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罪深き魔術師共  作者: ルカ
56/60

56話 魔術連盟 3

 案内された部屋は今までと打って変わってかなり広い部屋だった。

 と言うよりは、天井の高さによってそう見えるものなのかもしれない。

 何せ、そびえる様に立つ()()を、普通の部屋に入れるにはあまりにスペース不足。



 それは、巨大な板状の機械だった。



 まず連想したのはスーパーコンピュータ。

 テレビなんかで特集されてたのを見た事があるが、あれよりも全然デカい。

 板状と言っても、厚みがかなりある。

 おおよそ、あの中に複雑な基盤がいくつも組み込まれているんだろう。

 あいにく、機械に関してはそこまでの知識は無い。


 部屋の印象もこれまでとは異なり、機械類が乱立している。

 それも全て、この大型機械を動かす為の歯車なのだろうか。

 これが一体何を出来る機械なのか、それは見当もつかないが、わざわざ案内したと言うのだから、重要なのは違いない。

 そして、魔術連盟にとって外部には漏らしたくない秘匿事項。

 だから、宇都見は俺達に確認を取ったんだ。


 機械の根本部分、大量のコード類が繋がったPC、そこから一本のコードで繋がったモニター。

 その手前、キーボードをカチャカチャと打ち込んでいく女性が一人。

 集中しているのか、扉の開いた音には反応を示さない。


「おーい、鮫島さーん」


 宇都見は慣れた様子でフランクに声をかける。


「ああ……宇都見君ですか」


 眼鏡をかけた女性だった。

 青みがかった黒く長いウェーブの髪に、黒いワイシャツと青いネクタイ、ショーパンに黒タイツ。

 女性にしては高身長で、俺より一回り小さいくらいの背丈だ。

 170ジャストってところか。

 モデルの様にスラっとした足で、顔も結構整ってる。

 切れ長の目に、ちょっと低血圧っぽいけど知的な雰囲気。

 それにマッチしたワイシャツ姿は、中々男心をくすぐる。


 優しい女上司と言うか、憧れの先輩というか、会社勤めの近所のお姉さんと言うか……


 あれ?

 連盟にいる女の人ってみんなレベル高い?


「アンタ何ボーッとしてんの? 初対面の人をそんなアホ面で覗き込んで……」


「え!? いや、なんでもねぇよ……!」


「まだ起きたばかりで本調子じゃないんですかね? 無理は禁物ですよ……?」


 冷たい伊吹の態度に反して、とても優しそうな口調で微笑みかけてくる。

 優しい……今まで大体初対面の奴に酷い扱い受けて来たもんだから、なんだか新鮮な気分だ。


「ああ、自己紹介が遅れましたね。私は鮫島(さめじま)冴子(さえこ)と申します。ここ、()()()の管理人をしています」


 椅子から立ち上がり、礼儀正しくお辞儀と自己紹介を済ませる。

 その言葉の中に気になる言葉があった。

 観測室……後ろの機械が関係しているのだろうか。


「ご丁寧にどうも。俺の名前は……」


「風間蓮斗君、そして、伊吹涼香さん、ですよね? ()()知っていますよ。お二人とも、魔術連盟に入られた事も。まぁ、でなければここには入れませんけど……」


 誰かから聞いていたのか、俺達の名前は知られていた。

 ただ、含みのある言い方だ。

 魔術連盟に入った事を伝えてあるのは、現状では船田さんと宇都見にだけ。

 当然、宇都見は俺達の案内をした。

 話す時間なんて無い筈だ。


 そこで俺は、この浮かんだ疑問をシンプルに投げかける。


「……驚きましたよ。名前知ってんのはともかく、連盟に入った事はまだ数人にしか伝えてないんですよ。どうやって知ったんですか?」


「ふふ、すいません。確かにこんな言い方されれば、ちょっと怪しく見えちゃいますね。ただ説明するのもつまらないかと思って、少しイタズラしてみたんですよ」


 そう言って、鮫島さんはモニターが見える様に数歩下がる。


 どうぞ、と右手でモニターを示された俺と伊吹は、不思議そうに画面を覗き込む。

 映っていたのは、チャットの様な画面。

 白い背景にネットの掲示板の様な書き込める空白のスペース。

 その上にはチャットのログが表示されている。


 軽く読んでみると、打ち込んだであろう黒い文字には、『午後三時以降の観測室への訪問者』と、一言。

 その後に打ち込まれたであろう青い文字は、その回答を示していた。

 『午後三時二十分、風間蓮斗、伊吹涼香、宇都見集、以上三名』、無機質な文でそう書いてあった。

 その文の更に下には小さく数字が書いてあった。

 『PM14:47』、これは多分この文章が打ち込まれた時刻だ。


「このチャット……もしかして……」


 察した伊吹が、すぐにスマホで時間を確認する。


「三時、二十分……」


 このチャットがマジなら、二時四十七分の時点で、三時二十分に俺らが来る事を分かっていた事になる。

 つまり、これは……


「未来を読めるって事か……?」


「ご明察! 私は既にこの機械に未来の予測をさせていたのです。なので貴方達が来る事は知っていましたし、貴方達が自己紹介する未来すらも知っている。これが、この大型電子魔道具……もとい、観測機の正体です!」


