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罪深き魔術師共  作者: ルカ
38/60

38話 反撃開始

 風間は気絶寸前までダメージを負い、伊吹は再起不能にされる。

 二人がどれだけ足掻こうとも、結果はそんなものだった。

 アンジェは後に到着し、伊吹は始末され、記憶の消されたクラスメイト達は風間と伊吹の存在も次第に忘れていく。

 そんな、そんな、抗えない結末が約束されていた。

 


 しかし、そんな未来はあの男の登場によって変わる。



 運命を分けるピースはほんの少しの時間稼ぎ。

 伊吹の自殺行為とも呼べるたった数十秒が、新たな反逆の一手を生み出した。

 


 それ故に、分かたれた道は再び交わる。



「ぐ、うぇ……!!」



 リオが血を流した理由……それは、一発の銃弾。



 それは、そこにいる誰しもが予測不可能な出来事。

 魔術師であるリオに対抗出来る人間など、一人も残っていない。


 正確にはもう一人いた筈だった。

 しかし、その男は裏切り、この場にいる訳が無い。

 だが、教室のドアの向こう、最早見覚えしかない。



 いつもより返り血多めの、宇都見集だった。



「……間一発ってとこだったね、伊吹ちゃん」


「宇都見、なんでアンタが……!」


「さて、こっからは更に時間が無い。何を信じるかは、状況で判断してよ」


 宇都見は拳銃をリオに向けながら、クラスの視線を一身に受ける。

 何せ、寝返ったと思った男が、再びこちらに寝返って来たのだから。

 まさに呆然。

 皆、宇都見の登場に動揺したまま口を開ける。


「宇都見……! もしかして、さっきのはフリだったのかよ……」


「いやー、悪い。でも、敵を騙すには味方からって言うだろ? 俺はハナから、お前達を助けるつもりだったのさ☆」


 と、宇都美はアイドル顔負けのウインクを決める。


「お、お前って奴は……!!」


 風間が目を輝かせる傍ら、こめかみに銃弾を食らった筈のリオが起き上がる。


「クッソ……ウツミ……! お前ぇぇ、裏切んのかよぉぉぉお!!!」


 『魔力装甲』、それ即ち、魔力を体の外に流した際に得られる外装。

 一部の箇所に発現させる事も、全体に身に纏う事も出来る。

 完全に意識外からの攻撃だったが、リオが未だに生きている理由はこれ。

 体全体に流した魔力が、絶対不可避の弾丸を相殺した。


 とは言え、完全な防御とはいかず。

 骨まで達していないものの、肉を掠め取られる様にダメージを受けた。

 風間が傷一つすらつけられなかったリオの体から、しっかりと血が流れていた。


「……わお。ゾンビだな、ゾンビ。キモいな」


「ぶっ、ぶっ殺す!!!!」


「とまぁ、こういう状況なワケで……! 皆はさっさと逃げな! こいつらは問答無用で殺しに来るぞ!!」


 忠告と同時に、宇都見は続け様に発砲を重ねる。

 弧を描く様に、銃弾が次々とリオに迫る。


 が、攻撃が当てられたのはあくまで不意打ちのみ。

 正面からの攻撃は通用せず、魔力を纏った腕に全段弾かれる。


「まぁそうなるよなー。カチカチだな、お前の魔力。なんつーか、『純度』が違ぇわ」


 魔術師としての格の違いは、主に魔力の量で決められる。


 魔術を扱った年数、技量、もしくは才能に応じて、その量は変わる。

 そして、一度に装甲として纏う魔力も、魔術師本人のさじ加減で調整出来るが、優れた魔術師であればある程に、装甲のリソースを増やす事も出来る。

 しかしそれは膨大な魔力量あっての事。

 リオと比べて、風間と宇都見はそのレベルには達していなかった。


 その上、肉眼で銃弾を察知し、予想した部位に装甲を纏えば、それが一番魔力消費の効率が良い。

 そして、何よりも固い。


 即ち、正面からの攻撃では、リオを倒す事は不可能だった。


「うわ……銃、撃ったのに、効いてない……や、やばくね? マジやばくね? ねぇヨルカ……」


「やばいよ、あーちゃん……あの子供、ホントに人間じゃないよ……!」


「おーおー! 話してる場合かよ!! みんな、ここだと巻き添え食らっちまうぞ! 安全な所……とりあえず校庭まで猛ダッシュだ!!」


 宇都見の呼びかけで、今が逃げるチャンスだと全員がようやく理解した。

 興奮とどよめきが交差する中、クラスメイト達は我先にと教室の扉に手を伸ばす。

 すぐさま行列状態。

 危険を顧みず助けてくれた風間達の事など、目もくれず。


「ちょちょ! 押すな! 俺が先だ!」

「な、何!? 順番なんて無いでしょ!!」

「いいから早く行けってぇぇぇ!!!」


 醜い人の(さが)故に、ただ扉から出るという単純な行動に、相当な遅れが生まれていた。


