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傭兵、爆発に巻き込まれて異世界に転移する(第1部完)  作者: @ルケミー
第1部 第2章 傭兵、異世界人と遭遇する。
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旅の準備

『ソフィアさん。少しよろしいですか? 魔術について教えて欲しいことがあります』

「え? は、はい? な、なんでございましょうか?」

「大丈夫か? 少し休むか?」

 いつまで待っても正気に戻らないソフィアにイクスが無理矢理聞き出そうとし、声をかけられ戻った彼女は少し慌てながら聞き返す。

 さすがに、ソフィアにとって精神的な衝撃を受ける出来事が多発してるから少しは休ませた方がいいんじゃないか、と思って俺は彼女に休息を提案したが、顔を思いきり横に振って拒否される。


「だ、大丈夫でしゅっ......ゴホンッ。それで、イクスさんは何の魔術について聞きたいの?」

『どの魔術というより、魔鉄があれば私でも魔術が使えるのかというのが知りたいのです』

「えーっと。そうねぇ。それなりの魔鉄の魔力があれば誰でも魔術ができるけど、想像力が無いと上手く扱うことができないと思うわ。それに、イクスさん達って魔素の影響を受けないんじゃないの?」

『その点は多分問題無いです。魔素の影響を受けなくても触媒を使って現象を起こす分には何も問題は無いはずですし、私には映像記録情報がありますので。その通りに行えばできるはずです。試しに......ほっ』

 少し怪しいがどうやら大丈夫なようだ、と俺が思っていると、イクスの質問に対して少し考え込んでから難しそうな顔をして彼女は答えた。

 これに対しイクスは自身の理論について簡単に話すと同時にそれが正しいことを証明するかのように魔術を行使しようとし、俺達の目の前に炎を出すことに成功する。

 目の前で起きた現象にさすがに俺は驚いて声を上げた。


「うぉっ。マジかよ、イクス。魔術を使いやがった。ってことは俺も......

 ん? お前、魔鉄はどこに持ってんだ?」

『魔鉄なら分体製造の時、私のこの球体ボディにコーティングしてあります。これだけでも十分な魔素を得られるようです。これで私は魔術士ですね、マスター』

「お前、いつの間に。てか、やっぱ隠し事あんじゃねぇか!」

「う、嘘......人間じゃないものが魔術を使うなんて......いや、これは魔法、になるのかな?

 それに、影響を受けないとか言っておきながらなんなのこれ......」

 イクスが得意気に炎や水球など魔術をポンポン出している姿を見た俺は、もしかしたら俺も魔術を使えるのかと期待するが、その前に魔術を起こすための触媒となる魔鉄を彼が持っていないことに気づき指摘をした。すると、自身の理論が正しかったことがそんなに嬉しかったのかご機嫌な様子でイクスが白状する。

 それを聞いた俺は、成功するかどうかわからんから、失敗したら黙り、成功したら事後報告するつもりだったなこいつ、とイクスに対して、そもそもなんで最初から言わねぇんだと少しキレ気味に話しかける。

 そんな俺達のやり取りをソフィアは信じられないものを見るかのように立ち、両手で顔を抑えながら小声で何かを言っていた。そして、十分に魔術を検証したイクスが俺とソフィアのことを無視して話を始める。


『ふむ。これで私の計画が進められますね。分体達。アレの用意を』

「おい、今度は何する気だ?」

『安心してください、マスター。全ては貴方のための行動です』

「安心できるか! せめて何をする気なのか言ってくれ!」

 俺は執事達が倉庫へ向かった後にまだ何かしようとしているイクスに問い詰めようとするが、彼ははぐらかすばかりで何も教えてくれなかった。

 こいつ、暴走してんじゃないの? 危険なことはしないと信じているが、なんでこう次から次に俺の知らないところで動いてるのかなぁ? 俺のためとか言いながら実は自身の欲を満たそうとしてんじゃないか、いや、AIが欲にまみれんのかよ。

 そんなことを俺が思っていると倉庫の機械用出入り口から執事達が運搬機でノームの半分くらいの大きさはある横長の金属製の箱を持ってくる。


「これは、魔鉄の箱か? なんでこんなもんを......」

「また魔鉄?! なんでこうもホイホイと魔鉄を使えるのよぉ......」

『この箱に魔術を使えばおそらく......よし、これに造った武器を仕舞い込むと......」

「んなっ?!」「え?! まさか......」

 とりあえずこの実験っぽいやつの結末を見届けてから考えようと俺は魔鉄と聞いてまた混乱しているソフィアとともにイクスが大きな箱で何をしようとしているのかをしっかり観察することにした。そして、彼が箱に何かを仕込んだあと、執事達が運搬機で普通なら箱の外にはみ出る長いキャノン砲をその箱の横の開け口から中にスルスルと入れていき、あっという間に完全に仕舞い込んだ。俺とソフィアは一連の流れを見て大いに驚く。


