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罪深き魔術師共  作者: ルカ
49/60

49話 共闘関係

 本校舎屋上、風間とホワイトは対峙する。

 それは異常な状況であった。

 何せ、宇都見の銃撃で蜂の巣になった筈のホワイトが生きていて、目の前で薄ら笑いを浮かべている。

 何らかの能力で再生したと言うのは分かる。

 しかし、明らかに致死量の血を流しても死んでいないと言うのは、生物の範疇を越えている。


 風間は動揺していた。

 宇都見は倒れ、自身も激しい戦闘の直後。

 能力の詳細は分からず、おまけに『アンジェ・ルーガー』がこの後やってくる。


 そんな危機的状況で、風間は冷静を装い質問を投げかける。


「お、お前、なんでこんな事したんだ? 学校の連中は関係ねぇ筈だ」


「リオが言ってなかったかな? 人質取った方が確実だって話さ。現に……」


 ホワイトは柵に縛りつけられたリオを見る。


「ね? こうなるとも限らない。それに、油断していてこんな傷を負った……もう塞がってるけどね。いやはや、ここまで恥をかいたのは初めてだよ」


「……なんで俺達を襲うんだよ。俺らが何したってんだ」


「元々の目的は伊吹涼香だったんだ。彼女の遺物はかなり特別な物だ。それはそれは強大な力となる。だから『魔術連盟』には渡したく無かったし……それにちょっと事情が変わった」


「あぁ? 事情、だと……?」


「……彼女には敢えて魔術師として目覚めてもらう」


「てめぇ……!」


「宇都見集や明野楓に襲わせたのはそういう理由さ。命の危機こそが覚醒を促す。とは言え、そのどれもが君に邪魔されてしまった訳だけど……ね」


 ホワイトは侮蔑の眼差しを向ける。


「……君だ。君だけがいらない。固有魔術も使えない魔術師なんて存在価値が無いじゃないか。俺の″人生″に、君はただの邪魔なんだよ」


(こいつ……なんだって伊吹を魔術師に……? いや、今はそれよりこの状況なんとかしねぇと……傷だらけの俺と、血だらけなのに何故か無傷のこいつ。分が悪い。おまけにこいつの能力も分からねぇ……!)


 とは言ったものの、逃げる選択など取れなかった。

 自分一人だけなら逃げ果せる事も可能だろうが、すぐそこで気絶している宇都見を見捨てる選択肢など、ハナから存在しなかった。


「さぁどうした風間。喧嘩は君の専売特許だろ? そうやってメンチ切ってるだけじゃ、喧嘩とは言わないんじゃないか?」


 しかし、次第に状況は悪くなる。

 ホワイトは一歩、また一歩と距離を詰める。

 今から味方が助けに来るなんて、ドラマティックな展開は用意されてはいない。

 かと言って、ここで立ち向かった所で頭に浮かぶ二文字は″秒殺″。

 魔力はもう限界。

 勝つどころか、一分と保たないだろう。


 連戦続きの疲労で、思考力も判断力も鈍っていた。

 何も出来ず、蛇に睨まれた蛙の様に、ただ相手の動きに合わせて一歩ずつ後退るだけ。


 たったそれだけ。




 その時、視界の隅で眩い光が高速移動する。

 遠くからやってきた光の軌跡が、学校本校舎に突き刺さる。

 アンジェ襲来の合図である。





「アンジェ……! やっと来てくれた様だ。これで、魔術連盟が来ようが怖くなくなったぞ!」


 ホワイトにとっては、まさに助っ人到着と言った所。

 逆に、風間にとっては泣きっ面を刺す蜂だった。


 絶望の到来、完全に生き残る道は閉ざされた。

 風間は気づいていなかったにせよ、魔術連盟と言う最後のカードは使えなくなった。

 故に、本当に助けが来る可能性は今断たれた。


「どうする風間? もう流石に詰み……」



 だが、風間は絶望するより先に体が動いていた。



 魔術連盟でも、アンジェでも良い。

 この拮抗した状態を、たったの数秒だけ壊してくれる存在を待っていた。

 何故なら、元より助け(そんなもの)に期待はしていなかったからだ。


 光が差した校舎三階。

 そちらに気を取られ、ホワイトは少し身を乗り出す様に下を向いていた。

 そのコンマ数秒の隙が、このピンチから抜け出す鍵となった。


 そう、既に風間は走り出していた。


(風間……!? 少し目を逸らした隙に……!!)


 走り込んだ先にいたのは気絶した宇都見。

 勢いは殺さず、そのまま体ごと抱きかかえる。


「そんなお荷物抱えて逃げられると思ってるのか!?」


「けっ! てめぇごときから逃げるのなんてワケねぇさ!」


 風間は宇都見を脇に抱えたまま屋上から飛び降りる。

 その高さ、約十メートル。

 普通の人間なら、何かしらの怪我を負うのは必然。

 しかし、風間にはまだ、無事に着地出来る程の魔力は残っていた。


「まだ足掻くか……!!」


 ホワイトは風間の落下地点へ身を乗り出すが、既に下にはいない。

 あるのは散らばったガラス片。

 身を潜める為、風間は着地と同時に本校舎一階の窓ガラスに飛び込んだのだった。


「この高さから飛び降りる程の魔力は残っていたみたいだな……まぁいい。アンジェは到着した。伊吹涼香も魔術連盟諸共くたばる。俺はゆっくり風間を追って、始末するとしよう」


