地竜
ニャ......
森から出てきた魔物は二足歩行で歩き二本の腕を胴体から左右一本ずつ生やしていたが人型と呼ぶには形が違っていた。知っている魔物の姿で近いものはリザードマンだが、それに比べると体躯が大きすぎた。全長はノームの2倍以上はあり、全身が茶色い鱗と呼ばれるものに覆われていた。
その魔物は雄たけびを上げた後、頭上に二本の大きな角を生やした顔を左右に振りその場にいる魔物の集団を見定めるような動きをした後、ノームを正面に見据えて2つの目を大きくした。
日が沈みかけ少し暗くなってきたのと先ほどの光の影響で見間違いをしている可能性を考えてノームのカメラの補正と望遠能力を使い、魔物の一連の動きをしっかり観察していた俺は、見間違いじゃねぇ、なんてデカさだ、それに、ノームでも不可能な森の木々をいともたやすくなぎ倒すなんて、とんでもねぇ力だ、と驚き、つい声を漏らしてしまう。
「な、なんだ、コイツは」
「ド、ドラゴン......」
『あれが、ドラゴンですか。
記録より小さいようですが』
「たぶん、まだ子供なんだと思う。
それでも、ドラゴンなんて災厄の一つよ! ど、どうしよう」
「落ち着け、まずはこっちの攻撃が通るか確認してからだ」
ソフィアとイクスの会話のおかげでデカい魔物の正体を知り、そして、俺以上に慌てているソフィアの様子を見て平静を取り戻した俺は手持ちの武器で未だにジッとしているドラゴン相手にどこまで通用するかを考え、手始めにミサイルを数発撃って様子を見ようとした。
しかし、俺がソフィアにミサイル発射の指示を出す前にイクスが警告音とともに報告をしてくる。
『ドラゴンから大規模な魔素反応を確認!』
「なんだ、あれは!」
イクスに言われ、俺はドラゴンの方を見ると、ドラゴンの周辺から次々と茶色い塊のようなものが無数に出来上がり、どんどん大きくなっていく様子が見えた。
何をする気だあのドラゴン、と俺が思っているとソフィアが声を上げる。
「あれは、ドラゴンの魔力で造られてる岩よ! たぶん、射出するつもりなのよ!
となれば、あれはアースドラゴンだわ!」
『魔素、未だに増量中!
これは、まずいですね。かなり広範囲を攻撃するようです。あれらの岩に当たればノームでもひとたまりがありません』
「クソッ、この図体じゃ避けれるか分からん! 急いで迎撃準備だ!」
ドラゴンにも種類があるのか、いや、今はそんなことより、あれをどうするかだ、と俺はまだ大きくなる岩を見て、急いでソフィアにはミサイルを数発ずつ連続的に放つように、イクスにはキャノン砲をなるべく水平で撃つようにそれぞれ指示を出し、ノームにガトリング砲を構えさせた。
そして、俺達の準備が完了すると同時にドラゴンから大量の岩が射出された。
放たれた岩は追尾性能が無いのかすべてが射出前に向いていた方向へ飛んで行きこちらへ来るのは2、3割程度であった。そして、速度は通常射撃武器やミサイルに比べ遅かったが硬度が段違いで硬かった。
小型ミサイル1発程度の爆発では岩が壊れることが無ければ速度が下がることもなく、さらには軌道が変わることもなかった。
俺はミサイルやキャノン砲で壊れなかった岩をノームへ直撃する物だけを選んでガトリング砲のE弾を壊れるまで叩きつけた。
最初は飛んでくる岩の数が少なく、速度の違いのおかげで優勢だった。だが、徐々に押されていき、中距離と近距離の境目辺りまで押されてきた。そして、ついに破壊した岩の欠片が爆発の衝撃でノームに当たってしまった。
たった数個の小さな欠片が当たっただけなのに操縦席内が大きく揺れ、俺は歯を食いしばる。
「ぐぅっ、なんちゅう威力だ。
欠片が当たっただけで揺れるとはな......」
「ポ、ポッドの一部が破損!」
「クソッ、外付けの感覚違いか......
