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傭兵、爆発に巻き込まれて異世界に転移する(第1部完)  作者: @ルケミー
第1部 第0章 傭兵、魔王討伐戦に参加する。
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戦争前

「あ、ミハエルさん。こんにちは、お疲れ様です」

 さっさと依頼報告を済ませようと気持ち早歩きで傭兵ギルドの建物に入ると、俺は前にある受付カウンターにいる複数人いる受付嬢のうち、桃色の髪を肩まで伸ばし紺色の制服を着た受付嬢に笑顔で声をかけられる。


「こんにちは。お久しぶりです。ここのギルドには年内で数回しか来てないし、来ても話す回数が少ないのに、顔と名前をよく覚えてますね」

「ミハエルさんはここら辺では珍しい黒髪と紫眼ですから覚えやすいんです。それに、傭兵さんの顔と名前を覚えるのは受付嬢の仕事の1つですよ」

 ちょうど空いていたので俺は声をかけてきた一応面識のある受付嬢のカウンターに向かい、挨拶をしてから受けていた依頼の話をしようとしたが、彼女の話を聞いて気になった部分があったので少し雑談を始める。


「まあ、ここらじゃ黒髪だと凄く目立つのは分かってるんですが、遠目からジロジロ見られるのはちょっと勘弁してほしいところですね。かと言って街中でヘルメットなんか被っても軍や警察に職質されるのがオチですし」

「ジロジロ見られる気持ちはわかります。生まれつきのもので隠せないものは特にどうしようもないですよね。

 そういえば、ミハエルさんって東の国出身なんですか? 確かあそこは黒色の髪と黒色の眼の方が多いと聞いたことがありますが」

「いや、母親の実家がその辺りだったはずで、俺自身は親父のほうの国出身ですよ。たしか......」

 長期間の依頼が終了して気が緩んでいたためか、俺は依頼報告を手早く済ませるはずが、つい受付嬢との会話に花を咲かせてしまう。


「へぇ〜、そうなんですね。あっ、すいません、話し込んでしまって。それに、傭兵さんの身元を不用意に詮索するなんてマナー違反ですね。

 ゴホンッ。それでは、本日の御用は依頼の受託ですか? それとも依頼の報告ですか?」

「そこまで気にはしてないですよ。隠すことでもないですし。

 今日は依頼の積み荷護衛が無事完了したことといくつか報告をしに来ました」

「はい。それでは、ギルドカードの御提示をお願いします」

 先程まで和かな顔をして話していた受付嬢がスッと真面目な顔をして話し始めるのを見て、俺は彼女の見事な変わりように少し笑いを抑えながら要件を言い、目の前にある機械にスーツ腕部の端末を繋げ、自分のギルドカードを機械に読み込ませる。


「はい、読み込み終了しました。確認します......

 ギルドランクB、ミハエル様で間違いないですか?」

「ええ、問題ないです。

 生体情報ですし、偽るのは無理でしょうなぁ」

「当然です。ギルドが誇る秘密技術ですから。

 それでは依頼の確認をします。依頼内容は積み荷護衛。依頼人からの依頼完了書を確認......問題なし。請負人からの依頼報告書を確認......追加の報酬が発生したみたいですね。ふむふむ......問題はないみたいですね。はい、確認作業が終了しました。特に違反行為も無いのでこのまま依頼料をカードに振り込みますね。

 それで、報告というのは依頼報告書にも書かれていることですか?」

 受付嬢が全ての書類確認を終えると彼女の真面目な顔が少し和やかなものになっていく。俺はその様子を見て、これでやっと長かった依頼が終わったんだなと感じ、次の報告について話していく。


「ええ、こっちに来る道中で無差別の救助信号を出していた傭兵がいたので保護しました。かなり傷を負っていたのでその場で簡単な手当てをして、この街に入ってすぐにここの兵士に頼んで病院へ運んでもらいました。今は治療を受けているはずです。一応マニュアル通りに救助をしましたが、救助義務違反になっていないかを確認して欲しいですね。

 それと、その傭兵を襲ったらしい盗賊団に道中遭遇というより襲撃を受けたので始末しました。頭目含め、何人かの身柄は兵士に渡しておきました。そこそこの規模だったので、その盗賊団に討伐依頼があるかの確認も頼みます」

「はい、分かりました。報告書を見る限り、負傷した方への対処は問題ないかと思われます。事情聴取のため、その病院へ職員を派遣しますので結果が来るまで少しお待ちください。あ、救助に対する請求金額はどうしますか? 今回は新人であるEランクの方なので高い金額は請求できないのですが......」

「あー、いや、請求はしませんよ。護衛ルート上だったのと、彼のおかげで盗賊団の情報を得られて有利な状況で奴らに対処できたのと、ついでに依頼主から追加報酬も貰ったので、必要無いですかね」

 残りは簡単な確認作業であるため、受付嬢の顔が和やかなものに戻っていた。俺は自分の行動に何かしらの問題があったとは思っていなかったので適度に気を抜いて話を続けた。


「それと、盗賊団の件ですね。今ギルド本部に確認を取っていますのでこちらも少しお待ちください。私見ですが、報告書による規模なら何処かのギルドの討伐依頼に引っ掛かると思います。

