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罪深き魔術師共  作者: ルカ
41/60

41話 鋼鉄の鎧

 廊下を駆ける喧騒は過ぎ去った。

 もう他の皆も校庭に避難したんだろう。

 これで、周りを気にする必要も無くなった。

 注意だけ引きつけて、逃げていただけなんだけど。


 不思議とさっきまでの緊張は無い。

 心拍も普通、息を殺すのも余裕だ。

 でも、時間を稼ぐには隠れてるだけじゃダメだ。

 その内アイツは別の行動を取る筈。


「どこだ!? 伊吹涼香!! いつまで隠れている!? 貴様が出てこないならば、すぐに連中を始末してやるぞ!!」


 逃げ回りながら時間を稼いでいたけど、アタシって結構すごいな。

 相手が魔術師だってのに、あそこから逃げられた。

 今だけはこの運動神経に感謝だ。

 でも、流石にそろそろ時間切れ。

 それと同時に、反撃の時はやってきた。


 ここからはこっちが攻める番。


 足音が通り過ぎていった。

 鹿島はまだ近くの廊下を歩いている。

 アタシの居場所は三階の空き教室。

 その扉の手前。


 息を整えながら、音を出さない様に教室を出る。

 足音は左から。

 見えるのは奴の背中。

 背後を取る事には成功した。


 これから、近づいてこのナイフを背中からぶっ刺す。


「クソ……! あの女め、どこに行った……?」


 上履きを脱ぎ、ソックスの小さな足音すら出さない様に、忍び足。

 こっそりと、確実に間合いを詰める。

 後ろを見られる前に、迅速に。


 右手のナイフが微かに震える。

 ここまで来て、ビビってんの?

 んなワケあるか。

 アタシがやらなきゃ誰がやる。


 近づけた。

 奴の歩くスピードに合わせて、アタシも歩く。

 ナイフを両手で強く握り、意を決する。



 後は思い切り、突き刺すだけ。









 が、ナイフは体に当たった瞬間、斜めに逸れてしまう。



「……後ろを取られていたか。だがそのナイフ、俺の魔力装甲には歯が立たんらしいな」


 確かに思い切り突き刺した。

 なのにまるで鉄みたいに刃が入っていかない。

 先っちょが少し刺さっただけで、血の一滴すら流れていない。


「いい加減分かれ。俺とお前では、埋められない差がある。それが魔術師との違いだ。力量を恥じるな。その愚かさを恥じろ」


「クッソ! なんでこうなる……!?」


 現実はやっぱりそう上手くはいかない。

 一旦ここでもう一度退く。

 次の奇襲の策を講じれば……!


「おっと……逃げるつもりだろう? 無駄な足掻きだがな」


 しかし、それすら叶わなかった。

 背を向ける前に頭を掴まれた。

 それはもう、体が浮くレベルの怪力で。

 


