様な銀色髪の女の子。
「その……アタシと、アタシの友達助けてくれてありがとう。この借りはいつか返すから……えーっと、何さん?」
その少女は少し戸惑った風で、少し考える素振りを見せる。
「つ、月城……です。月城理乃……」
「月城さんね……うん、覚えた。また後で」
「失礼します……」
部屋を出るまでも表情は変わらなかったけど、ちょっとだけ顔が赤かった気がする。
恥ずかしかったのかな。
それはともかく……
「なんか……ホッとした」
途端に体の力が抜ける。
まるでコンセント引っこ抜かれたゲーム機みたいに。
「涼香!?」
「りょーちゃん!?」
「いや、大丈夫。安心したら腰抜けちゃった……あはは……」
「心配させんなし……」
「……でも、良かった。三人共無事だった! りょーちゃんがあの斧男を倒してなかったらと思うとゾッとするよー」
「つーか……涼香って何者なん? ヨルカから聞いた話だけだと全然分かんねーし」
「わ、私もよく知らないんだって! ねぇ教えてよ。秘密は無しだよ、りょーちゃん……!」
「あー……そのー……」
二人そろって顔を覗き込んでくる。
説明してあげたいところだけど、魔術師の話をどこまでしていいのか。
いや、そもそもアタシがこんな複雑な事情を完璧に説明出来る?
「……どうせ、忘れちゃうらしいからさ。知りたいよ、りょーちゃんの事」
「ウチとヨルカは涼香と違って、この場所とか、学校での事とか覚えられないって、さっきの子が言ってた。アタシらに話しちゃマズいってのは分かってる。だけどさ……」
二人はとても寂しそうに言った。
そうだ。
忘れていた。
この二人は多分、治療とかの為にここまで連れてきた。
連盟が色々やったから結界の中にいれるってだけで、ここを出たら記憶は消えちゃうんだ。
それは馬鹿なアタシでも理解してる。
アタシを怖がりながらも助けようとした事。
敵の魔術師にとんでもない傷を負わされた事。
それが全部終わって、三人揃って嬉しいって、みんなで笑った事。
全部、忘れちゃうんだ。
「……アタシね、魔術師って奴でさ。スーパーマンみたいな事が出来てさ」
でも、アタシは覚えてるよ。
「本当は全然そんな力無かったけど、二人を守りたいって思ったから、こんな力が目覚めたんだ」
アサヒが自分の震えすら我慢して鹿島に立ち向かった事。
ヨルカが命を捨ててでもアタシにブローチを投げてくれた事。
「正直さ、アタシもあんまり自分の事分からないんだ。でもね……」
出会ったばかりのアタシの為に命を賭けてくれてありがとう。
「もう二人に怖い思いはさせないから。それに、心配させる様な事もしない。だから、もし忘れても安心して」
あの瞬間の心の震えは忘れない。
初めて知ったんだ。
誰かに想われる事の嬉しさを。
だからこそ言える。
今だから言える。
「アサヒとヨルカはアタシの一番の親友。大好きだよ」
ちょっと恥ずかしいけど、ずっと伝えたかった事だ。
「うっ……うぅぅぅ!! 照れるっ! ってか泣けるぅ……! 涼香ぁぁぁ!!」
「うわぁん!! りょーちゃーん!! 私達も大好きだからねー!! もー好き好き好き好きーー!!」
「はいはい、叫ばないの。ははは……」
三人揃って抱き合った。
涙と汗が口の中に入って少ししょっぱい。
くっつき過ぎて、暑くなってまた汗が出る。
あんなに動いたのに、お風呂入ってないから三人共ベタついてるし、体もクタクタ。
それなのに、二人共全然離れようとしないし。
「ウチ、忘れないから……!」
「私も! めっちゃ怖かったけど、りょーちゃんの愛の告白忘れるワケにはいかないし!」
「いや、愛の告白って。ふふ……」
変な言葉にまた笑いが出る。
二年に上がった時は、こうなるなんて思いもよらなかった。
こんなアタシが、思いやりだとか、友情だとか、そんな感情を覚えるなんて。
今はそれが心地良いものだって知れた。
この先何が待ってるかは分からない。
魔術連盟と関わった事で、アタシの未来は更に変わっていくと思う。
良い方向にも、悪い方向にも。
でも、もし叶うのなら、今みたいな平和な瞬間が続いて欲しい。
この先もずっと……




