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罪深き魔術師共  作者: ルカ
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50話 リベンジ・ショット

 木製の椅子、作業台、薬品に鉄製の器具、様々な匂いが入り混じり、辺りは独特の雰囲気を醸し出している。

 黒い作業台が四つ配置され、横には器具を洗浄する為の水道とシンクが備え付けられている。

 棚の中にはガスバーナー、顕微鏡、計量用の器具等、実験に欠かせない物がびっしりと並んでいる。


 風間が戦いの場に選んだのは化学実習室だった。


 本校舎から渡り廊下を挟んだ実習棟一階の一室。

 今、アンジェと伊吹がいるのが本校舎三階。

 魔術連盟一同はそこに向かっている。


 よって、この実習棟には誰も来ない。

 魔術連盟も、アンジェも、介入しない。

 ただ一人、魔力の反応を感知し、執拗に追った者だけが辿り着く最終ステージ。


 そして、その追跡者は扉を開いた。


 目線の先にいたのは、風間蓮斗一人だけ。

 腕を組み、テーブルに座っていた。

 『待ち侘びた』と言わんばかりに。


「君っぽい魔力反応を追って来たんだが、宇都見はどうしたんだい? 死にかけているのか、彼の魔力が見つからないけど」


「さあな。どっか逃げたんじゃねぇの?」


「知らない訳無いだろ。ま、いいけどね。アレに何もする力なんて残っちゃいない。君を念入りに殺して終わるとしよう」


 ホワイトは拳に魔力を込める。

 体を再生する際、大幅に使ったその余力で。


(俺の残りの魔力は僅かだ。宇都見のせいでかなり浪費してしまった。が、風間に比べれば雲泥の差だ。こいつの体を見たところ、ずっと傷だらけのままじゃないか。リオとの戦闘で、傷の治りが遅くなるほど疲弊したみたいだな)


 ホワイトの推察の通り、風間は回復が間に合わない程に疲労を抱え、魔力も尽きかけている。

 その上、風間は固有魔術を持っていない。

 よって、戦略の幅も大きく狭まる。

 出来る事など、たかが知れている。


 にも関わらず、怯むどころか自信満々な顔つきだった。

 そんな余裕が、ホワイトの警戒心を一層高める。


「なぁホワイトさんよぉ。アンタも素手で戦うのか? 殴り合いなら俺に分があるぜ。実際、リオにも勝てたしな」


「調子に乗らない方が良いよ。というか、君は意外とそういうゴリ押しタイプじゃないだろ。小賢しい策で戦うタイプだ。だから、実習棟(こんな所)におびき出したんだろ?」


「へぇ……アンタ、目利きが良いじゃねぇか。でも、それが分かってんなら、正々堂々やって来たのは悪手だぜ?」


 ホワイトは辺りを見回した。

 実験器具の数々、空いた窓、チョークの跡で汚れた黒板。

 その中で一際目についたのは、潰れる様に壊れている天井のスプリンクラー。


(壊れたスプリンクラー……ここで薬品か何かを使って炎上。その際に火の手を止めない為だろうか。ただ、それ以外は変わった所は未だ見当たらないな……)


「……何か考えがあるみたいだね。火を点けて俺の体ごと燃やす。とか、そんな感じかな?」


「ふっ、どうだかな……」


 いかにも企んでいる顔をする風間。

 当然()()を仕込んでいる。

 それは分かっているし、何をするのかは予想がついている。

 それだけに、風間の真意までは読み取れなかった。


(臭うぞ。ガソリン……いや、灯油か。床にも所々水滴の跡があるが、どこにかけた? それともこれから俺に浴びせるのか? どうやって?)


 それ故に近づけず立ち止まる。

 わざわざ見える所で待ち構えていたのもきな臭い。

 そう思い、ホワイトは風間から目を離さず、一挙手一投足を凝視する。



「さぁさぁさぁ!! 楽しもうぜクソ野郎!!」



 風間が大声を発すると共に、ホワイトの目に微かに魔力が映る。

 視界の隅から一直線、魔力を帯びた()()が向かってくる。

 方向は窓の向こうから。

 その先、銃を構えた男と目が合う。


(窓の外! 宇都見か! しかし何故気づかなかった!? アイツは自分の魔力を隠せる程芸達者じゃないだろう!?)


「いや! 今はそれよりも!!」


 銃弾は空いた窓から教室に侵入。

 そのタイミングで風間も動く。

 後ろに隠す様に持っていた、丸いフラスコを携えながら。


 フラスコの中にはたんまり溜まった液体。

 その色、その匂い、入っているのはやはり灯油。

 そして、それをホワイト目がけて渾身のストレート。


(やはり何か用意していたか、風間め。銃弾は今はどうでもいい。どうせあの位置からでは部屋の中が見えず、俺に銃弾を当てる事なんて出来ない。逆に、あれはこのフラスコを当てる為のブラフだ!)