損傷個所は?」
「えっと、左肩と左脚のポッドが外側1つ! 他は無いわ!
......そ、その、だ、大丈夫よね?」
『損傷した部分のミサイルはすぐに回収しました。他の部分は問題ありませんのでミサイルの発射は可能です。
それと、現状のノームなら欠片程度大丈夫です。
魔力量増加のためとはいえ、重装甲化は伊達ではないということです』
少し当たるだけでも危険とかいったいどこの超大型破壊兵器だよ、いや、あれは当たらなくてもそこそこ近くにいるだけで蒸発するんだったな、と俺はソフィアからの報告を聞いていつぞやの帝国戦のことについて思い出してマズ飯を食った顔をしながら未だ飛んでくる岩の迎撃に初期時より神経をすり減らしていた。
そんな俺の気持ちなど知らないイクスが呑気にノームの頑丈性は問題ないと言っていたが、そのままを受け入れることができなかった俺は少しでも回避運動をしようと考えるが、後ろにキャリーボックスがあることを思い出し、それが岩に当たると簡単に壊れると思いすぐに行動する。
「まずい、このままじゃボックスに当たるか......
少しノームを前に動かす。
ソフィア、地形と残量確認頼む」
「う、うん」
『私もお手伝いします』
魔術で再現したホバーどころか、ホバー移動する乗り物にすら操縦したことが無いんだがな、これなら陸上輸送艦の免許でも取っとけばよかったか、と若干現実逃避しつつ俺はソフィアから受けた地形情報を見ながらバランスを崩さないように気を付けてノームを前へ移動させた。
その後、前へ出たことによって岩の迎撃がかなり苦しくなるが、俺はノームとキャリーボックスに直撃する物以外で迎撃できない物をあらかじめ選別し足の遅いノームでなんとか回避していった。
時間でいえばそんなにかかっていないのだが、感覚でいえば30分はやっていたように思えた岩の迎撃だが、唐突に終わりを告げた。
突然岩が来なくなったので、俺は困惑しつつ周囲を確認すると大小さまざまな岩が地面に刺さり足の踏み場がほとんど無かった。
なんなんだよドラゴンってやつは! これで子供かよ、超大型兵器並みに厄介じゃねぇか! こんなのここの世界の連中はどう対処してたんだよ! と心の中で愚痴ることで平静を保っていた俺はドラゴンの状況を確認するべく正面を見た。すると、そこには肩で息をしているように見えるドラゴンと岩によってミンチになったり串刺しになったりしている魔物の集団があった。
「なんとか凌いだか......
しっかし、味方ごと巻き込むとはいったいどういう考えしてんだ、コイツは。
ソフィア、ノームの損傷は?」
「えっと、ミサイルポッドの破損がさらに追加、それとガトリング砲が両方とも過熱状態でノームちゃん本体もいくつか傷やへこみの損傷はあるけど軽微! あと魔力が4割でエネルギーがノームちゃん本体の6割のみ!」
「くぅ、ギリギリだな......
現状の武器で殺れるか?」
『岩の強度からの予測になりますが、不可能でしょう』
何故か地団駄を踏んでいるドラゴンを油断なく観察しつつソフィアがあげてきたノームと武器の状態を確認した俺はどうすればドラゴンを倒せるかを考えるが思いつかず、イクスに尋ねるが、彼ははっきりと現状の武器でドラゴンを殺すことは不可能であると言った。
それを聞いて俺が考えるより早くソフィアの悲鳴のような声が操縦席内部まで響く。
「ど、どうしよう......