「これって、収納魔術がかかった魔術具なのね?! しかもこんな大きなサイズ。普通の収納魔術は術者本人の魔力量によって収納可能量が変わるのにこれって......絶対にヤバいわよ。流石に生き物は無理だと思うけどこれなら死体だって収納できちゃうわ。こんなの知られたら魔鉄どころの騒ぎを簡単に超えるわ! そもそもどうやって......」

『魔術具ということは詳しく分かりませんが、ご安心を。この[キャリーボックス]には普段使わない特殊武器や追加装甲などを収納しておくので人前で使う機会は無いかと。普段使いの武器は直接ノームに収納させておきます。

 ちなみに、原理については似たような理論が私達の世界にもありましたのでそれを参考にしました。なので、ソフィアさんの言う魔術具というものでは無いですね。

 あと、この世界の犯罪行為はしませんよ。状況次第によってはマスターを優先しますが』

「まあ、イクスなら多分大丈夫だろ。多分。あとは俺がヘマしなけりゃ。

 んで、お前の言ってた持ち運びの案ってこれだったのかよ。しかも、確信持ってたな?」

『いえ、この案はあくまで理論だけの話でまだ不確定要素がありましたから試しにやってみただけです。自信満々に話した挙句に失敗したでは格好がつきませんからね。それに、これはあくまで複数あった案の1つに過ぎませんので』

 ソフィアがイクスの行った実験について事態を重く考えたようで顔を青くして彼にその危険性を伝えようとするが、彼はそれをケロッとした態度で一蹴する。

 この世界にも法があるのか、そんなことよりも、こいつ、この世界での法を犯さないとか言ってるけど俺達の世界の法は犯す気満々なんだよなぁ、現にもうやってるし俺も許可しちまったしな、と思いイクスについて色々と諦めた俺は一応の抗議をするが、彼はそれをアッサリと躱していく。

 俺が精神的に疲れてきているとソフィアが突然テーブルの上に突っ伏して小声でブツブツと喋り始める。


「それに、こんな簡単に魔術具みたいなのを作るなんて......魔術や魔術具の研究をこれまでしてきたけど、私の人生っていったい......」

『何を言っているのですか。貴方のおかげで私はここまで来れたのです。それに、貴方はまだ若いのでしょう? そして、自身の知的探究のために私達について行くのでしょう? これからですよ』

「うっ。それもそうね......ええいっ! やってやるわ! 私は貴方達から非常識を学んで凄い魔術具を開発してやるんだから!」

「それはそれでどうなんだ?」

 その後何故か落ち込むソフィアにイクスが励まし、立ち直るというよく分からないやり取りを見せられた俺は彼女から面と向かって非常識と言われてしまい、まあ異世界から来たからなと言いたくなるのをグッとこらえて、空気の流れを切り替えさせるために皆に言う。


「とりあえず、これで旅の準備は終わったか?」

「あ、そういえば、そのためにここに来たんだっけ?」

『ええ、大丈夫です。全ての確認作業は終わりましたので、あとは旅の目的とそのための金を稼ぐこと、それらをふまえての私達のここでの立ち位置や振る舞い方などの設定を考えるだけですね」

「あー、そうだな。旅っつっても目的が無ぇと面白くないもんな。それにこの世界の金も無ぇ。あと今の俺達は身分がハッキリしない、下手すりゃお尋ね者みたいなもんだ。怪しまれないようにしなきゃならねぇ。俺達の世界だったら、役所に行けば審査は厳しいが楽に身分が保障されたんだがなぁ」

 今更なことを言うソフィアを無視して俺は、元の世界に帰れそうもないし、このまま森の中に籠るわけにもいかないよな、それに、聞いた限りだと町とかあるらしいからなんとか適応していかねぇと、考えながらイクスと今後のことについて意見を出し合う。


『それなら、一度ソフィアさんの家に向かいましょう。お婆さんの資料を読み込むためというのもありますが、あそこにはそれなりの書物がありましたのでそれらからある程度の知識を得た方が考えやすくなるかと思います。ついでに文字についても情報が得られます』

