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罪深き魔術師共  作者: ルカ
28/60

28話 烏合の衆

 煌びやかなシャンデリア、大理石の床、壁に飾られた有名画家の絵画、まさに、絵に描いた様な高級ホテル。

 そのフロント、これまた高級そうなソファに腰かけるのは、白髪赤目のあの男。

 白シャツにジーパンと言うラフな格好。

 それもその筈、本来ならば人で溢れ返った空間だが、秘匿結界によりこのホテル内を自由に扱っている。

 ハリボテの空間とは言え、質量は全て本物。

 本物と違う点は、従業員も他の客も存在しない静寂な空間である事。

 隠れ家にしては充分過ぎる。


 目の前のモダンなテーブルにはモーニングコーヒーが置かれ、スマートフォンを眺めながら、それを優雅にすする。


 なんとも贅沢な一時。

 それは誰にも邪魔されない、憩いの空間。


「んー、そろそろかな……そ、そうだ! 香水とかつけとこうかな……」


 そわそわと誰かを待つ男のもとに、一人の少年が現れる。

 まるで猫の様に、あくびをしながらの登場。


「アニキが緊張するなんて、珍しいにゃー。ほーら、リラックス、リラックス〜」


 黒の短パン、カーキのジャケット、クセのついた長めの茶髪はダウナーな印象を演出していた。

 身長は低め、声は女性と変わらないくらい高め。

 中性的で、中学生くらいの容姿。

 特徴的な口調と、童顔な事も相まって、余計に幼く見えてしまう。


「緊張はしていないさ。ただ相手は初対面だからね。第一印象は重要だろう?」


「じゃあさ、この前のスーツとか着ればいいんじゃない? あれならピシっと決まるよね」


「あれは普段着じゃないんだ。戦闘服みたいなものだよ。魔力が伝達しやすい素材でね、攻防共に隙が無くなる。そんな物を着てたら、逆に威圧してるみたいだろう?」


「え〜! アニキのスーツ姿、かっこいいのにな〜。あ、そういえば、この前の作戦はどうなったの?」


「……おいおい、もう忘れたのかい? アキノに遺物を奪わせる手筈だったが、結果的に暴走。その後の消息は不明だ。おおよそ、負けて捕まったんだろうさ」


 淡々と話しながら、テーブルに並べたティーカップに、一つずつコーヒーを注いでいく。


「この前のウツミもダメだったもんねぇ。わざわざ″兵隊″たくさん持ってったのに、負けちゃって……」


 リオと呼ばれた少年は呆れ気味にソファに腰をつく。


「兵隊、ね……あれは所詮、魔力を与えただけの一般人だ。元々の運用は、風間蓮斗がどんな固有魔術を持っているのか、それを確かめたくて運用していたけど……」


「ただ馬鹿みたいに殴って来ただけ。それらしい魔術は披露しなかった。それじゃあ分かんにゃいよねー」


「ああ。アキノも恐らくは奴にやられた。風間蓮斗の能力も、実力も、全て未知数だ。だが、次の作戦は安心していい。()()()さえ来れば、後はどうとでもなるのさ」


「ふーん……なんか大変そうだにゃー。なんでそんなにイブキリョウカの持ってる遺物にこだわるのさ。たった一個の遺物欲しさに、そんなリスク背負う価値ある?」


 男はティーポットを置き、クールに口角を上げた。


「あるんだな、それが……」


「へぇ〜。ま、いいや。僕、眠くなってきちゃった。寝ててもいい?」


「……いや、起きててくれ。もうご登場の時間らしいから」


「んー?」


 カーペットの床を大股で踏みしめながら、男が現れる。

 威厳と風格の漂う、厳格そうな男だった。

 筋骨隆々、センター分けの黒髪、口元を晒したくないのか、黒いマスクを着けている。

 身長も高く、アスリートと勘違いするくらいに大柄だった。


「あの人が今回の協力者の内の一人。粗相は無しだよ?」


「わ、分かった……」


 白髪の男は立ち上がって軽く会釈をする。


「いやぁ、わざわざ来て頂いてありがとうございます。疲れたでしょう。どうですか、一緒にモーニングコーヒーでも……」


「悪いが、あまり長居したくないのでな。話は手短に」


 スーツの男は、その鋭い目つきで、不愉快そうに白髪の男を睨みつける。


「……おーっと、これはこれは。でもそれはそうですよね。この事が貴方様の″主人″にバレたら……」


 男の眉がピクリと動く。


「おい、余計な詮索は無しだ。共闘を無碍(むげ)にしたくないなら、その不快な口を閉じろ」


 次に睨み返したのはリオだった。


「……ねぇアニキ、こいつ殺していい?」


「落ち着くんだリオ。ここは社交的な場だ。ああ、そちらも、あまりウチの連れを刺激しない様に。えっと……何さんでしたっけ?」


「先に名乗らねばならないのも不快だな……鹿島(かしま)だ。礼節を重んじるなら、貴様も名乗れ、白鼠(しろねずみ)