い、今なら逃げれるんじゃない? 逃げたほうが良いよ絶対!」
「いや、逃げてもあのドラゴンがいる限り意味は――」
『一応、最高威力の射撃武器はあるにはあるのですが――』
「あるのか!?」
『ええ。ですが、試作段階と言いますか、威力超特化で他がおざなりと言いますか......』
ソフィアがこれを機に逃げることを進言してきたが、逃げたところでドラゴンが村や街を襲うだろうから逃げると被害が拡大すると言おうとしたが、その後にイクスが今までよりも高い威力の武器があると言ってきたので俺は言いたかったことを中断し彼の言葉を遮って聞き返した。
それに対してイクスが遮られた話の続きをしようとするが、突然、ドラゴンが串刺しになっている魔物の集団に近づき、オークやオーガを手でつかんで引きちぎるように引っ張った後、雑に口へ放り込み鋭い牙でくっついていた岩ごとかみ砕き、数回咀嚼して飲み込み始める。
「なっ! アイツ他の魔物を食い始めたぞ!」
『魔力の回復でしょうか? ですが、あれらの魔物を喰らっても魔力回復には――』
「そ、そんなことより、今がチャンスじゃないの?! あれらの魔物を食べても十分魔力が回復するとは思えないし!
ほ、ほら強い武器を装備しようよ!」
『そうですね。マスター、試作武器の大型キャノン砲の情報を送ります』
ドラゴンの動きに最初は驚いたが、行動理由を聞いて納得した俺は、魔力回復か、魔力切れになるほど撃ってきたのか、確かに未熟だな、だからといって現状を打破できるとは思えないがな、と精神が安定していた。
そして、イクスから送られた武器の情報を彼が両腕のガトリング砲を仕舞って右腕に装備するための準備をしている間に急いで要点部分を読み込んでいく。
イクスから送られた情報に書かれていた重火器はブラックボックスにあった、元は中型戦艦の主砲を中型機械でも運用できるように小型化するという当然廃棄されるべきぶっ飛んだ開発計画だった。
中型機械で戦艦並みの砲を運用できるようになれば戦術や戦略が変わると書かれていたが戦艦の主砲をどうやって運んで戦闘用機械が扱うんだよ、とツッコみたくなる気持ちを抑えて俺は次々と読み込んでいき基本攻撃方法を学んでいった。
しかし、途中でノームのバランスが右へ傾き始めたので俺は読み込みを中断し、急いでノームの右膝を地面に着かせ、しゃがませることで事なきを得た。
そして、ノームの右腕を見るとノームの全長よりも長く腕の3倍以上は幅のある大型キャノン砲の砲尾部あたりの上部にある穴に前腕が埋まるように接続されており、手にはグリップが縦に握らされていた。
なんだこの武器、ってかまだ運用方法に関してまだ読み終わっていねぇんだが時間が惜しい、最低限の準備が整ったんだやるしかねぇ、と色々とすっ飛ばした俺は指示を出す。
「よし、あのドラゴンを攻撃する! 色々と補助頼むぜ!」
『脚部の固定を魔術で行います。魔力消費がやや多いのでそんなに時間は取れません。なるべく短めでお願いします。
それと、マスター、ドラゴンは他の魔物同様胸部に魔石があるので胸部を狙ってください。
試作武器ですので弾は3発しか作っていません。できれば慎重にお願いします』
「色々と後付けで圧をかけるなよっと、これクソみたいに重いしバランスがっ......」
「ド、ドラゴン、まだ魔物を捕食してるよ!」
正直、重火器で狙撃なんて習ったこともやったこともないし、アイツらでも経験が無いんじゃないか? 弾は3発しかねぇし外すわけには、いや、悪いことは考えるな集中集中、と自分に言い聞かせるように気持ちを抑え込んだ俺は初めての試みに大きく深呼吸してさらに心を落ち着かせていた。
そして、いつものように平静を保ちつつ俺はノームをゆっくり立たせ、右脚を開き、左脚をつま先がドラゴンの方へ向くようにし、砲の付いた右腕を腰辺りまで引き、砲の中間あたりの上部にある取っ手を左手で掴んで安定させ砲口をしっかりドラゴンに向けるように構えた。
遠距離から巨大なキャノン砲を向けられているにもかかわらず、ドラゴンは呑気に魔物を貪っていたので俺は、再度深呼吸をしてから慎重に狙いを定めてキャノン砲の引き金を引いた。
すると、ドゴォッという大きな爆発音と炎とともにノームの拳と同じくらいの大きさの砲弾が音速の10倍以上の速さでドラゴンめがけてまっすぐに発射され、その発射の反動でノームが大きく後ろへ傾き始め左脚が地面から離れていく。
「ぐうぅっ! なんちゅう馬鹿力だっ! イクス制御は?」
『既にやっています!
