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罪深き魔術師共  作者: ルカ
22/60

22話 最高で最大の反逆を

 燃え盛る火の音だけがパチパチと頭に響いていた。

 それ以外の物事など、全てが目を背けたくなる現状で、脳内はひたすらに拒絶を繰り返していた。


「あはっ、あはっ! ねぇ伊吹ちゃん、今どんな気持ち? 悔しい? 悲しい? ムカつく? それとも怖い?」


「なんで、アンタ、なんかに……」


 ガソリンが抜けていく様に、右足から血が流れ続けている。

 あの不意の一撃で、右足には風穴が空いていた。

 立つ事もままならず、そのまま地に座り込む。


「あ〜あ、なんかもうダメそうよね。でもまぁ、知りたいよねー。なんで私が分かったかって話。まぁ単純だけどね。ここ、敢えて攻撃しなかったから」


「……!」


「周りを全部火の海にしちゃえばさぁ、焼け死なない様にここを目指すでしょ? だから、あらかた攻撃した後に、すぐにここに来た。そしたらあなたがいたって訳。う〜ん、必然だね」


「それじゃあ……最初から……!」


「そう! ぜ〜んぶ無駄ぁ! もしかして、助けが来たと思ったぁ!? 残念でした♡ あっはっはっはっはっは!!!」


「クソ……! クソクソクソ……!」


 どうしてこうなった。

 アタシは結局、何も……


 絶望を煽る様に、アキノは右手をかざす。


「……最後に聞くけど、あなた、何か変われた?」


「は……?」


「変わるだとかなんだとか! 言ってたでしょうがぁ! 結局あなたは! いや、お前は! なんにも変わってない! 無様に死ぬ未来も! 変えられなかったねぇ!!! ざまぁみろ!!! あーはっはっはっはっは!!!」


「くっ、ぅぅぅぅ……!!!」


 惨めだ。

 何も出来ないまま終わるんだ。

 誰でもいいからなんとかして欲しい。

 アタシ、こんな所で死にたくない。

 死んだらどうなるの?

 知りたくない、知りたくない、知りたくない。


「あーっはっはっは!!! さっきまであんなにイキってたのにこれぇ!? 笑っちゃうわ! ほんと笑っちゃうわ!!!」


 何も変わってないじゃん。

 変わったなんて、まやかしじゃん。

 この女の言った通り、全部口だけじゃん。

 でも、普通に考えたら、こんなの無理じゃん。

 こんな頭のおかしい奴、アタシ一人じゃどうしようもないじゃん。


「あはっ! 愛しのカザマクンは来なかったねー! お前が死んだところを見たらどんな顔するかなぁ!? ちょーーー楽しみぃ!!!」


「な、なに……?」


「お前の死体を置いといたらさぁ、泣くかなぁ? 怒るかなぁ? それでさぁ、その様子を動画で撮ってさぁ、ネットに上げたらウケるかなぁ? ちょー泣けるんじゃない? あははははは!!!」


 女は歪んだ笑顔で笑っている。


「で、その後にカザマクンも仲良く殺しちゃうのよぉ!!! 二人の死体を並べてくっつけて! 手なんか繋いじゃって!? それって『作品(アート)』じゃなぁい!? 超感動的ーッ!! ひゃーはっはっはっは!!!」


