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罪深き魔術師共  作者: ルカ
47/60

47話 光の戦乙女 1

 時は少しさかのぼる。


 学校襲撃より数十分前、この後何が起こるのか知る由も無い彼らの場所へ、ヒトミは一人赴こうとしていた。

 あの電波ジャックには何か意味がある。

 そう思えてならなかった。

 居ても立ってもいられず、雑居ビル一階に構えた研究室を抜け出す。


(嫌な予感がする……ボクの悪い想像のまま終わればいいが、大事を取って確かめに行こう。何かあってからじゃ遅い)


 結果的に言えばその予感は的中していた。

 この後、想定外の攻撃を風間達は受ける事になる。

 その予想は的中している。


 が、自分の身に降りかかる″予感″は、感じ取れずにいた。


「……!」


 故に、ヒトミは立ち止まってしまう。


(待て……警戒してシャドウを合計九人、学校に送り込んだ。ボクの周りにはたった一人……常に奇襲を警戒して辺りを監視している。この状況、何か、何か……)


 言い様の無い危機感があった。

 この状況、誘導された様な奇妙な感覚。


「ノイン! 出て来い!!」


 ヒトミは周囲を警戒するたった一人のシャドウに号令をかける。

 しかし、いつもならすぐに出てくる筈なのに出て来ない。

 ここらは人通りも少ない住宅地。

 声が聞こえない、姿が見えない、なんて事はありえない。


 つまりは……



「もう、遅かったか……そして、もし()()が来ているなら……」



 想定より早く、それはもう最悪に、時既に遅し。



「……遅かったぞ。御影ヒトミ」



 背中にそっと左手を押し当てられる。

 ゾワリと、ただ触れただけでは感じない、焦燥と恐怖。

 ヒトミは分かっていた。

 この敵の正体、そして、もう″詰み″であると。


「……君がアンジェか。シャドウをどうした?」


「あの黒い人もどきか? アレすぐに消し去った。邪魔されては困るからな。学校へ大人数向かわせたのは愚策だったな。そういう風に仕向けたのはこちらだが」


 ヒトミは全く冷静さを失わなかった。

 それどころか、そのまま質問を続ける。


「どうして、ボクを殺す?」


「契約内容がお前の殺害だった。理由など知らん。が、お前の能力は有名過ぎたんじゃないか? そうだろう、ハザード級……」


「危険視された結果、君が殺しに来たのか。全く……嬉しくない買い被りだ」


「……逆にお前は私を舐めていたな。お前、()()()()()()()()()()()んだろう?」


「……」


 一筋の冷や汗がヒトミの額を伝う。


「お前が探っているのは、シャドウとやらの気配で気づいていたさ。強襲作戦も予想出来ていた。その上で、お前の仲間にこの私の存在を知る者もいた筈だ」


「宇都見君の事か……」


「ああそうだ。そこでこう思ったよ。アンジェ()を知っていて反対しない筈が無い、とね。だから、こうも思った。もしや、話していないのでは無いか、とな」


 宇都見を協力関係に持ち込むには黙るしか無かった。

 しかし、実際目の前にしてしまえば、宇都見は協力を止めてしまうかもしれない。

 それ程までに『アンジェ・ルーガー』と言う名前は魔術師界では有名で、恐れられていた。

 だから、アンジェが敵の一員である事をヒトミは黙っていた。


 では結果的にどうする予定だったのか?

