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傭兵、爆発に巻き込まれて異世界に転移する(第1部完)  作者: @ルケミー
第1部 第0章 傭兵、魔王討伐戦に参加する。
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公国への道中

「さっきはありがとうな、イクス。一応は助かったぜ」

『Aランクの件ですか? いえいえ、マスターのために動いたまでです』

「即興とはいえ、できりゃぁもうちょい普通にやってくれればよかったんだがなぁ。おかげで俺の評価がガタ落ちだぞ。依頼に支障が出なけりゃいいがな」

『大丈夫ですよ、マスター。正当な理由による金銭問題ですから』

 手続きを終え無事に町を出て特殊金属で作られた道路で公国へ向かう途中、周囲の安全確認をしてノームの一部操作権限をイクスに譲渡して彼にノームを歩かせてもらいつつ、俺は先ほどのギルド内での受付嬢との一件について彼に感謝を言う。そして、俺のこぼした文句と心配事をイクスが楽観するかのように否定してきたので、もう少し俺の人生について考えてくれよという願いを込めて俺は彼に反論する。


「いやいや、そこじゃねぇだろ。俺とお前のやり取りのせいで問題のある傭兵という認識が......」

『資格剝奪はされなかったから大丈夫なのでは? それに今回はうまく昇格の話を回避できましたが、次もうまくいく保証はありません。あらかじめ楔を打っておいたほうが良いでしょう』

「うっ、まあ、そうなんだがな。確かに、今回は借金の肩代わりによる金欠という理由でなんとかなったが、すでに借金は完済してるし次も金欠で断るわけにはいかねぇ。それこそ問題のある傭兵として資格剥奪が待っていやがる......」

 実際にイクスの言う通り、あの後はギルド側から何も言われておらず、通知も来ていないため特に問題ないとされているのであろう。そもそも、この程度で剥奪されていては世界から傭兵がいなくなってしまう。彼もそれが分かっているからあのような芝居をしたのだろうが、せめて少しでもいいから俺への配慮を考えてはくれなかったのだろうか。

 そう思いながらもなんとか負けじと先ほどのうっ憤をぶつけるべくイクスへの反論をネチネチと考えながら話していると彼から今更のような質問が来る。


『どうしてマスターはそんなにもAランクになることを拒むのですか? 普通の人なら喜ぶはずですが』

「いや、マジでAランク以降はごめん被るね。ぶっちゃけ、何も問題がなければBランクで十分なんだぞ」

『今以上の大金が手に入る機会が増えますのに、残念です』

「その代わりに自由が無くなるだろ。強制されるから報酬金額がデカくなるんだぞ。もし、強制依頼が危険なやつだったらどうするんだ。今のままでも十分に稼げるんだ、何も不満はあるまい。それに、俺には目的があるんだ」

 俺の話をもしほかの傭兵が聞いていたら間違いなくぶん殴られるだろうなと思いつつ、俺がイクスの疑問を真っ向から全力で畳みかけていると、彼がまたしても今更なことを言い始める。


『そういえば、マスターが傭兵になった理由は世界を旅することでしたね』

「そうだぞ。そのために軍学校に入って勉強したんだ。まあ、そのせいで親父と喧嘩別れしちまったが」

『妹さんとも会えなくなってしまいましたね。それと、学校のほうでは色々と伝説を作ったとか』

「な、なんのことかさっぱりだな。ささ、操縦に集中しなきゃな。はい、おしまい。駄弁る時間はおしまいだぞ」

 さすがに俺の態度にしびれを切らしたのかイクスが俺の学生時代の黒歴史を把握しているようなそぶりを見せてきたので俺は内心で慌てて強制的に会話を終わらせ、彼に譲渡していた操作権限を強引に取り上げた。かなり無理矢理だったが、彼から特に何も言われなかったので俺はホッとした。

 そして、イクスから報告が来るまで俺はずっとノームを歩かせ、時にすれ違う車両や機械に気を付けつつ操縦に集中していた。


『もう少しで公国との国境です、マスター』

「ああ、ありがとう。ふあぁ〜、道中建物の影とかあからさまな地雷とかいろいろ警戒していたんだが、何も起きなくて暇だったな。帝国の戦争の影響で盗賊が増えたと思ったけど、案外平和なもんだねぇ。これなら適当な依頼を受けた方が良かったかもな。あ、でも面倒そうな依頼しか無かったな」

