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罪深き魔術師共  作者: ルカ
10/60

10話 VS魔弾 2

 宇都見はなんの躊躇いも無く引き金を引いた。

 火に包まれる事も無く、その意識を失う事も無く。

 風間の食らわした攻撃でも、彼は最後まで倒れなかった。

 それがそもそもおかしな話だった。

 銃で迎撃する事に失敗し、風間の蹴りが確実に腹部を捉えた筈なのに、彼は引き金を引けたのだ。


「どう、なって、やがる……!」


「おかしいと思うだろ……銃を撃つんなら火薬が出て引火すんじゃないかって、当然の考えだ……でもな、これは火薬で打ち出してる訳じゃねーんだぜ……お前が使ってる力と同じだ……火薬じゃなく、『魔力』で打ち出してんだぜ……!」


(また、訳の分からん事を……! 魔力だと? マジに魔法でも使ってるって言いたいのか? 第一、なんでくたばらないんだあの野郎は……!)


「か、風間……」


「近づくな……! 早く逃げろよ……! もう仲良しこよしで逃げようだなんて言ってる場合じゃねぇだろ……!?」


「いやいや、逃す訳無いだろ……」


 宇都見はボヤけた視界に再び銃を構える。

 辛うじて見えるのは人の形。

 顔はうっすらとしか見えない。

 だが、弾道を曲げられる宇都見にとって、それは些細な事だった。


「嘘……嫌……」


「や、やめろぉ……!!」


 風間は必死に伊吹の前に立ちはだかる。


「へへへ……お前も俺もボロボロだな……だがよー、俺が今こうして意識を保ってられるのはお前のお陰なんだぜ、風間……」


「ど、どういう事だよ……!」


()を込める部位を絞る事で、その部位のガードを極限まで高める……お前が無意識にやってた事は案外難しい事なんだぜ……? でも、見様見真似で出来ちまった……ほんと、感謝してるぜ……」


 宇都見は腹部を蹴られる直前、既に攻撃の事を考えてはいなかった。

 攻撃が間に合わないのを見越して、既にその力を防御に使っていた。

 蹴られた所は痛まず、コンクリートの壁に当たった時のダメージしか食らっていなかった。

 故にほぼノーダメージ。

 未だに体力には余力がある。


(なるほどな。だから、まだくたばらないのか。するってーと、この状況はかなりヤバい。俺の方は対照的に、この二発の銃弾をモロに食らった。なんでまだ生きてんのかは分からないが、このままだとどの道死ぬ!)


「お前は勝てないぜぇ……俺にはお前と違って別の能力もある……銃弾を自在に曲げられる……! 防御は出来ねぇ! 差し詰め、『魔弾』ってところかな……! 銃は(けん)より強し、って訳だ……」


「けっ、何が魔弾だクソ……!」


(能力……! 俺には無い……あるのは拳だけ。近づけるか? いや、近づかなきゃ殴れないよな。あの銃弾を掻い潜って、なんとかあと一発を……!)


「ふ、ふふふ……風間ぁ……お前だけなら見逃してやってもいいぜ……?」


 宇都見は見下す様な冷たい笑みを浮かべる。


「あぁ……?」


「詳しい事は話せないが、俺の目的は伊吹涼香だ……お前じゃない……」


「それがどうした……」


「分かるだろ? お前だって死にたくない筈だ……俺だってもう疲れてんのさ……互いに得が無いだろ……? 一銭にもならねぇ人助けなんてやめようぜ……? だからよ、いい加減に……」


「やなこった……!!」


「……!」


伊吹(コイツ)が死ぬ時は! 俺が死ぬ時だ! それに、女の前でそんなカッコ悪ぃ事出来ねぇだろ……!!」


 宇都見の言葉を遮る様に、風間はボロボロの体で、堅い意思を語る。

 勿論、勝機がある訳じゃない。

 それでも、男として、言わねばならない事だった。

 自分自身を否定しない為にも、突き通さなければならない事だった。


「……風間、お前確かにカッコ良いぜ……常人じゃそんな発想にならねぇよ……でもな、それだけじゃなんとかならねぇ事もあるんだよ……! 綺麗事だけじゃなぁんにも出来やしねぇ……!!」


 宇都見は、その啖呵で何故か怒りを見せていた。

 致命寸前の攻撃を食らってもなお、飄々としていた彼が、始めて感情を表に出していた。


「ムカつくぜ……! そういう下らねぇ正義感! 無駄な偽善! 主人公気取りか!? 吐き気がすンだよ! お前も殺してやる! 伊吹涼香も! まとめて殺す!!!」


「ちっ……!」


(当たれば終わり……アイツだって消耗しているが、外したとしても、謎の能力で弾道が変わる。今の俺にはアイツの銃弾を防ぐ術が無い。正直言って、詰み、チェックメイトだ……)


