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罪深き魔術師共  作者: ルカ
37/60

37話 放送室の交渉 2

「……なぁアンタ、今なんつった?」


「『ノー』と言った。人質は解放しない。正確には、風間蓮斗と伊吹涼香の始末までは解放しない。別に問題は無いだろう?」


「……」


 静寂の中、モニターから流れる音声だけが耳をつついていた。

 繰り返される悲鳴、怒号、その画面を見なくとも、それがどんな状況なのか色々と想像出来てしまった。

 今も尚、あの教室では何かが起こっている。


「なぁ、聞こえてるか? 誰かの叫び声だ。リオの奴が何かしてるかもしれない」


「だったらどうする?」


「アンタは……この前の大橋爆破事件で、一般市民を巻き込まない為にわざわざ結界を張った。それが今はどうだ? あのガキを野放しにしてていいのか?」


「巻き込みたくなかった訳じゃない。バレると面倒だっただけだよ。最近は、俺達みたいなのを取り締まる組織もいるからねぇ。注目はリスクなのさ」


「……」


 その沈黙に、ホワイトは笑う。


「まぁいいじゃないか。一般人を巻き込んだ所で、君に損がある訳じゃない。それとも、君がその()()の人間だったりして……」


 カマをかけた様な言葉。

 だが、宇都見は眉一つ動かさなかった。


「ありえない話だ」


「ふっ、そうだよね。そうだとしたら、あんなにノリノリになって風間を殺そうとする訳が無い……おっと、話が逸れてしまった。ああ、リオの事なら心配しないでくれ。もし彼が手を出そうものなら、俺が直々に連絡して止めるよ。そうすれば問題は……」



『きゃぁぁぁぁ!!!」



 しかし、そんな言葉も一際大きな叫び声に遮られる。

 その声は教室を映すモニターから響き渡る。



「い、今のは……!」


「あー……派手にやってるみたいだな……」


 宇都見はすぐにモニターへ駆け寄る。

 そこに映し出されていたのは、馬乗りになるリオと、その下でボロボロになる風間だった。


「アイツ……! もうやられてんじゃねぇか……!」


「リオめ……目を離した隙に風間と何を話していたんだ……? ま、これで風間も終わりだな。残すは伊吹涼香ただ一人。アンジェの到着まで残り三十分って所か……どう暇を潰そうかね」


 人質であるクラスメイトは依然無事だった。

 しかし、放っておけば風間はもちろん、伊吹の身も危うい。

 あの場で戦える人間も、当の風間本人しかいない。


(どういう状況かは分からないが、風間は数分しない内に殺される……めんどくせぇ事になったもんだ……風間の奴……!)


 どんなに状況が悪化しようが、刻々と選択肢は狭まっていく。

 最早、躊躇う余地は無かった。


(全く……本当にしょうがねぇ……)



 宇都見は、流れた冷や汗を拭う。



「なぁ……ホワイトさん。そういや、結界はどこで設置したんだ? 味方になったんだ。ちょっと状況を知りたくてさ」


「ああ……屋上だよ。公舎全体となると少し位置が高くないといけなかったんだ。だから上の方にね」


「へぇ、そりゃ大変だったな。ふぅん、屋上に結界がねぇ……あ、そうだ。後もう一ついいかな。さっき渡した万年筆についてなんだが……」


「ん、なんだい?」


「風間の野郎が何か仕込んでんじゃないかって心配になってきた。今一度、アンタの目で再確認してくれないかい? 確か、本物ならペン先にマークが書いてあった筈なんだ……」


「ほう……確かに、偽物にすり替えている可能性もあるね。どれ、では見てみようか」


 ホワイトが手に持った万年筆を凝視しようと目を近づける。

 そして、キャップを外そうとする。


 その時、宇都見は目をつむりながら下を向く。

 出来るだけ視界を遮る様に。




「……悪い。そいつはやっぱ偽物だ」




「は?」





 瞬間、閃光がほとばしる。





 それは、その小さな万年筆から放たれた光だった。

 元より、遺物などでは無く、強い光源が仕込まれていただけの偽物(フェイク)

