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罪深き魔術師共  作者: ルカ
44/60

44話 擬装の魔術師

 公舎屋上、未だに結界は再展開出来ず、既に二十分以上経過していた。

 どうにもやり方が分からない。

 押しても駄目。

 引いても駄目。

 色々試すも全部駄目。

 焦れば焦る程に、迷走していく。


 そして、風間が次に試すのは……


「なんかなれ! なんかなれぇ!」


 上下左右への高速シェイク。

 当然ながら無駄である。

 側から見ればかなり滑稽な様である。


「ああ……どうすりゃいいんだコレ。こんな下らねぇ事が原因で、この間に他の連中が殺されちまったら……」


 そんな嫌な想像が膨らんでしまう。

 焦りは募り、精神的にも疲れてくる。

 襲撃から既に一時間。

 元々は肉体的ダメージの方が酷かったが、心身共に限界が近い。


「クッソ! 変な事考えんな! でも、こんなんどうすりゃいいんだ……」


 心の奥底では既に諦めムード。

 情けない事に、もう自分の脳みそでは解決出来ないと確信していた。


「くっ……悔しいが、アイツがいなきゃどうにもなんねぇ!」


 とどのつまり、それが恥であっても願わざるを得なかった。

 そう、()()()の登場を。



 そして、その扉の開く音はまさに希望だった。



「はっ! まさかっ!!!」



「おうおう、しょうがない奴だな。カザマ君よぉ」



 例の男、登場である。

 タイミングとしても百点。

 後光が差す様な幻覚さえ見える。



「宇都見!! リオの野郎は倒したのか!?」


「まぁな。俺があんな奴に負けるワケねーさ……とと、そんな事よりも、お急ぎみたいだな」


「そ、そうだった! 俺、どうやってこの装置をいじんのか聞いて無かったぜ」


「……おっと、俺も言って無かったな。でも、俺が来たからには安心しな。使い方はこの俺が教えてやる」


「へへ、わりぃな。頼むぜ……」


 宇都見は風間の方へと歩み寄る。

 その途中、ある事に気がついた。

 右手に付いた血に。


「ちょ……っと、待てよ。その傷、リオの奴にやられたのか? 結構深いんじゃねぇか?」


 よく見れば、未だに血が止まっていない。

 学ランの袖口の下、穴の様な傷痕から流れ出ていた。

 見られた瞬間、咄嗟に宇都見は傷を背中の方に隠した。


「……さっき食らったばっかなんだ。だから、もうすぐ血は止まるさ。そんな事より、ほら。その『結界装置』を持てよ。早く結界を、再展開するんだ」


 催促する様に宇都見は手を伸ばす。

 そこでまた風間は止まる。


「……そういえば、どうやって屋上にこの装置があるって分かったんだ?」


「あぁ? そりゃ、あれだよ……敵に聞いたのさ。さっきからなんだぁ? 急いでたのはお前だろうがよ」


 宇都見はその質問責めに怪訝そうな顔を見せる。


「……そうだな。今は急がなきゃな。でもその前に、もう一つだけいいか?」


「……なんだよ」


「別に大した事じゃねぇ。ただ、一瞬だけ目を瞑って欲しいんだ。何、深い意味は無い。でも、すぐに分かるさ」


「……?」


 宇都見はその言葉を不審に思いながらも、目を瞑る。


「これでいいのか……?」


「ああ。もう少し歯ぁ食いしばった方がいいぜ」



 風間は二歩、三歩と後ろに下がり、助走を始める。

 大きく右腕を振りかぶり、その拳にはありったけの魔力。


 拳は完全に、宇都見の顔面を捉える。



「は……!?」



 鈍い音と共に、鼻っ柱から血を吹き出しながら後ろに吹っ飛ぶ。

 苦悶と驚きの表情を浮かべながら。


「うげぇぇぇ!! クソクソクソ!!! やりやがった! やりやがったぁぁぁ!!!!」


 血走った目でこちらを見る宇都見。

 その周り、体を覆う様に煙が舞う。

 否、それは宇都見では無い。


「……やっぱりな。てめぇは宇都見じゃねぇ!」


「なんでバレたんだ!? チキショウ!!」


 煙が上がると、中から出てきたのは明らかに子供の背丈。

 涙目になりながらも殺意を向けるリオであった。


「その傷は、宇都見から食らった弾丸の傷痕だ!! 次からはちゃんと傷くらい隠しとくんだな! 次なんてねぇけどよ!」


 風間は左手に持った結界装置を下へ置くと、再び拳に魔力を込めながら、ジリジリと距離を詰める。


「ぐぅ〜!! い、痛い……! 涙が出そうだ……! クソったれが!!」


 リオの奇襲をかわす事は出来た。

 状況は分がある様に見える。

 しかし、風間にとっては全く違かった。

 むしろ、この状況は最悪と言えるだろう。


「泣きてぇのはこっちの方だ!! てめぇ、宇都見はどうした!? 宇都見をどこにやった!!」


 リオは鼻血を拭いながら笑う。


「ぐ……へへへ……! 宇都見ぃ? さぁ〜ね、どうしたっけかなぁ。そんな事よりもさぁ、僕の事殴ったよなぁ、お前ぇ……」


「んな事ぁどうでもいいんだよ!! どうしててめぇが宇都見に化けて出てくんだよ!?」


 そんな質問はする気では無かった。

 しかし、聞かずにはいられなかった。

 その現実を直視したくなくて、咄嗟に聞いてしまった。


 風間は理解していた。

 自分一人では、この口の悪い小僧には勝てないと。


(やべぇ! やべぇ! やべぇ! 宇都見がやられちまった! 百歩譲って俺が勝てたとしても、宇都見がいなきゃ結界の再展開が出来ねぇ! どうあっても詰みじゃねぇのか!?)