 テンション高めな鮫島さんは自慢げに腕を組む。


「もうなんでもアリじゃん……その内、タイムマシンとかも出来ちゃったりしてー」


 伊吹は冗談言ってるが、これはとんでもない代物だ。

 どのくらい先まで見えるのかは分からないが、未来が見えるのなら、電車やバスの事故とか、街が倒壊するレベルの大地震とか、そういうのだって分かるって事だ。

 この魔道具は、今まで見てきた魔道具とは一線を画している。


 そして、そのすげぇもんをわざわざ俺達に見せたって事は、これが魔術連盟にとって重要な物って事だ。

 連盟にとって必要不可欠なピースなんだ。


「この魔道具を使って、魔術師関連の事故を防ぐって事か」


「正確には″事件″だな。意図的に人殺しをしたりだとか、銀行襲ったりだとか、組織に属してない野良魔術師は簡単に悪行に手を染める。だから、そういうのを未然に防げるこの観測機が、魔術連盟(俺達)にとっては必要なんだ」


「ですが、完璧に防げる訳じゃありません。今回の学校襲撃事件も、水羽大橋の件も、観測機では予想出来ませんでした。″可能性″をチャット方式で聞き出さないと、知る事は出来ないんです。質問が抽象的過ぎると観測機は反応しませんし」


「それに、場所の指定もしなくちゃエラーが起きる。例えば、今回俺達がここに来るって予測は、『観測室』って言うキーワードがあっただろ。つまり、″特定の場所で起こる未来″しか分からないんだ」


「なんでもかんでも頼り切りには出来ねぇって事か……ま、そういう事らしいぜ、伊吹」


「ふ、ふーん……そうなんだ〜……」


 あんまりよく分かって無いらしい。

 こいつ、本当に高校二年生か?


「さ、これで案内は終わりだ。あんまり仕事の邪魔ばかりしてられねーぜ。ほら礼をしろ風間」


 呆れ気味に伊吹を見ていた俺を、宇都見が肘で小突く。


「あ、あざっしたー!」


「ふふ……こちらも楽しい時間が過ごせました。では、また」


 職場見学に来た小学生ばりの声量で挨拶をするも、鮫島さんは相変わらず笑顔で返してくれる。

 伊吹や月城とは大違いだ。


「あれ……宇都見?」


 部屋から出ようとすると、宇都見は逆に鮫島さんの方へ歩く。


「ほんの一分くらいな。外でちょっと待っててくれ。別に大した事じゃない」


「……? 分かった」


 外で待っとけ、なんて言うくらいだから、内密な話なんだろう。

 宇都見の態度はなんというか、未だに掴めないというか、ぎこちないというか、意図的に何か隠している様にすら見える。

 というか、お前なんかに腹の底を見せるものか……と、アイツの背中が語っている様に見えた。


 この微妙な関係性は、俺が魔術連盟に入ったとしても、そう変わらない気がする。

 その心の奥底を知るまでは……



※ ※ ※ ※ ※



「鮫島さん、この前の件なんですけど……」


 扉の閉まる音と同時に、宇都見は低い物腰で訊ねる。


「ああ……アレ、ね。風間蓮斗君の持っていた『魔女の遺物』の事、ですよね? 勿論、調査は終わっています。宇都見君の望む結果かどうかは分からないけれど……」


 鮫島はモニターが乗った机の下、その引き出しから高価そうな万年筆を取り出し、宇都見の手に渡す。


「それで、どうだったんです?」


「…………()()()()()()()()


 少し間を空けて、鮫島はハッキリと言い切った。


「……つまり、アイツは遺物によって目覚めた魔術師じゃないと?」


「恐らくは。ですが、先天的な魔術師であっても、外部からの魔力的干渉が無い場合には目覚めないケースがあります。風間君はそれに近い」


「じゃあ、一体これは……?」


「目覚めさせる為だけに魔力を封じ込めただけのレプリカ。あるいは、風間君の為に第三者が持たせた魔道具の可能性もあります。現状は単なる万年筆ですがね。どちらにせよ、これが遺物である可能性はゼロです」


 宇都見はその万年筆を凝視する。


「……それじゃ、調査の件、ありがとうございました。失礼します」


「……実物見た感じだと、アレは″クロ″ですね。この件は内密にって、宇都見君は言ってましたけど……どうにも単なるコソコソ話で終わりそうに無いんですけどね……?」


 背を向ける宇都見に、鮫島は少し低い声色で告げた。


「今はまだ、です……後で俺から船田さんに話します。だから、お願いします」


「友達思い、なんですね」


「冗談キツいですよ。憶測だけじゃ話せないってだけです。俺は慎重派なんですよ」


 鮫島は牙の様な鋭い八重歯を見せながら笑った。

 それに対して宇都見は、一切の愛想笑いもせずに部屋を去る。


「……あらら、怒っちゃったかしら」


 モニターに反射する自分の顔を見て、鮫島は再び嘲る様に笑った。


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