過剰戦力
「それで、イクス。これらはなんだ?」
『なんだって。それは武器ですよ、マスター」
「俺が聞きたいのはそれじゃねぇよ。なんなんだこの数は」
「あ、あの。えと、その。だ、大丈夫......ですか?」
イクスとソフィアの会話が終わったので俺は倉庫に入ってからずっと気になっていた大量の兵器を指さしながら早速彼に問い詰めた。
イクスの淡々とした反応に対して、こいつ、俺のことを考えて行動していることが俺に伝わっているから平然としていやがるな、まあ実際にその通りだからむかつくんだけどよ、と思いながらここで引き下がるわけにはいかないと気を引き締めていると、ソフィアが何が起きているのか訳がわからず不安そうに俺と彼を交互に見ていた。
しまったいつもの癖でついと俺は反省してすぐにソフィアにここから離れるように言う。
「ああ、すまない、大丈夫だ。ちょっとイクスと話をしなきゃいけないから、ソフィアさんは格納庫の方へ行ってくれ。後で紹介するものがあるから。誰か連れて行ってやってくれ。あと一本昼食バーの用意も頼む」
「承知しました、マスター。さあ、お嬢様、こちらへどうぞ」
「な、何この凄く綺麗な男性。人間じゃないみたい。け、喧嘩は駄目だからね」
近くにいた青年執事にソフィアを案内させた後、俺はイクスへ再び問い詰める。
「で、これも懇切丁寧に分かりやすく説明してくれるんだよな?」
『もちろんです、マスター。
この世界に来るきっかけとなったあの戦争は裏で色々と仕組まれた可能性がありました。そして、この世界でも似たような出来事が起こらないとは言い切れません。現に異世界文明に対しての脅威度をいまだに測れていません。
なので、私はマスターを守るためにこれらの武器を製造しました。いざというときに力不足では悔やんでも悔やみきれません。それに、選択肢は多い方が良いに決まっていますからね』
「ああ、うん。あの戦争については俺も色々と思うところはあったが、今になってはもうどうでもいいことだ。それに、この異世界で生きるためにできることと言ったら力をつけるくらいで実際に兵器開発に勤しむのは聞いていたし好きにやれと許可したし、お前の言う通り武器の種類が多けりゃ選択肢の幅は広がり万が一にも対応できる可能性が高くなるが......
流石にこの条約違反兵器や個人での所有が禁止されてる兵器のオンパレードはやり過ぎだろ。ソフィアさんが聞いてたら間違いなくドン引きするどころの騒ぎじゃなくなるぞ。てか、ここの生き物とか森の雰囲気とかからくる今までの経験や彼女の素人並みな振る舞い、話ぶりから、この世界は俺達が考えているほど危険な世界じゃないと思うんだが?」
『そう決めつけるのは危険です。例えばそのソフィアさんがマスターの特殊性癖を把握したうえで我々を油断させるために見抜けないほどの演技をしている可能性があります。たとえ何も起きなくても備えておいて損はありません』
そんなことあるわけねぇだろ、てかお前まだ疑ってんの? まあいいや、こいつは俺のことと自身の好奇心以外興味なさそうだし、自ら率先して危害を加えようとか破壊をしようとは考えてないようだしな。物騒っちゃ物騒だが、今のところ放置してても問題はなさそうではある。
そう思った俺はここまで話して分かったイクスの俺に対する変に過保護な考えやそれを実行する行動力にかなり呆れながら、壁にある数々の武器を見ていく。
「しっかし、対大型用遠距離ハンドキャノン、中距離実弾E弾混合ガトリング砲に、炸裂散弾砲とか多種多様な違反兵器を大量に作りやがって、こんなん実話をもとにしつつかなり誇張された創作物語くらいでしか見たことないぞ。マジで一体どこの大国と戦争するつもりなんだよ。というか、一体こんなもんどこで製造方法を手に入れたn......あぁ、なんとなく分かったわ。
まあいい、俺のノームは複座型の代わりにコンデンサーの容量が他のやつと比べて少ないんだ。だから、この一般的なE刃生成型長剣でさえ満足に扱えねぇ。弾薬も大量に生産はできねぇってお前自身が言ってたし、どうせ殆どが宝の持ち腐れになる。それに持ち運べねぇしな」
『残念でしたね、マスター。ノームのブラックボックスを解明した私に死角はありません。さすがに融合炉は造れませんでしたが、各種兵器を運用するため、砲戦、空戦、格闘戦などに特化し特殊外部バッテリーを搭載した各種追加装甲をいくつも用意してあります。流石はノームの開発者達、これらの設計図とともに情報交換を目的とした日記みたいなものが入っていました。愛を感じますね。あと、持ち運びに関しては考えがありますので』
「過剰戦力だっつってんの! せめて構想練るなら一般武器の範疇だけにしてろよ! 流石にこれらを使う時が来ないというか、来てほしくないんですが。はぁ、この世界が世紀末でないことを祈るしかねぇなぁ......
