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罪深き魔術師共  作者: ルカ
34/60

34話 青く済んだ瞳には

 視線が痛い。


 不安そうな一つ一つの目が、俺に助けを求めてる。


 その中に、伊吹もいる。

 

 とは言え、例え化け物じみた力を持っていても、相手はもっと化け物だ。

 敗色濃厚もいいところ。

 宇都見が裏切ったのも頷ける状況だ。

 俺だって寝返ってなんとかなるならそうしたい。


 だがしかし、何故か伊吹と俺はブラックリストに名前が載ってるらしい。

 ワケが分からん。

 ふざけるな。

 言っても無駄とは分かっていても、愚痴りたくなる。


 でも、諦めるワケにはいかない。


 そう思うと、俺はやはり立ち塞がっていた。

 無意識なのか、自然に体が動いていた。


「カザマ……なんでイブキサンの前に立ってんの? かっこつけのつもりー?」


「あぁそうさ。男って生き物はな、どんなヤバい状況でもかっこつけたいもんなんだよ。こいつを殺す気なら、先に俺を殺すんだな」


「ひゅー。まぁどの道、君から殺すんだけどね。イブキサンの始末はオネーサンがやらなきゃいけないらしいし。僕が手出したら、怒られるどころじゃ済まないよぉ」


「だったらやってみろよ。俺を殺してみろ……!」


「ちょっと風間……! アンタ、何言ってんのか分かってんの……!?」


「あぁ分かってる。心配だよな? 分かってんだよ。でもお前は手ぇ出すな。俺がなんとかする」


 真っ赤な嘘だった。

 本当はなんとか出来そうにない。

 正直言って誰かに泣きつきたい。

 でも、最初に言った言葉に嘘は無い。

 男は、こういう時にかっこつけるもんだ。


 それに、まだ終わってない。

 勝率はまだほんの少し残ってる。


「くぅ〜、かっこいいね! でもねぇ、今更泣きついたってシナリオは変わらないよ? ショーのプログラムを変える事は許されないからね」


「あぁ? ショー? プログラム? 何言ってやがる……」


「うん。これはね、ショーなんだ。元々、この人達を殺そうとなんて思ってないし、人質として利用しようとも思ってない。僕の力を披露する! ただそれだけの為なんだよね。にゃはは……」


「下らねぇ……こいつらの目の前で、俺と伊吹を殺せりゃ良いってワケか。そんな事の為に巻き込んだのかよ……!」


「ふふ、そうさ。クラスメイトはオーディエンス。君達はピエロ。僕はスター。僕の恐ろしさを存分に知るのさ……」


「けっ、何が力だ……! やってる事はテロリストと同じだろ!? そんなもん、誰に自慢出来るってんだ!」


「自慢? ちょっと違うよ。僕が優れた人間である事を教えてやるのさ。そうすれば、誰も僕の事を馬鹿にしないからね」


 こいつからしたら、これは単なるゲームに過ぎないんだ。

 人を絶望に叩き落として、見下し、蔑みたい。

 そんな幼稚な思考がチラついて見える。

 力を誇示したいだけで、ほとんど遊び気分。

 自分の存在を誰かに認めさせたい、そんな子供じみた心情。


 ああ、誰かさんにそっくりだ。


「なるほどな……」


「うん?」


「お前、友達いないだろ?」


「……はぁ?」


「おいおい、簡単な質問なんだ。イエスかノーで答えてくれよ。それとも、図星だったもんで答えらんねぇのか?」


「いきなり何? 僕に喧嘩を売りたいって感じが見え見えだよ。それにさぁ、人に言う前に君がそうなんじやない? 君みたいな野蛮そうな人、誰からも相手にされないでしょ」


「おー、御明察。そうだな、俺にダチなんか全くいねぇよ。お前と同じだな」


「……うざ」


 ずっと達観していたその顔に、筋が立つ。

 人間誰しも、本質を見抜かれるとそういう顔するよな。

 それが触れられたくない恥なら尚更。


「自分の力を他人に見せつけて、自分の存在を認めさせたいんだ。今まで誰からも相手にされなかったから、そういう性格になったんだろ?」


「君に僕の何が分かるの? 黙っててくれないかな」


「秀でてるもんなんて何もねぇのに、魔術を才能だと勘違いしてやがる。それはお前の力じゃねぇ。お前がたまたま拾えただけの武器ってだけだ。お前自身の力なんてこれっぽっちもありゃしねぇ」


