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罪深き魔術師共  作者: ルカ
25/60

25話 後始末と言う名の贖罪

 風間蓮斗、年齢十六才。

 ガラの悪い風体のせいで、女性どころか、同性の友人すら皆無に等しい。

 交際経験などある訳無し。

 天涯孤独が約束された様な男。


 しかし、そう思われていた彼にも転機は訪れる。

 その転機とは、まさに今日。


 男子高校生がウブな少年に戻る、そんな一大イベントが訪れたのだ。



 それはまさしく、デートであった。



 白シャツ、七分袖のジャケット、チノパン。

 無難、それでいて、本人曰くはオシャレなコーデで、デート(勝負)に臨む。

 いつもは毛嫌いしていたであろう香水もつけてしまう始末である。

 そのくらいに、今日と言う日に全力投球だった。


「……ごめん、待った?」


 そして、現れたのは、オシャレ番長の伊吹涼香だった。

 黒のトレンチコート風ワンピース。

 手にはレザーのハンドバッグ。

 どこからどう見ても、高校生と言うよりは、一流ファッション誌のモデルと言う風格だった。


 ただでさえプライベートの格好なのに、ここまで気合を入れられては、風間が動揺するのも頷ける話ではある。


「お、おお……! ぜ、全然待ってねぇよ!? 今来た所だぜ!?」


 否、一時間前から来ていた。


「そっか。じゃあ行こっか」


 緊張する風間をよそに、伊吹は何事も無くスタスタと目的地を目指す。


「お、おいおい待てよ! つか、どこ行くのか聞いてねぇし!」


 そもそもの発端は二日前に届いたメッセージだった。

 夜中にいきなり、『次の日曜日、会える?』と、こんな事を言われ、動揺と興奮の最中に快諾した事以外は、何も理解していなかった。

 今日どこへ行くのか、何をするのか、語られはしなかったし、聞きはしなかった。

 それはかなり都合の良い解釈を風間が行った弊害であって、実際の所はかなり違った。


「どこ行くのって……言ってなかったっけ?」


「集合場所しか聞いてねぇよ。第一、ここら辺に遊ぶとこなんてねぇぞ」


 二人が集まったのは、バス停の近く。

 だからと言ってバスを利用した訳では無く、あくまで分かりやすい場所だったと言うだけ。

 大通りがある他には、基本的には住宅街。

 デートスポットとは程遠く、うるさいくらいの喧騒はどこに居ても聞こえなかった。


「……ま、とにかく着いて来てよ」


「……?」


 ハテナマークを浮かべながら、向かった先には、大きな建物が見えた。

 白い外装に、角ばったデザイン、広い駐車場。

 少し歩けばすぐ着くくらいに近くにあった。


 その建物は、市の総合病院だった。



※ ※ ※ ※ ※



「……はい。ありがとうございます」


 伊吹は面会の手続きを済ませ、どこか暗い表情のまま風間のもとへ歩く。


「それじゃあ行くよ。あんまり大きな声出さないでよ?」


「……それはいいんだけどよ。誰か知り合いか? 俺も合わなきゃいけない様な奴?」


 目的の病室へ向かう階段を登りながら、伊吹は少し間を空けて話し始める。


「アンタにも……知って欲しい事。これは、アタシが犯した罪なんだよ」


 それが誰なのか、その問いには答えなかった。

 さっきの暗い表情に答えがあるとすれば、もう一つのヒントは、今言った″罪″と言う言葉だろう。


 先程までの、浮ついた思考回路は消え去り、風間の顔にも嫌な緊張が現れる。


「な、なぁ伊吹」


「……着いた」


 色々と聞く前に、目的地はすぐそこだったらしい。

 204号室、病室のネームプレートには、草野(くさの)奈々(なな)の名前。

 当然ながら、聞き覚えの無い名前だった。


「さっき、知り合いかって聞いたよね? 違う。知り合いじゃない。今さっき手続きした時も、親族だって嘘ついた。顔も見た事無い」


「はぁ……? 意味分かんねぇぞ?」


「アタシとの関係は今はどうでもいい。この子は、ただの被害者だから……」


 そう言って、ゆっくりとドアを開けた。

 病床に伏せていたのは、やはり見覚えの無い少女。

 ショートヘアーのまだ幼い子だった。

 顔に至る部分まで包帯が巻かれ、痛々しいその姿は、尋常な事故では無かったとすぐに分かった。


「……ひでぇ怪我だ」


「頭まで縫う程の大怪我、下手すれば死んでたらしい。なんとか命は繋いだけど、意識は戻らず重体。今もこの子は、苦しみ続けてる」


「なんだってそんな事に……」


「水羽大橋爆破事件、その被害者」


「それって……!」


「そう、この間のね。あの女が最初に撃った火球は、走ってる車にぶつかった。大きな爆発と一緒に、車の後部座席が吹っ飛んだ。運転席と助手席にいた両親はたまたま軽症で済んだけど、この子は巻き込まれた……何も悪い事なんてしてないのに、こんな事になったんだ……!」


