24話 綻び
未だに体は火照っていた。
異様な状況が、異常な情緒に陥らせ、意味不明な興奮があった。
深い絶望、そこからの生還。
そんな経験を二日連続で体験しては、こうなってしまうのも頷ける。
まさに勝利の余韻だった。
しかし、悪い意味でそれも落ち着いてしまう。
目の前には嫌と言う程に見慣れた家。
無駄に広く、無駄に豪華な一軒家。
ガレージから見える高価そうな車は、威圧的にギラギラと輝いていた。
金を持っている、そう周りに見せびらかしている様にすら思えてしまった。
年季の入った扉を開けば、そこで始まるいつものルーティン。
靴の確認だ。
「ある…………や、当たり前じゃん」
日は完全に沈み、夜の帳が下りていた。
そんな時間から父親が外出する訳も無し。
ましてや、さっき出て行った時、そのまま自分を探しに行く事も無かった。
この靴がここにあると言う事は、つまりそういう事だ。
(いつもなら、このタイミングでやかましく来るんだけどな……)
ドアを開けた音が、家に響いたと言うのに、父親が現れる気配は一切無し。
遂に見限られたのかと、複雑な心境のまま、重い足取りでリビングの方を覗き込む。
(なんだ、やっぱいるじゃん……)
変わらず父はそこにいた。
ワイシャツ姿でテレビを眺めるその横顔は、いつもとなんら変わりは無かった。
ただ、その画面に表示されていたのはニュース番組。
水羽大橋、炎上。
そう見出しに書いてあった。
伊吹が巻き込まれた、あの魔術師が起こした事件のニュース。
父親は、真剣な眼差しでその画面に見入っていた。
(なんで、そんなニュース見てんの。もしかして、アタシがいつもあそこら辺でうろついてるの知ってて……)
「……? 涼香……?」
「……あ、やば」
振り返りざまに目が合ってしまう。
いつもの様に、あの剣幕を食らわせて来ると思いきや、父親は、動揺を隠す様に再びテレビの方を向く。
何かいつもと様子が違うのは明らかだった。
「……あまり、心配させるな」
そう言った父の、ソファにもたれたスーツは、どこか焦げ臭いにおいがした。
まるでさっきまで、その画面の向こう側にいたかの様な、伊吹が数時間前まで感じていたにおいと同じものだった。
それが何を意味するのか、鈍感ではない伊吹はすぐに理解した。
「……別に、アンタに迷惑かけてないでしょ」
「……ふん、勝手にしろ」
けれど、お互いに口から出た言葉は変わらず刺々しいもので、歩み寄る事は出来なかった。
いつもと変わらない去り際。
いつもと変わらない会話。
そのまま、何も言わず階段へと足を進める。
家での伊吹は、何も変わる事は出来なかった。
いつもの、乾いた日常。
そう思っていたが、その心情には確かな変化があった。
「(どんだけ不器用なんだよ……)」
囁く様に出たその言葉は、自分に向けたのか、それとも父親に向けたものなのか。
自分で言った癖にそれすら分からず、いつもよりゆっくりと階段を登った。




