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罪深き魔術師共  作者: ルカ
3/60

3話 ホームルーム / 追跡

 起きた時には既に朝を迎えていて、自分のその体たらくに驚いた。

 昨日は確かに疲れた。

 だが、半日を消費して寝ているなんて、今までの人生に一度だってあるか分からないくらいだ。

 自分は確かに長く寝る方だが、それにしても寝過ぎだ。

 こんなに寝たんじゃ後が大変だ。

 暇な授業は起きている事すら億劫だから。

 また、屋上に行ってフケるか?

 それとも、まだ伊吹も来てないし、学校サボっちまうか。


 下らない事を考えていたら、教室のドアが開く。

 一瞬、伊吹の事が頭をよぎったが、それよりも見知った顔だった。


「なんだ、お前か」


「なんだってなんだよ。ってあれ……なんかデジャヴだな」


 呑気な宇都見の顔を見て少しだけホッとした。

 もし伊吹が来たらこの高貴で高価なブローチを渡さなければいけないからだ。

 しかも教室という名の公衆の面前で。

 それは中々にハードルが高い。

 ただでさえ、アイツも俺も浮いた存在なのに。


「あれ、『伊吹ちゃん』はまだ来てないのか?」


 宇都見はいつの間にか、あの女を馴れ馴れしい呼び名で呼んでいた。


「見りゃ分かんだろ? サボり決め込む気じゃねぇの?」


「そうか……もうすぐホームルームも始まるし、マジに今日は来ないかもな」


「……そうだな」


「テンション低いなー。そんなんじゃモテないぜ?」


「うっせ。疲れてんだ、こっちは」


「まぁまぁそう言いなさんな。こういう環境が変わる時期はな、無理してでも起きといた方がいいんだぜ?」


「……?」


「ほら、ちょっと静かにしてろ……」


 途端に黙る宇都見、そして、その直後に女子の会話が聞こえてくる。


「……ねぇ、伊吹さん来てないよ……」

「……そりゃそうでしょ。あんな女……」

「……昨日も風間君に噛みついてたよ……」

「……うっわ、かわいそー……」

「……ほんと、同じクラスになりたくなかったわー……」


 話の中身はまぁ想像通りだ。

 新学期二日目から早速学校に来ない伊吹涼香の話で持ちきりの様だ。


「……なるほど。伊吹の奴は、あんまりよく思われてねぇみたいだな」


「ああ。同じクラスになって初めて分かったけど、特に女子からは相当嫌われてるっぽいな。モテる女は辛いねぇ」


「……女の妬みってのは理不尽なもんだからな。特に顔面偏差値に関しては」


「うわっ、ボロクソ言うなぁ」


「だって本当の事じゃねぇか。悪口言ってる奴等なんざ、どう見てもヒーローサイドじゃねぇだろ。モブだよモブ」


「お、以外と伊吹ちゃん擁護派?」


「んな訳……」


 別にあいつに同情する訳じゃない。

 実際問題、俺もあいつに罵詈雑言を浴びせられた。

 周りの連中にもあんな態度を取っていたとしたら、完全に自業自得だ。

 だが、当事者以外が好き勝手言ってるとしたら、少しムカつく話だ。

 俺はあいつから言われのない事を言われたからこそ、悪口を言う資格があるってもんだ。


 だから、ほんの少しだけ、同情……する気持ちも無い事は無い。


「あーっと! また難しい顔してるぜー? 風間ちゃーん」


 宇都見はペシペシとデコを叩いてきた。

 あいも変わらず、こいつはウザ絡みをしてくる。


「……触んな。ったく……お前のハイテンションも段々ウザさが増してきたな」


「はっはっは! 褒め言葉だなぁそれ!」


「うぜー……」


 結局、放課後になっても伊吹は姿を現さなかった。

 何故学校に来ないのかは分からない。

 だが、ほんの少しだけ嫌な予感がした。

 俺を狙ったあの連中、俺以外にも手を出していたら、なんて……


 頭の中では否定しつつも、片隅にはその考えがずっと残っていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「じゃ、また明日な」


「おう」


 今日は俺が逆に見送る形になった。

 宇都見は今日もバイトらしい。

 苦学生なんて感じでも無かろうに。

 いや、遊ぶ金が欲しいだけか。


「伊吹ちゃん、明日は来てるといいな」


「あ? まぁ、そうだな……」


 こいつはやけに俺に伊吹の事を伝えてくる。

 あいつに対してそんな()はねえってのに。


「あ、後さ、今日はさっさと帰れよ? またフードの連中が出るかもしれないからな」


「言われなくても……結構お節介なんだな」


「巷じゃ俺の世話焼きは有名な話なんだぜ? だからみんなに頼られっぱなし! いやー、人気者は辛いよな。でも、頼ってくれていいんだぜ? だって俺達、()()だからな」