 伊吹は唇を噛み締める。


「誰が悪いのかなんて馬鹿でも分かる。でも、目の前で起きた事だから、一概に関係無いなんて言えない。九分九里、あの女が元凶だったとしても、アタシが救えた可能性はあったんだ。この子が痛い思いをせずに済んだ未来があった筈なんだ」


 後悔と苦渋を吐露する伊吹に、風間は口をつぐむしか無かった。


「……アンタはアタシに優しくするだろうから、アタシのせいじゃないって、後で言ってくれるだろうし、多分そう思ってる。だけど、これはやっぱりアタシの責任。()()()はしっかりしなきゃいけない」


 伊吹がゴソゴソとバッグから取り出したのは、見覚えのある不思議な紋章の紙だった。


「あ、それは……!」


「そう。『治癒紙(ちゆがみ)』って言うらしいよ。ヒトミンから貰ってきた。使い方もちゃんと聞いてきた。魔術師じゃないアタシでも出来る、魔法の道具」


 それは、風間と伊吹の怪我を治す際にも使われた魔道具の一つ。

 貼り付ける事によって、一時的に魔力を得、その魔力を治癒力に変換する。

 つまり、魔術師以外の傷も治せる代物である。

 道具自体に力がこもっているので、伊吹でも扱う事が出来る。


「確かに、それがあればこの子を助けられるかもしんねぇな」


「そう。これさえあれば、すぐに目を覚ます。これがアタシの贖罪なんだ……」


 伊吹は治癒紙をそっと、その子の腕に巻きつける様に貼り付ける。

 すると、伊吹の肉眼では見えないが、その紙から緑がかったモヤが現れる。


「へぇ……こんな感じなのか……効いてる感じはするな」


 みるみる内に少女の血色が良くなっていく。

 包帯の内側は見えないが、恐らく、怪我も徐々に塞がっていくだろう。


「……不幸中の幸い、なんてよく言うけどさ、本当は不幸の一つもあっちゃいけなかったんだ。ましてや、こんな魔術師絡みの事件に巻き込まれるなんてね……」


「マジにろくな事が起きねぇな、この力はよ」


「うん……でもさ、今そのろくでもない力がこの子を助けてる。誰かを傷つけない力もあるって、知れたのは嬉しいかな」


 伊吹はそっと少女の髪を撫でた。


「大丈夫だよ……すぐに、すぐに良くなるから……」


 慈愛に満ちた表情だった。

 ついこの間までの彼女には出来なかった顔。

 風間も思わず見惚れてしまう様な、まるで天国の様な世界がそこにはあった。

 優しく、強く、それでいて儚い。

 それが、変化を経た、今の伊吹涼香だった。


 が、そんな時間は元より許されてはいない。

 関係者でも無い為、家族と鉢合わせれば警察沙汰は避けられない。

 長居は無用だった。


「あー……そろそろ行くか。俺らがいて、いきなり治りましたってなったら、めんどくせぇ質問地獄だ」


「……それもそうかも。サツにバレたらダルいもんね」



 と、思ったのも束の間、重いまぶたはすんなりと開いた。



「……あ、れ……おねーちゃん達……だれ……?」



 流石は魔術師の叡智の結晶。

 少女を起こすのに、数分かからなかった。

 しかし、今はその高性能さが恨めしい。

 お陰でバレてしまう事態を呼んだ。


「まま、まずい……! 言わんこっちゃねぇ……伊吹、早く行くぞ……!」


「分かってる……! あ、あの、アタシ達怪しくないから! なんもしてないから!」


「……これは……?」


 少女は腕に巻かれた紙を見つめる。


「あー、それはー……そう! 魔法の紙! お姉ちゃんからのプレゼントー、なんちゃって……!」


「子供誤魔化そうとしても意味ねぇだろ! ほら行くぞ! 嬢ちゃんはお大事にな! 俺らの事は黙っててくれよなっ! そんじゃあ!」


 まるで泥棒の如く、名も無い魔法使いは足早に去っていった。

 その二つの背中を、少女は寝ぼけまなこで見ていた。


 起きてすぐに全てを理解出来た訳では無い。

 自分が目を覚ました事、怪我をしていた事、全てが半信半疑だった。

 だが、確かに目の前で起こった事は奇跡の一つで、その奇跡を、目の前の女子高校生が、善意でやってくれた事だけは直感的に理解出来た。


 それ故、少女は一言ポツリと呟く。



「ありがとう……魔法使いのおねーちゃん……!」



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