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罪深き魔術師共  作者: ルカ
53/60

53話 炎からの生還 / 白銀の少女

 バリケード越しに伝わってくる熱。

 巨大な爆発音、そして振動。

 男二人の、怒号混じりの会話。


 宇都見はその全てを聞いていた。


 風間に聞かされていたのは、フラスコへの銃撃と、化学実験室に自分諸共閉じ込めると言う内容。

 先の作戦を実行した後、宇都見は校舎内に身を移す。

 不安と戸惑いを感じつつ、他の教室から集めた椅子や机を積み上げ、この一室のみを完全に閉じ込めた。

 そこから先は風間に全て委ねて。


 最後に聞いた言葉は、『大きな爆発音が鳴ったら助けろ』。

 その言葉の通り、宇都見は大急ぎで即席のバリケードを撤去する。

 乱雑に机と椅子を投げ捨てる様に退けながらその名を呼ぶ。


「おい! 風間! 無事なのか!?」


 そして、最後の机をどかした時、その結果は否が応にも目に入る。


 部屋の中心に倒れていたのは二人。

 宇都見からすれば、引き分けた様に見えた。

 両者共々ボロボロで、生きているのかどうかすら分からない。

 ただ、尋常では無い状況だった事だけはすぐに理解出来た。


「おいおい……ふざけんなよ……!」


 頭に水を被る時間も無く、宇都見は衝動的に炎の中へと飛び込む。

 倒れる白髪の男には見向きもせず、もう一人の男の方へ駆け寄った。


「起きろ……!! 死んでんじゃねぇ……!!」


 呼びかけに反応する事は無かった。

 返ってくるのは、部屋中を焼く火の音だけ。

 その場で安否を確認する余裕などある訳無く、声を発する事すら命がけ。

 言葉通り、息をつく暇も無い。

 すぐさま担いで、数メートル先の扉を目指す。


 と言っても、宇都見の体も同じく限界を迎えている。

 加えて、魔力は完全に尽きている。

 とどのつまり、七十前後の重さの男を担ぎながら歩かなくてはならない。

 この燃え盛る炎の中で。


(畜生……! なんで俺はこんな奴の為に頑張ってる……!? ホワイトは死んだ! 風間が殺してくれた! でも、こんな危険犯して助ける程俺は義理堅かったのか……!?)


 裏切る事には慣れていた。

 リオが教室に現れた時のあのやり取りも、途中までは本気だった。

 心の底から、風間と伊吹を見限るつもりだった。

 なのに今は、捨て置けないでいる自分がいる。


(違う……俺は別にお人好しじゃない。義理を通すのは、任侠映画の悪者だってするだろ……)


 自分の中で腑に落ちる理由を探していたら、廊下はすぐ目の前。

 扉から押し出る様に床に倒れ込む。


「っぷはーー!! はぁ……!! はぁ……!! クソ……疲れた……!」


 ひとしきり、新鮮な空気を堪能し、深呼吸を二、三回繰り返す。

 穏やかに眠る風間を見下ろし、宇都見は不愉快そうに舌を鳴らす。


「おーおー、スヤスヤ眠っちまってよ。お前が寝てる間に、色々文句を考えておくからな」


 宇都見は不機嫌なまま、風間を再び背負う。

 『仕事』はこなした。

 けれど、どうにも拭いきれない苛立ちは、今も尚燻っていた。



※ ※ ※ ※ ※



 本校舎三階、風間とホワイトが激戦を繰り広げている最中、こちらでも同様、伊吹とアンジェは戦い続けていた。


 ただ、その内容は、”戦い″と呼ぶにはあまりに一方的だった。


 アンジェの能力は『光』。

 手のひらから質量化された光を放ち、相手を蜂の巣にする。

 その攻撃速度は、当然ながら、光の速さ。

 手から光が放たれた瞬間、既に回避不可能。

 『加速』を持ってしても、その事実に変わりは無い。

 そして、何より恐ろしいのはその火力。

 その威力は、鹿島の鋼鉄でさえも容易く撃ち抜くレベル。

 どんなに優れた魔術師であろうと、攻撃を直に食らえば、すぐにあの世行き。



 そんな緊張感の中、伊吹は今も戦っていた。



 アンジェの手に光が集まる。

 このコンマ数秒後、光の攻撃が始まる。


(来た……!)