「黙れって言ってるだろ……!」


「ずっと寂しくて、誰かにかまってもらいたくて、そんな哀れな性根のせいで、こんな回りくどい事始めたんだ。いや、気持ちは分かるぜ。お前と俺は、()()()()()だ」


 皮肉にも、親近感を感じてしまった。

 才能が無くて、親にすら認めてもらえず、こんなに捻くれた俺。

 たまたま力を手に入れたもんで、我が物顔でその内力を見せつけようとするこいつ。

 一つ間違えば同じ道だったかもしれない。

 こいつの詳しいバックボーンなんざ知らないが、直感的に感じ取った。


 こいつは、俺と同じ様な哀れなガキだ。


「いい加減認めたらどうだ? そんな事したってなんの意味もねぇってな」


「……もう分かった。殺して欲しいなら殺してあげるよ……」


 リオは血管が浮き出る程の、鬼の様な形相を見せる。


「さぁみんなー! 席を立つ事を許可するよ! 教室の後ろに下がってねー!」


 と、思ったら、すぐに取り繕った笑顔に戻り、さながらショーの司会者の様に皆を煽動する。

 クラスメイト達は困惑しつつも教室の後方に控え、大方移動した後、リオは教室の中心までプラプラと歩く。


「舞台にこの机は邪魔だね」


 と言って、黒板の方向へ机を一つ一つ蹴り飛ばす。

 木と木がぶつかり合い、折れては飛ぶ惨状に、クラスメイトは耳を塞ぐ。


 見るも無惨に積み上がった、壊れた机達が目に入る。

 それは同時に、フィールドの完成を示していた。

 こんな教室の真ん中で、しかもクラスメイトに見られながら喧嘩をするとは。

 なんとも新鮮で、ありそうで無いシチュエーションだ。


「さて……懺悔は済んだ?」


「さっき言ったろ? 神は信じねぇ」


「君がいつまでそんな事言ってられるか、楽しみだよ」


 こうなる事は分かってた。

 俺と伊吹が助かる為には、この短い間に考えたプランを成功させるしかない。


 つまりは、俺がここで勝つと言うプラン。


 宇都見ともう一人の敵は黒幕の所へ行った。

 ここでこいつをシメちまえば、後はやりたい放題。

 宇都見に交渉を頼んだ真の理由は、会話を長引かせて注意を引かせる為。

 まだ時間はある。

 その間に、俺が倒す。


 とは言っても、相手は魔術師としちゃ格上。

 喧嘩だったら余裕だが、この力に関しちゃこっちは素人もいいところ。

 小細工しなけりゃ、勝利は無い。

 でもって、そんな準備の時間をくれるワケも無い。

 だったら、だったらせめて……



「フライングしかねぇ……!」



 腰を落として、踏み込み、からの真正面からのマジ殴り。

 とは言ってもさっきは防がれた。

 だからさっきよりも早く、もっと鋭く、魔力を拳に与える。

 一発で終わらせるくらいの勢いを、そのまま拳に乗せる。



「遅い」



「……っ!」



 結局、俺の腕は届かなかった。



 それもその筈、腹部に重い一撃。

 待ち構える様に、リオは右足を突き出しただけで俺の体を止めていた。


「っく! このやろ……!」


「これは殺し合いだよ? 喧嘩じゃない」


 リオは、止まった俺の顔面にジャブをかます。


「ふぐっ!」


「風間っ!」


 まるで猫パンチみたいな速度なのに、強烈に痛い。

 これが魔力の違いだ。

 喧嘩の強さじゃなく、魔術師としての違い。


 すかさず距離を取ろうと、自然に右足が後ろに下がる。

 その瞬間が見逃される筈も無く、空いた左足を、柔道の要領で足払いされる。


「のわっ……!」


「……ふざけてんの?」


 仰向けになった体に、更にかかとが落とされる。


「ぐえっ……」


 分かってはいたのに、ここまで格が違うと流石に凹む。

 俺が気合でなんとか出来る相手じゃ無かった。

 全くもって歯が立たない。

 まるで赤子扱いだ。