「させるワケぇ……ねーだろ!!!!」


 そんな状況でこの少年が静観している訳も無く、脇目も振らずに扉の方向へ一直線。

 相対する宇都見の事など眼中に無かった。


「おいおい! 流石に無視は舐めてるなぁ!? リオ!」


「舐めてるよ、お前なんか……!」


 宇都見は即座に発砲するも、リオは後ろを向きながら銃弾を片手で鷲掴みする。

 その逸脱した五感は、風を切る音すらも察知していた。


「ま、マジかよ!?」


 そのままリオは、一人のクラスメイトに目をつける。

 眼鏡をかけた、内気そうな女子生徒だった。

 その性格からか、列に入れず遅れていた。


 人質に逃げられ、余裕の無くなっていたリオは、最早目的すらも忘れて魔力を込める。

 面白半分に虫を殺す様な心持ちで、その凶器と化した拳を振り上げた。


「いやぁ!!!」


 駆け寄る宇都見。

 しかし、既に遅く、発射から着弾までの距離も遠い。

 見かねた伊吹も、落ちたナイフを拾うが、これも時すでに遅し。

 その凶行を止めるには至らない。

 止められる者は、いなかった。



「逃げられるくらいなら殺すっ!! まずはお前から! 死っねぇぇぇえええ!!」



「させるかよ……!」



 否、動いていたのはこの男も同じ。

 例え実力の差を見せつけられても、この足は勝手に動いていた。



「けっ、どうだ……? お前のパンチ、受け止めてやったぜ……!」



「カザマぁ……! 邪魔してくれちゃってさぁ!!」



 リオの拳を、風間の右の掌がしっかりと覆っていた。


「早く逃げろよ……! 次は守れねぇ……!」


「あ、あ……あり、あり……」


「早く行け!!!」


「ご、ごめんなさい〜!!」


 慌てふためきながら逃げる女子生徒と入れ違い様に、伊吹はナイフを右手に切り込んでいく。

 風間とくみ合っている今なら、身動きはうまく取れない。

 それ故の突撃、防御など二の次。

 例え、自分が魔術師では無いとしても、この隙を逃す訳にはいかなかった。


「今だ……!」


 が、その攻撃はリオには至らず。

 すんでの所で大きく後方へ退避される。


 とは言え三体一、近くには足枷となってしまっていた人質もいない。

 リオは怪我を負った。

 さっきまでのパフォーマンスを出すのは困難。


 つまりは好機。


「クソクソクソ……!! 体が痛くて動きづらい……!! は、吐きそうだ! クソォ……!」


 リオは目に見える程に疲弊していた。

 普通に立つのがままならないのか、やけに低姿勢気味になっていた。


「おい、今ならやれんだろ……!」


「うん、アタシもやれる。ちょっとは動ける! 今の内にやるしか無いっしょ!」


 が、勢いづく二人の横で、宇都見は険しい表情を浮かべる。


「……そういきたい所だけどなぁ。結界のバグを直さないと、クラスの皆は魔力の膜に阻まれて外に出れないし……」


「はぁ!? ちょっと宇都見、なんでそんな重要な事言ってなかったワケ!?」


「言うタイミングが無かったんだよ……! 魔術師や素質のある人間は、ある程度の魔力は掻き分ける事が出来るけど、視認すら出来ない人間には無理って話! それに、他の連中がまだ残ってる。このままずっと優勢ってワケにはならないさ」


「あっ……そういえば、アンタどうやってここまで来たの?」


「そりゃ、親玉をぶっ殺して来たのさ。ただ、鹿島は足を潰しただけだ。それに、アンジェって言うヤバい奴がまだ残ってる。そいつが来るまでにリオを倒せなきゃ、どっちみち詰みだ」


「じゃあどうすれば……!」


「伊吹ちゃんは避難した皆を守ってあげてよ。いざって時に役に立つのはその武器だ。その為に博士から貰ったんだろう?」


「わ、分かった……!」


「風間、お前は屋上に行け。この秘匿結界は恐らく屋上が中心地だ。結界を再展開さえ出来れば、このバグは治る。クラスの奴等は結界から弾き出される。避難させられるってワケだ」


「なるほどな……分かったぜ。どうせ、今の俺にはそんくらいしか出来ねぇ……」


「頼んだぜ、二人とも。俺も勝てるかどうか分かんねーからな……!」


 短く言葉を交わした後に、リオは殺意のこもった眼差しを向ける。


「あー、うっざ……! ウツミぃ……ぜってー殺してやる!」


「かかって来いよ、お子ちゃま。さぁ、ここからは反撃のお時間だ。逆に痛い目、見せてやるぜ!」


 人質の安全確保、結界の再展開、リオの鎮圧、ハプニングも交えつつ、新たな作戦に更新された。

 残す敵は後二人。


 学校を巻き込んだ魔術師同士の戦いが、始業を知らせるチャイムと共に今始まった。


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