 瞬間、伊吹は『加速』を発動させる。

 その一瞬で光の角度と範囲を見極め、予め安全地帯に移動する。

 これが、伊吹が咄嗟に編み出した、対アンジェ用回避法。


 故に、光の矢は紙一重で伊吹には当たらない。


「……また、当たらなかったか。いい加減、攻撃してきたらどうだ?」


(出来たらやってるっての!! このクソ女……!!)

 

 伊吹の思っている様に、近づく隙など存在しない。

 何せ、避けている間は攻撃に転じれない。

 常に相手の予備動作を見ておかないと、次の攻撃に対処出来ないから。


 アンジェが『光』の能力を用いる度に『加速』の使用が強制される。

 ここで生じるディスアドバンテージは、圧倒的な魔力の絶対量。

 魔術師として目覚めたばかりの伊吹には酷な話だった。


 現在、戦闘開始から四分経過。

 ただ、この極限状態の四分は、永遠にも思える長さ。

 一つ一つの攻撃を凌ぐのに、膨大な集中力を浪費する。

 アンジェの攻撃をかわせたとしても、反撃のチャンスは生まれない。

 ただの分が悪い時間稼ぎ。

 まさにジリ貧であった。


 しかし、ここまで攻撃を食らわずにいられているのは、伊吹が無意識の内に適切な距離を取っているから。

 アンジェも、別の攻撃手段は当然用意しているが、『加速』の能力の関係上、接近戦は不利と考えていた。

 それこそが、この消耗戦が尚も続く理由である。


 しかし結局の所、この消耗戦はアンジェに理がある。

 単純な魔力量の差、固有魔術による相性の差、埋められない魔術師としての経験の差。

 それらの観点から見て、この勝負は決まったも同然。


(ていうか、もう限界……!!)


 絶え間なく襲い続ける光の矢のせいか、右足を大きく踏み外す。

 体勢が崩れたタイミングで、避けきれなかった矢が頬を掠めた。


「スタミナ切れか? もう終わりだな。さぁ死ね」


(嘘……ヤバい、マジで……死んじゃうって……!)


 その攻撃、光速につき、遺言を残す暇も与えない。

 アンジェの右手に再び光が集約する。

 加速で体勢を立て直そうと四苦八苦しながら、そんな容赦の無い様子が目に入る。



 光の矢で、体に風穴が空く。

 そんな最悪の未来が頭をよぎった。






「嫌だ……まだ、死にたくない……!」


「……ええ、死にませんよ」


「へ?」






 無意識に発した言葉に、日常会話の様な自然さで言葉を返したのは、少女の声だった。



 そして、その直後に放たれた光の矢は、少女のかざした右の手のひらに当たり、鏡に反射した光の様に、アンジェの方へ跳ね返ってゆく。


「……!」


 寸前、アンジェは首を右に曲げ、己が光の矢をギリギリでかわす。

 とは言え、驚きを隠せない様だった。


(なんだ、こいつは。いつの間にここに来ていた……? 私が気づかなかったとは……それとも、他の第三者の能力か? それに、あの能力は……?)


 呆気に取られていたのは、勿論の事、伊吹も同じ。

 避けるので手一杯だった光の矢を、目の前の少女は動じもせず、跳ね返したのだ。


「あ、アンタは……い、一体……?」



 その少女は、宝石の様な、美しい白銀の髪色だった。



 クセのついたショートボブ、白雪の様な真白い肌。

 伊吹より一回り背丈が小さく、とても華奢で、人形の様な少女だった。

 アンジェ同様、黒いスーツを着込み、光の矢を跳ね返した手には黒い手袋が身につけられていた。

 蔑む様な、逆にとても無関心な様な、全く掴めない半目の無表情。


 一際目を引くのが、血で染め上げた様な真紅の眼だった。



「間に合った様で幸いでしたね。感謝して下さい」


 どこか高圧さが隠しきれない丁寧な言葉。

 ただ、見下す様に見えながらも、その場からは一歩も引かず、伊吹を守る様にアンジェの前に立ち塞がる。


 そんなチグハグな様子と、この訳のわからない状況に、伊吹は困惑する事しか出来なかった。


「え、えと……ありが、とう……?」


「はい、どういたしまして。それでは、下がっていて下さい。ここからは()()が片をつけます」


 駆けつけていたのは少女一人だけでは無い。


 少女に気を取られていたアンジェの背後、二人のスーツの男女が既に立っていた。


「……面倒だ」


 煩わしそうなアンジェに切りかかったのは眼帯の女。

 得物は黒い柄の大太刀。

 その刃渡は三尺以上。

 その大きさにも関わらず、重さをものともしない様子で、上段から豪快に振り下ろす。

 

