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罪深き魔術師共  作者: ルカ
54/60

54話 魔術連盟 1

 寝てる時によく見る夢。

 それは大まかに二つパターンがある。

 皆にチヤホヤされる。

 家族に褒められる。

 大勢に囲まれて、幸せそうな俺。

 そういう願望が映し出されるタイプ。


 もう一つは、言ってしまえば悪夢だ。

 多分これは、まだ幼い頃の記憶。

 あまり覚えていないけど、俺にとっては最悪の出来事だった。

 とても嫌な思い出。

 ただ、思い出さなきゃいけない気がしていた。


 そう思う度に、それはボヤけて、霞んで、どこまでも不鮮明。

 使命感みたいなものが背中を押すから、それに合わせて歩き続ける。

 でも、歩いているだけじゃ辿り着けそうにない。


 それじゃダメだって、走り出す。

 走り出すと……







「あ、起きた」



 こうして目覚めてしまう。



「…………伊吹?」


 この状況には覚えがある。

 前後の記憶が曖昧で、目覚めたら見知らぬ天井。

 凄まじくデジャヴを感じる。


 しかし、前回とは大きく異なる。

 まず目に映ったのは少しレトロな木目の天井。

 横になっていたベッドも、どこか古めかしく感じる。

 必要そうな家具のみが置いてあるこの空間は、旅館か、あるいはビジネスホテルの様な印象を受ける。


 さて、ここで問題。

 ここは一体どこなのだろうか?


「伊吹、とりあえず状況を説明してくれ」


「んー……アタシもよく分かんないんだけどさ、なんかよく分かんない人達が? 助けてくれたっぽい? みたいな?」


「そうか」


 全然分からなさそうだ。

 もしかして、今の俺より理解出来てないんじゃないか?

 前もそうだったけど、普通こういう説明役は俺が起きた時に横にいる奴だろ。

 多少の状況整理はしておくべきだろ。


「んね、やっぱりなんとかなったっしょ? アタシも風間も、結構ピンチだったけどさ」


「あー、そういえばそんな話してたよな。お互い、しぶといもんだ」


「ゾンビ野郎とか言われてたしね、ウケる」


「けっ、うっせーよ」


 伊吹は怪我の一つも無く、いつもの調子で笑っている。

 正直、ホッとした。

 落ち着いている様子だし、他のクラスメイト連中も無事だったんだろう。

 となれば、全員無事生存。

 今回の学校襲撃の件は、なんとかなったみたいだ。


 よな……?


 若干の心配を孕んでいる間に、モダン風の茶色い扉が開かれる。

 そこから出てきたのは、まぁなんとも美人さんであった。


「……目覚め……ましたか」


 とてもクールな感じの子だ。

 髪も真っ白、肌も真っ白。

 身長ちっさめで、手足もほっそい。

 俺らとそんなに変わらないくらいの歳に見えるけど、涼しい雰囲気がなんとも黒いスーツによく似合っている。

 それでいて、ちょっと童顔で母性本能をくすぐる様な魅惑のフェイス。


 控えめに言って……可愛い!


「ど、どもーっす」


「……」


 言葉は返されず、値踏みするかの様にジッと見られる。

 なんだか少し怖い。

 というか、終始無表情だ。


「……貴方は吸引してしまった煙が主な問題でした。怪我も酷かったですけど、後遺症が残るレベルでも無い。魔術による回復も済んでいる筈です。なのでさっさと起きて下さい」


「え……」


 発したのは、イメージに違わない冷たい言葉だった。


 どうにも、最近出会う女とは第一印象が悪い。

 俺、寝込んでたんだぜ?

 『ずっと起きないんで心配でした!』とか、『無事で安心しました!』とか、そういう言葉は無いのか?

