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罪深き魔術師共  作者: ルカ
18/60

18話 小さな一歩

 あの二人は嫌いだ。


 アタシを責める奴等だし、人の迷惑も、誰の気持ちも考えず、いつも自分勝手。

 だから平気で人を見下せる。

 馬鹿にする。

 きっとそんな奴等なんだ。

 アタシ以外の人間にも、きっと辛辣な態度を取り続けているに違いない。

 さぞ恨みを買ってるに違いない。

 果たして、そんな人間が生きている価値があるのだろうか。



 そうだ、もし、誰かを殺さなくちゃいけないのなら、アタシは、アタシは……



「あは、あはは、良ぃ〜顔だな〜、伊吹ちゃん」


「……!」


「その顔! 鏡があったら見せてあげたい! 今、あなたの考えてる事が手に取る様に分かるよ! あの子達、知り合いでしょお!? それも仲の良い友達とかじゃなくてさぁ、はっきり言って嫌いな奴! ねぇそうじゃなぁい!? そうでしょお!?」


「ち、違う! 知らない! あんな奴等知らない!」


「酷ぉい。あんな奴等、なんて言われたら、あの子達泣いちゃうよ、同じ学校の仲間なのに……それともやっぱり私の言った通りなのかな? そうかな? 絶対そうでしょ」


「違う……アタシはそんな事、思ってない……!」


 一瞬頭をよぎった感情が、自分のものだなんて思いたくない。

 アイツらなら殺していいなんて、そんな事思ってない筈。

 アタシがそんな下衆な事を考えるものか。

 アタシじゃない。

 アタシじゃないんだ。

 今のは何かの間違いだ。


「……ま、いいけど。私決めちゃった。あの子達がターゲット。多分、野次馬みたいに騒ぎを見に来たんでしょうねー。馬鹿だねー。それで死んじゃうもんねー。おらおら、早く銃を向けな、さぁ」


「い、嫌だ……!」


 アキノが後ろから腕へと手を回す。


「ああ、使い方が分からない? そこのレバーみたいな奴を下に下げて、後は引き金を引く。構える時は、ちゃんと両手でね。結構衝撃あるからさ。あ、三秒以内に銃を構えて。じゃないとあなたを殺しちゃうよ?」


「あああ、アタシは……そんな事……! そんな事出来ない……!」


「御託はいいよ。やらなかったら伊吹ちゃんが死ぬんだよ。はい、さん、にぃ、いち……」


 死にたくなかった。

 怖かった。

 だからしょうがなかった。

 恐怖に負けて、グリップを強く握りしめる。

 銃の後方のセーフティーを外し、引き金に指を合わせる。

 スムーズに、着々と、殺人の準備が整っていく。


「偉い偉い♪ 後は撃つだけ……どっちからやる? 茶髪の方? それとも黒髪の方?」


 もう一歩も引けない。

 少しでも身を引いたら、アタシから殺される。

 逃さまいと、圧をかけているのが分かる。


「ふふ、大丈夫だよ。あなたのせいじゃないのよ? 魔術師()と言う名の災害の前じゃ、しょうがない事なのよ。引き金を引かなければ死ぬ。死にたくないから殺した。それでいいじゃない」


 言ってる意味がよく分からない。

 こいつの気まぐれを、偶然の事故だと言いたいの?

