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罪深き魔術師共  作者: ルカ
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48話 光の戦乙女 2

 武蔵新山高等学校……その周囲、半径一キロメートル程の巨大なドーム状の円が学校の敷地ごと包んでいる。

 しかし、一般人からすれば円など見えず、なんの変哲も無いただの校舎だけが見える。

 何故ならこれは秘匿結界、通りがかる人々は全く目もくれない。


 そして、その手前に黒いスーツの少女がたたずんでいた。

 校舎をまじまじと見つめながら、おもむろにスマートフォンを耳にかざす。


「到着……先程、結界の再展開を確認しました。意図は不明。今の所、人影は見えません。こちらの突入準備は出来ています」


 その少女は淡々と電話口の相手に報告を済ませる。


『……君は正面口だったね? 他のメンバーも準備完了だそうだ。こっちも周囲に人の姿は見当たらない。一般人が巻き込まれるって言う最悪のケースは避けられたみたいだ』


 少年の様な若い声は、安堵の溜め息をつく。


「……まだ安心は出来ません。結界内じゃ電波は通じませんから、未だに連絡も来ませんし。早々に取り掛かった方が良さそうですね」


『僕もそう思う。それじゃ早速作戦開始だ。校舎外の捜索はこっちでやるから、君はすぐに校舎内へ。頼んだよ』


「……了解」


 電話を切り、少女は校舎を見上げる。


「宇都見君……私達、魔術連盟に借りを作ってしまうなんて、罪ですね……」


 それは他人事の様で、無感情で無機質な呟きだった。

 立ち振る舞いは完全に仕事人。

 機械の様、躊躇う事無く結界内へと足を踏み入れる。


 報告の通り、やはり人は見当たらない。

 校舎への目立った損傷も無く、未だに異常は見られない。

 誰かが戦闘している様な大きな音も聞こえず、辺りは平静を貫いていた。


(急に応援要請された時は何事かと思いましたが、あまり大した騒ぎじゃ……)





 一閃。





「ん……?」



 一筋の光が彼方から現れ、本校舎三階の窓ガラスに入って行った。

 あまりに一瞬だったが、その光の線が魔力を帯びていた事を少女は感知した。

 明らかに外部からの侵入者であり、確実に特異な能力を持った魔術師。



「……あまり、のんびりしている暇は無さそうですね」



 それは、更なる異常事態(イレギュラー)を意味する。



※ ※ ※ ※ ※



 そして、当の本校舎三階。


 結界の再展開、魔術連盟の介入、そんな状況の変化は露知らず、伊吹は七瀬の止血作業に注力していた。


「……さっきダッシュで保健室から持ってきた包帯と……この治癒紙で……だ、大丈夫、な筈……」


「凄いね、りょーちゃん……手慣れてるね。で、でも、本当にこれだけでいいの? 凄い血ぃ出てたけど……」


「うぅ……分かんない。なんかこの紙凄い力があるっぽくて……傷が治れば大丈夫、なのかな……?」


 七瀬は下着姿の上から、肩の所を包帯でグルグルにされていた。

 治癒紙を噛ませる様に巻いた為、傷は徐々に塞がり、血は止まっている。

 だがしかし、あくまでこの魔道具は治癒力を促進させるのであって、失った血液はどうにもならない。


 つまり、未だに七瀬は生死の狭間を彷徨っている。


「こういう時どうしたらいいのか……ググれば一発なんだけど、なんかネット繋がんないし……どど、どうしよう、りょーちゃん……!」


(……血は止めたけど、絶対このままじゃ駄目な気がする。アタシじゃ応急処置した所でこっからどうすればいいか分かんないし……ここはやっぱり……)


「うん、やっぱそれしか無い。このままもたついててもダメだ!」


「りょーちゃん……?」


 勢い良く立った伊吹を、未だ不安そうな顔で黒木は見つめる。


「アタシ、ちょっと風間探してくる! 怖いかもしんないけどさ、ちょっとここでアサヒの様子見ててくれる?」


 自分だけでは七瀬を救う事は出来ない。

 それを分かっているからこその行動だった。

 風間は過去に何回か自分の傷の処置をしてくれた事がある。

 だから、きっと風間ならなんとかしてくれる。

 そう思っての行動だった。


(そう。きっと、アイツなら……)




 しかし、これから起こる異常事態(イレギュラー)は、人探しなど悠長な事はさせてはくれない。




「……?」




 それは突如として現れる。

 前触れは、朝起きて浴びる太陽光の様な、目を伏せる輝き。

 そして、目を開けて見れば、目を覆いたくなる様な絶望。




「……魔力を辿って、お前に辿り着いた。つまり、お前は力に目覚めた。そういう事か? 伊吹涼香……」




 光の中より出でし戦乙女は、まるで天使の様だった。

 鋭い目つき、宝石の様な碧眼。

 クールに決まった黒のスーツ、タイトスカート、それを引き立てる美しいベージュのセミロング。

 そして、何より異質なのは、その姿はどこか伊吹に似ていた。

 ただ、親近感を覚えるより先に察知したのは、本能的な拒絶。



 アンジェ・ルーガーは、戦ってはならない正真正銘の怪物だ。



(え? 今? どうやって? 光からいきなり現れた? てか、どうしよ。まだ後ろにヨルカが……)


「前言撤回!! ヨルカ!! アサヒ連れて逃げて!!!」


「っ……!」


 黒木もその明らかな伊吹の焦り様に察したのか、返事より先に七瀬を抱えて動いていた。


「ああ、そうだな。そうしてもらえると助かる。巻き込まれたら死ぬだろうからな」


 それは天使と呼ぶにはあまりに冷たい目だった。

 全身から悪寒が止まらない程の凍てつく視線。


(これ……魔力って奴? なんかモヤモヤとしたオーラみたいな奴……鹿島の比じゃない。多分、こいつは、さっきの奴とは次元が違う……!)


「おい、伊吹涼香」


「え、え……?」


「私は()()()()にお前を殺せと命じられた。ただ、それはかなり変わった命令(オーダー)でな。『アンジェ()伊吹涼香(お前)を殺す』、そんな内容だった。私は聞き返しはしなかったが、その意味が今も気になっている」


「は……?」


「ただ殺すだけなら誰でも構わないだろ? あのホワイトとか言う連中に始末させれば事足りる。なのに、組みたくも無い奴等とわざわざ手を組んで、お前と私が殺し合えるシチュエーションをわざわざ作った。あの命令があったからだ」


「そ、それが、何……」


 あまりの緊張感に、何を言われているのかもよく分かっていなかった。

 目の前の化け物は、今から殺し合う様な雰囲気を感じさせず、質問を投げかけた。


「私は理由が知りたい。こうなった意味をお前は知っているか? お前は私と何か関係があるのか?」


「そんなの、知るワケ無いじゃん……!!」


「そうか。殺した後に聞けば、あの人は答えてくれるだろうか……? 否、むしろ……」


 アンジェの体から、超高密度の魔力が溢れ出す。

 それと同時に、伊吹は全身の毛が逆立つ様な感覚に襲われる。


「殺せば、自ずと分かるのか……今、確かめる」


 伊吹は、恐怖の中に微かにある闘志を強引に引っ張り出す。

 その僅かな闘志は魔力となって、構えたナイフに流れ出す。


「せっかく生き残ったんだ……殺されてたまるか……殺されてたまるか……殺されてたまるか……!!!」


 勝利の美酒に酔う時間はあまりに短かった。

 自分に言い聞かせる様に言葉を唱え、震えた剣先をアンジェに向ける。


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