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罪深き魔術師共  作者: ルカ
51/60

51話 目覚める才能

 ホワイトの固有魔術、それは『学習』。

 あるいは『成長』。

 または『適応』。

 本人にとっても、呼び方自体はその時の気分だが、取り分け『進化』と言う呼び名を気に入っている。


 『進化の衣(エボル・アーマー)』……常に貼られている魔力装甲が、相手の攻撃を学習し、記憶する事で、耐性を得ることが出来る。

 一度覚えた攻撃なら、ホワイトが視認した瞬間にこの装甲は最善の形に変化する。

 二度目以降の攻撃に対しては、無敵の防御力を誇る。


 銃で撃たれたなら銃を。

 剣で斬られたなら剣を。

 拳で殴られたなら拳を。

 体に害を成す薬品、異常をきたす様な寒さも。

 身を焦がす炎でさえも、学習し、成長し、適応する。


 それはまさに、生物の歩んできた″進化″を想起させる能力だった。

 死なない限りには、記憶した攻撃を完璧に捉え、完全に封殺する。

 『末恐ろしい』と言う言葉がよく似合う魔術である。


 そして、彼にはもう一つ武器がある。


 それが『反撃弾(リベンジ・ショット)』。

 進化の衣(エボル・アーマー)は内蔵的にダメージを蓄積する。

 その全てを小さな弾丸にして撃ち込む。

 弾丸自体にさした痛みは無い。

 しかし、その弾丸は触れた瞬間に、蓄積したダメージの全てを相手に体験させる。

 銃弾をしこたま撃ち込まれ、炎で身を焼かれたその全ての痛みを、風間の肉体に、痛覚に、同時に伝達させる。

 無論、魔術師だろうとこの瞬間的な痛みに耐える事は出来ない。

 いかに厚く密度の濃い魔力装甲を纏おうと意味を成さない。



 触れたら終わり。

 対象者は確実にショック死する。

 まさに、『必殺技』。



 動かなくなった風間を見下ろしながら、ホワイトは身を焼く炎を一部分ずつ除去していく。

 掌を密着させ空気を遮断、そして素早くスライド。

 これを繰り返し、繰り返し、流れ作業の様に炎を消していく。

 痛がる素ぶりも、叫び声も上げずに淡々と。

 初めから炎による痛みなど感じてはいなかったのだ。


「……いやぁ驚いた。宇都見の銃弾が襲ってくるとはね。恐らく、銃弾一発撃つだけの魔力を残して、それ以外の魔力を君に渡したんだろ? だから、魔力感知による位置特定が出来なかった。そして、君もさっきよりちょっぴり元気だった訳だ」


 辺りに沈黙が走る。

 聞こえてくるのは、パチパチと音を立てる炎だけ。

 散らばった灯油のせいで、炎が部屋中に少しずつ広がっていた。


「……なんて、もう聞こえてないか。にしても……」


 ホワイトは軽く咳き込む。


「息をしすぎた……少しリスキーだったかな……」


(風間は今度こそ死んだ。仮に生きていたとしても、このまま焼け死ぬか、窒息死する運命だ。今はとどめを刺すより脱出が先だ)


 勝負は決した。

 緻密に練った策も無駄に終わり、伊吹との約束も果たせず終い。

 宇都見の仕事は完遂出来ず、手伝うと言ったその言葉は反故になった。

 全ては終わってしまった。

 そんな敗北者を背に、勝者は扉を目指す。



 しかし、ここで違和感が一つ。



「……? 扉が閉まっている……」


 引き戸を勢いよく開けると、向こう側から机や椅子等を積み上げたバリケードが作られていた。

 状況から察するに、閉じ込める為のものだった。


(宇都見の奴がやったのか……? まぁこの程度、壊せばどうという事は無いけどね)



 刹那、二つ目の違和感。



「……!」


 背後に突き刺さる様な視線。

 普通なら感じ取れる筈が無い、第六感的反応。

 後ろから何かを感じる。


 『そんな筈は無い』、そう思いながらホワイトは振り返ると──




 現れたのは、死んだと思っていた男の拳。





「はっ……!!!」





 それを間一髪でかわし、ハイキックを胸に食らわせる。

 不意打ちとは言え、ホワイトは容易に対処出来た。

 しかし、安堵は出来なかった。


 むしろ、その異様な状況に戸惑い、混乱する。


「風間!? どう、なってる……!」


「かはっ! くぅぅ……いてぇな……へへ、へへへへへへ」


 不気味に笑いながら風間はその場で立ち上がった。


(なんなんだコイツは!? 俺は確かに反撃弾(リベンジ・ショット)を食らわせた! 痛みのショックに耐えきれずに死ぬ筈だ! この男、痛覚が麻痺してるのか!?)


