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罪深き魔術師共  作者: ルカ
31/60

31話 学校襲撃!?

 都立武蔵新山高等学校、通称ムサヤマ。

 死に物狂いで勉強すれば、割と馬鹿でも入れるくらいの偏差値。

 つまりは平均的である。

 部活動はサッカー部が主に結果を残しているが、歴代最高でも都大会八位。

 それ以外はこれと言った特徴も無い普通の高校であり、凡庸なイメージは拭えなかった。



 が、そんなムサヤマが一時の間だが有名校となったのは、あるニュースがきっかけだった。



 記事の見出しは電波ジャック。

 学校のホームページが昨晩、小一時間程ジャックされ、その間は怪文書がでかでかと表示されていたと言う。


『生徒諸君へ、君達はゴールデンウィークを過ごせない』


 犯行声明なのか、タチの悪い悪戯か。

 いずれにせよ、この騒動は一時的に全国区に知れ渡り、その渦中にいる生徒も含め、不安と興奮の余熱に冷めないでいた。


 職員室には騒動に対する電話の

 校門の周りには、テレビ局とそれを見に来た野次馬。

 珍しい光景に感化され、画面に映りたがる在学生。

 十人十色、非日常の朝はクラス内の雰囲気もざわつかせていた。


「……いやぁ、やばいね」


「……うん、やばいわ」


 早速噂に踊らされている七瀬と黒木を見て、伊吹は変わらずケロッとしていた。


「えーっと……ウチの学校のホームページがジャックされたんだって? 暇な奴もいるもんだね」


「いやいや、りょーちゃん。これは今までとは比べものにならない危機! この前の大橋爆破事件に次ぐ大事件になる! そんな気がするんだよ……!」


「ウチも同感。さっそく色々ネットで盛り上がってるわ。ハッキングされたページに飛んだら、ウイルスに引っかかったーとか、結構手の込んだ事してるらしーよ。そんなのシロウトに出来る? 知らねーけど」


「……どうかな。ま、こういうのって大概、何も無く終わったりするよね」


「えー、ノリ悪ー。テレビも騒いでんしよー、マジにテロリストが来ちゃったりして……!」


「いやいや……どうせ、何も無いよ。何も起こるワケ無いじゃん……」


「……涼香?」


「……ううん。なんでもない」


 伊吹は最初からシラを切ったつもりだった。

 今回の件に関しては、一つだけ気がかりな点があったからだ。

 ジャックが起こった次の日、つまりは今朝、ヒトミから連絡を貰った三人は言い様の無い緊張感に包まれた。


『この騒動、例の男が関与している可能性がある』


 電話口でそう伝えられては、動揺するのも無理も無く、結果、神妙な面持ちでホームルームを迎える事となった。


 それは勿論、風間と宇都見も同じだった。


「……なぁ、お前はどう見るよ、この状況」


「宣戦布告って奴かな。博士の話だと、ハッキングした時のログに、敢えて意味深な文が残してあったらしい。『魔術師共へ、最高のゲームを用意する』、オシャレにドイツ語でな」


「けっ、痛いポエマーが……」


「相手はそんな事わざわざ口走ったんだ。確実に魔術師絡みだろうよ。だから博士は朝イチでシャドウを学校の周りに配置した。連絡が無いって事は、今のところ大丈夫って事だけどな……」


「いや、外を見てみろよ。人が大勢いやがる。この人の数だ。魔術師が隠れてたって不思議じゃねぇ。それに、学校関係者に野郎の一味がいたら終わりだ。どこまで計画してるかは知らねぇけどよ、既に潜伏してる可能性だって……」


「その点に関しては恐らく大丈夫だ。『魔力感知』、俺達魔術師は、魔力を可視化出来る力を持っている。つまり、誰が魔術師なのか分かるってワケだ」


「うげ……またもや専門用語……」


「おいおい、この前言っただろ。魔術師は魔力がモヤみたいな形で見える。更に、魔力だけ″フォーカス″してみれば、千里眼みたいに魔術師の位置が分かる。腕の立つ魔術師は、それすら隠せるみたいだけどな。例の男の実力は知らねーけど」


「ま、魔力くらいなら、俺でも見えるけどな……」


「これも簡易魔術の一つ、このくらいは出来て当然だ。固有魔術も使えないお前でもな。マジに必要な技術は、″魔力のみ″を見通すテクニック……まぁお前には出来ないと思うけどな……」


「うぜぇ……最近、煽りが多くなってきやがった……」


「お前よか、魔術師の事を知ってるからな。多少先輩ヅラしてもいいだろ。後輩君?」


「相変わらず嫌味ったらしい言い方だな……いいぜ、『ふぉーかす』すりゃいいんだろ? どらっ!」


 風間は力を込め、カッと目を見開いた。


「おお、見える、見えるぞぉ! ふふふ、見えるぜ……!」


 景色や人の顔がぼやけて見える代わりに、魔力が色濃く視界に映る。

 魔力反応は二つ。

 一つは宇都見、もう一つは伊吹のポケット。


「なんだ、スカートでも覗いてんのかい?」


「違ぇよ! 確かに、モヤみたいのがお前から見える。それから伊吹からも。これはブローチの反応か。それから……ん?」



 教室の中を見渡していると、もう一つモヤが見えた。



「え、マジか。こんな事あんのか?」


「……どうしたよ、そんな際どい下着を見つけたのか」


「だから違ぇ! ほら、前、前!」


「ん?」


 宇都見が教室の前方に目を凝らすと、ある人物から魔力を感じ取った。

 その人物とは、担任の教師、高橋健吾。

 眼鏡をかけた、ダウナーな教師だ。


 それも魔道具を持っている時の反応では無い。

 明らかにその本人から魔力反応があった。


「お前、大丈夫って言ったよな……?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ……俺は今まで気づかなかったぞ。こいつぁ一体……」