「風間……も、もう……」


 風間は守ると、そう言ってくれた。

 しかし伊吹はもう既に気が落ちていた。

 追われていた時の、処刑を待つ罪人の様な顔に戻っていた。

 第三者から見てもこの状況が絶望的なのは分かる。

 自分のせいでこうなってしまったと、後悔と自責が心に影を生み出していた。


(アタシが落とし物なんてしなければ、風間はここまで来なかった……襲われる事なんて無かったんだ……そうだ、アイツの狙いがアタシなら、それでいいじゃん。アタシが命を差し出せば、風間は助かる……)


「アタシが……死ねば……」


 伊吹はもう、それしか道が無いと思っていた。

 力も無い、そんな自分に出来る唯一の選択肢。

 犠牲無くしては、この状況は何も変わらない。

 もう、彼女の道は閉ざされていた。


 しかし、風間はそんな事もつゆ知らず、前しか見ていなかった。

 彼の目には、確かに道筋が見えていた。


「……むしろ燃えてきたぜ」


「え……?」


 風間は出来るだけの笑みを浮かべて、少し後ろを向いた。

 恐怖と絶望で縮みこまっている伊吹の方へ、自分はまだ大丈夫だ、と言わんばかりの最大限のアピールで。



「伊吹……走れるか……?」



 その笑顔はまるで、今から悪戯をする子供の様な、無邪気でいて、少し邪悪な笑み。

 その表情を見て、伊吹の心にも反逆心が芽生える。

 こんな目に遭わせた宇都見(アイツ)に、どうにか一杯食わせてやろうと言う、強い意志が、心の中で静かに燃え上がる。

 


「…………分かった」



 これ以上言葉を交わす必要も無かった。

 何せ、目標はただ一つ、目の前の男を倒すのみ。

 勝つ事以外、考えは無し。


 そして、伊吹は走り出した。

 その場から逃げる様に暗がりへ駆けていく。


「だから……! 逃すかよぉ!!」


 当然、みすみす逃す訳は無く、宇都見は引き金を引いた。

 合計二発、その暗がりの方向へ飛んでいく。

 が、それはどれも伊吹を捉える事は無く、後方の闇へ消えていく。

 それもその筈、未だに宇都見の視界はボヤけたままだったからだ。

 伊吹は距離を取れば当たらない事を勘づいていた。


「くっ……! 何やってんだ俺はぁ!!!」


 そこで宇都見は弾道を曲げようと前方を凝視する。

 が、風間もそのタイミングで近づいて来た。

 宇都見に最後の一発を叩き込む為に、全力で駆け出していた。


(先に対処するべきはこいつか! どの道、伊吹涼香には何も出来ない……! 今の脅威は風間のみ!)


「来るなら来いよ風間……! お前を殺した後に、伊吹涼香も殺す! それで任務完了だ!」


(俺との距離はまだ近くない。例え視界がボヤけていようと、後一発さえ当てればこいつは死ぬ! やってやる! やってやるぞ!)


「風間ぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


「宇都見ぃぃぃぃぃぃい!!!!」


 互いの命を振り絞った咆哮の末、先に攻撃したのは宇都見の方だった。

 計三発、乱雑に撃ったせいか、二発は先程同様、後方へ通り過ぎる。

 が、内一発の弾丸が確実に風間の胴体に飛んでいく。

 運良く、真っ直ぐに弾を飛ばす事に宇都見は成功した。


(さぁ一発行ったぞ! ガードしてみろ! その瞬間に弾道を変えてやる! それでお前はお仕舞いだ!)


 銃弾が確実に近づいていく。

 そのタイミングで、風間も受け止める為に右手をかざす。

 半透明のオーラが右手を包んでいた。

 それ即ち、防御をしようと言う算段。

 そのタイミングこそ、宇都見が待っていたもの。


(手に力を纏っている! 今だ! 弾道を曲げる! 食らえぇぇぇ!!)