『マスター、盗賊についてですがおそらくマスターが盗賊団を討伐したという情報は他の盗賊達に伝わっている可能性があるかと思われます。

 彼らの情報網はギルドや各国の軍が総動員しても全体を掴むことができないものですから何らかの手段で拡散されていてもおかしくありません。それに、討伐した盗賊団は小規模から中規模の商会の護衛の質や量から判断して襲撃をしてくる厄介な連中だったようです。おそらく、マスターを襲撃した理由は中型機械が1機のみでノームという明らかに最新機ではない機械でしたから勝てると見込んだのでしょう。結果は完敗でしたけど。

 話がそれました。あの連中は意外とかなりの国や盗賊界隈では有名だったらしく、今では盗賊たちの間ではノームの姿があっという間に広がっているのではないでしょうか』

「へー。あいつらが。ノームと同じサイズの中型機と人間サイズの超小型機、その中間の小型機の一般的な編成で連携は良かったけど、それだけだったし。機体はノームより新しかったが、操縦者がうまく性能を発揮できてなかったな。もったいない。あ、でも整備の腕は良かったな。あとは違法妨害装備もそこそこあったし、もしかしたらあの盗賊共の背後になんか強大な組織とかがいたりしてな」

 イクスからの報告を受け、長かったなという気持ちと、何もなさ過ぎて暇だったがこれ以降も何もないのか? せめて何かしらの事件でもおきないものかと謎の期待を心の中でしつつ、俺は退屈しのぎにイクスの会話を適当に聞き流したり合わせたりする。その間も俺は周囲にあるよく分からない建物群をボーッと見ながらノームを歩かせる。


「はー、道のり長えなぁ。戦争の影響かここらに人影もないんじゃチマチマ歩くんじゃなくて背部ブースター使ってパパパッと公国行って検査してギルドから金もらって拠点がある生まれ故郷に帰って愛する家族(いもうと)の様子でも覗いて満足して別の国行きてぇなぁ」

『ダメですよ、マスター。ここは歩行区域ですから非常時以外で走ったり飛んだりしては後で国境警備兵に問答無用で撃たれますよ。兄が犯罪者になってしまったら麗しき妹さんが泣きますよ』

「分かってるよ。密入国するために国境飛び越えるのを防ぐためってんだろ。何処の国でもやってる常識だって。

 それでも、1時間なんの変わり映えもしない風景見てても道が長く感じるくらいに飽きるって。公国は機械操縦者を楽しませる努力をすべきだと思うな」

『二足歩行中型機械の歩行速度は一般の自動車や輸送機と比べると遅いですからね。マスターが思っていることは分かります。せめてノームに飛行能力があれば航空路で今より楽に早く移動できるのですが。

 まあ、ないものは仕方ないですよ。ちなみに、私は暇つぶしに様々な情報を国連のAI管理局からダウンロードしていますので暇とは無縁ですがね』

 公国領に近づいたとはいえ特にすることも無いためイクスと無駄話をしながら俺は直近で見た妹の可愛い笑顔を台詞付きで頭の中で再生しつつ変わり映えのしない映像を見続け、時折ため息をつくように愚痴をこぼす。そして、彼の何気なく言った言葉にハッとしてものすごい勢いで詰め寄る。


「あぁ?! ずるいぞ、イクス! お前だけ暇つぶし道具があるなんて」

『はぁ?! 暇つぶし道具とは失礼な! 私達AIが暴走しないように常に管理局が監視用衛星による秘匿通信で監視し、その対価として与えられた権利なのですよ、これは。それに、私は過去から現在まで至る様々な知識や最近のAI社会情勢についての情報などを取り込んでマスターのために日々学習しているのですよ?!』

「なーにが“マスターのため”だ! どーせ〔傭兵100人に聞いた! 製造業社別、戦闘補助用AI売れ筋ランキング!!〕とか見て自分の順位がどこにあるか探してんだろ? 今まで順位どころか製品名すらあがらなかったじゃねぇか。諦めろ」

『酷いマスター! 確かにそれは読んでいますが、目的はランキング上位常連のメイドタイプAIの製品名[メアリー]さんを応援するためなんですよ! マスターは興味無いのでしょうけどね!』