「僕は君みたいな奴が一番嫌いなんだ。いじめっ子っぽくてさ、すぐ大声張って威張る感じ。威嚇のつもり? そんなの、動物しかやらないよ」


 視界は天井、あっという間に、腹の上にマウント状態のリオ。

 見える、魔力が滾った拳が見える。

 ああ、ヤバいな。

 これは凄くヤバい。


「僕を馬鹿にした罰だよ。ちゃんと歯ぁ噛み締めて、じっくり味わいなよ……」


 リオは容赦なく俺の顔面を殴りつける。


「……死ね」


 右、左、右、左、拳が連続で飛んできて、視界から消えては、また現れる。

 その一発一発が、めり込み、突き刺さり、確実に体内の血液を奪っていく。

 微かに映るその拳には、誰の物なのかよく分かる血液が付着していた。


「死ね、死ね、カザマ……」


 あまりの痛みで、逆に声が出なかった。

 自分が殴られる時の鈍い音が、連続して耳の中で反響する。

 それに加えて声も聞こえる。

 悲鳴と、俺の名前を呼ぶ声だ。


「風間! 何やってんだ起きろー!」

「風間っち! もうやめてよ風間っちー!」


 この声は多分、七瀬と黒木だ。

 他のクラスメイトの声もちらほら聞こえる。


「死ね、死ね、死ね、死ね……!」


 これは違う。

 こいつの声だ。

 段々耳も遠くなってきたってのか。


 てか、こいつ、さっき殺し合いって言ってたか。

 じゃあこいつ、俺の事マジに殺す気かよ。

 このまま殴り続けて、本当にやる気なのかよ。


「死ねぇ、死ねぇ、死ねぇ!!」


 イカれてる。

 イカれてるぞ、こいつ。

 こんなどこにでもいそうなガキなのに、おっかねぇ。

 今までの人生で今、一番ビビってる。

 何せこいつ、ちょっと口元が笑ってやがる。

 人前で俺をボコれて、さぞ嬉しいんだろう。

 やっぱイカれてやがる。


「クズ、ゴミ、カス……! 僕を馬鹿にした罰だ! 僕を馬鹿にした罰だ!」


 お相手は中々根に持ってるらしい。

 これは今更話し合いを試みても解決出来そうにない。

 なんてこった、このプランは失敗だ。

 このまま気絶したら、マジに死ぬまで殴られ続ける。


 でもまぁ、元々分の悪い状況だったし、俺まで生きようだなんて、わがままな願いだ。

 叶わないのはしょうがない。

 俺だって頑張ったんだ。

 

「死ね……!」


 返り血を拭いながら、リオは大きく拳を振り上げた。

 何故だか、とてもスローに感じる。

 もしかして、走馬灯が見えるパターンか?

 そんなもん要らねぇのに、体は素直なもんで、勝手に目蓋を閉じさせる。


 結局、俺の人生は何がしたいのかよくわかんなかった。

 クソみたいな親の下に生まれて、祖父(じじい)の家に引き取られて、誰かの為に頑張ったってずっと疎まれたまんまだった。

 『普通に生きる』、これが下手くそだったんだ。

 ワケの分からん能力のせいで、こんな事に巻き込まれて……結局、ただ命を落とすだけ。

 俺が助けようとしたクラスメイト共も、結界が消えればこの事は全部忘れる。

 俺の頑張りは、真の意味で、無駄だったんだ。


 そんな、下らない幕引き。

 感動的なフィナーレとはいかなかった。











 あーあ、死にたくねぇな。










 その時、気づいた。


 これは走馬灯なんかじゃない。

 スローに感じたのは単なる勘違いだ。

 何せ、いつになったって拳は飛んでこない。

 不思議に思って、重い目を開くと、目が合った。




「え……何、を……して、んだ……」




 青みがかった目だ。

 とても澄んでいて、潤いがあった。




 その儚い透明は、紛れもなく、涙。




「伊吹……?」




 この目はどうも、まだ死ぬ事を許してくれないらしい。



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