すみません、ソフィアさん、カメラが使えませんが観測をお願いします』
「今、探知で確認してるよ」
ただでさえ長くて重い砲身でバランスが悪いってのに撃つ度これじゃあ使いもんになんねえぞ、と試作武器であるとあらかじめ聞いていても湧き出る愚痴を少し漏らしつつ俺はイクスと協力して何とか左脚が浮いたノームを後ろへ倒れるのを阻止した。
ホッと一息つく間もなく、あとは左脚を地面につけるだけだ、と集中していた俺にソフィアが悲鳴のような声で報告をする。
「ド、ドラゴンが避けたわっ!!」
「何!? 外したか?!」
『いえ、当たってはいるようです。ドラゴンの右腕が胴体から消失しています』
あの速度の砲弾をどうやって避けたんだ! クソッ、衛星さえあれば映像で分かるんだが、ってそんなことより確実にドラゴンは接近戦を仕掛けてくるはず、何とか次の準備をしねぇと、と俺は心の中で即座に行動計画を組み上げながらノームの左脚を強引に地に付けた後すぐにイクスに尋ねる。
「イクス、この砲の装填は?!」
『すみません、小型化と威力を重視した結果、手動単発式となっております。
それと、ドラゴンが接近してきます』
「クソッ、最悪だな! だが、それのおかげで倒せることが確実なのが幸いだな!!
ソフィア! 地形把握を頼む!」
「う、うん! 魔素の多い岩は踏まない方が良さそうね。えっと、魔素の薄い岩が多い場所......
ってうわぁっ、ドラゴンが!! ミ、ミサイル発射!」
弾倉も自動装填も無いのかこの砲っ、まあこの武器が効くならまだ勝機はある、弾道は見えなかったがな、と俺は心を奮い立たせてドラゴンの動きを予測して動こうとソフィアに指示を出すが、少ししてから彼女がドラゴンが突撃を敢行してきたことを告げるといきなりミサイルを数発発射させた。
放たれたミサイルは途中で分裂することなくドラゴンへ向かっていき、着弾する直前に爆発すると、それと同時に爆炎ではなく大量の灰色の煙を発生させた。
ドラゴンが突然発生した煙に驚き左腕で振り払おうとするが周囲に蔓延した煙を払うことはできずにいた。
それら一連の様子を見た俺はノームをキャリーボックスの範囲を出ないように気を付けつつソフィアの出した進んでも問題のない場所を選んで右側へ進ませていった。途中、岩を踏み砕いて走らせながら目の前に起きた出来事に対する疑問に思ったことを口にしようとする。
「これは――」
『煙幕弾を用意しました。ソフィアさん、引き続きお願いします』
「わ、分かったわ!」
「なるほど、助かる! 今のうちに排莢を」
俺が疑問を全て言う前にイクスが言ってくれたので俺はそれ以上を言わずに装填作業を魔素の多い岩に注意しつつ移動しながら始めた。
重たいキャノン砲を右腕だけで無理矢理支えながら左手で砲の中間あたりの下部分にある砲身と平行になっている1本のレバーを左手でつかみ右回りに90度回して砲身と垂直にした後そのまま取っ手として砲身の砲尾辺りまでスライドして外装を剥がし、砲の内部を大量の煙とともに露出させた。
ガチャンッという音とともに完全に外装が動かなくなるまで取っ手を下げると露出させた内部の下半分が動き出しガコンッという音ともに砲弾の5倍以上の長さはある熱気のこもった空薬莢が乗った若干赤熱している砲腔の一部が現れた。
「うおっ、これは冷却しなきゃ使えなくないか?」
『空薬莢は私が回収します。ですが、この熱量は急激に冷ますと危険ですので少し時間をかけます』
「それまでは煙とドラゴンと地面に気をつけねぇとな。
てか、なんで地面に岩が刺さったままなんだ?」
『それはですね――』
「い、今そんなこと説明してる場合じゃないでしょ!?
