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罪深き魔術師共  作者: ルカ
13/60

13話 憂鬱な日常

 結局、あの後はあまり寝れなかった。

 疲れていたのは事実だが、あんな事があった手前、すやすやと寝れる奴の方が気がしれない。

 何より……


「ゴ……?」


「(出てくんな……!)」


 いつも、俺の影から見ているこいつの存在が落ち着かない。

 俺が浮かない顔してるからまた出てきやがった。

 ボディガードとは言ったが、一夜でそう何度も襲われる訳でも無いし、俺はあの金髪少女を完全に信用した訳じゃない。

 友と思っていた奴に裏切られたばかりと言うのもあるが、元々人を信用しないタチだからだ。


 まぁ、正直なところ、今はアイツを頼るしかない。

 分からない事が多過ぎる。

 魔術師だとか、伊吹が狙われた理由とか、これから俺がどうなっていくのか、それを理解するには、あの御影瞳の情報がいる。

 俺よりこの力について詳しいのは確かだ。


「お……」


 頭の中で情報を整理する中、教室のドアから仏頂面で登場したのは、膝蹴りとスタンガンの使い手、伊吹涼香だった。

 今日もそのふてぶてしい態度は変わらない。


「よぉ!」


「……」


「昨日は眠れたか?」


「……」


「なぁ、あの影やっぱ怖くね? なんか見られてる気がしちまってよー」


「……」


 伊吹からの返答は何故か一切無いが、代わりにチャットが届いた。

 相手は目の前にいる伊吹。

 文面は……


『学校で気安く話しかけんな!!!』


 と、まぁこの様に、昨日までのあれはなんだったんだと言いたくなるくらいだった。

 もしかして、誰かと話すのを見られるのが恥ずかしいのか?

 意外とシャイガールか?

 乙女心って奴はよう分からん。

 それとも、俺が波風立たない様に配慮をしているのか。


「ねぇあれ見てよ……」

「風間君が話しかけてるのに無視してる……」

「何様のつもり……?」

「なーんか偉そうだよねー……」


 俺の耳にも聞こえる声量で、辛辣な陰口が聞こえてきた。

 いや、最早陰口と言っていいのか微妙な類だ。

 敢えて伊吹に聞こえる様に言っている。


 そして、同時に伊吹の顔が曇っているのが分かる。

 なるほど、いつもこうやって冷たい言葉をかけられてる訳か。

 こういうのは自分の身になってみないと結構分からないもんだ。

 ああいう女ってのは、結構回りくどくて、面倒くさい事を好む。

 かなり陰険で陰湿だ。


「……ウゼーな」


 自然と口から漏れていた。

 腹の内から出た言葉は、小さくて誰にも聞こえては無かっただろうけど、確かに俺の思った事だ。

 他人事だろうが腹が立つ。


「……なーなー! そこの女子諸君ー!」


「え!? な、何……」


「伊吹さんが昨日休んじまったからさー、ノートとか貸してくんねぇかなぁー?」


「え、あ、えっと……その……!」


「ちょっ……もう行こ……」


 それだけ言って女子二人組は少し離れた所に移動して、再び談話を始めた。


「……ふん」


 これであの女子共も、しばらく黙るだろ。

 最悪、俺が近くにいる時は。


 と、そこで微かにスマホがバイブする。

 チャットが更にもう一件。


『ごめん』


 たった、その一言だった。


 なんというか、こいつの性格がまた少しづつ分かってきた。

 思ったよりも繊細な事も、意外とセンチメンタルだって事も。


 あんな脇役(モブ)の言葉は気にすんなよ。

 お前は、その気になれば、凶器を持った奴にさえ、膝蹴り食らわしてやれるくらいの大物なんだから。


 とは言え、『変わろうぜ』なんて、こいつに偉そうに講釈垂れたものの、この問題は結構難題だ。

 普段の態度がキツいせいか、色々と誤解されっぱなしだし、こいつもこいつで、弁明も和解も一切する気無し。

 こりゃあ、先は長いな……

 


※ ※ ※ ※ ※



 なんとも退屈な一日だった。

 チャットでしか話せないし、伊吹が一日休んだ事に、色々噂してる奴もいる。

 全く、そんな下らない事に、よく頭使ってられるもんだ。

 こう一日中アイツの身になってると、イライラが止まらない。


 あー、こんな時に愚痴れる奴がいれば……


「……」


 そういう時こそ、家族だとか、友達だとかに相談するんだろうな。

 俺にはいない。

 ()()()()()()


「……宇都見」


 今思えば、アイツの存在が俺の学校生活の一部だった。

 腹立つ事も、嬉しかった事も、学校では常にアイツと共有していたから。

 俺はそこまでストレスとか、そういうのを溜め込まなかった。

 それは、皮肉にもアイツのお陰だったんだ。

 もう、隣で話す事も無いだろうが。


「…………馬鹿馬鹿しい。アホか、俺は」


 今こうして溜め込んでるのは、伊吹が誰とも打ち解けていないからだ。

 幸い、俺はクラスメイトに伊吹程は嫌われてはない。

 俺が頑張って、アイツに華を持たせれば、少しは良い方向に向くかも。

 それが『変わる』って事だ。

 伊吹に言った手前、実行しない訳にはいかないからな。


 っと、そういえば放課後には集まる約束をしてたってのに、伊吹の奴はどこに行ったんだ?