 逃げられたものの、ホワイトにはまだ余裕があった。

 それは、アンジェと言う絶対的な戦力の到着よりも、その圧倒的な能力に自信があったのだった。


 能力を持たない風間蓮斗を、殺せる自信しか無かった。



※ ※ ※ ※ ※



 本校舎一階。

 魔力で見透かされる以上、位置はバレているが、ホワイトはすぐには追っては来なかった。

 魔術連盟と合流される危険性や、リオの救出を優先させていたりと、理由はいくつか考えられるが、なんにせよ風間は逃走に成功したのだった。


「マジに撒けたみたいだな……お?」


 遠くからバタバタと数人の駆ける音が鳴り響く。

 辺りに人影は無かったが、それが誰なのかはすぐに分かった。

 結界が再展開されて、未だにここに居られるのは魔術師のみ。

 それはつまり、魔術連盟が到着している事を伝えていた。


「……この足音、さっきちょこちょこ言ってた『魔術連盟』って奴等か? だったら後は合流すりゃ……」


「待て……!」


 その瞬間、グッと風間の腕が引かれる。


「宇都見……!?」


 屋上から飛び降りた時の衝撃で、宇都見の意識は既に回復していた。

 しかし、感謝している雰囲気など、一ミリも感じられなかった。

 むしろ、その顔は逆に怒りに燃えていた。


「何を……勝手な事を言ってやがる……!! 風間、てめぇ……!」


「は、はぁ!? 逃がしてやってその言い草かよ! 置いてけぼりにしてたら死んでただろ!!」


「それの事じゃねぇ! ホワイトは俺がぶっ殺すんだ……!! 連盟の力は借りねぇ!! そういう()()なんだ……手を借りたら、意味が無いんだ……!」


 宇都見は噛み締める様に憤る。

 しかし体はボロボロ。

 体を起こそうとした瞬間、その場で膝をつく。


「お、おい! 契約ってなんだよ!? ワケ分かんねぇ事言ってんじゃねぇ! 大体、アイツの能力見ただろ!? 一人で対処出来るもんじゃねぇ……お前の銃だって効かなかったじゃねぇか!」


「ビビってんのかよ、情けねぇ……俺は一人でも行く。今回も失敗したら……俺は今度こそ……!!」


「だから、ワケが分かんねぇって言ってんだ!! 今は共闘関係だろ! そんくらい話せよ!!」


 今度は風間が宇都見の胸ぐらに掴みかかる。

 真っ直ぐな瞳に、宇都見はバツが悪そうに目を逸らした。


「……魔術連盟って奴は、仲良しこよしの組織じゃねぇ。互いが互いを利用し合っているビジネスな集団だ。俺はある条件を提示した代わりに、組織への奉仕を約束した。今回の仕事は『ホワイトの暗殺』。仲間になったふりをしてぶっ殺そうと思ってたが、失敗に終わった」


「……じゃあ助けに来たアイツらはなんなんだよ。ビジネスの関係じゃ無かったのか?」


「俺が緊急要請した。伝えてあるのはアンジェの事だけだ。そこは俺の管轄じゃない。だから呼んだんだ。だから……! 俺はホワイトの奴を殺さなきゃならねぇんだ!! これは俺の仕事だ!!!」


 いつになく必死な形相だった。

 ただ、宇都見は単純にその失敗を恐れているだけで無く、他の理由がある様にも見えた。


(条件の提示……宇都見が連盟に頼んだ条件って奴が、ここまでこいつを必死にさせてるのか……)


「どけ! 俺はホワイトを倒す。今度こそ仕留めてやる……!!」


 宇都見は膝を引きずりながら、風間に背を向ける。

 だが、それが無駄なんて事は宇都見本人にも分かっていた。

 勝ち目なんて無いに等しい。

 それが天文学的数字でも、可能性があるならやる。

 宇都見はそういう男だった。




 そして、それは風間(この男)も同じ。




「……ちょっと待てよ」



「あ……? 腰抜けがなんか用かよ」


「けっ、腰抜けどころか、ろくに歩けてねぇのはてめぇの方だろ。ホワイトの奴を倒すんだろ? お前にゃ無理だ。そんな死体みたいな体で何が出来んだよ」


「……残念ながら、喧嘩を買ってる余裕なんて無いんでな」


「そうじゃねぇ。お前のその″仕事″、俺にやらせろ」


 風間はニヤリと不敵に微笑む。


「お前……何する気だ」


「別にお前の為なんかじゃねぇぞ。元々喧嘩ふっかけて来たのはホワイトの野郎だからな。ムカつく奴はぶっ潰す、それが俺の流儀ってだけさ」


 そして、そっと手を伸ばした。


「あ……?」


「ただ、俺一人じゃちと骨が折れる。だからこその共闘だろ。それに、仕事をこなさなくちゃならない理由があんだろ?」


 怪訝そうな宇都見とは裏腹に、風間は珍しく清々しい顔つきだった。

 そんな顔を見て、宇都見は以前の事を思い出していた。

 あの時、自分に立ち向かって来た風間達の事を。

 魔術の事なんて、感覚でしか知らないにも関わらず、それでも諦めなかったこの男の過去を。



 だから、信じれる気がした。



「救えねぇな……お前も、俺も……」



 そう思うと、無意識に手を取っていた。

 友達でもなんでもない、その男の手を。


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