岩が飛んでくるわ! 数は1!」
しばらく放熱と冷却をしなければ装填することができないことを知り、俺は右へ左へ不規則にフラフラとさせながらひたすらノームの移動に専念するが、地形情報に出される岩を見て、魔術で生み出されたやつって少し時間が経てば消えてた気がするな、と場違いなことを考えていた。
そんなときにソフィアから警告とともに岩の弾道予測線が来たので俺は急いで左へ進んでいたノームを半円を描くように後ろへ下がりつつ反対方向の右方向へ方向転換をして岩を回避した。
「冷却はまだか?!」
『まだです。この状態で無理に撃っても暴発する危険があります。あと数分程度ですのでなんとか耐えてください』
「時間が長く感じるわね!」
『ではその間、岩が残る原因を説明しましょう』
こんなときにいつも通りだなイクスは、いや、いつも通りだからこっちも精神的には色々と助かるがな、ただ、こんな時にペラペラしゃべる余裕があるのもどうなんだ、と俺は自身の右隣にあるディスプレイに表示されている冷却完了までの時間を何度か一瞥しつつ時折警告とともに煙の中から飛んでくる岩を避けながらイクスの説明を聞き流していた。
イクス曰く、自然を形成する魔素の量が人間1人よりも膨大であるため、ちょっとの魔素による魔術や魔法では影響を受けないらしい。要は人間が数人森の中で炎の魔術を使ったところで木の葉や枝が燃える程度で木が1本丸々燃えることは無いということらしい。
だが、ドラゴンのように圧倒的な魔素量を誇る生物が魔術や魔素を使えば自然に干渉することができるらしい。現に地面に刺さった岩がそうらしい。一応、ノームなら木を1本燃やすことはできるらしいがドラゴンには足元にも及ばないとのこと。
って、さすがにこんな死ぬか生きるかの瀬戸際だってのにイクスの落ち着きようはおかしいだろ、確かに普段の戦闘時はこんな感じだけどさ、と若干正気に戻った俺が飛んできた岩が当たりそうなことに気づいてハッとし慌ててノームの操縦に再度集中していると彼から待っていた報告が上がる。
『冷却が完了しました。次弾は左手に持たせてあります』
「よし、あとは落とさねぇように砲腔にはめて......」
右腕を地面と平行になるように維持しながら左手に持った砲弾と薬莢が合わさった細長い筒しっかり砲腔にはめた。そして、砲身から飛び出した部分を左手で押し込み、砲尾あたりにある取っ手を掴んで外装をもとの位置まで引っ張って戻し砲身と垂直状態のレバーを左回りに90度回して平行になるようにして鍵をかける。
「確認完了! あとは撃つだけだが、タイミングが」
『それなら案があります。
まずは、ノームを限界までドラゴンと直線になるよう下がらせてください』
「だろうと思った!」
『ソフィアさんは移動している間はひたすらミサイルを撃ってください。
そして、合図を出しますので、その時は止めてください。その後、再度合図を出しますのでその時は撃ってください』
「う、うん。分かったわ!」
やっぱり隠し玉があるみたいだな、1から聞きたいところだが時間がねぇし今はイクスの言うとおりにやるしかねぇ、と思考をドラゴンの動きに完全に切り替えた俺はノームの左手でキャノン砲上部にある取っ手を掴み、機体のバランスを安定させつつ徐々に正確にこちらを狙いつつある岩を避けながらドラゴンと直線距離になって、かつ、キャリーボックスの範囲に出ないようノームを移動させた。
たまたま、ノームとドラゴンの間にキャリーボックスがあるような配置になってしまったが、イクスから何か言われることは無く、彼はソフィアに指示を出す。
『ソフィアさん一旦ミサイルを止めてください』
「分かったわ。
でも、ミサイルを止めて大丈夫なの?」
『ええ。
マスター、閃光弾を用意します』
「おい! 強烈な光に向けて正確な砲撃ができるか!
