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罪深き魔術師共  作者: ルカ
52/60

52話 イカれた男共

 その身に起こった変化は、本人でさえ気づく事は出来なかった。

 その能力を本能的に操り、ホワイトの魔術を打ち破った事を、風間は知らない。

 魔術の覚醒など、可能性に入れている筈が無かった。


 むしろ、自慢の能力を破られたホワイトの方が、状況を理解出来ていた。

 やられたが故に、今一度冷静に状況を整理する。


(……風間蓮斗、反応から察するに、こいつは自分の力を自覚していない。だから、試す様に灯油なんぞを使った訳だし、こんな部屋に俺を閉じ込めた)


 自分の能力を知らないと言う事は、初めから全て己が策略と、フィジカルだけで解決しようとしていた。

 拳が効かなかった場合には、また別の策を用意していたし、コワモテな見た目に反して、そこは用意周到であった。


 それを踏まえて、ホワイトは風間の″意図″が最後まで読めなかった。


「風間……君は、どういうつもりだ……?」


「あ……?」


「こうなる事は予想出来ただろう。長引けば炎が周って自分だって死ぬ。第一、俺は能力によって炎は効かなかったんだぞ?」


「……そうだな」


「無駄死にする所だったんだぞ……? 一緒に心中するつもりだったのか? それに、俺の攻撃が確実に決まっていたら、お前はもう死んでいるんだぞ……? 一度逃れられた筈なのに、どうしてお前は向かってきた?」


 ホワイトが理解出来なかったのは、そのギャンブル魂。

 様々な攻め手を考えていたとは言え、能力の謎も解かずに挑むのはあまりにも狂っている。

 その上、逃げ場の無い、こんな狭い部屋で戦おうとするなんて、自殺行為も甚だしい。


 だからこそ、何か別の考えがあったのではないかと、ホワイトは考えていた。



「知らねぇよ」



「え?」



 否、この男はホワイトの想像以上にイカれていた。



「……おめぇが特殊な体だって事は分かってたぜ? だから、炎で無理なら、この部屋に一緒にこもって、てめぇが息詰まらせて死ぬまで耐久。どんな能力だったとしても、人間の形してんだ。流石に酸素無きゃ死ぬだろ」


「な……! そこまでするか……!! 自分も道連れになるんだぞ!? く、狂ってる!!」」


「狂ってねぇし、死なねぇよ。てめぇが倒れた後に助けてくれる奴はいねぇが、俺の場合は宇都見がいる。それに伊吹もいるしな。だから死なねぇ」


「馬鹿か!! その耐える過程で俺に殺される可能性を考えていないのか!! そんなリスキーな策を仕掛けてくるなんて、イカれてるぞ……!!」


「あっはっはっは!! お前だって危険も承知でこの教室に飛び込んで来たんだろ? お互い、イカれ野郎だな」


 恐怖心、怒り、傷つく相手への同情、風間からその全ては消え失せていた。

 段々と、この危険な戦場が心地良いものになっていく。

 息苦しさも、体中の痛みも、魔力が尽きかけているこの状況も、謎の清々しさを与えていた。


(さっきまでの不安定な感情はねぇ。こいつに対する哀れみも無くなった。例え殺す事になっても……やってやるぜ……!)


 恐れを断ち切る様に目覚めた、謎の固有魔術無効能力。

 もう攻撃を止める感情も、止める道理も存在しない。

 目の前の敵を倒す、ただそれだけの為に風間は戦う。


 その一方、ホワイトは恐怖心を募らせる。


「そういや……拳も効いたのは嬉しい誤算だったな。これで、てめぇが息詰まらせて死ぬのを待たなくても殺せるワケだ……来いよロン毛野郎」


 風前の灯同然の魔力を引っさげ、風間は一歩一歩足を進める。

 それに合わせて、ホワイトは一歩ずつ後ろに下がっていた。

 無意識の内に後ずさっていた。

 その後退を、自分の背が壁に突く事で初めて知る。


 己が恐怖を、自覚する瞬間だった。


(……俺は怖がっているのか。目の前のこいつでは無く、死ぬかもしれないと言う状況に対して。こんな感覚は味わった事が無い。今まで読みを違えた事も。相手が格上だろうが格下だろうが、俺は生き残って来たんだ。なのに……!!)


 間違いなく、それは絶望。

 今まで紡いできたものが、積み上げてきたものが、この男には通用しない。

 思考回路が読み取れない。

 理解出来ない人種。


(こいつ、本当に俺を殺す気か……? 高校生の分際で……? どこでしくじった……? 俺は……俺は……)


 逃げる事は出来ない。

 持ち堪える事が出来ても、部屋中を覆う炎と煙でいずれ死に至る。

 無理に逃げようとすれば、背後から容易く攻撃される。


 絶対絶命、八方塞がり、万事休す、そんな言葉が頭を巡る。




 やはり、残された選択肢は一つしか無かった。




(いや、まだだ……生き残る為には、″速攻″だ。正確には一分以内。その間に、逆に俺が殺してみせる。やってやるさ……!)



