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傭兵、爆発に巻き込まれて異世界に転移する(第1部完)  作者: @ルケミー
第1部 第2章 傭兵、異世界人と遭遇する。
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世界の法則

「イクスのおかげで何事もなく来れたみたいだな。周囲にもいないみたいだし。

 よし。ここがコンテナがある場所の入口だ」

「貴方達がいたところね。地面が変な色をしてる以外に特に何もないけど、どこに入口が?」

『あ、少し離れた方がいいですよ』

 ソフィアに急かされるようにエレベーター近くの場所に来た俺は、扉の上に立ってキョロキョロと入口を探そうとしている彼女をイクスがその場から離れるよう注意し、誘導したのを確認してから、周囲に気を配りながらスーツ腕部の端末を使って遠隔操作で入口を開け、エレベーターを呼びだす。しばらくして、二つに開いた地面の下からエレベーターである金属の板が現れるのを見たソフィアは興奮気味に俺達に話しかけながら金属板に触り始める。


「な、なにこれ! こんなもの見たことないわ! 一体どうなってるの?!」

「はいはい。調べるのは後にしてくれ。早く行くぞ」

「え? ちょっと待って、この上に乗っていくの? まだ心の準備が......」

『下へ参ります』

 エレベーターに乗って降りるだけなのに、このままではコンテナにたどり着くまでに時間がかかると判断して、金属版を張り付くように調べようとするソフィアを引き剥がし、脇に抱えた状態で俺はエレベーターに乗る。ソフィアが何かを言い終わるまでにイクスがエレベーターを動かし、俺達は地下へ降りて行った。


「わあっ。ここにこんな場所があったなんて。貴方達ばかりズルいわ」

「いや、そんなこと言われても。それにまだコンテナの中にすら入ってないからね?」

『よく疲れないですね。流石は人間の好奇心といったところですか』

 エレベーターが降りて扉が開くと俺に抱えられたままのソフィアは再び興奮して辺りを見渡す。地下に来たら解放しようと思ったけどこの様子じゃまだ駄目そうだなと考えた俺はそのまま地下空間を歩き始める。そして、コンテナのある空間に来たのでソフィアを解放してやると、彼女はまず広い地下空間をキラキラした目で見て回り始めた。

 元気だなぁ、と呑気に思いながら俺はなんだか疲れた様子のイクスとともに常にはしゃぎっぱなしのソフィアに少し温かい目線を送っていた。

 その後、コンテナの周りにこれといったものがないからかすぐに見終わったようで俺のいるところまでソフィアが駆け足気味で帰ってくる。


『そういえば、召喚魔術とやらでこのような大きなものを呼ぶことは可能ですか?』

「うん? そうね......可能と言えば可能よ。

 昔に召喚された者が召喚時に強く思っていたものがついでに引っ張られてきたって話が確か研究資料にあったわね。ただ、それには召喚時に使用したその者の周囲にあるエネルギーの範囲内という制約があるわ」

『やはりそうですか。ここにきて今まで抱いてきた疑問が一気に解決しました。私達が出会った異世界人がソフィアさんで良かったです』

 早速コンテナに入ろうとしていたところにイクスがソフィア話しかけ、その場で会話を始めてしまう。彼らの話に全くついて行けていない俺は会話が終わるまで暇であったが、会話の内容について何も聞かないでいるのはいかがなものかと思い、理解できなくとも聞いていた。

 話が終わったので、コンテナの中に入ると、早速ソフィアが中を探索すると言ってどこかへ行ってしまった。格納庫や倉庫にある機械関係は素人がむやみに触ると危ないのでイクスにソフィアの監視を頼んだ後に俺はリビングへ向かいながらついでに彼に先ほどの会話の解説を求めた。


「で、どういうことよ」

『最初に私が言った爆発によるエネルギーでここに来た、という話が真実味を帯びたということです』

「ああ、あの話か。それで、理由がさっきの話か?」

 部屋に入ったが着替えることはせず、スーツのまま椅子に座った俺と台座に嵌まったイクスは話の続きをする。


『はい。爆発に巻き込まれる前にマスターが旅行に行くことやコンテナでの整備について考えていたためにこの世界へ飛ばされることになり、これも一緒に巻き込まれた。というのが私の考えです。そう考えるのが一番自然なのでは、というところではありますが』

「なるほど。確かにお前の言う通りあの時若干考えていたが、それでも説明がつかないことがある。俺の妹がこの世界に来ていないのとか、誰が俺達をこの世界に呼び出したのかとか、エレベーターやこの空間だって......」

『妹君についてはおそらく人を連れ込むことができないのでしょう。そして、召喚者についてですが、これはまだ分かりません。最後に、ここのことについてですが......これは私の願望ですね。格安コンテナは仕方ないにしても設備が整った拠点を管理してみたいなと常日頃考えていました。いやー、こんなところでマスターに私の秘密がバレてしまうなんて』