しかも、もう夜なんだぞ!」
『マスターならできます。補助はします』
なんちゅう無茶ぶりだ、と俺が心の中で悲鳴を上げながらノームに砲撃体勢をとらせていると煙の中からドラゴンがまるで怒り爆発と言わんばかりに大きな口を開けて咆哮をあげながらこちらへ突っ込んできた。
『ソフィアさん、今です』
「ミ、ミサイル発射!!」
イクスの合図とソフィアの掛け声とともにノームの両肩からミサイルが2発発射された。
ミサイルはまっすぐドラゴンへ向かっていき、激怒しているように見えるドラゴンは感情の赴くままミサイルを破壊しようとせず冷静に左腕で掴もうとした。
だが、ミサイルはドラゴンの腕に捕まる前に爆発し、それとともにドラゴンが現れる時と比べて小規模だが強烈な閃光を放った。
ミサイルを掴むべく、それをしっかりと見てしまっていたドラゴンは突然発生した光に両目をやられたらしく左手で顔を抑えて立ち止まり苦悶するようにうめき声を上げながら顔を左右に振った。
そんなドラゴンの様子を未だに光り輝く中光軽減されたカメラとヘルメットでしっかりと観察していた俺は左腕を振るいながらその場をグルグルと動き回るドラゴンの胸部を狙撃すべく、目を細めながら狙いを定めてタイミングを待つ。
「まだだ......まだ......」
「み、右腕の損耗50%を超えたよ!!」
早くしなければ光の影響から回復してしまう、二度目は効かないだろう、だが、今は背を向けている、あのゴツゴツした背ビレが邪魔だ、これじゃ魔石に当たるか分からん、確実に当てねぇと、でも、時間が、それにボックスが目の前にあるのは、いや、集中しろ、と慌てたり落ち着いたりを何度も繰り返しながら俺はソフィアの報告が耳に入っていないまま荒ぶる呼吸を抑えるべく無意識に呼吸の頻度を少なくしていた。
ノームに背中を向けていたドラゴンが突然、左回りに顔をこちらに向け始めたので、俺は力むことなく自然に引き金を引く。
「今」
ドゴォンッという大きな音とともに砲弾が飛び出すと同時にドラゴンは左回りに振り向きざまに左腕を横に振ってきた。
なぜドラゴンがそのような動きをしたのかサッパリわからなかったが、放たれた砲弾は寸分たがわずドラゴンの胸部に当たり、そのまま貫通してドラゴンに大きな風穴を開けた。
砲弾を受けたドラゴンは数秒間その場に立ったまま動かなかったが、その後、後ろへ受け身をとらずに倒れていった。
そして、ドオォンッという大きな音とともに倒れたドラゴンは起き上がることは無く、指先一つも動くことは無かった。
「カハァッ......ハァハァ......
やった......のか?」
「え、えっと......ド、ドラゴンの生命反応......ないよ!
や、やったぁ!!」
『周辺のすべての岩の消失を確認。
お見事です』
やべぇ、いつの間に呼吸が、と息苦しさに俺はヘルメットを外しながらドラゴンの様子を少しの変化も見逃さない気概で観察していた。
そして、探知で調べたソフィアのドラゴンが完全に沈黙したという報告を彼女の歓喜の声とともに聞いて俺は今までで一番の大きい息を吐き心の底から安堵しようとする。
「よk――」
バガアァァァンッッッ
突然、大きな爆発音がしたと思いきや、ノームが左後ろへ倒れていく。
揺れる操縦席の中で俺は姿勢制御が間に合わないと判断し、原因を探ろうとノームの倒れる方向と逆の方向を見ようとする。
「な、なんだ、敵の攻撃か!」
「きゃあぁぁぁっ!!」
『魔力残量が足りません。追加装甲を分離し回収できる分は回収します。残る全ての魔力でノームの保護をします』
「クソッ。まずは、受け身だ!
