周辺探索1
「ふぁ〜ぁっと。おはよう、イクス」
『おはようございます。昨夜はぐっすりお眠りになられたようで何よりです。そのまま永い眠りについてもよろしかったのですよ?』
「な、なんだよ、いきなり......あっ、昨日お前のことを無視して寝たことを怒ってんのか? 悪かったって、なんか言ってんなとは思ってたけど、緊急性が無さそうだったし色々とあって疲れてたんだ、しょうがないだろ。てか、男が男に拗ねてんじゃねえよ。俺にそっちの気は無いぞ」
『そうですね。私と違ってマスターは人間ですし、昨日のことでよほどお疲れだったのでしょう。考えが至らず、申し訳ございませんでした。
それに、マスターはシスコンで恋愛対象は年下の女の子であることを知っていますから、男色疑惑は元々持っていないですよ』
「それは違う。誤解だ。俺は性格が良くて優しい同い年くらいの女性が好き......って何言わせてんだこら!
はあ、もういい飯だ飯、朝飯食うぞ。話はそれからだ」
スクリーンに映し出される朝日が副操縦席内を照らし、俺は朝になったんだなと呑気に伸びをしながら起き上がってイクスに挨拶をすると、彼が不機嫌な様子だったので、すぐに原因ぽいことに思い至るが、あの時は事情があったので許してほしいと思うと同時に、なんでこいつとこんなやり取りしてんだとも思い、とりあえず謝罪と事情と自分に特殊性癖な類は持っていないことを彼に伝えた。
反省している様子が見られたので、ちゃんと伝わったんだなと安心していたら、イクスから俺がさも特殊性癖の類を持っているかのようなことを言われて、つい反射で反論してしまったが、こいつ反省してねぇなという事実に気づくのが遅れ、彼を叱る瞬間を逃してしまった。
朝から狭い副操縦席内でイクスとギャーギャー騒いで目を完全に覚ました俺は彼と戦うのが面倒になってため息をついてから毛布を畳み、背もたれを起こして朝飯の携帯口糧を取りに行く。
「えー、今日の一本朝食バーはトーストとスクランブルエッグセットコーヒー付き、もちろん風味でございます。それでは、いただきます」
『毎度思うのですが、味をいちいち言う必要があるのですか?』
「俺なりの一本食事バーを美味しく食べる作法みたいなもんだよ。気にするな」
水を一杯飲み、乾いたのどを潤してから気分を一新するために食べたいものを保管庫から厳選し座席について軽く手を合わせて食事前の挨拶をしているとイクスから疑問を投げかけられる。
俺の作法はこだわりのようなものであり、他者に理解してもらおうとは思ってもいなかったので、イクスに気にするなと一言かけてから俺はカスをこぼさないようにササッとコーヒー以外の部分を食べ、残したコーヒー部分を空のカップに入れ、給水器からお湯を注ぎ溶かしてゆっくりと飲み干す。
「んで、昨日の夜は何を言ってたんだ? 警告音が出てなかったが、大事な話か?」
『そうです、マスター。制限が解除されたおかげでノームの機能を最大限に活用できるようになったのです。これによりさらに広範囲を探知することが可能となりまして、即座に試してみたところ明確な反応ではありませんでしたが金属を探知することに成功しました』
「いや、確かに大事だけどあのタイミングで言うか?」
『すいません。つい嬉しくてすぐに報告したかったのです。今は反省しています』
じゃあなんで俺はあの時謝罪するはめになったんだ、という言葉をグッと飲みこんだ俺はイクスとの会話の最中に彼の今までの様子から擬似人格が制限の解除による影響を受け変化しているのではと思ったが、特に根拠も無く、もともと人間臭かったのと別段不便になるわけでもないという理由で、まあいいかと放置して出発の準備をする。
「まあ、金属が見つかったのは良いことだ。早速採りに行こう。場所は何処だ?」
『この世界の正確な方角は分からないので、今ノームが向いている方向を北としますと、西側に大きな反応があります。距離はそこそこ遠いですが、スーツの移動補助性能を使えば悪路でも2、30分程度で着けるはずです。