「え? まあ、確かにうちに資料室はあるわよ。よく見てたわね。一応そこには私が使ってたお婆ちゃんお手製の教科書とかもあるからそれを読むといいわね」

「そうなのか? ふむ、事前に情報が手に入るならそれに越したことはないな。早速向かうとするか。それに、流れでこっちに来ちまったんだ。きちんと挨拶して行った方が良いだろ。なあ、ソフィアさん?」

「そうね、ありがとう。お婆ちゃんにちゃんとお別れをしないとね。

 あとは......お金の稼ぎ方は難しいけど目的や設定なら私も考えるわ。なんてったって現地人だもの。実は憧れてたシチュエーションが......ふひひ......」

「うぉっ、どうした。大丈夫......そうだな、うん。

 そういや、ここのコンテナはどうするよ、イクス?」

 地下空間や魔術実験みたいなやつをワクワクしながら見学していた割には意外としっかりしてんだな、と思っているとイクスがソフィアに一度家へ向かい資料室での閲覧の許可を取っていた。無事に許可が取れたので家に戻るついでにきちんと身辺整理をしたほうが良いだろうとソフィアに話をすると、彼女は頷いた。

 そして、彼女は俺達のための目的や設定を考え始めたのだが、なんだか変な風になっていくので、大丈夫かこの娘、と俺は色々と心配になってしまった。とりあえずはおかしな様子の彼女を放置して俺は気になることをイクスに聞いてみることにする。


『大丈夫ですよ、マスター。ここまで上手くことを運んできた私に出来ないことなど無いので』

「凄ぇ調子乗っててウザいけど、お前にしか頼めねぇってのがなんだか悔しいな」

『私はマスターの力になるために存在しているので。そうでなければ存在する意味がありません』

「イクスさんってなんか重いね」

 ムカつくときはあるがこいつはこいつで俺のために色々と考えてくれてはいるからなぁ、とイクスの言葉に俺が心の中で頷いていると、いつの間にか変な状態から戻ったソフィアが呆れつつ俺とイクスから少し距離を開けていた。

 こうして、次の目標を決めた俺達はここを出る準備の最終確認を行ったあと、ノームに乗り込むのであった。


「よし。ノームに乗って行くぞ。まずは俺が先に操縦席に乗り込んでノームの手を差し出すからソフィアさんは手のひらの上に乗ってくれ。その後は副操縦席まで持っていくからイクスの指示に従ってそこに乗ってくれ。座ったらちゃんとベルトしろよ。イクスは副操縦席の方へ行って彼女を見ておいてくれ」

「わ、分かったわ。異世界のゴーレムに触れるどころか中に入れるのね。緊張するわ」

『そんなに気を張る必要はないですよ、ソフィアさん。全て私とマスターが行いますので。気楽に中を見学してください』

 俺は遠隔操作でノームをしゃがませてから手を動かして操縦席に乗り込み、ソフィアが乗りやすくかつ落ちないよう気を付けて彼女を副操縦席まで運んだ。彼女は搭乗から座席の準備まで多少手間取ったが、イクスの指示のおかげで何とか無事にノームに乗り込んだ。

 そして、俺達は各種安全などを確認し、ノームにそれぞれ、執事達によって倉庫から運び込まれたEハンドガンやEスナイパーライフルなどの軽量武器を収納魔術でしまい、大盾とEアサルトライフルをそれぞれ手に持たせ、諸々の装備品を収納したキャリーボックスをクレーンを使って開け口だった部分を上に向けた状態にして背部に接続させた後、ノームをコンテナの外へ出させるとすぐに振り返させて止める。


『さて、やりますよ。分体達は格納庫の待機場所で固まってください。では、いきますよ......ほっ。

 お、出来ました。消費魔力量は半分といったくらいですか。ふむ。収納魔術の使用中は魔力が回復しないのですか。なるほど』

「うん。やると思ったわ。何でこんなでかいもんが箱に入るかなんて多分説明されても分かんねぇから無視で良いよな?」

「もうなんでもありね......」

 イクスの魔術によりコンテナがノームの背負うキャリーボックスの中に収納され、その様子をカメラ越しに見ていた俺とソフィアは考えるのをやめ、そういうものだと強引に理解することで平静を保った。


「はあ、じゃあ行くか」

『はい、マスター』

「なんか締まらないわね」

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