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罪深き魔術師共  作者: ルカ
27/60

27話 宇都見、再び

 宇都見集、この男とのファーストコンタクトは不思議なものだった。


 入学当初から、『ヤバい奴』として周りから見られていた風間は、完全に孤立していた。

 しかし、その状況が多少マシになるのは、宇都見がいきなりアメリカ人顔負けのボディランゲージを決めたのがきっかけだった。

 いきなりの熱い抱擁、訳の分からないハイテンションな言動。

 風間自身も、その時にはぶん殴ってやろうかと思ったが、なんとも奇怪な事に、手は出なかった。


 しつこく、皮肉に、それでいてどこか爽やか。

 他人の顔色を見ている様で、我を持った宇都見の性格は、これまた奇妙な事に、風間とは波長があった。


 それから、一年と言う歳月をかけて、次第に友情を感じ始めていた矢先、あの駐車場での戦闘は起こってしまった。

 あれから一週間以上、再び宇都見とまみえた風間は、友情を感じる事は無かった。

 それ故、見た瞬間には既に拳を握りしめていた。



 数秒後、思わず目を伏せる様な右手ストレートが炸裂する。



「おぉらぁぁぁ!!」


「ごふっ!!」


 有無を言わせずぶん殴る風間。

 地べたに這いつくばる宇都見。

 それを見て不安げな伊吹。

 三者三様、はたから見ればおかしな状況だった。


「どのツラ下げて来やがった宇都見ぃ! のこのこと学校来やがってよぉ!」


「そりゃあ、俺はここの生徒だぜ……? あんまり休むと進級に響くだろうが……いてて……」


「おい伊吹、ちょっと下がってろ。こいつは何すっか分かんねぇ」


「おいおいおい! そいつぁ心外って奴だ! 俺はなんにもしてないぜー? お前は罪の無い通行人すら殴るのかー? そりゃないぜー!」


 口から血を流しながらも、そのふざけた態度を止める気配は無かった。


「何もしてないだと……? お前、歯全部折るぞ」


「いやぁ、怖すぎだろ兄弟! あっはっは!」


 埒が明かない状況の中、風間のスマホがブルブルと震える。

 風間は舌打ちしながらも、その着信に応じた。


「……もしもし?」


『やぁやぁ風間君。元気かい?』


「いいや、全く。今さっき元気じゃなくなったとこだ」


『あー、なるほど、宇都見君のせいだね。今シャドウの視界をジャックさせてもらっているよ。無事に合流出来たようだ。いや〜良かった良かった』


「なっ! もしかして、こいつを送ったのはヒトミンか!?」


『いかにもそうだ。と言う事で、今日の放課後、ボクのラボで待っているよ。ちゃんと、″三人″で来るんだ。分かったね? それじゃ』


 一方的に切られる電話、そして、それを見てまたニヤける宇都見。


「つまりよー、俺が出歩いてんのは()()公認なんだって。いい加減分かってくれねーか?」


 久々の会話で分かった事、それは宇都見の性格。

 人の神経を逆撫でする喋り方は、なんら変わっていなかった。


「こいつ……!」


「もういいよ風間。こんな事してても平行線のまんま」


「でもこの野郎を野放しには……!」


「分かってるって。多分だけど、宇都見の影にはシャドウが入ってるんじゃない? 見張ってれば、悪さ出来ないだろうし」


「おっ! さすがは伊吹ちゃん! そこの石頭より賢いなぁ!」


「お前、右足折るぞ」


「おい兄弟! 冗談でもビビるぜ! あっはっは!」


「とにかく! 昼休み、そろそろ終わるし、一回教室戻ろ? アタシはこの前事件現場にいたワケだし、今はあんまり悪目立ちしたくないし……アンタだって同じ気持ちなんじゃない? 宇都見」


「伊吹ちゃんなら、下の名前で呼んでくれてもいいよ?」


「調子乗んなし、クソ野郎。苗字呼ばれんのすらキモいわ」


「ふー! 辛辣ぅー!」


 と、伊吹は苛立ちを見せながら、足早に屋上を後にする。

 その場には男二人が残された。

 裏切り者と、裏切られた者、異様な空気が辺りに流れる。


「……いやー、参ったな。でもまぁ、そりゃあ嫌われるよな。殺そうとしたもんなー」


「マジで何がしたいんだ? てめぇは」


「はは、お前に言っても分かんねーよ。足りねぇ頭でちっとは考えるんだな」


「どっちが足りねぇ頭だ? さっきの言葉は冗談じゃねぇぞ……?」


 風間が右足で一歩踏み出すと、宇都見はそっと手の平を前に突き出した。


「おっと、あんまり怖い顔で近づくなよ。そんな顔されたら……」


 宇都見は、まるで手品の様に学ランの裾から銃を取り出す。



「撃つぞ。風間」



 そう言い放った顔は、ふざけた態度を微塵も感じさせなかった。

 あの戦いの時と同じ、冷酷な目だった。


 向けられた銃口を覗きながら、風間はため息をつく。


「…………なるほど。やっぱりてめぇとは、二度と馴れ合いはごめんだ」


「奇遇だな。俺もそう思ってたよ。()()()、俺の誘いを断ってなけりゃ、こんな事にはならなかったかもな」


「馬鹿が……おら、殴らねぇからさっさと行けよ。伊吹の言う通り、目立つと面倒だぜ?」


 宇都見は拳銃を再び裾にしまい、その場で翻す。


「じゃ、お言葉に甘えるわー。あぁ、そういえば、伊吹ちゃんとは仲良くなれたかよ」


「……お陰様でな」


「そうか……そいつぁ良かった」


 風間からは太々しい背中しか見えなかったが、その表情は、挑発的な態度とは程遠く、()()()()()