それと、マスター。金属を採取する道具はありますか? いざ採掘、というときになって道具がありませんなんて最悪ですよ』
「大丈夫だ。ナイフがある。こいつは万能型でな、スーツから供給されるエネルギーをまとうことで金属をいとも簡単に切ることができて刃こぼれもしなくなる。もちろん、戦闘時でも活躍するぞ。それに、スーツのエネルギーはノームから供給できるから問題ない。ちなみに、ハンドガンも同じくスーツから供給されるエネルギーと銃身過熱に気を付ければ撃ち放題だ。っとこんなこと言ってる場合じゃねぇ、イクス、そこまで案内してくれ」
俺は副操縦席から操縦席へと急いで向かい、ヘルメットを被り準備を整えてから外へ出てイクスの案内で目的地まで森の中を全力で走った。道中、初めて踏む金属ではない地面や視界を妨げる胸あたりまで伸びた草、目の前をふさぐ大きな木の根などにより俺はまっすぐ進むのにかなり苦戦し、予定した時間を大幅に過ぎて目的の場所へ着いた。
「ふぅ、やっと着いたか。っておい、ここって山......だよな? こんなところに金属なんてあんのか?」
『おかしいですね。たしかにここに金属反応があるのですが。
もう一度探知してみます。ノームがなくてもこの距離なら私のものでも何かしらの反応があるはずです。では、少し調べてみます』
「うーん。どういうこった? 金属って分かりやすくそこらに置いてあるもんじゃないのか? いや、異世界だから勝手が違うのか? ここに来るまで金属らしき物体が1個もなかったし」
しばらく走っていると目的地付近の少し開けた場所へ出たので俺はヘルメットのバイザーに引っ付き視界を奪う草や木の葉を取り払い、目の前にある大きな緑あふれる山を見上げて困惑する。イクスも俺と同じように困惑し再度調べると言ったので、その間に俺はスーツについた草や葉を落としながら辺りを見回すが、金属らしき物体は見つからず、土や草木しか見当たらなかった。
金属が見つからない一番わかりやすい理由として元の世界と異世界の違いについて俺が考えていると考えているとイクスから探知終了の音が聞こえた。
『判かりました、マスター。これは金属の原料となる鉱石が埋まっているのですよ。私達の世界では昔にすでに加工され何らかの金属として世に出回り、不要となったらナノマシンで必要なものに作り替えていますから今は鉱石という概念はありません。というより鉱石も自然物と同じくあそこにはもう存在しません。なるほど、だから明確な反応や金属分類が出なかったのですね』
「なんだって!? じゃあ、どうやって採ったらいいんだ? そもそも、そんなもんで修理できるのか?」
『実際にナノマシンに与えてみない限り分かりません。とにかく採ってみましょう。
この山一体に反応があるのでその辺りの地面や岩壁などを掘ったりナイフである程度切り取ってみましょう。多分出てくると思います』
「そうだな。とりあえずやれるだけやってみるか」
イクスの報告をディスプレイに映った探知結果を見ながら聞いて俺は驚愕し、疑問を浮かべるが、彼からやるだけやってみようと言われたのでそれしかないかと腹を決め、言われた通りに地面や壁をスーツにより強化された腕やエネルギーをまとわせたナイフで強引に掘ったり切ったりして採掘作業を行った。
しばらく続けて自分の身長と同じくらいまで掘っていると、中から白銀に輝く掌くらいのゴツゴツとした塊がいくつも出てきた。
「これが鉱石か? なんか思ってたより軽いし随分と綺麗だなぁ」
『多分そうだと思います。ですが、このようなもの、情報にはありません。見た限りですと、不純物があまりないように見えます。それに、簡単な成分分析をすると、含まれる成分のうち大気中にあった例の物質が大半を占めています。本当に金属なのか私でも疑問に思います』
「ま、そこは異世界だからってことでいいんじゃないか? とりあえず戻って修理に使えるか試してみよう」
出てきた白銀色の鉱石を手に取って軽く上へと投げてみたりマジマジと見たりしながら感想を言っていると、イクスも球体から伸び出た触手のようなケーブルで俺の足元に転がっている鉱石をつつきながら感想を言う。そして、俺は出てきた鉱石を全てスーツ腰部に付けたケースにしまい、跳躍して穴から出てノームのいる場所へなるべく開けた場所を探しながら森の中を走るが、道中でイクスが警告音を出す。