ソフィア、衝撃に備えろ!!」
追加装甲を勢いよく外しながら左後ろへ左腕が先に着くように倒れていくノームを背中から地面に着くように俺は何とか動かして倒れると同時に左腕で受け身をとろうとした。
だが、しっかり受け身をとっても操縦席内は大きく揺れ明かりとスクリーンの映像が数回点滅してから切れる。
「ぐうぅぅぅっ」
「くうぅぅぅっ」
『ビービービー』
俺は十数秒間の揺れに耐えながら暗い操縦席の中でノームの融合炉が暴走していないか常に監視していた。
そして、揺れが収まるとすぐに非常灯を起動させてわずかに明るくなった操縦席を確認した俺はソフィアとイクスの無事を確認しようとする。
「全員無事か?!」
「だ、大丈夫!」
『私も問題ないです。
ノームの融合炉も大丈夫です』
「急いでノームの状態と周囲の確認だ。
ソフィアは索敵を頼む。
イクスは俺とノームの確認だ」
ノームについては俺とイクスが詳しいので先の爆発が敵の攻撃だと仮定して調査のためと敵がいないかの確認のために周囲の情報収集をソフィアに任せ、俺は急いでノームの状態を調べた。
融合炉に異常はない、良かった、少なくとも最悪なことは回避できたな、と思いながら最初は敵が近くにいることを予測して最重要部分を素早く確認していたが、ソフィアから報告が上がらなかったので、俺は少し時間をかけて機体全体の確認をするようになっていた。
しばらくして、ソフィアから報告が上がってくる。
「周囲に魔物や生命体はいなかったわ。
どこからか攻撃されたという痕跡もないし、あの爆発はいったい......」
「さあ、分からん。右腕は失っているが、少なくとも、ノームの暴走ではないようだ」
『原因が分かりました。
結論を言えば、試作武器の暴発です』
「何? どういうことだ?」
キャノン砲の暴発っつったって、弾は入ってないはずだ、なぜ今になって爆発なんてするんだ、と俺が疑問に思っている間にイクスが簡潔に説明を始める。
『1発目は直撃を外したので装填作業をすべく排莢をしたり冷却をしたりしました。
ですが、2発目は直撃し倒すことができたので装填作業を行っていません。
つまり、内部にたまった熱が放出や冷却されず膨張して爆発したのでしょう』
「ま、まて、熱がこもるのは分かるが膨張するのか? せめて内部が熱で歪むくらいだろ? その状態で3発目を撃とうとして暴発なら分かるが」
「たぶん、魔術が絡んでるのよ。私でも詳しく説明するのは無理だけど」
『私でも完璧に理屈を把握しているわけではありませんが、最近のノームのエネルギー関連が怪しいと考えます』
「なるほど、あれがこんなところで影響を......」
まさか、分からないからと放棄していた問題がこんな形で帰ってくるなんてな、だが、結局のところよく分からないわけだから、どうしようもない、いや、大型兵器を使用しなければいいのか? 暴発したのは大型キャノン砲だけだったし、とアレコレ考えていた俺は、今はそれを考えている場合じゃないと現状を思い出してイクスに言う。
「イクス、一旦その話はあとでノームに魔鉄を補給しよう。
右腕以外は大きな損傷はないからすぐに直せるだろう」
『そうですね。魔鉄の補給を誰かに見られるわけにはいきませんから』
「急いで作業をするぞ」
「わ、私もついて行くわ。外はもう暗いから私が魔術で明かりをつけるわ」
「ありがとう、助かる」
これで終わったんだよな、と俺は少し不安に思いながらヘルメットを被り操縦席から外へ出た。
そして、星明りが振る薄暗い周囲をヘルメットの補助を受けてくっきりと見渡した俺は、これで終わったんだな、とホッとしてしまうのであった。




