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罪深き魔術師共  作者: ルカ
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2話 最悪な新学期初日 2

 丁度一ヶ月前くらいからだろうか、訳の分からない奴等にいきなり襲われる様になったのは。

 それまでふっかけて来た奴は全員見知った顔だった。

 俺がボコった奴の仲間、後輩、先輩、彼女だったり、誰なのかが予想出来る連中だった。

 だがこいつらは、全員フードを被っていて、服装にも特徴がない。

 しかもしつこい。

 それに、毎回違う奴なんだこれが。

 そこまで顔が広いチンピラなんて、俺が殴った相手の中にはいない筈だ。

 もし親玉がいるんなら、もうやめてくれって泣きつきたいくらいだ。


 でも、逃げるのは癪に障る。


「おら、行くぜ馬鹿共」


 いつもと変わらず、追っ払う。


「……今日の俺達はいつもと違うぞ」


 いきなり喋ったと思ったら、よく分からない事を言ってやがる。

 まるで、しっかり準備してきましたって感じの物言いだ。

 そんな三下丸出しのセリフ、実際は大した事ないってのがオチだ。


「おいおい、強くなったつもりかぁ?」


 御託は関係ねぇ。

 こっちはいつもと変わらず必勝パターン。

 素早く近づき、手前でぐっと腰を落として、握りしめた拳をこいつのガラ空きのボディ目掛けて打つ。


 そして、こいつの腹に俺のパンチが炸裂……!


 する筈だった、いつもなら。


「あれ……?」


 フードの男は俺の拳を、一歩も引かずに受け止めていた。


 普通の奴なら、動きに合わせて身構えたり、ちょっとした動作がある。

 だのに全く動かなかった。

 俺が腰を落とした時も、目線を一切変えていなかった。

 大体、こいつが屈強な肉体をしてんだったら分かるが、そういう訳でもない。

 なんなんだこいつは?


 不敵な笑みが見えた時、段々と理解してきた。

 なるほど、()()()()()()()()()、と。


「……おい、これならどうだ?」


「……!」


 殺しちまうんじゃないかって不安だったからやんなかったが、さっきのを受け止められたんじゃやるしかない。


 単純に力を入れる訳じゃない。

 力任せにやるのは誰だって同じだ。

 でも、俺の場合は少し違う。

 何故周りと違う力の出し方が出来るのかは分からない。


 ただ、()()をやると、鉄板だってぶち抜ける。


 抑えられた右手で手を握り返し、空いた左手で逃げられないこいつの顔面を狙う。

 しかし、瞬時に避けた顔の横を拳がかすめる。


 拳の先にあったのは、植え込みから生えた木の幹だった。

 当たった瞬間、見るも無惨に()()()()()