 いつの間にか教室から消えていた。

 それとも今朝の事を気にして、どこかでナーバスになってるのか?

 なんだか、あまり良い予感がしない。


「……だから、嫌だって……!」


 廊下の奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「伊吹……?」


 前の方に目を凝らすと、周りに女子生徒が二人いる。

 朝にいちゃもんつけてきた女じゃない。

 多分、別のクラスの奴だ。


「アイツ、トラブルメーカーか……!?」


 見過ごす選択肢なんてある訳無く、近づいていくとその女子生徒達の声も聞こえてきた。


「別にいーだろーが! ちょっくら顔出すだけでいいんだからさぁー!」


「そうそう、別に伊吹サンに酷い事する訳じゃないよ? 話がしたいだけだって〜」


「ん? アイツら……」


 荒々しい口調で話すのは、茶髪のロングヘアーのギャル。

 毛先はクルクルで、いかにも気が強そうな釣り上がった目尻が特徴的。

 カーディガンを腰に巻いて、ワイシャツを肘までまくっている。

 まさに教科書通りのポピュラーギャル。

 語気も強めだ。


 もう片方の少し緩そうな口調の女子は、高い位置の黒髪ツインテールのギャル。

 眠そうな目の周りに赤黒いアイシャドウ、膨れた涙袋。

 典型な病み系メイクに、黒のパーカー、プラス萌え袖。

 声もどこかふわふわしていて、可愛らしい見た目だが、耳にはエグい数のピアスをつけている。

 

 そして、これまたびっくり。

 この二人は俺の知り合いだ。


「おいおい、そのへんにしとけよ。お二人さん……」


「あぁん!? ってぇ、風間じゃん」


「あ、風間っち。おっすおっす〜」


「おっす〜、じゃねぇ。廊下まで声が響いてんぞ。往来で揉めてんじゃねぇよ」


 すると茶髪のギャルは目をくわっと広げる。


「だってさ! この女、ウチらの事を無視しやがんだよ!」


「私達、別に喧嘩売りに来た訳じゃないのにね〜」


「そう! 風間もなんか言ってやってよ。わざわざ止めに来たんだしさぁ、少しは手伝ってよ」


 いきなり無茶振りをかましてくる始末。

 どうにも、この手の輩は巻き込みたがる癖がある。

 いや、関わりに行ったのは俺だけど。


「……あー、えっとなー、伊吹。この髪の長い方は、七瀬(ななせ)。ツインテの方は、黒木(くろき)。一応知り合い。なんで絡まれてんだ? なんかした訳じゃねーだろ?」


「……別に、何も」


 その表情は険しいまま、ドスの効いた声で一言そう言った。


「はぁーー!? アンタなんにも分かってねーワケ!? もうとっくに噂になってるっての! 誤魔化したって無駄なんだよ!」


「そうだよ、こっちはもう知ってるの。伊吹サンが宇都見っちと居た所、見たって人がいたもん」


「ちょっと待て、宇都見だと?」


「うん。昨日はバイトだって言ってたのに、伊吹サンといるなんて〜、ありえなくない?」


 あー、なるほどな。

 少し読めてきた。

 これはまためんどくさい誤解をされたもんだ。


「はいはい、そういう事ね……」


「ちょっ……風間、説明してよ」


「この二人は宇都見の友達なんだよ。俺はそのツテで知り合ったって訳だが、まぁそこはどうでもいいか……とにかく、宇都見が心配で伊吹を問い詰めようとしたって訳だ。違うか?」


「さすがは風間っち。私達ね、宇都見っちに連絡したんだけど、なぁんにも返って来なくてさ、心配でね〜」


「それで、伊吹涼香が一緒にいたとこを見たって聞いたから、話を聞こうとしてたんだよ! なのにこいつは無視なんて決め込みやがって!」


 俺達にとっても宇都見の事は迂闊に話せない。

 なんせ、アイツは今はヒトミの所で伸びてる筈だからな。

 何故一緒にいたのか?

 なんて、むしろ逆だ。

 アイツが近づこうとしていたんだ。

 でも、それを詳しく説明するのは、俺や宇都見の正体を話す事になる。

 だから伊吹は何も話そうとしなかったんだ。


「……」


 自然と伊吹と目線が合った。

 きっと同じ事を考えてるに違いない。

 仕方ないが、こいつらには嘘をつくしかない。


「……おい、七瀬、黒木。伊吹はその……ただのコミュ障だ」


「「え?」」


「…………はぁ?」


 うわ、視線が痛い。

 でもしょうがねぇだろうが!