 不可解だった。

 当然ながら、この教師の事を宇都見は一年前から知っている。

 親任の教師では無い。

 仮に魔術師ならば、気づかない訳が無かった。

 この魔力感知があるのだから、見落とす筈が無い。

 にも関わらず、視界から得た情報は、確実にその男が魔術師である事を伝えていた。


「……はい、まだホームルームにはちょっと早いが、先にプリントを配っておく。後ろまで回すよーに」


「わっ、いつの間に高橋センセー来てたんだー。おっすー」


「ねーねー、センセー。今下行ったらテレビ映れっかなー? ウチさぁ、今日結構盛って来たんだけど」


「……君達も、早く席に着きなさい」


 普段より厚化粧な七瀬に対して、その教師はあからさまな生返事で返した。


「いやいやセンセー、ウチら別のクラスだし……」


 前の席からプリントが配られる。

 その瞬間を、風間と宇都見は瞬きもせず見守る。

 男の一挙手一投足を。


「……嫌な予感がするな。さっきあの人、七瀬と黒木に席に着けって言ったぜ? 流石に自分のクラスくらい把握してんだろ」


「ああ、確かに妙だ。とりあえず、一回博士に連絡しとく。風間は先生を見といてくれ。目を離すなよ」


「分かってらぁ……」


 宇都見が席を立った瞬間、七瀬が声を上げる。


「えっ? 何これ? このプリント真っ白じゃーん。センセー、印刷ミスってんじゃね? ウケる」


 配られた紙は全て真っ白な紙だった。

 クラス中にどよめきが起こる。

 そして、それと同時に、風間はプリントを見つめながら舌打ちをする。


「おい、宇都見……もっかい目ぇ凝らして見てみろ。このプリントから、()()()()()()……!」


「はぁ……?」


(何が起こっている? 違ぇな……こっから何が起こるんだ……!?)


 情報量の多い状況に追い討ちをかける様に、今度は窓際の生徒達が声を上げる。


「おい、見てみろよー。空がなんか変だぜー?」

「なんか暗くない?」

「雨とか降るんじゃねーの?」

「バカ! そんな感じじゃねーだろ!」


「「あ?」」


 次に起こったのは空の色の変化。

 分からない事が立て続けに起こっていたが、この現象は分かる。

 この前、肉眼ではっきりと見た。


「おい宇都見……これは……」


「あぁ、結界だ……! 俺は段々と状況が分かってきた……!」


「どうなってんだよ! やべぇ、学校ごと覆ってやがる! 一体何する気だ!?」


「おい風間、テンパるのはいいが、時間が無いからよく聞け。今から秘匿結界の()()()()()()を説明をする」


「イレギュラー……?」


「秘匿結界のルールに反する事が時たま起こるんだ。今、それが起こっている。ほら、不思議じゃねーか? 周り見てみろよ」


 宇都見が言った通り、辺りを見回すと、ただざわざわと騒ぐクラスメイトがいるだけで、変わった点は無い。

 そう、秘匿結界が展開したにも関わらず、何も変わっていない。

 魔術師では無く、素養も無い普通の人間が、秘匿結界の中にいる。


 これは明らかな()()()()


「こいつら、どうして消えねぇんだ……!」


「なんでこんな事になるのか……理由は一つ、この魔道具のバグさ。秘匿結界が展開された時、魔術師かどうか、魔力の有無でも判断するのさ。あのプリントには魔力が込められていた。それを触ったり、持っていた生徒は、結界の中に入っちまった。魔力を持ってるって事にされてな!」


「理解したぜ……! つまり、このプリントを渡した奴はよぉ、狙ってやってるって事だよな……!」


 風間は拳に魔力を込める。

 目線の先にはあの教師。


「おい! 確かにそうなるが、風間……! お前何を……!?」


「違かったら後で謝りゃいい! 停学くらいで済む! 一番怪しいのは、あの野郎だろ!」


 魔力が込められたプリントを配った。

 意味深な発言をした。

 結界が張られたタイミングを考えても、やはり行き着く先はこの答え。

 この現象の元凶は、今、教卓にいるこの男。

 そう予測するのが一番自然だった。


「高橋先生よぉ……ちょっと一発殴られて貰えるかぁ!?」


 走り込みながらの強烈な一発。

 魔力の込められたその拳は、例え魔術師でも防御困難な、凄絶な一撃。


「カザマくぅん……暴力はいけないなぁ……」


「……!」



 が、拳は眼前で止まっていた。



 前に行く筈の拳が、片手だけでいとも容易く止まる。

 力量差を一瞬で理解する程、目の前にいる男の魔力は、明らかに自分より上。

 悪寒の止まない腕には、慣れない鳥肌が立っていた。


「……か、風間っ!」


 伊吹の呼びかけで冷静になった風間はすぐに距離を取る。


「クソ! こいつ、なにもんだ……!」


「ふふ、無駄だってー、カザマくぅん。大人しく席に着いててよ。今から、色々と説明するからさ。君達の末路をね……」



 男は嘲る様にニタニタと笑う。



「さぁ、ゲームしようか。学校にテロリストなんて、よく妄想するシチュエーションだろ……?」



 その場に残るは三十一名、自称テロリストは子供の様にキラキラと目を輝かせ、魔術師二人は隠した戦意を腕に込めた。


 本日は四月二十二日、後に『神隠し事件』と呼ばれる日である。


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