「はっはっは! センスのあるあだ名だなぁ! ええ、ええ、そうですね。ならば、『ホワイト』、とでも名乗っておきましょう」


「あくまで(かた)るか。好きにしろ……」


「お気に召して頂いて何より……さて、()()()()も来たようで……」


 ホワイトと名乗った男は、鹿島の後ろを覗く。



「お待ちしてましたよ。アンジェ・ルーガー」



 彼だけがその存在に気づいていた。

 未だ、エントランスの扉の付近。

 そこにいる女の存在に。



「……異常な察知能力、気色悪い男だ……」



 ふんわりセミロングのベージュの髪に、切れ長の碧眼。

 モデルの様な細長い脚、それを黒のブーツが女性らしさを際立たせていた。

 黒スーツにタイトスカートを着ていて、さながらSPの様な風貌。

 全てを見透かす様な鋭い眼、それでいて、清廉で可憐な容姿。

 コツコツと床を鳴らしながら歩くその姿は、まるで『天使』の様だった。


 そのあまりに上等な容姿に、反応する小僧が一人。


「うわ……めちゃくちゃ美人さん……! 僕、この人とは仲良く出来そう!」


「貴方が来てくれたら、作戦も上々、成功間違い無し、ですね」


 喜々とする二人の横で、鹿島は動揺を見せる。


「アンジェ……まさか、あのアンジェか……こんな所でまみえるとは……」


「……ふん、人の顔を見るなり失礼な奴だ。お前に何か不都合でもあるのか?」


「い、いや……なんでもない……」


 アンジェの威圧的な眼差しに、鹿島は更にたじろぐ。


「世辞も御託もいらない。さっさと話を始めてもらおうか。ホワイトとやら」


「……ええ。まずはどうぞおかけになって……」


「立ったままでいい。こちらも長居する気は無い」


(うぅ……なーんか、皆冷たいな……)


 冷ややかな態度に若干傷つきつつ、ホワイトは咳払いをする。


「……ええ、それでは手短にいきましょう。わたくし達の目的は、伊吹涼香の所持する遺物の回収。それだけ聞くと簡単に聞こえますが、相手の一派の中には、()()影の魔術師がいます」


「影の魔術師……これまたビッグネームだな。だが、名前だけが一人歩きしている様な奴だ。貴様、本当に正体を知っているんだろうな」


 鹿島は再び睨みをきかせる。


「ご心配には及びません。わたくしの目に狂いはありませんよ。あれは確実に影の魔術師、『ハザード級』の一人である事は間違いないのです」


「……だからこのアンジェ(わたし)を呼んだ訳か」


「ええ……貴方なら足止めは可能でしょう? ()()ハザード級のアンジェさん」


「影の魔術師か……面白い。どの道、対抗出来るのはこの私くらいだろうしな」


「おお、心強い。ですが、あまり時間は残されていない。何しろ、伊吹涼香が力に目覚める危険性もある。奴等がこの場所に気づく可能性もある。ここはスピーディーにいきましょう」


「……作戦の概要は?」


 アンジェは食い気味に疑問を投げつける。


「……先程話した通り、アンジェさんは影の魔術師の排除。そして、鹿島さんは伊吹涼香の無力化、及び風間蓮斗の排除。サポートは、ここにいるリオが請け負います。仲良くやって下さいね」


 ホワイトはリオの頭を小動物の様に撫でる。


「ふん……まぁ良いだろう。だが、見返りの件は忘れていないだろうな」


「勿論ですよ、鹿島さん。貴方の目的は魔女の遺物。そして、アンジェさん、貴方の目的は……」


「伊吹涼香の命だ……腕を折ろうが、足を折ろうが、状態は構わない。だが、始末は私がやる。それさえ守ってくれれば、こちらから言う事は無い」


「ふふふ、皆さん、腹は決まっている様ですね……いやぁ安心しましたよ……くくく……」


 アンジェと鹿島は了承しつつも、不信な面持ちで男の顔を覗く。

 何せ、目の前にいるのは得体の知れない魔術師。

 異様な雰囲気を纏っているのを、肌に感じていた。

 故に警戒をずっと強めているが、ホワイトはなんのけなしに、天井を見上げ笑っていた。


 彼にとっては、警戒されている事実など、毛ほども興味は無いのだから。


「ああ、前夜祭の様な良い気分だ……楽しみだ、奴等の顔を拝むのが……」


 恍惚な表情は、本当に祭りを待つ子供の様な顔だった。

 争いを心の底から好む、異常者の顔だった。


 戦いの幕が上がるのは、最早時間の問題。

 刻々と迫る危険を、風間達は知るよしも無かった。


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