 覚悟を決めた瞬間、壁と背が離れた。



 両者、全身に魔力を纏わせながら近づく。

 風間は低い体勢でファイティングポーズを取る。

 ホワイトは両手を下げたまま、一切の構えを取らなかった。


(なんだ……? さっきの俺の真似をしてやがるのか?)


 勿論、そこに意図はある。

 ただ、風間にとっても時間が無いのは同条件。

 不気味さを感じつつも、攻撃を仕掛けずにはいられなかった。


 顔面に高速の左ジャブが飛ぶ。

 続いて腹部に強烈な左フック。


「ぅ……」


 二つのパンチは見事に炸裂。

 たまらずよろけた所に、トドメの右ストレート。



 が、そこで風間は拳を寸止めする。



 脳裏に浮かんだのは反撃弾(リベンジ・ショット)

 すんでの所でホワイトの狙いを理解した。


 しかし、時既に遅し。


 止めた右腕をホワイトはグッと引き寄せ、左手の二本指を風間の脳天に押し当てる。



 炸裂するのはやはり、零距離反撃弾(リベンジ・ショット)



「がっ……!!!」


(さっき当てた時……風間はこの技に対して肉体的反応はしていた。効果は薄いものの、この攻撃は確実に効いている……! 風間の能力は、ダメージの完全な相殺は出来ない。出来てもダメージを軽減するだけだ!)


 ホワイトが食らった合計二発分のダメージが、頭に直接返ってくる。

 初弾に比べれば大きく威力は下がっている。

 その上、風間の能力によって更にダメージは軽減される。

 とは言え、その衝撃は風間自身の拳そのもの。

 痛みのショックで体をのけぞらせる程度には効いていた。


 そして、追撃は首元へのハイキック。


「かはっ……!!」


 後方に大きく飛ばされた風間は、咳き込みながら過度な呼吸を繰り返す。

 当然ながら、炎に包まれたこの部屋には一酸化炭素が充満している。

 無理に空気を吸い込めば、その分だけ毒を吸い込んでいるのと同義。

 意識が遠のくのと同時に、喉は焼ける様な痛みに苛まれる。


 しかし、まだ闘志と魔力は残っている。


 その痛みに意も介さず、風間は黒板前の大きな机まで走る。

 更なる追撃を狙いに、ホワイトはすぐさま駆け寄る。

 その距離、まだ互いの射程外。


 そこで風間が取った行動は、手前にあった椅子を投げつけると言う原始的な攻撃方法だった。


 無論、これでダメージを与えるつもりでも、この椅子に魔力を纏わせている訳でも無い。

 目的は注意を逸らす事。

 加えて、ホワイトの視点からだと椅子に重なって動きが見えづらくなる。

 それが狙い。


 動作を隠しながら机の上に素早く移動し、風間自らホワイトの方へ飛ぶ。


 飛んできた椅子を跳ね除けた瞬間、ホワイトの視界に映ったのは風間の膝。




 飛び膝蹴り(フライングニーキック)が炸裂する。




「おぶっ……!!」


 魔力の帯びたその膝蹴りは顔面に突き刺さる。

 激しく鼻血を吹き出しながら、背中から盛大に倒れてしまう。


 と、思われたが、すんでの所でその足を踏み留めた。


(ここで隙を見せたら終わりだ……! むしろ、ここで追い討ちをかけに来る風間に反撃を……!!!)


 しかし、その追撃はホワイトの予想の範囲外だった。

 ()()()がホワイトの手前に投げこまれる。


 その数、数十本は下らない。

 大量の銀色の筒。

 ラベルに描かれた文字は『火気厳禁』。


「な……!?」


(もう……どうにでもなれだ……!!)


 それは、ここに至るまでに様々な運動部から事前にくすねていた、アイシング用のコールドスプレー。

 ホワイトが来るまでの準備中に、机の中に仕込んでおいたのだった。


 言わずもがな、火に投げ込めば悲惨な事態が待っている。

 自分も巻き込まれるかもしれない、ハイリスクな最終手段だが、しのごの言っていられる状況でも無かった。


(まだこんな小細工を……!!!)


 風間はすぐさま机の下に身を隠し、それを見かねたホワイトは、スプレー缶から咄嗟に距離を取る。

 しかし、部屋の温度が上がっていた事もあり、炎に晒されたスプレー缶はものの数秒で臨界点。





 特大の大爆発が起こる。





「ぐわぁぁぁぁぁあああ!!!!」



 雄叫びの様な悲鳴と、耳を叩き割る程の地鳴りの様な音が風間の耳を襲う。


 そして、強烈な爆風。

 机越しでも吹き飛ばさんとする、銀幕スターしか味わえない様な大爆発。

 持ち得る魔力を全て体の外に纏い、目と鼻を押さえながら、半ば祈る様にその場で身を屈める。


(やったか……?)