「……おい風間! 僕を怒らせた事、永遠に後悔させてあげるよ……!」


 再び、煙が上がる。

 こう何度も見れば誰でも分かる。

 リオの能力の発動だ。


「またかよ……! でもよぉ、誰に化けた所で意味はねぇ! 煙が晴れた瞬間、もう一発叩き込んでやるぜ!!」


 風間は両腕を構えながら、その煙を凝視する。

 しかし、不思議な事に影は見えない。


「ん……これは……!?」


 そこには誰もいない。

 たった数秒の出来事だった。

 目も離していない。

 煙の中から出てきた様子も無かった。


「どういう事だ? 瞬間移動でも出来るってのか? いや、ありえねぇ! アイツの魔術はあの化ける奴だけだ。二つとも全く別の能力を持ってるなんてありえるのか……?」


 実際は分からなかった。

 二つの能力を持っているかもしれない、そんな疑惑が既に芽生えていた。

 そして、二つあるのなら三つ、三つあるのなら四つと、段々疑心暗鬼になってくる。

 その不安のせいか、迂闊に動けないでいた。


 それに、瞬間移動出来るとしたら、リオはこの場から去ったりしない。

 絶対に風間を狙いに来る。

 それ故に、風間は辺りを見回すのみで、リオの攻撃を待った。

 攻撃されるなら、出てくる筈だと。



 しかし、その判断は危険すぎる思考だった。



「はっ……!?」



 第六感なのか、背後に気配を感じた。

 だがそれに気づいた所でもう遅い。

 リオの接近は()()()()()()()()



 背中に拳が突き刺さる。



「がっ……!」


 完全に意識外からの攻撃。

 魔力を背面にまで這わせてはいなかった。

 その為、ダメージはモロに食らう。

 背骨が砕ける感覚と、その身の毛もよだつ音が骨伝導で伝わってくる。


「嘘、だろ……!? 俺は周りを見た、その時にいなかった筈だ……!」


 風間は中腰になりながらも再び周りを見回す。

 しかし、三百六十度、どこにも見当たらない。


「今俺は攻撃を食らった。なのに、見当たらねぇ……流石に理解したぜ……! 能力はやっぱり一つだったワケだ。姿を変えられるって事は、周りの景色にも一体化出来るって事だ。まるでカメレオンみてぇに!!」


 『擬装』、これがリオの魔術。

 人物に化ける事もさることながら、光学迷彩の様に風景と一体化する事も可能。

 大人にも化けられるのは、単に見てくれだけでなく、大きさも調整出来る為。

 よって、光学迷彩以上の擬態能力が備わっている。


 これは哺乳類すら会得してきた、敵を欺く為の力。

 ある時は逃げる為、またある時は獲物を仕留める為。


 この使い方は明らかに後者。

 今の風間はリオにとって格好の獲物。

 まな板の上の魚。


「しかもこの野郎、今度はちゃんと傷痕も能力で隠してやがる……意外と学習するタイプかよ、クソったれ!」


 先程の様な判別手段は取れない。

 つまりは、視界情報から攻撃を認識する術が無い。

 認識が出来ない以上、逃げるのは困難。

 そもそも、この消耗した肉体では、また背後から攻撃されるのがオチだろう。



 それ故、風間は目を閉じた。

 全神経を聴力のみに集中させ、僅かな音も逃さない。



(ここから逃げ出せず、しかも見えねぇ攻撃が来るって話なら、俺は動かねぇぜ。ただ、見えねぇってだけで、聞こえねぇワケじゃねぇんだろ……?)


 八時の方角、靴が擦れる音。


(アイツも気づいて忍び足で動いてるな。俺から反撃食らわねぇ様にコソコソと……!)


 音が聞こえて数秒、互いにアクションは無く、その場で留まる。

 風間は今、リオがどこにいるのかは分からない。

 逆にリオは、どう攻撃してやろうかと、吟味する様に風間を眺めているに違いない。


(ムカつくぜ……来るんならさっさと来やがれってんだ……!)


 その言葉が通じたのか、静寂は断たれる。

 十二時の方角、今度は意味深な機械音が聞こえた。



 カチリと、確実に聞こえた。



(ん? 今のはなんだ……?)


 何の音か分からなかった為に、再び考える。

 例えば、何かを踏んだ音。

 外側のフェンスに触れた音。


(いや、違う……ただ、絶対に聞いた事はある……)


 その覚えは記憶に新しい。

 あの阿鼻叫喚の教室の中で聞いた。

 セーフティーを外す時の音。



(って事は……!)



 パンッと、短い一つの銃声は風間の正面。

 銃弾はもう目の前に。



「銃……!?」



「……遅いよ、カザマ」





 その銃弾は、風間の脳天にクリーンヒット。





 魔力を帯びた銃弾でも、魔力装甲で防御すれば事なきを得られる。

 しかし、不意の一撃であった為、風間は防御に間に合わなかった。

 銃弾を完全にモロに食らった。

 傷痕からは血が溢れ、目からは光が消える。


(あれ……? 嘘だよな? こんなの、ありかよ……)


 リアクションする間も無く、その場に倒れ伏した。

 意識は完全に途絶え、ただ天を見つめる。

 静寂は残酷な程に続いた。

 風間はピクリとも動かない。

 ただ額から血を流す。

 それ以外の動きを一切見せない。


「サヨナラ、カザマ……」


 中身の無くなったペットボトルの様に、そこには空虚だけが残っていた。


 虚しく、空しい、人の終わり。


 この世の終着点。


 風間蓮斗は、死亡した。


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