 暇つぶしのために少しイクスをいじろうかと思って突っかかったが、あまりにも退屈で暇だったのと予想以上にイクスが乗っかってきたので、つい我を忘れて白熱した言い合いに発展していき、俺達の話は修正不可能なところまでどんどん脱線していくのである。


「ああ? それくらい知ってるよ。お前と同じ時期に製造されたやつだろ? 発売当時から凄ぇ行列だったのは覚えてるわ。正直、お前と同じくらい戦闘に要らない機能盛りだくさんなのに執事タイプかメイドタイプかという違いでこうも値段と売れ行きが変わるとは俺は思わなかったね。業者もビックリだったろうな」

『聞き捨てなりませんね、マスター。私達の場合は時代が私達製品名[セバスチャン]に追い付かなかっただけですから。それに、開発者は私達にかなりの機能をつけてくれたのですよ。愛情深い神にも等しき方になんという無礼! いつか天罰が降りますよ』

「〔イケメンボイス機能搭載!イケボな執事にお世話されてみませんか?〕とかいう訳わかんねぇ売り文句を俺に言いながら売りつけに来た開発者のことなんか知るか! 執事なんだったらいちいち主人の会話に余計な口挟むんじゃねぇ!」

 イクスと戦っていくうちに、鼻息を荒くしものすごい早口でセバスチャンを勧めてくる自称開発者とかいうヤバそうな女店員から売れ残ると非常に困るという圧力を隠そうともせず前面に出しながら今なら安くするからと押し付けられるように彼を買った時のことを思い出し身を震わせ、恐怖を払いのけるように声を出した。

 そうこうしているうちに俺達は公国の国境検問所にたどり着いていたのだが、それにお互い気づくことはなかった。


『あ、あのー。すみません。そこの二足歩行型機械に搭乗している方ー。国境警備の者なんですがー。あのー、お取り込み中失礼しますー。聞いてますかー』

「あ、ああ。申し訳ない、色々と立て込んでて気づきませんでした。

 俺の名はミハエル。歳は28で性別は男。傭兵ギルド所属でランクはBです。入国目的は機体の定期検査で公国に支店があるG.M.Cに用があります。あと特筆事項に戦闘補助用AIがいるのと、中型機械操縦者のライセンスを所有しています。情報を送ります」

『はい。確認しますので少々お待ちください』

 弱弱しい男性の声が聞こえてきたのでふと通信機のほうへ意識を向けると警備兵が腰を低くしたような声で俺に話しかけていることに気づき、急いで返事をし、必要な情報を口頭で述べて検問所のほうへ呈示用のものを通信で送る。相手から何かしらの反応が返ってくるまで俺は暇だったからとはいえさすがに盛り上がり過ぎたのと何もなかったとはいえ前方不注意にもほどがあるなと反省をする。イクスも反省しているのか無言になっていた。


『確認が終わりました。問題ないのでそのまま進んでください。あ、道路は3番道路を使ってください。それと、いくつか注意事項についての書面を送るので必ず読んでおいてください。ようこそ、公国へ』

「ああ、ありがとう」

『ギルドで聞いていた公国の兵士とは思えないくらい傭兵に優しい方ですね。話の中身が間違っていたのか、それとも彼が特別なのでしょうか』

 警備兵の様子からここへ来るまでに聞いていた話が間違っているのか、そうなると今まで入手してきた情報も一度確認したほうがよさそうだなと考えていると、イクスも俺と似たようなことを思ったらしい。

 公国について色々と考えていると通信機から先ほどの兵士とは違う野太い男の声が聞こえてくる。


 『馬鹿野郎、お前。傭兵なんかに優しくする必要は無ぇんだよ。あいつらはこっちが優しくしてやるとすぐつけ上がるん......』

 『し、失礼しましたぁ』

 「......やっぱり、彼が特別だったみたいだな」

 『どうか、このままでいて欲しいものですね......』

 プツンッという強制終了をした際に出る音を聞いた俺とイクスはさっきまでのやり取りを聞かなかったことにした。そして、情報の再確認はするとして、面倒ごとには巻き込まれたく無いな、と思いつつ気分が公国に来る前よりさらに落ちるのであった。

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