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罪深き魔術師共  作者: ルカ
33/60

33話 蜘蛛の糸

 最初に裏切られた時は、そりゃショックだった。

 放課後に下らない事を駄弁ったり、街行く女の子を勝手に評価したり、コンビニの前で花火をして怒られたりもした。

 あの日々は退屈ながらも、ちょっと面白かった。

 青春みたいなものを勝手に感じて、あたかも親友かの様に振る舞って、実際はそんな物は一切無かった。


 躊躇なんて全く見せず、マジに殺そうとして来やがった。


 紆余曲折を経て、俺達はまた関わらざるを得なくなった。

 裏切ったクセには、俺と伊吹の事に首を突っ込んで来たり、俺が知らない魔術師の世界の事を教えてくれたりと、なんだかんだ協力してくれた。

 だから、心のどこかでまだ信頼していたんだと思う。

 思っていた。



 だけど、それはまた崩れた。



「宇都見……なんでそうなるんだよ」


「保身、存命、自己防衛……逆になんて言えばお前は納得するんだ?」


「納得……? 出来るワケねぇだろ……!」


「だろうな。でも、もうあっちとの話はついた。お前らは終わる。俺は生き残る。シンプルだ」


 宇都見が構えた拳銃は、一切震えていなかった。

 俺が動こうものならいつでも撃てる、そんな風に見えた。

 一時的とは言え、仲間だった筈だ。

 だのにその顔は、家畜に送る様な蔑みの表情だった。


「ちょっと、宇都見っち!? なにその銃!? や、やめてよ! 風間っちが危ないじゃん……!」


「じゃあヨルカちゃんに向ければいいかな?」


「……!」


 宇都見は銃口を黒木に向けた。


「お前! 何してんのか分かってんのか!? アイツらはダチだろうが!!」


「どうせ、結界から出たら忘れるシステムなんだ。俺がここで殺したとしても、誰も覚えていやしない」


「んな事聞いてねぇ!! 心は痛まねぇのかよ!!」


「全く。クラス全員死んでも、なんとも思わないさ。女の子を手にかけるのは、あまり趣味じゃないけどな」


「こいつ……やっぱイカれてやがる……!」


 再確認した。

 宇都見は敵だ。

 裏切ると言う行為にブレーキが無い。

 筋金入りの風見鶏野郎だ。

 結局大事なのは自分の命で、それ以外はクソ程も興味が無い。

 そんなサイコ野郎だった。


「……ま、安心しろよ。実際にそんな事はしない。ヨルカちゃんを殺したりもしねーよ。無駄な事は嫌いだからな。俺は省エネに行きたいのさ」


 宇都見は拳銃を裾にしまう。

 それと同時に、黒木はへたり込んだ。

 友人の凶行によるショックか、恐怖か、言葉すらも出なかった。


「だ、大丈夫? ヨルカ……」


「てめぇ宇都見っ!! 黙って聞いてれば意味不明な事ばっかし言いやがって! ウチの目が黒い内はただじゃおかな……」


「あーちゃん……前から思ってたんだけど、その言葉遣いは直した方が良い。品が無い。ちょっと黙っててくれないか。俺は今風間と話してるんだ」


「なっ……!」


 食い気味に七瀬を静止させると、宇都見はジリジリと距離を詰めてくる。


「……魔術師は基本的には、後転的に力を授かる。魔女の遺物と言う代物を用いてな。なら、力を授かった後、遺物はどうなる? 魔力を失った、ただの骨董品か?」


「……何、言ってやがる」


「違う。力の宿主である魔術師が死んだその時、魔力は戻る。魔術師の覚醒を促すアイテムとして、また使える様になるんだ。つまり、お前が死ねば、お前の持っている遺物は力を取り戻すってワケだな」