 今は誤魔化すしかねぇんだよ!


「えっとな、多分、こいつは宇都見の事は知らないぜ。一緒にいたってのはきっと見間違いだな。だって、昨日はこいつ、風邪気味で学校休んでたんだぜ? そんな奴が外ぶらつくか?」


「そんなの仮病かもしんねーでしょ。第一、なんで風間はそこまでそいつの肩持つワケ?」


「そりゃおめぇ……お、同じ中学なのさ。割と仲良いんだぜぇ……? な、な!」


「え……あ、うん」


「ほら! こう言ってるだろ? だからさ、俺の顔に免じて、許してやってくんねぇか? 人付き合いが苦手なタイプなんだよー」


「……」


 うぅ……やばかったか?

 だが、言い訳は悪くなかった筈だ。

 割と信憑性あっただろ。


「……まぁいいや。風間がそう言うならいいけど……つか、宇都見から連絡あったらウチらにも伝えてよ」


「うんうん、時間取らせてごめんね〜。じゃ行こうか、あーちゃん」


「ははは、悪いな……」


「でもまぁ……伊吹サン、疑われたくないなら、もーちょっと愛想良くした方がいーよ。そうやって仏頂面かましてるから、私達みたいのに絡まれるんだよ」


「……っ!」


 そう捨てゼリフを吐いて、ギャル二人はその場から歩いて消えた。

 ひとまずはなんとかなった。

 けど、横の伊吹の肩は少し震えていた。


「ああ、その……気にすんなよ。アイツら、別に悪い奴じゃねぇんだ。ただ、友達と連絡取れなくてピリピリしてるだけなんだよ」


「……イラついてたら人に当たっていい訳?」


「そうじゃねぇよ。タイミングが悪かったって話だ。誰だって寝起きは機嫌悪いだろ? それと同じだ」


「それでも、納得いかない。いつもこうなる。何もしてないのに誰かに恨まれる。もううんざり……!」


「そんなネガティブになんなよ。近い内に俺がフォローしとくから、だから……」


「……うるさい」


「あぁ……?」


 その目は、初めて会った時と同じ目だった。

 誰かを憎み、蔑む様な、冷たい顔。

 それを、この俺に向けている。

 命を賭して戦った俺ですら、そんな視線を向けてくる。


「今、なんつったよ。お前」


「アタシは変わらない。変えられない。周りが変えさせてくれない! 生き延びたってずっとこんな感じだ。これから先、ずっと、ずっと……!」


「おい、まーたそれかよ。つくづく良い性格してやがるな、お前」


「そうだよ……! アタシはこんな性格だ。何かを乗り越えたって変わらない。死ぬまでこのまんまだ!」


「どうしてお前はそう捻くれてんだよ……! 少しくらい良い事を想像しろよ! あの時だって、死にたくねぇから頑張れたんだろ!? ちょっとは変わろうと思えただろ!?」


「だから! それが無理だって今分かった! 大体、アンタの言う事なんて、根拠が無いんだよ! アタシが変わっても周りは変わらない! これからもずっとアタシをイラつかせる! 悪いのはアイツらだ!」


「……いい加減ムカついてきたぜ。そこまで言うんならもう知らねぇ。もう誰も、お前の事を助けようだなんて思わねぇ……! だったらこれからもずっと独りで生きとけ! 死ぬまでな!」


「あっそ……! もういい!」


 伊吹は地べたに落ちたスクールバッグを拾って、何も言わずに駆けていった。

 その背中を見て何も思わなかった訳じゃない。

 でも呼び止めはしなかった。

 呼び止めたところで、ずっと平行線だったに違いないから。


「クソ……」


 言いたい事を言ってやった。

 後悔は別に無いし、俺は間違った事を言ってない。

 だけど、どこか気持ちが悪い。

 胸の奥がむず痒くて、さっきよりイライラが止まらない。


「なんでこうなるんだ……!」


 俺だって色々考えてるんだ。

 それなのに、アイツはなんでも悪い方に捉えやがる。

 他人の事も、自分の事すら一切信用していない。

 そんな奴に、何を言えばいいんだ?

 俺がどんなに励ましたって無駄なのか?


 いや、もう考えるな。

 今は自分の事で手一杯なんだ。

 早く、自分の身に起きた事を整理しなければいけない。

 あの研究室に行かなければ。


「……伊吹」


 いや、違うだろ。

 言い過ぎたって、本当はそう思ってるんだ。

 大人げ無かったってのは分かってる。

 落とし物の次は謝罪と来た。

 これもまた、簡単には終わらなさそうだ。


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