 黒板前の机は、地面に接着した大きなタイプで、爆発を凌ぐには適していた。

 お陰で、炎と煙に巻き込まれずに済んだ。


 机から出ると、目を開けられない程の大量の煙に、それを上回る炎の海が、室内に広がっていた。

 その状況は差し詰め、実験中の不幸な事故の様であった。


 朦朧とする意識の中、倒れた長髪の男の姿が目に入る。

 ピクリとも動かない。

 勝利の余韻を噛み締める余裕も無いが、風間は心の中でガッツポーズを決める。



 地獄の様な炎の檻の中、勝敗は決したのだ。



(やった……遂に……でもその前に早く出ねぇと……)


 確かに勝てた。

 ただ、連戦に次ぐ連戦で心も体も疲弊。

 炎に包まれた部屋の中、喉は焼け、呼吸はもうしたくても出来ない。


 その上、固有魔術、及び魔力の過度な浪費のせいか、魔力は完全に底を尽きた。

 もう戦う力は一ミリも残っていなかった。


 そのせいか、風間は自分が全身に火傷を負っている事に気づいていなかった。

 痛覚すらまともに働いていない。

 そんな、途切れかけの意識の中、自分と一緒に戦ってくれた二人の姿を思い浮かべていた。


(伊吹……宇都見……俺は勝ったぞ……褒めてくれよ……)


 まだ死ねない。

 まだ止まれない。

 まだ終わりたくない。


 低めの体勢でふらふらと、口を手で覆いながら、外へと続く窓を目指した。

 微かに覗く外の光は、神の後光か、吊るされた雲の糸にも見えた。


(外にさえ出れば……外に……外に……)







 ガタ。







 後ろ髪を引っ張るかの様に、その物音で歩みを止める。


 文字通り後ろだった。


 後ろ。


 後ろで起きた音。


 後ろにいる何か。




 その答えは一つだった。




(どこまで……どこまでお前は……)



 焼け焦げた長い白髪が、黒煙と共に揺れていた。

 痛々しく、薄汚れ、ボロボロな衣服、未だ光を失わない赤い眼。

 異質、奇妙、狂気、執念、そのどれもが当てはまる様な異常性。


 そして、彼は笑っていた。

 笑うのを堪え切れない風な笑みだった。


 それは、勝ちを確信したからでは無い。

 この命の取り合いを楽しんでいたからだった。

 能力の成長、自身の存命を至上の悦とする男が、生存意識とは程遠い行為に、心躍らせていた。



 異常、異常、どこまでも異常。



 なのに、それを心のどこかで理解してしまっている男もまた、ここにいた。



 互いを見合い、状況をすぐに理解する。

 ホワイトは魔力を残している。

 風間には無い。



 それが分かっていても、ブレーキなんてものは無い。

 こうなった以上、突き進み、叩きのめすのみ。



 正真正銘のラストアタック。

 数メートルの距離を、互いに拳を掲げて猛ダッシュする。



 ホワイトにはもう一握りの魔力しか残っていなかった。

 それでも、人一人屠る事が出来るくらいの力はあった。

 ましてや、相手は魔力の無い、現時点ではただの一般男子高校生。

 最早結果など最初から見えていた。


 しかし、ホワイトは手を緩めない。

 『獅子は兎を狩るにも全力を尽くす』、そんな言葉を体現するかの様に、全身全霊で、残った全てをぶつけまいと、その拳を振るう。


 風間の身には何も残っていなかった。

 ただ、耳鳴りの様に頭にあの言葉がこだましていた。

 『きっと上手くいく』と、別れる際に言っていたあの言葉。

 その言葉が、鼓舞してくれている様な気がした。



 だからこそ、この難局を打ち砕く天啓が舞い降りたのかもしれない。



 そして、両者二人の心の声はシンクロする。





((こいつは……俺が殺す……!!!))





 拳と拳がすれ違う。

 先に相手に拳を叩き込んだのは────







 風間だった。







 彼の拳がホワイトの頬を捉えた。

 その衝撃は、顎の骨と、最後の戦意までも粉々に砕いた。


 勝敗が決したと同時に、拳の中に忍ばせていた()()()()()()()()()()がポトリと落ちる。

 魔力の尽きた風間の、最後の最後に浮かんだ策。

 タネが分かった瞬間に、ホワイトは悔しそうに苦笑いを浮かべた。



「そうか……魔力をそいつで補って……」



 そして、届かなかった手を、恨めしそうに見つめる。



「あぁ……楽し……かった…………」



 意識が途切れる瞬間まで笑みは絶やさず、そのままホワイトは眠りに落ちた。

 深い、深い眠りに。



 それを見届け、風間も膝から崩れ落ちる。

 体の全感覚が麻痺していた。

 ホワイトの最期の言葉すら耳に入っていなかった。



 遠く、遠く、遠く、安らかなまどろみに、二人は落ちていく。


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