そんでもって、あんの開発者どもめ......揃いも揃って違反兵器の設計なんかしてんじゃねぇよ。そして、それを交換日記感覚でブラックボックスに入れてやり取りしてんじゃねぇよ。どうして開発者ってのは変なのしかいないんだ?」
そういや、毎回ノームの検査の時に念入りに調べてるところがあったな、あの時だけ異様にイキイキというより普通に気持ち悪い顔してたが、あれがそうだったのか、と俺は異世界に来てまで自分の世界にいた厄介な連中のことに頭を抱えそうになるが、ふと、もし元の世界でこのことが国連にバレてたら俺も巻き添えを食らっていたんじゃ、という自分がとんでもない橋を渡っていたことに気づき、マジで異世界に来てよかったと心の底から思うのであった。
そして、なんとか荒ぶる心を鎮め、ある程度の確認を済ませてから格納庫の方へ向かった。
そこではソフィアが簡易テーブルセットに座り近くで立っている青年執事と雑談をしていた。
「へぇー。中身は機密なのねぇ。さっき食べた私が言うのもなんだけど、よく食べれるわね。あ、ミハエルさん、イクスさん。お帰りなさい」
「お帰りなさいませ、マスター」
「すまない、待たせたな......ってそれ食ったのか......」
限定特盛一本昼食バー〔13種のサンドウィッチと紅茶飲み比べセット(※風味)〕を食べ終え青年執事と合成食材について話を聞いていたソフィアに俺は隅に置いてあった空袋を一瞥して少し引きながらイクスと一緒に合流する。
「あー、ゴホンッ。俺達の世界について話す前にもう一度きちんと自己紹介をしておく。最初に会ったときは警戒しててあんまり話さなかったんでな。すまなかった。
俺は傭兵ギルドに所属してるBランク傭兵であそこにあるノームの操縦者だ」
「まあ、異世界から来たんじゃしょうがないよね。それで、ノームっていうのはあのゴーレムのことね。ゴーレムなのにノーム......あ、なんでもないわ。
ところで、傭兵って何をやってたの? やっぱり戦争とか?」
「ん? この世界に傭兵やゴーレムってやつはあるのか......いや、まずは傭兵についてだな。
傭兵といっても色々とある。大小問わず機械を操縦できるなら誰でもなれるし、戦争に参加するかは個人の自由だ。新人の主な仕事は機械を使った土木作業だったり、運搬作業だったりするしな。まあ、例外はあるが」
『マスターは主に護衛依頼をこなしてましたね。色々あって機械操縦者が犯罪に走り、一般人を襲うことがよくあるのですよ』
テーブルに着いた俺は改めてソフィアに自分達がいた世界について話を始め、時折イクスが補足をする。ところどころでお互いに突っかかるところはあったが、話を進めることを優先するという考えが一致していたので流れが止まることなく話が進んでいく。
「どの世界でも平和って訳じゃ無いのね」
「一応、俺達の世界には全ての国が集まってできた国連っていう組織があって、そいつらが人類が滅びないように条約作ったり監視したりで平和を保っていたんだがな。まあ、あくまで人類が滅びない程度しかしないから二国間の争いには手出ししなかったが。流石に多数の国が同時に戦争すると止めに入ってたから、世界大戦まで発展することは無かったな」
『私達の世界では国が100以上ありますから流石に1つ1つを丁寧に見る余裕はありませんからね。それでも仕事はしっかりして欲しいと思っていますが。特にあの帝国の......』
「ま、まあ、俺はそんなところの一般人なわけだ。どこにでもいる普通の人間だぞ」