「なんで起き上がれたと思う? まぁ、俺も知らねぇんだけどな……」


 風間は胸を強く抑えていた。

 それは今蹴りを食らった部分。

 つまり、反撃弾(リベンジ・ショット)の痛みよりも、そちらの方を気にかけていた。

 風間は最初から倒れたふりをしていたのだった。


「どうなってる……!? 訳が分からない……訳が分からないが……」


 ホワイトは地面を蹴った。


「早く死ね!!」


 再び襲いかかる。

 余力を残しているホワイトにとって、風間は赤子同然。

 恵まれた長い手足から繰り出される、ロングレンジの右ストレート。

 おまけに、魔力によって増強された身体能力。

 早く、硬く、強く、その拳は高純度の魔力を帯びていた。


 一方、風間は拳を構えなかった。

 何もせず、虎視眈々と攻撃の瞬間を待つ。

 力量の差に自信を持っているホワイトならば、自分から仕掛けてくると分かっていたから。


 故に、それは攻撃を受けた時にのみ発動する。


 風間はホワイトの腕が伸びたその一瞬、それを横から払いのけた。

 肩ごと下に押し出す様にして、体の軸をぶれさせる。

 そこで、よろけたホワイトは体勢を立て直そうと風間の方を向く。

 そして──



 三度(みたび)待っていたのはやはりこの拳。



 顔面を狙った拳、この攻撃は食らわない。

 食らった所で進化の衣(エボル・アーマー)がある限りにはダメージにならない。

 それは分かっていた。

 分かっていても、人は殴られる直前に目を開けたままでいるだろうか。


 否、開けない。

 開けられない。

 ホワイトは反射的に目を瞑ってしまう。



 ここからが風間の喧嘩戦法の一つ。



 殴ろうとしたのはフェイク。

 拳を寸前で止め、来る筈の攻撃が来ないと動揺した相手は再び目を開ける。

 狙いはその瞬間。

 構えていた拳を『じゃんけん』で言う所の『チョキ』に替える。


 そして、卑怯極まりない戦法、『目潰し』の炸裂である。


「ぐぅあぁぁ!! 目がぁぁぁ!! 目がぁぁぁ!!」


「はっはっは! バルス(滅びの呪文)は唱えてねぇぞ!! それとも、流石に目ん玉はもろいのかぁ!? ホワイトさんよぉ!!」


 その場で苦しそうに悶えるホワイトへの次なる追撃は、伝家の宝刀、スカイアッパー。

 ただし、今回は相手が特殊。

 ホワイトは既に『打撃』を()()している。

 悶えながらも、彼にはまだ心理的余裕があった。

 己が固有魔術による絶対的自信。

 進化の衣(エボル・アーマー)は全ての衝撃を吸収し、その身を守る絶対防御能力。


(眼球への攻撃は予想外だった……無敵だと思われていたこの能力に、落とし穴があった事も……! だが、追撃は叶わない! 攻撃した直後に、次の反撃で確実にトドメを刺してやる……!!)


 頭の中にイメージが浮かぶ。

 アッパーを食らわせたものの、いつもの様に吹っ飛ばず、動揺した所を、返しの一発で倒れる風間。

 そんな勝利のビジョンが脳裏に浮かんでいた。





 裏腹。





(……あれ?)



 浮かんでいたのは、勝利(そんなもの)では無く、自分の体だった。

 衝撃を吸収するどころか、易々と顎の骨が砕かれる。

 なけなしの魔力と、なけなしの気力。

 それ以上に込められていたのは怒りと反骨心。

 そんな拳が、ホワイトの体を宙に浮かせていた。


 一秒間空へ飛んだホワイトは背中から燃え盛る炎に再び手足を燃え上げる。

 しかし、着火した炎など意に介さず、その有り余る混乱を風間にぶつける。


「な、なんで!? なんで、なんで、なんで、なんで……どぉぉぉなってるんだぁぁぁあ!!!」


「銃は効かねぇ、炎も効かねぇ。拳はどうだ? って、そんな具合だったけどよ。効果テキメンだったな。んで、なんでそんなに焦ってんだ? なんか、予想外でしたって反応だな」


「俺の能力は無敵の筈なのにぃ……ど、どうして……」


 それは、ホワイトの想像を遥かに超えていた能力。

 反撃弾(リベンジ・ショット)も、進化の衣(エボル・アーマー)でさえも無効化出来てしまう未知なる能力。

 風間でさえ知らない、土壇場で目覚めていた新たな才覚。


「……どうしてだろうな。分かんねぇけどよ、段々と底が見えてきたな。ホワイト……!」


 魔術そのものを殺す、危険な才能の開花の瞬間であった。


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