「おっと、避けたか」


「お、抑えろ……!」


 咄嗟に傍の二人が俺に近寄る。

 その瞬間、片方の腕を掴んでもう片方へ背負い投げをかます。


「遅ぇな」


「ぐぁ!」


 近寄って来た二人は団子状態。

 うめき声を上げながら地べたに這いつくばった。

 これでこいつの相手が出来る。


「くっ……!」


 正面のフードの男は俺の体から離れた。

 危険を察知したんだろう。

 右手に力を入れた瞬間に明らかに動揺してたからな。

 だがもう遅い。

 ここまで近きゃ逃げられない。


 体の内から力が漲る。

 体の外には()()みたいのが見える。

 それがなんなのかは分からない。

 一つ分かる事は……



 明らかに人が持っていい力ではないって事だ。



 これは人智を超えた力、普通の人間には払っちゃいけない。

 だが、こいつらも多分同業者。

 使わなきゃやられるってんなら存分に使う。


 だから、最大限を込めたこの拳で。



「……チェスト!」



「う、うあぁぁぁ!!」






 が、殴る気は無かった。

 フードの男の目の前でその拳を止める。

 空を切ったパンチがそのフードをたなびかせた後、男は力なくへたり込む。


「……失せな。どうせ、てめぇらは何聞いても答えねぇんだろ?」


「……!」


 少し小突いたら分かった。

 こいつらは大した事はねぇ。

 フードの下から覗かせた顔は冷や汗たっぷりだった。

 負け犬の目だ。

 だけども今日は久々の学校、あまり騒ぎも起こしたくない。


「つ、次は無いぞ……!」


「負け惜しみ言ってねぇで、とっとと失せろ三下が」


「……い、行くぞ……!」


 と、雑魚丸出しの捨て台詞を吐いた男とその取り巻きは体を引きずる様に俺の視界から去っていった。

 普通だったら、あんな言葉を言われて怯える奴はいないが、今回は今までと少し違う。

 『次』ってのがミソだ。


「引っかかるな……」


 あの感じからしてまた来そうな感じはするが、次もあいつらみたいに()を持ってる奴が来たら、それも俺より強い奴が来てしまったなら。


「……ちっとまずいか」


 そもそもなんでこんな目に遭ってんだ俺は。

 俺が何したって言うんだ。

 ただ普通に学校生活を送りたいってだけなのに。

 よりにもよって新学期初日からなんでこんなに色々と……


「クソ……めんどくせぇ」


「おいおいおい、まだいたのかよー、風間」


 うなだれる俺の背後から声をかけてきたのは宇都見だった。


「……ああなんだ、お前か」


「なんだってなんだよ? つか、例のブローチは渡せたかい?」


「あ……!」


「は〜? ほんの数分前の事を忘れるか〜?」


 野郎共のせいで完全に頭から抜けていた。

 そうだ、あれを渡しに行こうと思ってたんだ。


「はぁ……流石にもう追いつく気がしねぇ……」


「また明日、だな。にしても、どうしてトロトロしてたんだー?」


 呆けた面で煽って来やがる。


「あぁ? 別にゆっくりしてたワケじゃねぇ。また絡まれてたんだよ。例のフード野郎共に」


「あー、この前言ってた奴等の事かー。タイミング悪いな。そりゃ災難だ」


「ああ本当に災難だ。本当によ……」


 自分の不幸は理解している。

 襲われる事も百歩譲って認めたとして、こっからどうするってんだ。

 あの連中は絶対に口を割らない。

 この前、同じ組織であろう奴等をボコした時には、足腰立たなくなるくらいには尋問したが、口から出た言葉はうめき声くらいだった。

 さっきの奴等を痛めつけた所で結果は同じだろう。

 その上、数もいるときた。

 一人一人ぶっ潰しても、うじみたいに湧いてきやがる。


「おーおー、顔色が悪いぜ〜?」


「お前は他人事みたく話せて羨ましいぜ……」


「おいおい、これでも心配してんのさ。まぁなんだ、そのブローチはまた明日渡してやろうぜ。そしたらきっとあの子の好感度も爆上がりさ。デートの一つくらいしてくれんじゃねーの?」


 全くこいつは危機感がないようだ。

 だが、そのデリカシーのなさに逆に救われる時もある。


「俺が悩んでたのはそっちじゃねぇが……ま、確かにそれもそうだ。ポジティブに行くか! よっしゃ、カラオケにでも行くぞ!」


「パス」


「えぇ……」


 励ましてくれた割には、やや食い気味に断られてしまった。


「俺、今日もバイトなんだよ。悪いな」


「そっか……ファミレスだっけか?」


「ああ、まあ……そんな所だな。てなワケで帰るわ。じゃあまた明日な」


「おー……」


 こうして、ノリの悪い宇都見に別れを告げられながら、俺が伊吹に落とし物を渡すイベントは明日に持ち越されたって訳だ。

 その上、面倒事はそれだけじゃない。

 フードの奴等の対処もしなければならない。


 ただ一つ分かっているのは、この問題は警察とかそういうのじゃ解決出来ない事だ。

 この()の事、俺はまだなんにも知らないんだ。


 何一つも……



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 重い足取りで少し錆びついた扉を開けると、生活ゴミの散らかったリビングがすぐに見える。

 玄関はまだ比較的綺麗だが、これでは、女どころかダチも呼べやしない。

 誰もいない空間に『ただいま』と一言放ち、スクールバッグを投げ捨て、制服のままゆらゆらと洗面台へ向かう。


 鏡に映ったその姿は、赤いシャツに学ランを羽織った人相の悪い男。

 アップバンクのツンツン髪は、個人的にはイケてると思うが、客観的に見たらどうなのだろう。

 少しオラついて見えるのか?

 最悪、見た目だけで恨みを買う事はないと思うが。


「マジであいつら誰なんだ……」


 自分の姿を改めて見つめる。

 当然ながら充分に見知った顔だ。

 高校二年生、風間蓮斗。

 好きな物は可愛い女の子と美味いメシ。

 嫌いな物は薄情な奴。

 親共から離れて一人暮らし状態。

 今や会話する人間はほぼ宇都見だけ。

 分かっている。

 自分がどういう環境で、どういう性格かと言うのをよく分かっている。


 だのに、俺は自分の事をよく分かってない。

 訳の分からない状況も。

 自分の()()も。


 放課後の事を思い出すと、面倒な気持ちがドッと出て、食欲すら湧いてこない。

 何もかもが面倒くさい。


「もう寝るか……」


 俺は異様に疲れていた。

 あの力を使ったせいだろうか。

 精神的にも肉体的にもきっと疲れたんだ。

 最早、風呂に入るのも億劫なレベルだ。

 こんな力さえ無ければ……


「……!」


 一つ、思った。

 こんな力を手にしたから、こんな目に遭っているんじゃないかと。

 これがあったから、俺は狙われたんじゃないか?

 あいつらも同じ能力を持っていた。

 だから俺の事を狙っていた。


 だとしたら、なんでその事を知っている……?


「…………いや、どうでもいい」


 コンマ数秒考えて、すぐに思考を放棄した。

 これ以上考えてたら本当に頭がパンクしそうだ。

 考えても、どうせ何も分かりゃしない。

 だが、おもむろに寝台へ向かいながら、思い当たる節を一つ思い出す。

 俺が昔、交通事故に遭った時の事だ。


 死ぬかもしれない事故。

 言わば臨死体験。

 あの瞬間、俺は確かに死んでいた。

 時速60km近い速度の鉄の塊が当たれば、子供なんて簡単に死ぬ。

 でも、俺は無傷だった。

 よく分からない()が聞こえた瞬間に、車は吹き飛んでいた。

 じゃあ、あの時から俺は力を持ったのか?

 死にそうになったから?

 神様みたいのが力をくれたってのか?


 馬鹿馬鹿しい、ファンタジーじゃあるまいし。


「くだらねぇ……」


 ベッドに着いた俺はふてくされながら、床に背中からダイブする。

 眠りゆく意識の中で、昔の記憶を思い出していた。

 あの事故の時、俺が大事に握りしめていた物。

 そうだ、祖父(ジジイ)から貰った万年筆。

 今思えば、あれが俺の体を守ってくれたのかな。

 お守りの様な、まじないの様な、不思議な力で。

 でも、もしあれのせいで俺の体が変わったとしたら……


 いや、ありえない。

 そんな事は……


 無駄な肯定と否定を繰り返しながら、記憶と現実が曖昧になる。

 眠りについた時、俺はあの日の夢を見ていた。


 慟哭と絶望の夢を。


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