表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪深き魔術師共  作者: ルカ
26/60

26話 一難去って……

 四月は中旬に移り変わり、クラスの雰囲気も徐々に色を変えていく。

 授業等の勉学に対する姿勢はそう変わらないが、今までとは違う相手との交流。

 これが何よりの変化だった。

 普段話していた相手がいなかったり、逆に縁が無かった相手が隣にいたり、クラスが変わると言う事は、人間関係に多大な影響を与える。


 そして、何より変わったのが……


「ねぇ、りょーちゃん。今度また三人でカラオケでも行こーよ」


「そうそう。涼香、マジで歌うまいしさ。ウチもまた聞きてーし!」


「あんがと。別にいいよ。どうせ暇だしね」


 異様さを覚える光景。

 そこには怒りも恨み言も一切存在しない平和な日常。

 それ自体はただの学校のワンシーンに過ぎない。

 だが、伊吹涼香が他人と楽しそうに話している。

 それこそが異様さの原因だった。


「……いつの間にか、ダチみてぇになってんな。お前ら」


「あぁん? 乙女は情にアツいんだよ。ウチら、涼香に命助けられてっから」


「うんうん、そしたらもうマブでしょ。B(ベスト)F(フレンド)F(フォーエバー)っしょ。ね、りょーちゃん♪」


「あはは……」


 七瀬朝陽、黒木夜香、この二人はあの事件の明朝、いきなり伊吹の所に現れ、一方的に謝罪し、一方的に絡む様になったのだった。

 あれ以降、伊吹もかなり丸くなり、あの二人とも普通に会話をしている。

 それはもう、普通の友達の様に。


「けっ……前まであんなに仲悪かった癖によ……」


「うわ、風間っち、ヤキモチ妬いてる男はモテないよ〜?」


「ヤ、ヤキモチだと!? 変な事言うんじゃねぇ!」


「うっわー、風間ってそういうとこあるよなー。いくら、涼香が好きだからってさー。独占欲って奴?」


「違えっつってんだろ! なんでも恋愛話にしようとしやがって! おい伊吹! お前からもなんか言ってやれ!」


「ははは、いーじゃん。二人とも楽しそうだし」


「お前……なんか性格変わってねぇか……!?」


「は、はぁ……!?」


 それは伊吹本人も気づかない変化であり、風間からすれば天地がひっくり返る程の変わり様だった。

 何せ、最初はこの世の終わりの様なファーストコンタクトで、パーソナルスペースを尊重し過ぎた机の離し具合だった。

 しかし、今の彼女は、休み時間は友人と他愛のない会話をし、周りの視線などを気にする事も無い。

 近くにいるにも関わらず、ヒソヒソとチャットを打っていた事も、最早懐かしさすら覚える。

 いつの間にか、伊吹の″普通″は大きく変わっていた。


「あ、やば、そろそろ購買のパン売り切れるわ」


「え!? ヤバいよヤバいよ〜! リアルにヤバいよ〜! 走るよあーちゃん!」


「マ? だりー……つーワケで、また来るわー。じゃね、涼香」


「……うん。また」


 おもむろに時計を確認したと思ったら、嵐の様に去っていく二人。

 そんな背中を見送り、伊吹はクスクスと笑う。


「ん?」


「いやぁ、確かにちょっと変わったかも。あの二人と仲良くなるなんて思わなかったし」


「最初はびっくりしたもんだ。アイツら、また突っかかって来るかと思ったら、いきなり『すいませんでした!!』だもんな」


「そーそー、で、気づいたら一緒になって駄弁ってたわ。こんな感じなんだね。学校で楽しく過ごすって。ほんと、アタシは何を意固地になってたんだか……」


「話してみたら、割と良い奴らだったろ?」


「うん……あーあ、こうなるんだったら、いっそ同じクラスが良かったな」


「そこは、来年に期待だな」


「来年か……これからどうなるんだろ、アタシ達……」