まだ根に持っていたらしくイクスが余計なことを言い始めたので俺は彼を止めるべく一旦ここで区切ろうとするが、ソフィアがここにきて若干納得いかなそうな顔をしていた。
俺達のいた世界の国事情なんか聞いてもしょうがないだろという判断でイクスの口を閉じさせたが、情報を秘匿しようとしていると思われただろうか、と俺が思っているとソフィアが口を開く。
「なるほどねぇ。私達の世界の人より明らかに強い人が一般人......ねぇ。
まあいいわ。次はイクスさんについて教えて」
「言い方に引っかかりを感じるがあえて俺は無視するぞ。
イクスは簡単に言えばAIと呼ばれる機械の一種で、条件付きだが、なんでもできる凄い人間のようなものだと思ってくれ」
『AIについて説明が雑すぎやしませんか、マスター?』
「しょうがないだろ。説明しようにも専門用語や難しい言葉が飛び交うんだぞ。絶対に単語の説明だけで夜になっちまう。それに、知識が無い状態で話しても理解できねぇだろ」
ソフィアの納得いかない部分が俺の一般人発言だったらしく、そこ以外には特に何もなくイクスについての質問をされたので、俺は区切ろうとした会話を続けることにした。
イクスに対するこれまでの反応から、この世界にAIは存在しないのであろうと判断した俺は彼についてAIというものを含めてソフィアにどう説明したものかと悩み、ザックリとしたもので納得してもらうことにした。
どうやら彼女は納得したらしいが、イクスが自分に対する説明内容に抗議をしてくるが、俺は簡潔かつ正確に説明できる自信が無かったので無視した。
「つまり、イクスさんは考えて動くけど生き物じゃないってことね。要は知性あるゴーレムみたいなものね」
『それはそれで納得できませんが、仕方ないですね。これ以上言っても無駄でしょうし』
「あきらめろ、イクス。ここじゃ俺達の常識は通じねぇんだ。最初から分かってたろ」
AIは存在しなくてもそれに近いものは存在するのかと思いつつ、ソフィアの言葉に不満気に反応するイクスを俺が適当に宥めながら、近くにイクスの分体3人組がいることを把握する。
そして、俺はイクス経由で目の前に集まるように命令を出し、整列したのを確認してから彼らの紹介を始める。
「あとはこいつらだな。この3人はイクスの分体のようなものだ。イクスと繋がってるし操ることもできるぞ。因みに、魔鉄で作られた人造人間だ」
「え? やっぱりあの人達、人間じゃないの?! それに魔鉄ってどういうこと?!」
『言葉の通り、魔鉄で作りました。普段は命令に従って動いていますが』
「この通り」
「私、イクスが」
「自由に動かすことができます」
そりゃあそうなるよなぁ、と俺の予想通りに驚き混乱するソフィアに同情しつつ、いまだに混乱している彼女に追い打ちをかけるようにイクスが3人の執事を彼女の周囲を囲むように動かすのを眺める。
「え? どういうこと? 見た目や触った感じは人間なのに中身は魔鉄の人形だなんて。たしかに魔力がとんでもない量ある。こんなのが3人もいるなんてとんでもないところよ、ここは......」
「あー。すまないが。あそこのノームも魔鉄で全身補強されてるんだわ」
『ここに来る前は私達の世界の金属製でしたが、ここに来てからは魔鉄製になりました』
「......は?」
少年イクスの頬をつついてさらに混乱しているソフィアにトドメのように俺とイクスが告げると彼女はそのまましばらく呆然としたまま帰ってくることはなかった。