 全然表情変えないし、なんならどこか蔑んでいる様に見えるぞ。


 そんな不満を心にしまいつつ、いざ起き上がってみると……


「おっ、動ける動ける。いやー! 良かった良かった。マジで今回は死ぬかと思ったからな〜!」


「アンタ、マジで無茶しすぎ。言っとくけど、ここに担ぎ込まれた時、息して無かったんだからね。体だってボロボロだったし」


「え!? マジで!? こっわ!!」


「いや、マジマジ。すぐに治療用の魔術を使える人が来て、助けてくれたんだよ。まぁでも、あのホワイトとか言う奴やっつてくれたから、あんまうるさく言わないであげる」


「あっ! そうそう! 俺すげぇ頑張ったんだぜ!? お前にも見せてやりたかったぜ、俺の勇姿をよぉ!」


 そんな平和なやり取りに、食い込む様な鋭く冷たい視線。


「……元気そうですね。良い加減、ベッドから動いたらどうです?」


「ああ……すんません……」


「私は先に部屋の外にいます。詳しい近況を知りたいのなら、どうかお早めの準備を。時間は有限……ですよ?」


 と、言い残して、パタリと扉が閉まる。

 うん、なんというか、苦手なタイプだ。

 和やかな雰囲気だったのに水を差してくるし、ぜってぇ性格悪いだろ……!


「なぁ伊吹……アイツ、嫌な奴だよな」


「うーん、どうだろ。確かにちょっと圧あるけど、良い子だと思うよ。危ないとこ助けてくれたしね」


「助けてくれた……?」


「そ。あの子ともう何人かで、いきなり現れて、いきなり助けてくれた。確かにちょっとクール過ぎるけどね……」


「ふぅん……」


 伊吹なりに多少思う所があるらしい。

 助けてもらったんなら、まぁ悪くは言えないか。

 それにしても、冷たかったけどな。

 俺が起きた時だって、全然嬉しそうじゃなかったし。


 なんだか、機械みたいな奴だった。



※ ※ ※ ※ ※



 レトロモダンな雰囲気の回廊を行く。

 内装はとても煌びやか。

 本当に高級旅館の様だ。

 少し洋風チックな所も風情を感じる。

 その上、広い。

 さっき俺達のいた個室の様な部屋が連なっているだけでは無く、明らかに間取りが広い部屋もある。


 今しがた通ったロビーの様な場所も圧巻の広さで、とてつもない高さの天井には、リーマンの生涯賃金でも払えなさそうなシャンデリア。


 ここまで広い場所に出ると、人の姿もチラホラ見えてくる。

 談笑する者もいれば、忙しそうに早歩きだったり、何かの物品を運んでいたり、十人十色だ。


 とは言え、服装はやたら規律正しい。

 ほとんどがスーツ姿だ。

 俺も俺で、いつの間にワイシャツ姿になっていた。

 元々着ていた奴はボロボロの筈だから、誰かが着せ替えてくれたんだろう。


 道行く人達に目を凝らすと、想像通りと言うか、その誰もが魔術師。

 一体ここがどういう施設なのか、全容は掴めないが、ここは宇都見の言っていた『魔術連盟』とやらの基地らしい。


 豪華な内装に目を奪わながら、先導するあの『機械女』についていく。

 相変わらず、俺と伊吹には目もくれず、ただ目的地へと黙って歩いている。


 そんな中、学校での騒動に話題は移る。

 なんでも、七瀬が怪我をしただとか、鹿島の野郎をぶっ飛ばしただとか、その後にアンジェ・ルーガーがやって来たとか。




 極めつけは……




「お前、とうとう魔術師になっちまったのか……! 大丈夫かよ……!?」


「しょ、しょうがないじゃん! あそこでアタシが戦わなきゃ全員死んでたし! ってか! 今までアタシだけ仲間外れっぽくてなんかイヤだったし!!」


「違う違う! 責めてねぇって! 体とかは大丈夫かって話だよ。初めて魔力使ったんだ。意外と疲れんだろ?」


「え? いや、まぁ……アタシの場合は『加速』使ってただけだし、アンジェと戦ってた時も、割とすぐに助けが来たから……」


「加速……? お前もしかして、魔術、使えんの……?」


「魔術とかってのはよく分かんないけど……なんかアレ使うと早くなるんだよね。ジェットコースターみたいに、『ズキューン!』ってね」


「マジ、か……」


 伊吹の奴、目覚めたてだってのに、能力が使えたのか?