 その罠の発動条件は蓋を外した瞬間。

 万が一の為、宇都見がヒトミに用意してもらっていた、奇襲のカード。


 その光は若干魔力を帯びていて、近場で直視しようものなら、その目を強烈に焼き尽くす。



「ぐおぁぁぁあ………!! ま、まさか、宇都見ぃ……!?」


「モノホンはまだ俺のポケットの中さ! お前に寝返る展開を予想して仕込んどいたんだよぉ!」


 宇都見は裾から拳銃を取り出す。

 指先に血管が浮き出る程、魔力を隅々まで纏わせ、銃身を固定する。


 狙うはその心臓。


「じゃあ死ね!」


 放たれた銃弾には、極限まで練られた魔力。

 標的は回避不可能。

 鋼鉄の様な魔力装甲を展開したとしても、この銃弾は鉄をも穿つ。

 発射時のわずかなブレもこの銃弾は修正する。

 敵が予測困難な動きをしようとも、執拗に追いかける。

 ただその命を奪う為。



 これが、宇都見の固有魔術、『魔弾』。

 狙った獲物は必ず撃ち抜く。

 


「かはぁぁぁぁぁ……!!!」



 絶対不可避のその弾は、確実に心臓を撃ち抜いた後に今一度翻る。

 ダメ押しの()()()が今度は背中から突き刺さる。


「っ……!!」


 湾曲した弾道で、魔弾は人体をズタズタにする。

 ホワイトの体を貫きながら右へ、左へ。

 その勢いが止まるまで魔弾は破壊を続ける。


 無論、その時点でホワイトの心臓は完全に停止していた。


 膝から崩れ落ち、目を見開いたままうつ伏せになるホワイト。

 スーツの下敷きになった血溜まり。

 白い部屋に浮いた、鮮烈なコントラスト。

 惨たらしい光景の中、宇都見は狂喜を見せる。



「やった……やったんだ。ははは、やってやった……! やったんだ、俺は……! これで、これで……ようやく……!!!」



 しかし、その騒ぎの中、あの男が気づかない筈が無い。

 鹿島が異変を察知した。


「……おい! なんだ、今の音は!」


「ああ……そうだった。安心しろ、殺しはしねーさ」


 そして、宇都見はドアに向かって合計三発打ち込む。

 鹿島は騒ぎを聞きつけ、そのドアの手前。

 いきなり、突き破って現れた銃弾の対処など不可能。



「……何っ!? ぐあぁ……!!」



 右肩、左肩、もう一つは歩かせない様にと、右足へ。

 ドア越しに目視した魔力で、宇都見は体の位置を予想していた。

 

「こいつ……は、初めからこうするつもりだったのか……!」


 乱暴にドアを引き、這いつくばる鹿島の前に現れるのは、勝ち誇った様子の宇都見。


「よう、さっきぶりだな。鹿島さんよぉ」


 微笑みながら、背中にかかと落としをかます。


「ぐおっ……!」


「生かしておいてやるぜ。何せ、アンタはこの連中と仲良くねぇ。ペラペラ喋ってくれそうだ……でもまぁ、楽しい拷問タイムはひとまずお預けだ」


「き、貴様……! なんの目的で……! 何者だ……!」


「なぁに、アンタもよく知ってる筈だぜ。『魔術連盟』……その工作員、宇都見集だ」


「なんだとぉ……!」


「あっ、やべ。そういや、風間の野郎がピンチなんだっけか。仕方ねぇ、助けてやるかぁ。じゃあな、ゴリラ野郎」


 宇都見は颯爽と駆けていく。

 血に濡れた学ランを身に纏って。


「クソ……してやられた……しかしまだだ……! 目的を果たすまでは帰れんぞ……!!」


 鹿島は、撃ち抜かれた傷をものともせず、その血濡れた右足で再度立ち上がる。

 

「もうこんな茶番には付き合ってられん……! 伊吹涼香だ……奴を見つけ出し……遺物を必ず回収する……!」

 

 ホワイトが死に、鹿島は完全に遺物回収に目的をシフト。

 アンジェは伊吹の命を狙い、学校へと急行する。

 そして、宇都見はリオを止めるべく再び教室へ。

 それぞれの思惑は交錯し、事態は更に渦を巻いていく。


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