 それにしても凄いですね。十数人規模の盗賊団を1人でしかも護衛対象に被害を出さずに討伐するなんて。確実にAランクの実力はありますよ。Aランク試験は受けないのですか?」

『それは、マスターが金欠だからですよ。そして、今回の功績もマスター1人だけのものではないと私は声を大にして言いたいです』

「えっ、誰ですか?!」

「お前、いきなり何言ってんだ......」

 受付嬢とのやり取りが報告から会話になっていくなか、突然、俺の端末からイクスが勝手に通信で割り込んできたらしく、目の前に金髪の少年の顔が映ったディスプレイを展開する。そして、驚く受付嬢とあきれる俺を無視してイクスが話し始める。


『はじめまして、お嬢さん。私の名前はイクス。マスターの戦闘補助用AIでありマスターの唯一無二の相棒です。

 いつもは依頼報告なんてめんど......ではなく、知的探求に勤しんでいますが、今回はマスターに用事があったのでマスターへ連絡をするついでに、マスターがどのように依頼報告をしているのか気になっていましたので少し前からマスターの端末の通信を繋げておき、聞き耳を立てていました』

「おいコラ。好き勝手なことやってんじゃねぇぞ。んで、そんなこと言うなら少しは手伝えよな。いっつも面倒だからと報告書を纏めてくれねぇくせに」

「は、はじめましてイクスさん。随分と......その......人間味のある......方ですね」

 イクスの滅茶苦茶な話に俺は文句を言うが、俺の言葉を無視して彼は若干引いている受付嬢と話を続ける。俺はさすがに止めようかと思ったが、イクスが何の考えもなしに行動をするとは思えないのでしばらく静観することを決める。


『マスターは私がいて初めて戦場で輝くことができるのです。私がマスターの窮地を救った回数なんてそれはもう......』

「ははぁ〜。そうなんですね。

 ところで、Aランク試験を受けない理由についてなんですが......」

『おや、いくら私が先走って少し喋ってしまったとはいえ、傭兵の身元を不用意に詮索してもよろしいので?』

「あ、いえ、その。ギルドとしても傭兵さんの昇格拒否の理由を知っておかないとと思いまして......」

 イクスの他を寄せ付けないくらいの勢いにさらに引いている受付嬢が彼との会話をあきらめたのか、申し訳なさそうに俺に尋ねてくる。


「ああ、もともと聞かれたら言おうと思ってたくらいですし。問題ないですよ。

 まあ、昇格を拒否してる訳ではないんですがね、えー......」

『マスターのご実家が投資に失敗して多額の借金を負ってしまったのです。マスターは傭兵になった10年前には色々とありましてご実家との縁は切っていますが、マスターが言うには大変麗しい妹君のために借金を全て肩代わりして、最近やっと全額返済したばかりのです。マスターのおかげで今妹君は一般学校に無事入学できたとか。それによりマスターは現在も金欠なのですよ。いやぁ、素晴らしきシスコンですね。当時はせっかく軍学校の奨学金を全額返済し終えてこれからというときでしたのに。

 Aランク試験の受験料は大変高額と聞きます。なので、現在は受験するためのお金がまだ無いのです。

 はぁ〜、お金が無いくせに救助に対する金銭の請求を断るなんて、どうせカッコつけたいだけでしょうに』

「おい、最初の大部分はいらねぇだろ。最後から手前くらいの文言だけで十分伝わるだろ。それに、そこまで言うほど金欠じゃねぇからな? Bランク傭兵としての体裁を気にしただけであって、カッコつけたいからじゃねぇからな?」

 どう説明したものかと悩んでいた俺をよそに、イクスが俺の家庭事情から懐事情まで聞かれてもいないことをペラペラと暴露し始め、受付嬢が俺をかわいそうな人を見る目で見てきたので、俺は急いで否定と反論と弁明をする。


「そ、そうだったんですね。その、すみません。色々と聞いてしまって」

「ああ、うん。あなたは悪くないですよ。あなたは」

『そうですよ、マスター。非の無い女性を悪く言うことはこのイクスが許しませんよ』

 俺の話を聞いた受付嬢が余計に俺のことを同情するような目で見ながら、これ以上話を広げないように無理矢理話を終わらせようとするが、それを阻止するかのように喋りだす自由奔放なイクスに色々と疲れ始める俺と受付嬢であった。


「はぁ。で、イクス。俺に用があるんじゃなかったのか?」

『はい、マスター。G(ジェネラル).M(メカニック).C(カンパニー)から定期検査の連絡です』

「ああ。もうノームの定期検査の時期か。うーん、この後は拠点に帰って操縦席ん中の荷物整理をしたかったが、まあいいか、ついでだし、武器の買い替えもしとくか。

 では、連絡があるまでこの中にいますので、来たらお願いします」

「あ、はい。わかりました」

 しばらくして、俺はイクスがなぜ通信をつなげてきたのかという本題を彼に伝えることができ、彼からノームの機体検査の話を聞いてそういえばと思い出す。

 報告すべきことはすべて終わっていたので、俺はイクスと共に疲れた顔から元の顔に復帰した受付嬢に軽く挨拶と会釈をしてカウンターから離れ、受付の右側にある複数のカウンターテーブルが置いてあるスペースの空いてるところへ向かう。