「……お、おう」


「そんじゃあな!」


 そう言って、宇都見は颯爽と駆けていった。


「なんだあいつ……?」


 やけに浮き足立っているというか。

 落ち着かない雰囲気があるというか。

 新しい環境で高揚してるのか、それともナーバスになってんのか。

 どちらにせよ、ああいうクサい台詞は言わないタチだと思っていた。


 とにかく、俺も早い内に帰ろう。

 例の連中にまた絡まれたらたまったもんじゃない。


 一人で足を進める、孤独な帰り道だ。

 道路を走る車のエンジン音がやけに耳に残る。

 こんなのは慣れちゃいるけど、やっぱり少し虚しい。

 と言っても、誰かいた所で元気なチャラ男一人。

 見てくれか性格か、話しかけにくいオーラが出てしまった果てに、何故かあいつが釣れてしまった訳だ。


「親友……か」


 親友、そんな言葉は久々に聞いた気がする。

 昔にもそういう言葉を言ってくる奴はいたが、所詮はその場のノリ。

 今では連絡すら取ってない様な奴。

 対人関係なんてのはそんなものだ。

 どうせ、宇都見だって卒業しちまったらなんにも話さなくなる。

 高校というコミニュティだけの関係だ。


 とは言え、話し相手になってくれる奴は貴重な存在だ。

 俺に話しかける様な変わり者だとしても、吹いて飛んでしまう様な関係性だったとしても、一応、友達とは言える。

 多分……


「……あ」


 と、そんな思いに耽りながら歩いていると、噂の冷血女子を発見した。

 学校をサボったのに悪びれもせず、太々しく歩いている。


「……伊吹」


 学校には来ていなかったが、制服姿で普通に歩いていた。

 何故こんな学校の近くでうろついているのかは分からないが、ひょっとしたら例の落とし物を探しているのかもしれない。

 しかし、呼び止めようにもあいつは反対車線。

 車通りは激しい。

 突っ切る訳にもいかない。


「わざわざ話しかけるか……?」


 元々俺が嫌われてる事なんざ承知の上だ。

 別にこっちだって関わりたくは無い。

 だのに落とし物なんて届けんのは、なんかバツが悪いからってそのくらいだ。

 そっと自然に渡したい。

 すれ違い様に、『そういえば』って感じで渡したい。

 必死こいて追いかけるのは、逆に変に思われそうでなんか嫌だ。


「うーむ……」


 たまたまこっちに渡って来ねぇものか。

 いや待てよ、次に学校来た時でもいいんじゃねぇか?

 でも、クラスの連中が見てる前で渡すのはキツいよなって今朝に思ったな。

 うん、やっぱ厄介事は早めに終わらせたいし、ただ渡すだけだろ?

 すぐに終わるじゃねぇか。


 つか、俺ってこんなめんどくさい性格だったか?


「だぁぁぁ! かったりぃぃ!」


 こいつを返すと決めたから持ってたんだろうが。

 そうだ、追いかけてやるぜ。

 どっちみちいつかは渡さなきゃなんねぇんだ。


 目の前の赤信号を待ちながら、伊吹が住宅地の路地の方へ歩いて行くのをただただ眺める。

 早く青信号に変われと念じながら、学ランの内ポケットに仕舞い込んでいたブローチを取り出す。


 信号が変わると同時に駆け出す。

 伊吹はまだ曲がり角を曲がっていない。

 今話しかければミッション達成だ。

 案外楽勝なもんだった。


「いぶ……」



 が、俺は途中で口をつぐんだ。

 何せ、目の前を通る伊吹の、ぴったり後ろをついていたのはフードの男。



 今朝に考えていた事が的中したのか?

 もしかして、あいつらは伊吹さえも狙ってるってのか?

 頭の中で情報が錯綜する。

 あいつが追われる理由が分からない。


 今は分からないが、とにかく伊吹をなんとかしてやんねぇと。


「って、なんで俺が助けてやんなきゃなんねぇんだよ……」


 不満を口にこぼしながら、とりあえず信号を渡り切る。

 その間に伊吹は路地に入った。

 それを追う様にフードの男も路地に入る。

 まずい、路地にいかれたら人目につかねぇ。

 そうなったら野郎共は何しでかすか分からん。


 俺は追跡者の更にその後を追う。

 伊吹は後ろに気づいてない。

 そして、あの男も俺には気づいてない筈だ。

 追ってると思ってたら追われてるなんて間抜けな話だぜ。



 が、路地に入って曲がり角を曲がった瞬間、そこには伊吹と男の姿は無かった。



「……?」


 俺が遅かったのか?

 二人を見逃した?

 いや、違う。


「最初から分かってたって感じだな……」


 背後を振り返ると、さっきの男がいた。

 そして、気色の悪い笑みを浮かべながらハンドサインを送ると、同じくフードを被った連中がぞろぞろと現れた。

 数にしたら十人くらいか。

 どうやら、俺がつけている事を知っていて待ち伏せしていたらしい。

 宇都見の忠告を聞いて、すぐに帰っていたらこうはなってなかったろうな。

 そもそも、伊吹を追わなければこんな目には遭わなかった。

 いや、今はネガティブになっても意味ねぇ。


「……全く、モテる男は辛いぜ。女の子だったら嬉しかったんだけどよ。ま、あの女を追ってた訳じゃねぇなら、半殺しくらいで許してやるぜ」


「くく、くくく……」


「あぁん……?」


 伊吹を追っていた男は不敵な声色で笑う。

 微かに見える口元は大きく歪んでいた。



「伊吹涼香……あいつが無事だと思うか?」



 その台詞は、明らかにあいつの身の危険を知らせるものだった。


「……てめぇら、何する気だ」


「あっはっはっは!」


 全くもって訳の分からない展開になってきた。

 何故か休んだ筈の伊吹が学校の外をうろついていて、何故かフードの連中に追われてて、そして俺が助けようとしている。

 ここまでやってやる義理なんかない筈だが、追ってる内に勝手にこんな状況になっちまった。


 こうなったら、伊吹の奴を助けてやるまでは帰らねぇ。


「女相手に何しようとしてんのかは分かんねぇが……とりあえず、ぶっ飛ばす……!」



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