 そんなのは違う。

 こんなものはこいつが楽しむだけの自己満足に過ぎない。

 そんな事は許されない。


「やっぱりアタシ……!」


「目を逸らしちゃダメ。逃げちゃダメ。ちゃんとやってね、涼香ちゃん……」


 構えた腕を下げようとした瞬間、女は耳元で囁いた。

 抵抗は無駄だ。

 この選択から逃げられない。

 もし撃ってしまったら、もう風間には顔向け出来ない。

 誰でもない、アタシを庇ってくれた奴だ。

 この先、出会う事も無いかもしれない、アタシを肯定してくれた唯一の人間なんだ。

 そんなアイツに、少しでも報いたい。

 そういう気持ちはある。


 でも、現実はそんなに甘くない。


「死にたくない……死にたくない……」


 自然と口に出るほどに、アタシは死にたくない。

 他人の命を潰してまで、生きていたいと思う程浅ましい。

 誰かに嫌われてるのはもう慣れてる。

 今までと同じでいい。

 そう考えていたのはアタシ自身だ。

 変わらなくてもいい。

 生きていられるだけで、幸せなんだ。

 こんな恐怖に比べれば……


 自然と再び銃を構えていた。

 罪の意識に気づきまいと、誤魔化す為に強く握る。


「覚悟は決まったみたいね……」


 全部知らんぷりをしよう。

 そうすれば生きていられる。

 忘れろ。

 現実から目を背けろ。

 何も考えるな。

 自分の命だけ考えろ。

 指に力を入れるだけだ。


 後は引き金を、引くだけ。


 引け。


 引け。


 引け。


 引け……









「……ねぇ、何してんの?」


「え?」


「早く殺しなって」


 引き金を引いたつもりだった。

 でも引いてはいなかった。

 どうにも指が動かない。


「……あー、そういう事? マジ?」


 元々、殺せる訳がなかった。

 冷酷になる覚悟もない。

 自己犠牲なんて生き方は馬鹿にしていたのに、最終的にはそうなるのか。

 どこまでアタシは馬鹿なんだろう。


 銃口は既に地面を向いていた。


「……うん、無理っぽい。アタシ、人は殺せない」


「……あら、そうなの」


 風間には悪いけど、アタシはここで死んでしまうらしい。

 救ってくれた事も、喧嘩しちゃった事も、本当は色々話したかったけどもう遅い。

 けど、この選択は、悪い選択じゃない。

 間接的に、あそこの二人の命を救えるのだから。

 人として、胸を張れる事だ。

 きっとアイツは許してくれる。


「……ちょっと予想外だったな。まぁ、客観的に見れば素晴らしいんだろうけど、私的には残念でならないね。ま、邪魔が入る前にやっちゃうか」


「どーぞ。煮るなり焼くなり好きにしなよ。でもアンタ言ったよね? アタシを殺したらアイツらには何もしないって」




「え? やらなかったらあなたを殺すってだけで、あの子達を殺さないなんて一言も言ってないよ?」




「は……?」



 あんまりな言い草に、少しだけ思考が停止した。



「そうだなぁ、じゃああっちを先にやっちゃおうかな。あなたの目の前でね……」


「ちょっと待って! アンタ、一体何を!」


 アキノはアタシの体を突き飛ばす。


「無力な人間は、そうやって無様に地べたを舐めるだけ。どんな抵抗も、所詮は虫みたいに踏み潰されて終わり。哀れだねー。そこで見ててよ、凡人」


 尻餅をつきながら、見上げると目が合った。

 その目は、本当に虫を見る様な目だった。

 さっきまでの友人の様な取り繕った態度を止め、殺人鬼の顔へと変貌していた。


 アキノは右手を二人組の方向へ掲げる。


「殺し方は……やっぱり焼死が一番っ!! 死体も残らないし!! エコだよね! あっはっはっはっは〜!!」


「やめろっ!」


 みるみると火球が大きくなる。

 さっきのと同じ奴だ。

 このままだとアレが発射される。


 そしたら、あの二人は爆発に巻き込まれて死ぬ。


「なーんか爆発したから見に来たけどさ〜、結構ヤバめじゃね?」


「帰ろうよ、あーちゃん。ここにいたら放火魔が襲ってきちゃうよ〜」


「ん? 何あれ? 火の……玉?」


 せっかく気づいたってのに、全く危機感が無さそうだ。

 本当に野次馬っぽいし、なんかムカついてきた。

 死ぬかもしれないのに、呑気に顔出して、アタシの気なんか一ミリも知らないで。

 やっぱり嫌いな女達だ。

 あっちだってアタシの事を嫌ってるだろう。

 助ける事になんのメリットもない。

 助けた所で待ってるのは、また誤解かもしれない。

 これは無駄な事かもしれない。

 あれを助けに行くのは、やっぱり馬鹿だ。




 でも、風間なら絶対に助ける。




「ビビるなアタシ……負けんなアタシ……」


 自分を鼓舞しながら、数分前の記憶を巡らせる。

 さっき爆発した時は車に当たった瞬間だった。

 物に当たれば、あの火球はその時点で爆発して、進行は止められるかも。

 だったら……!


「バイバイJK! あはっ!」


 再び火球が放たれた。

 そして、同じタイミングで、手に持っていたスクールバッグをその火球目がけて投げる。


 さっき見た時に分かった。

 この火球は、意外とデカくてノロい。

 だから横から軌道を予測すれば、ぶち当てる事だって出来る。



 瞬間、炎の塊とバッグがぶつかり合い、大爆発が起こる。



 爆発の瞬間に煙が流れ込み、視界が遮られる。

 しかし、直撃は避けられた筈だ。

 あの火球を途中で食い止める事は出来た筈。


「ゲホ……何さっきの!? アイツが放火魔じゃね!? つか! ヨルカ、大丈夫!?」


「うぅ……あ、あーちゃんも怪我してない?」


 自分だって死にかけた癖に、他人の心配している様子。

 どこまで呑気なんだか。

 とにかく、今は逃さなきゃまずい。


 煙を払い除けながら近くまで走り込む。


「ちょっとアンタら! 早く逃げろアホ!」


 二人は状況が理解出来てない様で、未だに腰をついていた。


「てめぇは伊吹涼香! な、なんでこんな所に!」


「いいから逃げろバカ! 殺される!」


「あーちゃん! に、逃げようよ! 早く逃げなきゃヤバいって!! 早くぅ〜!!」


「あ、ああ……」


 そのまま二人は一目散に駆けていった。

 そして、続く様に、再び周囲の動揺が大きくなる。


「また爆発した!」

「早く逃げろ!」

「ここら辺は爆弾だらけだーっ!」

「うわーーー!!」


 怒号が飛び交う中、煙が晴れたその先に、依然と女は突っ立っていた。


「いやー、やるじゃない。爆発が近かったせいで、私もちょっとケムかったわ。それにしても、なんでそこまでして助けんの? 理解出来ないなー」


「全くね。アタシもそこについては同意。でもね、ここで誰かを見殺しにしたら、ただでさえ嫌いな自分をもっと嫌いになる。アタシはここから、()()()()()


「変わる〜? くっだらない。一発防げただけでしょーが」


「そう。アタシが出来たのはたったそれだけ。はっきり言ってちっぽけな事かもね。でもこの小さな一歩が、アタシの大いなる一歩だ。これからアタシが変わっていく為の、第一歩……!」


 アタシでも誰かを救えた。

 それが分かっただけで充分。

 こいつをなんとかする事だって、厳しいかもしれないけど、出来る事ならなんだってやってやる。

 この世のカスだと思っていた奴が、ここにいる大勢を救う。

 そんな英雄譚の主人公はアタシ、悪くない話だ。


 生きて、風間に合う。

 それで、アタシだってこのくらい出来たって、自慢してやるんだ。


 もう二度と、自分に絶望なんてしてやらない。

 

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