 俺はまだ魔力纏って攻撃するくらいしか出来ないのに?

 俺ってもしかして、魔術師としての才能無い?


「え、なんかショック受けてる? なんで?」


「べ、別にぃ? ショックなんて受けてねぇし?」


 そうだ。

 俺はショックなんて受けてない。

 全然、全く。




「あら、こんにちは」




「ん……?」


 廊下の向こうから現れたのは、まだ幼く見える少女だった。

 ウエストがキュッとしまったロングワンピース。

 黒格子の柄に、レースがあしらわれた、まるで英国のお嬢様の様な風貌。

 ウェーブがかったボリューミーなセミロングのプラチナブロンド。

 愛らしい人形の様な整った顔立ちに、それを際立たせる碧い眼。

 なんというか、この場の雰囲気には合っているが、魔術師なんて物騒な輩には見えない。


 その少女はすれ違い様に立ち止まる。


「……挨拶、したのだけれど」


 それは明らかに不機嫌そうな眼差しだった。


「おっと! すまねぇすまねぇ。こんな所に君みたいな子がいると思わなくてよ。つい色々考え込んじまった」


「ふん……」


 喋りかけたものの、そのまま目を合わせずにスタスタと行ってしまった。

 その後ろ姿に目を凝らして見ると、やはり今の子も魔術師だ。


「あんなちっこいのに魔術師なのか。すげぇな」


 そこでようやく、あの『機械女』が口を開く。


「小さければ、なんですか? 魔術師とは体格の差で決まるんですか? それとも、自分より小さい体の人間は反射的に下に見てるんですか?」


 開口真っ先に皮肉が出るのは、もはや褒めるしかない。

 明らかに口調は怒っている風に聞こえるが、眉一つピクリとも動かない。

 全くの無表情。


「えっと……そういうつもりで言ったんじゃ……」


「ちなみに、彼女は魔術連盟内でも屈指の実力者です。『五本指』の内の一人とも言えるでしょう。貴方なんて、赤子程度の扱いでしょうね」


「え!? 今の子供が!?」


「外見で判断しないで下さい。なんの為の魔力感知ですか」


「ぐっ……」


「ぷぷぷ、風間ってあの子より弱いんだ〜」


「うっせ!!」


 今の子供より俺は弱いらしい。

 流石にそこまで言われると凹む。

 ただ、今はそのショックより、この機械女への怒りが湧いてきた。

 男として、ここまで屈辱的な事を言われたら黙っちゃいられない。

 それも、魔術師歴的に後輩である伊吹の前で。

 このままじゃ俺のメンツが丸潰れだ。


 よし、ここはガツンと言ってやる。

 例え相手が女だろうと、関係ねぇ!


「おい! おま……」


「着きました。ここです」


 と、途端に急ブレーキ。


「お、おい。あの……」


「この中に『代表』がいます。私はここで待機しています。ノックした後、中に進んで下さい」


「こいつ……」


 あえて遮る様に言葉を返される。

 明らかに意図的!

 なんて酷い女!


「アンタって初対面の子に嫌われてる確率高いよね」


「お前が言うか……」


 そんな俺と伊吹のやり取りにすら、興味無さそうに沈黙を貫いている。

 この女は徹底して俺の事が嫌いらしい。


 大きな事を成し遂げたと思ったら、見知らぬ所に飛ばされて、知らない女になじられて。

 結局ワケが分からないまま、ここまで来させられて、目の前の扉の向こうには『代表』とやらがいるらしい。


 助けてくれたらしいが、それとこれとは別。

 この女に関して、文句の一つくらいは言ってやりたい。


 ノックを三回。

 面接をする時の様な心持ちで、『どうぞ』の言葉をもらった後、よそ行きの顔に変えてから扉を開く。



 奥に鎮座していたのは、とても穏やかな雰囲気の男だった。



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