 弱気が全部、燃え尽きた。


「お前……お前お前お前ぇぇぇぇぇ!!!」


 体中がはち切れそうな怒りに包まれている。

 最早恐怖も悲しみも無い。

 この狂人を野放しにしてはいけない。

 怒り以上に、使命感があった。

 今まで芽生えた事の無かった、正義感だ。


「どこまで腐ってんだ……! どこまで人をコケにしたら気が済むんだ……! ここでただ殺されるなんて冗談じゃない!!!」


「怒った顔もぶっさいくだなぁ!! 気持ち悪いだけだからその顔止めた方がいーよー?」


 この潰された足じゃ攻撃を避ける事も出来ない。

 でも、避ける必要なんて最初から無い。

 いつかの風間が言っていた。

 やられたとしても、そこに意味はある。

 こいつの足を引っ張ったら引っ張っただけ役得。

 アタシが死んだとしても、死に様だけは立派だったと思いたい。


 どうせ死ぬならやってやる。


「このサイコ女……ぶっ潰す!!!」


「何が出来る訳ぇ!? お前みたいなクズがぁ!!!」


 アキノの火球が来る。

 チャンスは一度きり、アタシの事を舐めきっている今だからこそチャンスなんだ。

 しくじれば、そのまま死ぬだけだ。


 最後の最期の一手は、この、濡れたカーディガンだ。


 マントみたいに広げて、覆い被せる様に奴の頭に投げる。


「おわっ! ほんとこういう小細工好きだよねぇ! くっだらない!!」


 スタンガンは手元に無い。

 銃は川に落ちた時に多分壊れた。

 攻め手はこのなんの変哲も無い衣類。

 こんな女、たったこれだけで充分だ。


 後は最後の一歩を踏みしめるだけ。

 この馬鹿みたいに痛い右足を、アイツの所へ行く為に、たった一歩でいいから。


 動け、動け、動け、動け、動け。

 もう一生動かなくたっていいから、この一歩、この一瞬だけは動いてよ。


「動けっ……!!」


 発狂しそうな痛みは、アドレナリンが掻き消してくれた。

 お陰で、最後の一歩は踏み出せた。

 後はこの間抜けな状態のこいつを絞めるだけ。

 プロレス技みたいな()()をかますだけだ。


「これ……! 濡れて、張り付いて……と、取れない……!」


「そう言うと思った! さっきの言葉、そのまま返す! ざまぁみろ!」


 カーディガンごと巻き込んで、後ろからヘッドロックする。

 例え不細工なやり口でも、これがアタシの戦い方だ。


「ぐぅっ! ぅう……はな……せ……!!」


 服がへばりついて息が出来なくなってる。

 これを狙っていた。

 傷がつけられないなら、窒息させればいい。

 ジタバタと暴れているが離す気は毛頭無い。

 足を腰に回して完全にロックする。

 逃がさない。

 感覚が無くなったって離さない。


「死んでも離してやんない! 泡吹いて倒れろぉ!」


 どんなダサい格好でもやってやる。

 汚い手も使ってやる。


 この腕も足も使い物にならなくたって良い。

 力み過ぎて息が出来なくたって良い。


 それがアタシの執念。

 アタシの生き様。

 クソみたいな自分の卒業式。




 アタシの、人生最大の反逆だ。




「ーーーーーー!!!!!」



「離すかぁぁぁぁぁああ!!!!!!」



 絞めろ、絞めろ、絞め続けろ。

 今だけは、この地獄の様な痛みを忘れろ。


「ぅーーーーーーー……!!!」


 腕の感覚も危うくなってきた。

 それでも離さない。

 絶対に離さない。

 こいつが、くたばる、まで。


「離す……もんか……」


 離さない。



 離さない。




 離さない。





 離さない……






 絶対、離さない、そう決めていたのに。


「あれ……?」


 一度まばたきすると、目に映ったのは火に囲まれた空だった。

 地面に背中がついていると言う事がよく分かる。


「はぁ……! はぁ……! この……アマ……よく、も……!」


 たった数秒だけ気絶していたらしい。

 女は巻きついたカーディガンを取っ払っていた。

 顔を真っ赤にしているのがよく見える。


 最後の反逆は、()()になってしまった様だ。


「ははは……」


 不思議と笑いが出た。


「なに……笑ってんの……? 死ぬ間際で……おかしくなっちゃったぁ……!?」


「アキノ……アタシは読心術も占いも出来ないけどさ、一個だけ分かるよ……」


「へぇ……何? 遺言のつもり……?」


「アンタは、地獄行きだ……!!!」


 最期に言ってやった。

 遺言?

 クソ食らえ。



「死ね! 伊吹涼香ぁぁぁあああ!!!!!」



 アキノが迫ってくる。

 どうやら、マジでキレてるらしい。

 怒りたいのはこっちだっての。

 でもまぁ、悪くない散り際でしょ。




 さよなら、風間。



















「……よく頑張ったな。この勝負、お前の勝ちだ。伊吹」



 別れの言葉を考えていたせいか、その足音に気がつかなかった。



「え?」



 髪をツンツンに立たせた、見るからに不良で、優しそうに微笑んだ癖には、全然目つきは悪くて、でもその声を聞いた瞬間、心が躍った。



「風間っ……!」



 魔術師、なんて呼ぶには、あまりにも正統派過ぎるボクシングスタイル。

 低めの体勢で一気に近づき、懐に入り込む。


「え、ちょ……!?」


 そして、振り上げた拳は天よりも高く、更にその上に、アキノが吹っ飛んでいた。


「……ぶばっ!」


 それは、驚く暇さえ与えてくれなかった。

 まるで、漫画のページを一枚すっ飛ばしてしまった様な感覚。

 戦いは、瞬間的に、()()()()()()


「女に手を上げんのは好きじゃねぇ。だから一発だ。一発で沈め」


 口から血反吐を吐きながら、アキノはコンクリートに落下した。

 その姿こそが、戦いが終わった事を伝えていた。

 風間の渾身のアッパーは、あの恐ろしい魔術師を本当に一発でKOしたのだった。

 あんなに死ぬ気で戦っていたのに、あまりに簡単過ぎて、なんだか、肩の力が入らない。


「ふぃ〜、間に合って良かったぜ……って! また足から血ぃ出てるぜ!? だだだ、大丈夫かよ!?」


 カッコよく登場したと思ったら、どもりながら慌てたり、ぐっちゃぐちゃの表情は凄く間抜けで、そこにいるのは紛れも無く、『風間蓮斗』だった。


「……ぷっ! あっはっは!」


「おい! なんで笑うんだよ!」


「だ、だって! アンタ、あんなにカッコつけてた癖に、めっちゃキョドってんじゃん! あっはっは!」


「お、おめぇなぁ……」


 心の底から笑ったのはいつぶりだろう。

 こんなに嬉しい事も。

 暗いだけの明日が、こんなにも輝いているのはどうしてだろう。

 いや、一つしかない。


 それは多分、こいつのお陰だ。

 暗闇から引っ張ってくれた、この手のお陰なんだ。

 でも、それを言ったらちょっと調子に乗るだろうし。


 今だけは、一緒に笑って誤魔化した。


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