 そこでホワイトは、右方向へ軽々かわす。

 顔の横を灯油の入ったフラスコが掠めていく。



 その途中。

 ホワイトの視界から外れていた銃弾が現れる。

 照準に合わせていたのは元よりホワイトではない。

 投げたフラスコだった。



「何っ!?」


 割れた破片が突き刺さり、上半身全体に灯油が降りかかる。


「くっ……何故だ……! この死角では銃弾の操作は出来ない筈だ!」


「だーっはっはっは!! 甘ぇんだよ! 魔力さえ見えてれば操作くらい出来るっつーの!! 俺はフラスコに少しばかり魔力を帯びさせといたんだ。宇都見はそれを目印に撃ったってワケよ! そして、こっからがパーティタイムだ……!」


 風間はポケットから取り出したマッチ箱から棒を取り出し、素早く火を点ける。


(馬鹿め……灯油はそう簡単には燃えないと聞いた事がある。ガソリンとは訳が違うとな)


 灯油とガソリンの違いは引火点。

 ガソリンがマイナス四十度に対し、灯油は四十度。

 つまり、猛暑日に外気に晒された灯油ならば、マッチ棒一本で簡単に火は点くが、今の室温は至って常温。

 風間がこのマッチ棒をホワイトに投げた所で、灯油に火は点かない。


 そう、灯油が常温であるなら。


(つまり俺の体は燃えない。勉強不足だったな風間。もう近づくのに躊躇はいらない!!)


 ホワイトはタガが外れたかの様に、魔力剥き出しで風間に襲いかかる。


「ふふふ……!! やってみろ風間ぁ!!」


 恵まれた体格、体の疲労、明らかな魔力量の違い。

 どれを取っても風間に勝ち目など無い。

 殴り合いに長けているとしても、この差を埋める事など不可能。

 このまま接近戦に持ち込まれれば、風間の敗北は決定する。



「引火点四十度……まだ分からねぇか? それとも、体の周りに魔力装甲纏ってるもんで、温度の違いに気づかなかったのかよ」


「何……?」



 風間はマッチを投げる。

 すると、ホワイトの思惑とは裏腹に、真っ赤に燃え上がる。



「ぐ、おおおおぉぉぉぉ!!!!」


「灯油の液温が高ければ火は点くんだぜ!? てめぇが来る前にバーナーで熱湯レベルに炙っといたのさ!! 燃えろクソ野郎!!」


(野郎は何故か銃弾が効かなかった。だったら超高温で料理してやる。魔力で体覆ってても、ここまで熱けりゃ焼け死ぬだろ……!!)


 体にかかった灯油が瞬く間に炎を広げていく。

 やがて炎は体全体へと行き渡り、ホワイトは成す術なくその場で立ったまま動けなくなる。

 風間の方へ、ただ懇願する様に手を伸ばすだけしか出来ない。


「か、ぁぁああ!! あ、熱い……!!!」


 皮膚が焼かれると言う想像を絶する痛み。

 人間が耐えられるものでは無かった。


「う、おお、おおお……」


「……」


 それは、思っていたよりもずっとショッキングな光景だった。


 この男は罪深い。

 自分の手は汚さずに、残酷な命令を協力者達に仰いだ。

 伊吹を狙い、守ろうとする風間を狙い、罪の無い人達を危険に晒し、挙句の果てにヒトミの命は奪われた。

 死後の世界があるならば、地獄行きでも文句は言えない。

 風間はそう思っていても、『死んでしまえ』と素直に思えなかった。


 よく分からない、謎の憐れみと同情が心を押さえつけていた。


「畜生……なんで、こんな奴に……こんな気分になんだよ…………」






 しかし、そんな感情はあまりに生ぬるかった。






 炎で燃え盛りながらも伸ばした手に、魔力が凝縮している事を風間は知らない。

 この煉獄の様な業火すらも、ホワイトにとってはただの茶番だと言う事を風間は知らない。


 ただ、知っていた所で風間にはどうする事も出来なかった。




「……このくらいでいいかな」


「え?」



 炎で焼かれながら、その男ははっきりとそう言った。

 さっきまで痛みに耐えかねて、うめき声を上げていた声とは全く別物。

 それまでが全て演技だった様。


 伸ばした手の指先二本、右手の人差し指と中指に凝縮された魔力。

 それが可視化出来る程に、より濃く、より強くなった瞬間、呆けていた風間に射出される。


 それは、せいぜいビー玉くらいの大きさ。

 子供のキャッチボール程度の緩い速度で、白い雷をバチバチと纏いながら、ゆっくりと風間の胸に着弾する。




反撃弾(リベンジ・ショット)




 あまりに自然、あまりに無意識。

 いつの間にか撃ち出され、いつの間にか風間は触れてしまった。



 その瞬間に悟った。

 自分が相対している相手は、人間扱いしてはならない程の怪物であると。

 一時でも気を緩めたり、慢心してはならない。

 同情なんてものは、以て(もって)(ほか)だった。

 


 そして、数秒。

 破裂した魔力の塊が全身に激痛を走らせる。

 遅効性の、絶殺の技が炸裂したのだった。


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