 宇都見がそう心の中で念じた瞬間、背中に何かを押し当てられた様な感覚。


「……!」





 振り向いた先にいたのは、逃げた筈の伊吹。





「……ご愁傷様」


 伊吹はその手に持っていた()()()を押し当てていた。

 その物とは……




「スタン、ガン……?」




 バチバチと、不規則な短い音が宇都見の耳にこだましていた。




「がぁぁぁぁあぁぁぁあぁあぁあぁああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」




 その電撃は、宇都見の体を一瞬で駆け抜ける。

 体に染み付いたガソリンを利用して、引火させる作戦は失敗に終わったが、その失敗は新たな攻めの一手を産んだ。

 液体に伝達した電気は更なる速度で迸る。

 最高速の痛みが体の端まで巡ってゆく。

 最早、宇都見に防御する手段は無かった。


「痴漢対策用に持ってた奴!! アタシだって撃たれたんだし、これなら正当防衛でしょ!?」


「こんの女ぁぁぁぁあああ!!!!」


 宇都見は地獄の様な電撃から逃れる為、力任せに腕ごと伊吹を突き飛ばす。


「ぐっ……!」


「クソッ! 酷い事するじゃねーかぁ!? 伊吹涼香ぁぁぁぁ……!!」


 スタンガンによる電撃で、確かに宇都見にダメージを与える事は出来た。

 しかし、それでも宇都見は倒れない。

 既に限界など迎えていてもおかしくない筈なのに、宇都見は悠然と立ち尽くす。

 伊吹の攻撃では、まだ倒す事は出来なかった。


 が、狙いは倒す事じゃない。

 風間が近づく隙を作る為だった。


「はっ……! まずい!」


 風間は既に銃弾を防御し、最後の力を拳に溜めていた。

 終わりの一撃を、終止符を打つ為に。


「終わらせる……この一発で……!」


 再び振り向いた時には、すぐ目の前。

 全ての感情を乗せた、全身全霊の一撃が、すぐそばまで迫っていた。

 

 しかし、それでも宇都見は笑った。

 してやったりと嘲笑う。


(馬鹿め……! 俺がさっき外した残りの二発。忘れてないか?)


 風間の後方には二発の銃弾。

 風間達が失敗を敢えて利用した様に、宇都見もまた、そのミスをチャンスへと昇華させた。

 幸か不幸か、弾丸は確実に風間の体目がけて飛んでいる。

 少年を亡き者にしようと、執拗に追いかけている。

 そして、風間には()で受け止める程の余力はもう残っていなかった。


(あの二発は後ろで翻ったんだ。弾道を思い切り曲げておいたんだ。結果的に間に合ったのはこの俺だ! 拳が当たるより先に、俺の弾丸の方が早く当たる!)


「俺の勝利だぁぁぁぁぁぁ!!!」








「……いや、違うな」



 風間はスッと、その場で身を屈めた。

 後ろからの弾丸は、風間の体の上を通り過ぎ、そのまま前方、宇都見の方へ。

 二発の弾は、撃った本人へと帰って行った。



 血と肉が勢いよく弾け飛ぶ。



「ぐ、ぅぁぁあぁぁ!!! こんな! こんな事がぁぁぁ……!!」


 銃弾は二発とも宇都見の鎖骨に食い込み、おびただしい程の出血を促す。

 生々しい血と鉄の匂いが辺りに充満していた。


「自業自得だな……! それと! さっき言った一発と言うのは訂正するぜ……! お前にゃその程度じゃ足りねぇからなぁ!!!」


 右の拳だけでは無い。

 ()()に、揺らぐ闘気が炎炎と燃え上がる。

 溜まりに溜まった負の感情を全て返す様に、風間は拳を腰に据える。

 息を止めて、肉食獣の様に手前の獲物のみを見据える。

 準備はとうに出来ている。



 後は、打ち込むだけだ。




「サヨナラだ……宇都見ぃぃぃぃぃ!!!」




 拳が、空を飛んだ。


 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、殴打、止まる事は無い、連撃に次ぐ連撃。

 全てを返す為、そのありったけを拳に乗せて、ただひたすらに殴りまくる。

 肩、腰、腹、胸、骨も粉々にする勢いで延々と殴りまくる。


(やべぇ……やべぇ! やべぇ! ガード出来ねぇ! 引く事も出来ねぇ! 意識が途切れる! 俺が! 俺が! ()()も持たないこんな奴にぃぃぃぃ!!)


 そして、ラストに決めるのは下顎。

 地面すれすれから繰り出される凶悪なアッパーが、顎の骨ごと打ち砕く。


「がぁぁぁぁぁ……! か、ざ、まぁぁぁ……!!」



(けん)は銃より強し……!! 覆ったなぁ……!!!」


 空を飛ぶ程のアッパーを受けた宇都見は、なす術も無く、地面に叩きつけられる。

 地面に突っ伏した宇都見は、血反吐を吐きながら、そのまま起きる事は無かった。


(あーあ、任務失敗だ……ドジったぜ……)


 そして、宇都見は静かに目を閉じた。

 絶命まではしていないものの、完全に沈黙した。



 そう、勝敗は決したのだ。



「…………お、わった?」


「ああ、そりゃあもう派手に終わったぞ……人間って、ロケットみたいに、あんな高く飛ぶもんなんだな……」


「冗談言ってるって事は、本当に終わったっぽい……?」


「……終わったさ」


 試合が終わった後の様な、妙な爽やかさがあった。

 殺されかけて、追いかけられて、血みどろになって、尋常では無い目に遭った。

 にも関わらず、言いようの無い高揚感があった。

 幸福があった。

 今までの腐った日々を帳消しにする様な、光があった。


「なぁ、気分はどうだ? 伊吹……」


「…………そうだね。悪くない、かな」


 多くは語らなかった。

 そもそも消耗し過ぎて語れなかったかもしれない。

 それでも、確かに二人の心には、通い合わせる何かが芽生えていた。

 互いに蔑む間柄の筈が、いつの間にか言葉では形容し難い感情を生んでいた。


 それこそが、変化の前触れだった。


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