『マスター、こちらに接近する生命反応です。数は1。種類は少なくとも人間ではありません。こちらを認識しているようで、向かって来ます。どうしますか?』
「慣れない場所での戦闘は避けたいが逃げても追いかけてくるかもしれねぇ。ノームのところまで連れて行くのは避けておきたい。
とりあえずここで迎え撃つ準備をしよう」
『承知しました。周囲の警戒は任せてください』
まだノームは動かせないし、ノームの場所が別の動物などに見つかって襲撃されると厄介だと思った俺はイクスと相談を終え、今いる腰の高さまで伸びた草が生い茂る場所に留まって左手にエネルギーをまとわせたナイフ、右手に通常弾を準備したハンドガンをそれぞれ左右の腰部にあるホルスターから抜き、油断無く反応がある方向の自分よりも高い草の茂みへ構える。
少しして、茂みの中から突然小型機械と同じかそれ以上の大きさの物体が飛び出してきたので俺はすぐに右へ転がるように避けてすぐさま膝立ちの射撃体勢に入って飛び出してきたそれを注意深く観察する。
「人より大きめの四足歩行型か。正直、小型機械なら何度か経験はあるが、生きたやつと生身で戦うのは初めてだな。ハンドガンが通用すればいいんだが」
『あれは、猪のようですね。色が緑色であることと小型機くらいの大きさであること以外私達の世界に昔いたものとほとんど同じのようです。いきなり突進とは、どうやら敵意があるようですね。とりあえず頭を狙ってみましょう。大体の生き物は頭を撃てば死ぬはずです』
「そうは言っても、俺は猪なんか見たことがないんだがな。一応は通常弾で狙ってみるが、その後はしばらく様子を見る。
......来るぞっ」
目の前で前足で何度も地面を引っかいている緑色の猪を見ながらイクスが分析を行ない、俺が膝立ちから両足立ちへすぐに変えながら対応を考えていると、猪が立ち上がった俺に向かって走り出したので、すぐに頭へ発砲し避ける準備をする。
すると、頭にエネルギー弾を受けた猪は走った勢いのまま砂煙をあげて地面を滑り、右へ避けた俺の目の前でピタリと止まる。
「やったか? ......どうなんだろ? 機械と違うから勝手がわからねぇな。まだ生きてるかもしれないから少し待つか?」
『いえ、マスター。生命反応が消失しています。周囲にも反応はありません。近づいても大丈夫です』
「そうか、ありがとう。ふー、緊張したなぁ。攻撃が効かなかったらどうしようかと思ったわ。ここにはこの様な奴らがいるのか。慣らすために少し生身での鍛錬をしておかねぇとな。
で、こいつはどうするよ」
『そうですね。ノームのいる場所へ持って帰りましょう。私としては解剖してこちらの世界の動物情報を得たいと思っています』
「解剖かぁ。どうせやるのは俺なんだろうけど、俺も動物との戦闘方法について知っておきたいから持って帰るとするか」
動く様子のない猪に警戒し銃口を突き付けたままイクスに相談し、彼から猪の死亡確認がとれたのを聞くと、異世界に来て初めての生命体との戦闘で体内にたまった緊張を外へ出すように長く息を吐いてから俺は今回の戦闘から今後の課題につい考えながら武器を仕舞った。
機械なら解体して使えるものは貰って要らないものは持って帰れるだけ持っていって商人かその辺の傭兵などに売るのだが、これはどうしようかと目の前の猪の死骸について思っていると、イクスから研究がしたいという案が出た。俺も彼の案に賛同し、猪の死骸をスーツの力で軽々と担ぎ上げ、移動を再開する。
「こいつ、食えるのか? 食えるとしたらどんな味がするんだろうか? 気になるねぇ。」
『食べられるかどうかも含めて調査しておきます。なのでしっかり働いてくださいね、マスター』
「おう、頼むぜ。相棒!」
そして、大きな荷物が増えたのとより進みやすい道を選択して進んでいったためさらに予定よりも遅くなって俺達はノームのいる場所まで帰ってきた。