「遺物だと……? んなもん持ってねぇよ」


「いや、あるんだよ。運命か因果か、魔術師は持ち歩くもんだ。何があろうと絶対にな」


「……」


「心当たりがある筈だ。それに、魔女の遺物の話は博士から一度聞いてるだろ? そん時に思った筈だ。『俺に目覚めを促した遺物はどれだ?』ってな」


 まずい。

 こいつは俺を殺した後の事を既に考えていて、俺の持っている遺物を奪うつもりだ。


「けっ……じゃあなんだ? 今から俺の身ぐるみでも剥ぐってのか。上等だ。使っちまった遺物には魔力なんか存在しねぇ。それでも分かるってんならなぁ!」


「……万年筆だろ?」


「ぐっ……!」


 な、なんでこいつ、知っていやがるんだ。

 いや待て。

 ここで動揺したら思うつぼだ。


「そ、そんな小洒落たもんが遺物ぅ? はっ、ないない。お前の目も曇ったもんだな」


「遺物には、どんなに時間が経とうと微かに残滓が残る。それを見れば分かるのさ」


「クソ……! 最初からバレてんのかよ!」


「いいや、今のはハッタリだ。まさかポロリするとはな。やっぱ間抜けな所は変わらないなぁ、お前」


「てめっ! 汚ねぇぞ!」


 クラス中に見られながら赤っ恥を晒す。

 なんて醜態だ。

 この状況でこんなドジを踏むなんて、最悪過ぎる。


 いやいや、今はそこじゃない。

 取り繕うよりも先になんとかしなきゃいけないのはこいつの事だ。

 俺の持ってる遺物(これ)を渡すのは、絶対にまずい気がする。


「まっ、そういうワケで、さっさと渡してくれや」


「誰が渡すか!!」


「……死人が出てもいいのか?」


 しかし、無駄なのは分かってはいた。

 宇都見が裏切った時点で割とどうしようもなかったんだ。

 だからと言ってこいつに言いくるめられる状況は、まぁなんとも癪に触る。


「ちっ……! お前、ろくな死に方しねぇぞ!」


「それでいい。素直は役得だぜ? また一つ勉強になったな、ブラザー」


 学ランの内ポケットにしまってあった万年筆を仕方なく渡した。

 これには逆らえない。

 人質が取られてるこの状況じゃまず無理だ。


 なんてザマだ。

 俺は結局、何も出来ない。

 抵抗する力を持っているのに、ただ言いなりになるだけなのかよ。


「さぁてと……リオ、手土産はこのくらいでいいよな? 風間の持っている遺物を見事に見つけたんだ。この間のミスも、帳消しにしちゃくれねーかな?」


「それを決めるのはアニキだからねぇ。自分で聞きなよ。アニキは放送室にいる。とりあえずそこに行って話してきて」


「おいおい、お前がついてこないと、俺が何かするかもだぜ?」


「廊下にカシマって言うゴリラみたいな男がいる。そいつに同行させるよ」


「ふっ……話が早いな」


 宇都見は終始落ち着いた様子で、その場を後にしようとする。

 まずい、まずい、このままじゃまずい。

 何かアクションを起こさなければ。

 何か、何か……!


「ま、待ってくれ宇都見!!」


 最早、恥の上塗りは承知の上だった。

 どんな手を使ってでも、状況を変えなければ、確実に死人が出る。

 このリオとか言うガキも何を考えてるのか分からない。

 クラスの連中に危害を加える可能性が高い。

 もう、なりふり構ってる場合じゃないだ。


「宇都見、頼む……俺と伊吹が狙われてるのは分かった。だから、それ以外の奴等はみんな解放してやってくれ」


「……風間」


「どの道、この手勢じゃ勝ち目なんてねぇよ……人質がいようがいまいが、もう関係ねぇ。そう思わねぇか?」


「俺が決める事じゃないな」


「白髪の男に会いに行くんだろ? どうにか交渉してきてくれねぇか? 頼む。こいつらは関係無いんだ。俺のせいで巻き込んじまっただけなんだ……!」


「「風間……」」

「風間っち……」


 俺には上手い話術なんてのは無い。

 心の底から、本音で話す。

 それくらいしか出来なかった。

 この氷の様な男の心を、なんとか溶かすには、このくらいしか無いと思った。


「下らねぇ自己犠牲だとか、偽善者だとか、何言ってくれてもいい。俺の持ってるもんだって全部渡してやる。だから、頼む。最後のお願いだ……」




 成功率なんて一割も満たない。

 ヤケクソ混じりの、みっともない懇願だ。




「……分かった」




「……へ?」



 宇都見の返事は意外にもあっさりオーケーだった。


「はぁ? 宇都見さぁ、何言っちゃってんの?」


「リオ、お前が決める事でも無い筈だぜ。アニキに聞く。たったそれだけの話だろ?」


「ぐっ……」


「まぁ、俺にとってはどうでもいい事だけどよ……一年つるんだよしみだ。取り合ってやるくらいはな」


「宇都見……あ、ありがとな。へへ……」


「寒気がする事言うなよな。お前も伊吹ちゃんも死ぬんだぞ? そこについて、恨みの一つくらい吐いてみろよ」


「吐いた所で変わらねぇよ。でも、気をつけるんだな。俺は天文学的数字でも、可能性が少しでもあるんならやる男だぜ?」


「やっぱりお前は死ぬまで治らないバカだな。せいぜい、ありもしない蜘蛛の糸を願うんだな。神頼みくらいなら許されるだろ」


「……あいにく、俺は無神論者だ」


「救えない奴だ。バカが……」


 その最後のセリフを言い放った宇都見は、余裕の無い表情に見えた。

 いつしか俺が見た、アイツの二面性。

 殺し合った時にしか見せなかった、爽やかさからはかけ離れた表情だ。


 宇都見が教室から出ると、再び静寂が訪れる。

 何はともあれ、一縷の望みは出来た。

 垂らされたのがか細い蜘蛛の糸だとしても、生き汚く利用してやる。


 そして、守るんだ。



 そう誓った瞬間、自然と伊吹と目が合った。



 やはりその顔は未だ恐怖を拭えないでいた。

 うずくまって絶望に震えていた、あの時となんにも変わらない、弱くて情けない顔だ。

 お前にしてほしいのはそんな顔じゃない。

 もっと意地の悪い、俺を罵った時みたいな仏頂面。

 そして、悪戯な笑顔がよく似合う。


 そんな顔が見たいから、ここでもう一踏ん張りだ。



「(伊吹……お前はぜってぇ死なさねぇ……)」



 こっからは、マジに人生最期かもしれない反逆だ。

 うまくいく気なんて全くしないが、それでもやるしかない。


 自然とまだ、闘志は燻ってる。


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