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罪深き魔術師共  作者: ルカ
35/60

35話 自殺行為の果てに

 アタシの知る風間蓮斗と言う人間は、結局の所、『理解不能』と言う感想に落ち着いた。


 リオと名乗ったアイツはアタシと風間を殺すと言った。

 だからと言って、何故風間は死に急ぐ様な真似をしたんだろう。

 それが分からない。

 勝てるかどうかも分からないのに、何故立ち向かったんだろう。

 やはり分からない。


 いつだって自己犠牲で生きていて、それが命を脅かす危険でも省みない。

 はっきり言って、風間も風間でイカれてる。

 何度アタシを助けたって、あっちから見返りを求めてくる事も無かった。


 ただ一度、感謝の言葉を伝えて、その時は凄く嬉しそうな顔をしていた。

 返した事と言えばこのくらい。

 ホントにただ、そのくらい。

 たったそれだけ。

 それだけの為?


 だとしたら、やっぱり馬鹿だ。

 そんな言葉に、一円の価値だって無い。

 上辺だけの社交辞令かもしれない。

 素振りだけ見せて、また助けてもらう為の予防線かもしれない。

 そんな風に考えないワケ?


 やっぱりまだ分からない。

 納得出来ない。

 風間の事をもう少し理解したい。

 じゃないと、このむず痒い感覚がいつになっても治らない。



 それが、駆け出す前の最後の思考だった。




「死ね……!」




 風間でも勝てないなら、アタシなんて虫みたいに殺される。

 それは分かってる。

 無駄かもしれない。

 それでも助けたいのはなんでだろ?


 まぁ、分かんなくていいや。





 リオが拳を振り上げたその時、アタシは風間の体に覆い被さっていた。


「イブキサン……!?」


 リオは少し驚いて、拳にブレーキをかけた。

 それでも直撃は免れない。


 鈍い感覚と共に、右の頬に痛みが遅れてやってくる。

 それでも不思議と生きている。

 アタシがこんな事をしたのが予想外だったみたいで、咄嗟に力を抜いたからだ。

 だとしても、やっぱり凄く痛い。


 痛すぎて、涙が出る。

 息が漏れる。


「伊吹……?」


 風間と目が合った。

 死にそうな顔がよく見える。


 ホント、腹が立つ。

 どうして、そんなに無理をすんの?

 アタシや、他のみんなが罪悪感とか感じないのかって思わない?

 そういう所が嫌いだ。

 がさつで他人の為にやってる風で、こっちの気持ちなんて考えてない。

 そんな所が大っ嫌い。


「アンタ馬鹿なの……!? 死んじゃうじゃん! 馬鹿、馬鹿、馬鹿!!」


「お前、だって……だ、大丈夫かよ……!?」


 自分の方が危ない癖に、すぐこれだ。

 このタイミングでお節介?

 ホントに馬鹿。

 もう、ムカつき過ぎておかしくなりそうだ。


「あーあー、今のは不可抗力だからねー? 女の子の顔に傷をつけるなんて……僕史上最大の失敗だよ。ねぇイブキサン。そこ、どいてくれないかな?」


「……どくワケ無いじゃん。殺したいなら殺せばいいじゃん。アタシを引き剥がしたいなら、殺すしか無いじゃん。絶対にここは引かない……!」


「はぁ……?」


 勝手に体が動いたのは事実。

 だけど、完全に無策だったワケじゃない。

 こいつと風間の会話を聞いて、一つ分かった事がある。


 こいつの唯一の弱み。


「……で、どうすんの? 殺したけりゃ早く殺しなよ。それとも殺せない? アタシみたいな、非力な一般人を殺せないワケ?」


「やめろ伊吹……! 俺はやられてねぇ、まだやれる……!」


 信じられない事に、風間はまだ立ち上る。

 あそこまでボコボコにされていたのに、それでもアタシを守ろうとする。

 でも、それが空元気だって事は見れば分かる。

 どう見たって限界ギリギリだ。


「わーお、君のその体力はどうなってるのかな。ゾンビだね、ゾンビ。キモいよ」


「るせぇ……! こっからが本番だろ……!?」


「あーもう、うっさい! いいから寝てろ馬鹿!」


「い、伊吹……!?」


「アンタは寝てろっつってんの。さっきの会話から察したけど……多分、アイツはアタシを殺せないみたいだし」


「お前、何言って……」


 再び視界を前に送ると、リオの目が一瞬泳ぐ。

 やっぱりそうなんだ。


「さっきアンタは言っていた。『どの道カザマから殺す』って。あの時の言葉はどういう意味? その後の、誰かに任せるだとかなんだとか。それもよく分かんなかったんだけどさぁ……アンタ、アタシの事を殺すつもり無いんでしょ?」


「ふーん……それに気づいたからって何さ。殺さないってだけで、動けなくするくらいは出来るよ。そうだなぁ……例えば、足を折るとかさ」


「だったらこっちにも考えがあるし……!」


 こんな時の為、保険でもらっておいて正解だった。

 対魔術師用、シェークナイフ。

 取り出した瞬間、リオの目の色が少し変わった。


「近づいたら、これでぶっ殺す……!」


「……怖いね、そのナイフ。確かに、それなら僕にも効きそうだなー」

 

 右の人差し指で涙を拭う。

 こんな物はもう流さない。

 今から流れるのは、こいつの血だけだ。

 アタシだってやれる。

 アタシだって、アタシだって……!



「やってやるっ!!」



「よせ……伊吹ぃ……!」


 止まるな。

 二度とこんな惨めな思いをしてたまるか。

 守られてばかりでいるな。

 死ぬのが怖くたって、やらなきゃいけないんだ。


「うああぁぁぁ!!!」


 雄叫びと共に振りかぶったナイフが、視界の前方、リオに近づいていく。

 当たれ、突き刺せ、切り刻め。

 クラスメイトにも、やっと出来た友達にも、風間にも見られているけど、こいつをやらなきゃ。


 じゃなきゃ、風間が死んじゃう。



「イブキサン、もーちょっと賢いと思ったんだけどなぁ……」



 その言葉が聞こえた瞬間、手に痺れた様な感覚。

 ふと視線をやると、ナイフは地面に落下していた。


「あ……」


 見えないくらいの高速で、ナイフだけ蹴り飛ばされた。


 どうしよう、これじゃ何も出来ないじゃん。

 アタシ何やってんだろ。

 よくよく考えたら自殺行為じゃん、これ。


 ヒトミンが言っていた。

 魔術師は魔力を流すと身体能力も化け物みたいになるって。

 それなら、アイツが足を折るって言ってたのも、難しい話じゃない。

 化け物じみた脚力なら、折るのなんて簡単なんじゃないの?

 じゃあこのまま蹴られたら、アタシの足、本当に折れちゃうじゃん。


 リオが左足を軸に、右足を後ろに引く。

 やる気だ。



「や、めろぉぉぉぉぉぉ……!!」



 やばい、怖い、助けて。


 風間、助けて。




 心の中で願ったのは、もう何度懇願したか分からない救済。

 でも、風間は動けない。

 アタシの手元から唯一の武器は消えた。

 自分じゃどうにも出来ない。

 誰から見ても明らか。

 この数秒後、アタシの足は片方、もしかたら両足とも、ぶち折られる。


 頭の悪い自殺行為の果てに見るのは、最悪の未来予想図。

 希望的な妄想は、この期に及んで何も浮かばなかった。




 だから、この後の真実に少し戸惑った。





 まず視界に映ったのは返り血。


 その次は、瞬きせずに横に倒れるリオの姿だった。


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