 ヒトミはアンジェを秘密裏に排除し、そもそも敵対していた事実すら伝える気が無かった。


 そもそも、恐れられているとは言え、実際には噂に尾ひれが付いているだけのケースもある。

 だから、ヒトミは作戦開始の前日にアンジェを始末する予定だったのだ。

 自分一人で始末出来ると、そう考えていた。


「……君の言う通りさ。宇都見君をせっかく味方に引き込めたんだ。邪魔な要素は排除するつもりだった……ボクならそれが可能な筈だった……」


「しかし結果はこうだ。もしお前が私に奇襲出来たとしても、あまり結末は変わらなかった様に思えるがな……」


「言ってくれる……!! このまま終わってたまるか……!!」


 最後の抵抗か、ヒトミは魔力を解放する。

 が、アンジェは落ち着いた様子で、押し当てた左手を更に軽く押す。



「興が冷めた」



 アンジェの左手から()が放出される。

 その光は、まるで針の様に鋭く、槍の様に長い。




 そして、いとも容易くヒトミの胸を貫く。




「がはっ……あぁ…………」



 一瞬だった。

 光が現れるのも、消えるのも、その命が狩られてしまうのも。


 大きな質量化した光が、ポッカリと大きな穴を空けた。

 バスケットボールくらいなら入ってしまいそうな大きな穴が、人の体に空いているのだ。


 大量の血を、その穴と口から垂れ流しながら、ヒトミは絶命した。

 あまりにも簡単に。

 あまりにも光速に。


 抜け殻となった人体からは言葉にならない言葉が漏れていた。

 誰が聞き取れる訳も無く、その遺言なのか恨み言なのか分からない言葉は、冷たいコンクリートに消えていく。

 

「もっと反撃を期待したのだが……まぁ、無理だろうな。私が接近した時点で、こいつの死は確定した。どう足掻こうが、光の速度を持つ私の攻撃は、防御不可能だ」


 それは、『魔術』と呼ぶにはあまりに面白みに欠ける速さだった。

 何せ、誰が見た所で、何が起こっているのかは分からない。

 ファンタジーも、熱いバトルも起こり得ない。

 目視すら不可能な速度だった。

 当の本人すら、『つまらない』と、溜め息を漏らす。


「……っと、そういえば時間が少し空いてしまったな」


 アンジェはヒトミが出てきたであろう、雑居ビルの扉に目をやる。


「そもそも、御影ヒトミとはなんだったのか? 何故、ハザード級とも評される魔術を持ちながら、あんなクソの役にも立たない連中に協力していたのか? 少し調べる必要がありほうだ……殺すのは早計だったか」


 もう動かない死体を見下ろしながら、アンジェはそのドアに手をかける。

 冷徹に、冷酷に、何より残酷に、その場には血塗れの少女だけが残った。



※ ※ ※ ※ ※



 ヒトミの研究室内。

 真っ白な部屋の中には、ヒトミの生きた歴史が置き去りにされていた。

 薬品棚にベッド、整理された本棚や、その中にある重要そうなファイル。

 パソコンの画面が表示されたモニター。

 そのデスクの上、折りたたみ式の黒い財布。

 情報を期待して中を開くが、結局出るのは彼女の溜め息だけだった。


「財布はあった……だが金が入っているだけ。免許証だとか、保険証だとか、普通なら入ってる筈の物が無い。ここまで来ると、意図して情報を見せまいとしているな。まさか、戸籍が無い……なんて事は無いよな……?」


 そして、最後に目をつけたのはキチッと揃えられたファイル群。


「……固有魔術、記録その一。なんだこれは……?」


 そう、ファイルの表紙には書かれていた。


 一つ一つファイリングされたページには、かつて存在した魔術の記録がなされていた。

 まるでそれは、実物を見知っているかの様な事細かな説明と描写、文章だった。


「これは……過去に存在した魔術のデータ? 単独でこれをやったのか? 恐らく、このパソコンは調べる為と言うよりは、記録用と言った所か……」


 ページをペラペラとめくっていくと、ある付箋の付いたページに目がつく。

 書かれている内容は、『加速の魔術』について。

 その中には、能力の詳細は勿論、対応する遺物の写真まで載っていた。


「あの女、遺物の事まで把握していたのか。ん、これは……?」


 その写真を見て、アンジェの手が止まる。

 写っていたのは花の形のブローチ。

 伊吹の持つブローチである。


「……ある程度情報は聞いていたが、なるほど。伊吹涼香が今覚醒間近にある能力は『加速』だったのか……もしかすると、御影ヒトミはこの能力欲しさに伊吹涼香を手引きしたのかもな……いや、まだ分からん。分からんが……」


 アンジェは『加速』について書かれたページだけを破る。


「この力については……誰にも渡したくない情報だ。預かっていくぞ」


 そして、アンジェは乱雑にファイルを投げ捨てた。


「加速の魔術師は噂で聞いた事がある。かつてその速さのあまり、暴走した挙げ句に死んだ魔術師がいたと……さて、どんなものか試してやる」



 そう言い放った瞬間、真っ白な部屋は光に包まれる。



 投げ捨てられたファイルが地面に落ちた時、そこには誰もいなかった。

 唯一、残っていたのは光の軌跡。

 その軌跡は、学校の方角を指し示す。


 死を運ぶ天使の、次なる目的地だ。


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