 ふと、未来の事を考えると、途端に思い出す。

 あの時の情景が。

 地獄の様な体験が。

 未来に希望を持てる様になった反面、襲われた事実だけが気がかりだった。

 それは、明るい明日さえも奈落に叩き落とす、対処しなければならない問題。


「……なぁ、昼休み、まだ時間あるよな?」


「え、多分……」


「ちょっと屋上で話そうぜ。ここで話すにはちょっとな」


「……分かった」


 若干重い足取りで屋上へと向かう二人。

 魔術師絡みの事をクラスで話す訳にはいかず、いつの間にか、屋上は二人の溜まり場となっていた。



「……ふっ、楽しそうじゃんか……」



 そこに、二人をつける怪しい人影。

 秘匿は最早、そこには無かった。



※ ※ ※ ※ ※



 水羽大橋での炎上騒動から一週間弱、捕まっていない犯人に対して、地元民の間では、『手から火を放つ女がやった』、『あれはきっと魔女の仕業だ』と、いろいろな憶測が飛び交ったが、結局の所は捕まっていないので分からない。

 そういう結果に落ち着いた。


 無論、それは表向きの話。

 事件の元凶である明野は、ヒトミの研究室にて拘束され、今は眠らされている。

 これは警察が動いた所でどうにもならない話であり、魔術に関わりの無い一般人では想像もつかない突飛な話だった。

 これを知るのは、風間と伊吹とヒトミ、そして、明野と知り合っていた謎の男だけだった。


「……まぁ、あの女は今んとこ問題ねぇ。ヒトミンに任せときゃ安心だろ。だが、問題なのは真の首謀者だ。そいつをなんとかしねぇ限りには、俺らはずっといつ来るかも分からねぇ奴等に怯えるワケだ」


「白髪の赤目の男……そんな目立つ奴なのに、まだヒトミンが見つけられて無いんでしょ? ワケ分かんないし……」


「シャドウに色々と探らせてるらしいが、ダメらしい。一応、俺らのボディガードに一人ずついるとは言え、元凶が健在って思うと、やっぱ心配だよな」


 シャドウが返事する様に、二人の影の中で小さく蠢く。


「……アタシも魔術が使えたらな」


「その必要はねぇ。お前、ようやく学校生活がマシになって来たんだろ? もういいじゃねぇか」


「でも……」


「その白髪野郎をぶちのめせば終わる話なんだ。だから、俺とヒトミで終わらせる。お前までこっち側に来る必要はねぇよ」


「……どうしてそこまですんの? 別にアタシにそこまでの恩なんて無いじゃん」


「ここまで来たら今更だろ。心配すんな。この俺様がちゃちゃっと終わらせてやるぜ」


「そんな事言って……アタシがまた手助けする流れにならなきゃいいけど」


「み、耳が痛えな……」


 バツの悪そうな風間を見て、伊吹は悪戯に笑う。


「そういえばよ、七瀬と黒木って、なんでいきなりお前にあんなベタベタしてんだろうな。一応は、宇都見の件はまだ誤解されてたまんまだろ?」


「え? いや、その事は勘違いだったって話で終わったし」


「……そうなのか?」


「うん。()()()()()()()()()らしいから、誤解はもう解けたってワケ」


「うんうん、そいつは良かった……ん? 待て。宇都見と連絡取れた?」


「んー……あれ? って事は……」


 話に夢中だったせいか、屋上に続く扉が開いた事を二人は知らない。

 背後に誰かがいる事すらも気づかず、その話を、この第三者に聞かれているとは、知るよしも無かった。



 その男は、既に背後。




「おーおーおー、そんなに俺の噂をされたら、くしゃみが出ちまうよ。なぁ、風間、伊吹ちゃん」




 その飄々とした物言いは、最早推測するまでもない。


「てめぇは……!」


 振り返ると、そこにはニヤケ面をかますアイツが立っていた。



「……宇都見っ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