「ああぁぁ……! は、離せ……!」


 頭が割れそうだ。

 力一杯腕を殴りつけてやってもびくともしない。

 このままじゃ今度こそ本当に殺される。

 この馬鹿デカい斧で、体ごと真っ二つにされる。

 でも逃げられない。


「さっき、『ぶっ殺す』だとか息巻いていたが……やはり威勢だけの様だったな。貴様が素直に遺物を渡せば、あの女子生徒は危険な目に遭わずに済んだ……!」


 ナイフが微かに震えている。

 やっぱりビビってんじゃん、アタシ。

 せっかくヒトミンに貰ったこれを、全然活かせなかった。

 刃を突き立てようと、アタシの手が震えてるんじゃ、宝の持ち腐れだ。


「(ざけんな……!)」


 いや、そんなんで終わっていい筈が無い。

 きっと何か意図があった筈。

 ヒトミンは言った。

 このナイフは魔術師に効くと。

 戦えば力を発揮すると。


「祈りは済んだか? それでは、退場願おうか。伊吹涼香……」


 鹿島は斧を振り上げた。

 その瞬間、ある事に気づく。


 それは単純、アタシの手は震えていなかった。


 それが何を意味するのか。

 微かに震えているのはこの刃だけ。

 視認しにくい小刻みな震え。

 言うなれば振動。

 戦えば力を発揮すると言うのは、刃を突き立てた瞬間に効果を発揮すると言う事。


 つまり……



「この武器は、魔力に反応して力を引き出す……」



「何……?」



 次なる一手は、既にこの手の中に。



 アタシはナイフを力任せに突き刺した。



「おがぁぁぁぁ!!!」



 さっきまでとは明らかに手応えが違う。

 今度は、腹の所に思い切り突き刺せた。


 あまりにも痛かったのか、鹿島はたまらず手を離し、ニ、三歩後ろに下がる。


「ぐっ! そのナイフ……魔道具かっ……!!」


 シェークナイフ、それは振動する刃。

 どういう原理か、魔力に反応して、その振動で切り進む。

 だからアイツの魔力装甲とやらも貫く事が出来た。


「いける! これなら!」


 これはまたとないチャンス。

 対策される前に確実にダメージを与える。


 こいつの大きな武器は小回りが効かない。

 今なら鹿島の攻撃より早く動ける。

 だからここは攻める。


 二撃目も同じ場所を狙う。

 さっきより深く、強く、早く。

 右足を前に踏み出し、前傾姿勢で重心を更に前へ。

 ナイフを後ろに引き、前進しながら前に突き出す。


 後は、流れに身を任せるだけ。


「これで終わりっ……!」


 鹿島は咄嗟に左手でガードする。

 でも、魔力すら切り裂くこの刃。

 防御なんて意味は無い。

 そのまま腕すら切り裂いてみせる。



 勝利の福音は、血飛沫と共に高らかに鳴る。




「……無駄だと言ったろう」




 それは、予想とは違う音だった。

 鳴ったのは金属音。

 さっきとは明らかに手応えが違う。

 まるで、鉄そのものにナイフを突き立てた様な感覚。

 でも、それはありえない。

 アイツは、斧で攻撃を防ぐ事は出来なかった筈だ。


 問題があるとすれば、その左手。


「なっ……!」


 結果的に言えば、アタシの攻撃は当たった。

 ただ、深く理解していなかった事が残っていた。


 魔術師の事だ。


 例えば、宇都見の場合は銃弾を操る。

 アキノの場合は火の玉を作り出す事が出来た。

 そう考えれば、この男も何かそういう能力を持っているのが道理。

 アタシはその考えが頭に無かった。

 危うい場面になれば、そりゃ誰だって使う。


 その未知の能力を。


 鹿島は能力を発動させた。

 結果、ナイフは()()の様な鉄に阻まれた。

 あの斧の様に、ぶ厚く、見るからに重い、鉄の塊。


 みるみる内にどこからともなく現れた鉄の板が折れ曲がり、整形、形を変えていく。

 一つ一つが折り重なり、鹿島の体を覆っていく。


 弾かれたナイフと共に後退り、見上げた時にはもう()()していた。


 


「……流石にこれはお手上げだわ」




 それはまさしく、鋼鉄の鎧だった。


 詳しいワケじゃないけど、見た目は西洋風の甲冑。

 こいつの能力は恐らく、鋼鉄の武器や防具を身につける力なんだ。

 アタシの攻撃が来る瞬間に、腕の方からあの防具を体に取り付け、ガードした。

 ナイフはもう効かない。


 それなら、そんな奴をどうやって相手しろと?


「やってくれたな、小娘ぇ!」


 カウンターにお見舞いされたパンチは、鋼鉄の拳。

 脇腹に突き刺さって、体と一緒に少し意識が飛んだ。


 ほんの一瞬途切れた視界が再び写すのは、巨大な鎧の大男。

 二メートル以上はあろう灰色の巨体が、地面にへたりつくアタシを見下ろしている。

 頭まで鎧を着込んでいるから目線は見えない。

 でも、あの中は、とても冷徹な目をしているに違いない。


 そう思えるほどの圧力がある。


「かはっ! はぁ……! はぁぁ……!」


 もの凄く痛い。

 息がしづらいのに、でも息をしなくちゃいけなくて、自分の脳が焦っているのが分かる。

 どんどん息が荒くなる。

 うまく出来ないのに、どんどん荒くなる。


 殴られた所が変な感じだ。

 今どうなっているんだろう。

 アタシの体の中身は、本当に無事なの?


「この状態は機動性に欠ける。貴様相手にわざわざ使うとは思っていなかったぞ……しかし、そうとも言ってられない状況になった。つまりこの絶望は、貴様が招いた結果だ。魔道具なんぞ持ち出さなければ、楽に死ねただろうに」


「か、鹿島ぁ……!」


 とてもじゃないけど立ち上がれない。

 体感した事の無い痛みが腹部を襲ってる。

 強く締め付けて、思考の隙を与えてくれない。

 立ち上がろうとする意志すら、掴んで引きずり下ろそうとしてくる。


 それでも、それでも、それでも……!


「くぅっ……!!」


 立つんだ。

 じゃなきゃ終わる。

 アタシのせいで、ヨルカも殺されてしまう。

 ぶん殴られたって何度でも立ってやる。


「もうやめておけ。そもそも、ただの人間が魔術師に挑もうと言うのが無謀なんだ。今までを省みろ。そうやって状況を打破出来た事が一度でもあるのか?」


「……う、るさい……!」


 今までを省みろって?

 今までだってなんとかなってきた。

 未だにアタシが生きているのが何よりの証拠。

 そうだ、前みたいに……


「か、風間が、助けてくれる……」


「他力本願極まれり。貴様は所詮、あの男がいなければ何も出来ないただの女だ。奴の偽善につけ込んでいただけの腑抜け……」


「違う……!!」


 違う。

 アタシと風間でなんとかしてきたんだ。

 だから、アタシは腑抜けなんかじゃない。

 風間を利用しようだなんてしてない。


「アタシは……! アタシ、は……!!」


「客観視も出来ないのか。だから見誤る。だからここで死ぬんだ」


 眼前、鉄の塊が振り下ろされる。

 体が言う事聞かなくて、ただそれを眺めてるだけだった。


 どうしてこんな目に遭う?

 せっかく友達も出来たのに。

 あの時だって、死に物狂いで頑張って、せっかく生き延びたのに。

 誰でもいいから助けて欲しい。

 そう思うのが恥だとしても助けて欲しい。

 なんでもするから助けて欲しい。


 誰か、誰か、誰か。



「助けて……」



 うわごとの様に発した願いは誰にも届かない。

 分かっていてもそう呟かずにはいられなかった。

 どうせ届かない願い。











「おおらぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 そう思っていた矢先、その言葉は届いた。

 しかしそれは、望まぬ結果を生むとも同時に理解する。

 アタシにとってはむしろ最悪の展開。



 後ろから掃除用のモップで鹿島を叩きつけたのは、校庭へと向かった筈のアサヒだった。


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