※ ※ ※ ※ ※



 御影ヒトミの研究室は、もう使われていない廃工場の地下に隠されている。

 それは人目につきにくくする為か、はたまた彼女の趣味なのか、彼女のみぞ知る。

 部屋は三つ程、大きさはマンションの一室と変わらないくらい。

 中にあるベッドも合計三つ。

 各部屋に配置されている。


 そして、今、彼等の目の前に置かれているベッドに、例の女は横たわっていた。


「……さて、呼んだのは、色々とこちらで進展があったからだ。纏めて三つ……まずは一つ目、この女の情報だ」


 伊吹の表情が少し険しくなる。


明野(あきの)(かえで)、地元の大学に通う女学生だ。交友関係は広くないが、常に明るい性格で、コミュニケーション能力も平均以上。あまり人と関わらなかったのは、魔術師である事を隠す為だろうね。上京して、都心の大学まで来たようだ。そして……!」


 ヒトミは目をクワッと広げ、後ろのホワイトボードに一枚の写真を勢いよく貼り付ける。


「……! こいつが……!」


 その写真には男が写っていた。

 白髪で長髪の男、聞いた情報と合致する。


「ああ、例の男さ。明野は最近まではバイトで学費を賄っていたが、きっかり一年で辞めている。これは明野の知り合いから得た情報だが……辞める少し前、この男と話している所が目撃されたらしい」


「えーっと……買収されたって事?」


「Genau(その通り)。鋭いね、伊吹君。ボクが遭遇したこいつが、やはり事の元凶だと思う。そして、二つ目は……」


「俺が話すんだろ? 博士」


「……そうだね。ふざけずに頼むよ」


「善処しまーす。さっそく話させてもらうが、さっきの話と同様、俺もこの男の所で『アルバイト』してたってワケ。仕事内容は、大体はブツの回収。『魔女の遺物』って奴さ。コレクター気質なのか、たくさん集めて何をしたいのかは俺にも分からない」


「そいつも魔術師なんだろ? 既に力に目覚めてる奴が、その遺物って奴を持ってて何か意味があんのかよ」


「基本的には無いね。アレは力の覚醒を促す物だ。既に魔術師となった人間には無用の長物。歴史マニアか、真の価値を知っている人間に売れば、金にはなると思うけどね」


「……とまぁ、そういう感じらしい。俺の推測じゃあ、こいつの目的は『ビジネス』だな。手に入れた遺物を売り捌いて、下のもんにマージンが回ってくる。そこら辺のマルチ商法よりは信用出来るが、ミスったら……おー怖い怖い……」


「ミスしたらヤバいって話なら、お前は一体どうなるんだよ。伊吹の持ってる遺物の回収は失敗したんだろ?」


「ああそうだな。俺の今の状況はちょーヤバい。そこがミソなんだ。ねぇ博士?」


「……ああ。さて、三つ目だ。心して聞いてくれよ」


 風間と伊吹は唾をゴクリと飲み込み、ヒトミはいつになく真剣な表情でホワイトボードを裏返す。


「こいつは……」


「奴の根城が分かった。ボク達は、ここに奇襲をしかける」


 ボードに書かれていたのは、市の地図。

 赤くバツ印が書かれた場所が、恐らく男の居場所である事を表していた。


「奇襲……今度はこっちから仕掛けるってワケか。ちょっとワクワクして来たぜ……!」


「とは言ったものの、ここからは慎重に立ち回らないといけない。この前の様に、民間人が巻き込まれるケースもあるし、敵の実力は未知数だ」


「ヒトミンが逃しちまうくらいだしな……」


「……その上、奴の根城には、初見の魔術師も何人か潜んでいると思う。現状、戦える魔術師はボクと風間君だけ。このままじゃ勝算は薄い」


「おいおい、それじゃあどうすんだよ?」


「……えーっと、だから……」


 逃げる様なヒトミの視線の先にいたのは、言うまでもなくあの男。


「この俺、宇都見集が手伝ってやろうって話だ。つーワケでよろ〜」


「「…………」」


 一時は敵として戦った宇都見の、共闘の申し出。

 自信満々な宇都見を見て、急に気分が落ちる風間と伊吹。

 戦力増強とは言え、チームワークには不安しか無く、ヒトミは苦笑いを浮かべていた。


「ま、まぁそう言う事だから! みんなで頑張ろー! あは、あははは!」


「「…………」」


「うわっ……俺の好感度、低すぎ……?」


 かくして、ここに新たなチームが結成されたのだった。

 嫌な邂逅を果たした三人を見て、再びヒトミは頭を抱えるのだった。


(幸先不安過ぎる……)



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