 当然、アンジェはそれをかわそうとする。

 大振りなその攻撃に、余裕な表情すら見せている。


 ただし、一瞬だけ。


 刀が迫る寸前、引き寄せられるかの様にアンジェの体は不自然に前方に傾く。

 よく見れば、その女の後ろ、もう一人の男が地べたに手を置き、まじまじとアンジェを睨んでいた。

 その男は、アンジェの動きを制限する能力を行使していたのだった。


「ちぃっ! 調子に乗るなよ! 雑兵共が!」


 しかし、やはりアンジェに攻撃は当たらない。

 刀が触れようとした瞬間、大きな光が身を包み、その二人組の更に後方、光の速さで瞬間移動する。


 そして、移動と共に追撃の準備を完了する。


 集約した光の塊が、手の中に。


「……後ろですっ!!」


「「……!!」」


 時既に遅し。

 避けられたと同時に、光の矢は発射準備完了。

 この、一、二秒の反応の遅れが命取り。

 何せ、相手は光そのもの。

 アンジェにとっての一秒など、あくびが出る待ち時間でしかない。



 しかし、その高速の世界に踏み込む事が出来る唯一の能力を、彼女は持っている。



「させるかぁ!!」


 伊吹は加速能力で既に近づいていた。

 アンジェの半歩先、力強い踏み込みと共に、地面を蹴った。



 そして、伝家の宝刀が炸裂する。




 とはならなかった。


 紙一重で伊吹の膝は顔スレスレをかすめてしまう。

 避けた反動と共に、アンジェは後方に距離を取る。


「どこまでも邪魔な能力だ……! 伊吹涼香っ……!!」


「アタシは絶対に死ねないし、目の前で誰にも死んで欲しくない。だから負けない……!! 見ててね、おばぁ……!」


 力を絞り出す様に伊吹は左手に持ったブローチを強く握りしめる。


「……それは」




 次の瞬間、ブローチを見たアンジェの脳内に、記憶が流れ込んだ。

 継ぎ接ぎの様に、断片的な情報が。




「よく見れば、それは……いや、そんな筈は……」


 何故か立ち止まるアンジェ。

 下を向きながらぶつぶつと何か言葉を発している。

 数秒の困惑の後、銀髪の少女は仲間の二人にハンドサインを送る。

 眼帯の女は、再び刀を構える。


「まずは確認すべき、か……」


 攻撃体勢に入った彼女には目もくれず、意味深な言葉を呟く。

 切りかかろうとしたその瞬間、再びアンジェの体は光に包まれる。

 その光は、今までよりも明るく、周囲すら白く取り込む。

 近距離の強すぎる光に、その場の全員が目を伏せた。


「くっ……! って、あれ……?」


 その光はほんの一瞬だった。

 違和感を感じながら目を開けると、そこにはアンジェはいなかった。

 学校に窓から侵入した時と同様、光の姿となってどこかへと消え失せてしまっていた。


「な、なんだかよく分からないんだけど……助かった……っぽい?」


「魔力反応も消えていますね。アンジェ・ルーガーはこの場から離脱したと考えるのが妥当かと」


「よ、良かった〜……」


 数時間ぶりに緊張の糸が切れた伊吹は、大きな溜め息を吐き、廊下に寝転ぶ。

 と、ほぼ同時にすぐ起き上がる。


「あ!! 風間と宇都見!! アサヒとヨルカも!!」


「計四名、全員保護したと先程連絡が来ました。校内にいた敵組織の魔術師はあらかた制圧した様です。再び襲われる心配も、流石に無いかと……」


 焦る伊吹に、少女は淡々と説明する。


「よ、良かった〜……」


 再びの安堵、再び寝転ぶ。

 その直後に苦い顔を浮かべながら、ゆっくりと起き上がる。


「え〜っと……アンタ達は何者?」


「ああ……」


 少女は『そういえば』と言った表情で、もう二人の仲間と規律よく並ぶ。


 そして、相変わらずの無表情でこう告げる。


「失礼、申し遅れました。私達は、『魔術連盟』と言う組織です。以後、お見知りおきを」


 真紅の瞳は動かない。

 機械的で、義務的な、そんな表情だった。


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