「で、ここから1番近いところは何処だ?」

『検索します......ここからだと、公国が1番近いですね。ここの隣ですし、徒歩でも今日中には着きます。それ以外ですと中型機械用定期航空輸送便を使わないと間に合わないですね』

「げぇ、公国かよ! そこの隣国の帝国が少し前から内部統制を徹底していて、あからさまなデマがいくつも拡散されてるから詳しい内情が探れないって前の依頼選ぶときの参考に聞きに行った情報屋が言ってたから、正直、あれから時が経ってるとはいえ、あそこ付近には近づきたかないんだよなぁ。だが、陸上輸送船にすら乗れる金銭的な余裕が無ぇ。あれ高過ぎんだよなぁ」

 俺はイクスの返答を聞いてつい少し大きな声をあげてしまった。すると、さっきの受付嬢が公国とつぶやきしばらく考えるそぶりをし、俺が輸送船の愚痴を言い終わると同時に少し速足で俺たちのほうへやってくるのが見えたので、俺は何かあったのかと思い彼女のほうへ体を向ける。


「公国に行くのですか? その、色々と言い難いことではありますが、今はやめておいた方がいいですよ」

『ほう。それはまた、どうしてですか? 今、帝国は別の隣国である共和国と皇国の2国と戦争をしているはず。ただでさえ今現在、国連に睨まれているのに、たとえ隣国であっても3国同時に戦争するとは考えられませんし、公国が進んで帝国と戦争するとは思えません。ですので、公国へ向かったとしても私たちが戦争に巻き込まれるとは思えないのですが?』

「えっと、戦争については専門外なので話せませんが、あそこは傭兵さんの扱いが酷いとあちらのギルドから報告を受けています。実際に所在している傭兵さんもかなり少ないですし。あと、軍人さんは帝国のAI戦争の影響でかなりAIを嫌っていますので。AIを連れた傭兵にどのような対応をとるか正直に言って予測がつきません」

 受付嬢が俺たちの公国行きをやんわりと反対するが、イクスがそれに疑問を投げかけ、彼女が困った顔と心配そうな顔をしながら彼と話をする。彼らの会話を聞きながら俺はどうするか考えていた。


「なるほど。まあ、傭兵なんてだいたいの軍人から嫌われてますしAIが嫌いな人も普通にいますから特に気にはしませんよ。それが当たり前ですしね。それに、あくまで俺たちはノームの検査に向かうだけですし、長時間滞在はしないからそんなに心配することは無いですよ。

 しかしあれですね、こんな国際情勢だからわざわざ危険を冒してまで他国へ行く必要がなくなるように企業さんには全世界に支店を置いて欲しいものですねぇ」

『こんな国際情勢だからこそ、全世界に1つの企業のみの店があったらその企業は死の武器商人になりますよ、マスター』

「うっ、ま、まあ、それもそうか。

 それに、定期検査という名の戦闘情報収集を手伝うという条件でノームを格安で貰えたわけだし文句は言ってられねぇわな」

『そうですね。私も売れ残りすぎて廃棄寸前のところをマスターに格安で買い叩かれてもらった身ですし。ケチ臭い金欠マスターはお金に左右される運命なんですから』

「うっせぇ。そんなんだから売れ残ったんだろ」

 俺は最終的に公国へ向かうことを決め、G.M.Cを含めたすべての企業の愚痴を言うとイクスが反論してきた。それに対して俺は何も言い返せなかったので話題をそらすつもりで別の話をするとイクスが嫌味のようなことを言い出したので、負けじと彼に嫌味を返した。

 ギャーギャー言い争いを始めた俺達を見ていた受付嬢が笑みをこぼしていると別の受付嬢から何かを聞くと、俺達の争いに割って入ってきた。


「はぁ、分かりました。私もただの受付嬢ですし、お二人を止める権限はありません。勝手ながらあなた達の無事を祈りますね。

 それと、負傷者と盗賊団についての確認が終了しました。特に問題も無かったのでここを出ても大丈夫ですよ。そして、追加報酬がギルドから出されますが少々額が大きいのですぐに渡すことはできません。なので、公国のギルドで受け取りをしてください。ご迷惑をおかけします」

『数回しか会っていない関係なのになんと親切な方なのでしょうか。このような素晴らしい女神様に旅の安全を祈られては何も起きないに違いありませんね、マスター』

「ああ、うん、そうね。露骨な話題逸らしはやめような。はあ、なんか最初から最後までイクスが迷惑かけてすみません。

 それじゃあ、またいつか」

「ええ、頑張ってください」

 俺はイクスによって笑みから苦笑いへ顔が変わった受付嬢に彼が行ってきた数々の振る舞いについて深々と謝罪をしてからギルドを出た。


「とりあえず行くか、公国」

『はい、マスター。今日もお供します』

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