 イクスが俺にもわかるように簡単に話すが、それを聞いてもなおまだまだ謎があると言いたかった俺に彼がとんでもないことを言い出す。そして、なんとも思っていない態度の彼にもの凄い不安を覚えた俺はさっきまで気になっていた事柄全てを置いておき、彼に問いただそうとする。


「......おい。お前。もしかしてまだ俺に何か隠してないだろうな?」

『いえそんなことは......』

「ちょっと! 二人とも! いたいた。探したわ! こっちに来てよっ!! 説明して欲しいことがあるわっ!!」

 こいつ、絶対何か隠してるな。隠すならもう少しちゃんと隠してほしいし、なんで俺に匂わせるようなことしてんだよ、からかって楽しんでんのか? まあ、俺に何らかの損失が出るものではなさそうなところが救いか。聞いても答えないってことは何か事情があるんだろうな、ということにしておこう。

 そう思って俺は怪しい雰囲気のするイクスに仕方ないとジト目を送りながら、そうは情報屋が渡さないぜ、とおとなしく引き下がることはせずに彼から無理矢理聞き出そうとするが乱入者によって失敗する。その乱入者はドタドタとリビングへ走ってきた目をカッと見開いてこちらを見ているソフィアであり、彼女によって急かされるように俺達は倉庫へ連れて行かれる。

 倉庫の中に入ってなんだなんだと思って辺りを見渡してからソフィアを見ていると、彼女は山のように積まれているとある箱を指さしながら話し始める。


「ねえ! この鉱石をどこで採ってきたの?!」

「え、その鉱石なら近くの山からで、何か不味かったか? というか落ち着いてくれ。ちょっと顔が怖い」

「い、いえ。悪いとかそういうわけじゃ。ごめんなさい。少し興奮してたみたいね。

 スーハー......コホンッ。いい? この鉱石はね魔鉄鉱と呼ばれる超がつくくらいの貴重な魔鉄という魔法金属の鉱石なのよ」

『それは一体どういうものなのですか?』

 いまだに目が見開いたままなのでさすがに怖いと俺は思い、いったん落ち着くようにソフィアに言い聞かせる。そして、落ち着きを取り戻した彼女が先ほどの箱の中に積まれた俺達が採ってきてた鉱石の山を指差しながら鉱石についての説明を始めた。

 しかし、知らない単語が出てきたのでイクスが説明を遮って彼女に質問をする。


「あーそういえば、貴方達は異世界から来たんだったわ。えー、まずは魔法金属について説明するわね。

 これは魔力を吸収して貯めることができる金属のことをそう呼んでるの。有名な物はミスリルやアダマンタイトといったところね。

 で、これの凄いところは貯めた魔力を人間が使うことができるというところなのよ。これさえあれば魔術が使えない人でも使えるようになるし、魔術が使える人が使えばさらに大きな魔術を使えるようになるわ。

 だから、魔法金属はもの凄く価値が高いの」

「それは凄そうだな」

「凄いなんてもんじゃないわ。たとえ低品質でも魔法金属で鎧を作れば魔術や魔法が効きにくくなるし、剣を作ればあっという間に魔剣士の出来上がりよ。質を問わず大量に確保すればかなり強い軍隊が出来上がるのよ?! たとえ少量でも質の高いものならどこの国の王族や貴族が大金を叩いて手に入れようとするわ!」

「お、おう」

 最初はゆっくり丁寧に話していたが俺の反応に何かしらの不満があったのか、ドンドン言葉に力が入り始めて今では凄い勢いで喋るソフィアの説明を俺は少し気圧されながらかなり大事な話らしいのでしっかり聞こうとする。

 ある程度の話を聞き終えて、イクスがソフィアに質問をする。


『それで、この鉱石は魔法金属の中でかなりヤバい物なのですか?』

「ええ、そうね。ヤバいなんてレベルの話じゃないわ。魔法金属は加工が難しいと言われているけど、魔鉄はまるで鉄のように簡単に加工ができてとても頑丈なのと魔法金属の中で一番の魔力吸収量と保有量を持つの。だから武器や防具の素材としてはかなり優秀よ。

 でも、これが採れるところは魔力が多く、とても硬い地面や地盤の中にあるから、鉱石が埋まっている場所を探して採掘することが魔術でも難しいと言われてるの。だから、怪しいと思うところを見張って、採掘可能な地表近くまで自然に出てくるのを待つ以外に採掘方法が無いっていうのに、こんなにたくさんあるなんて」

「確かに、それはヤバそうだな」

 懇切丁寧に説明をしてくれるソフィアのおかげで少しずつ事態を飲み込みつつある俺は、価値が無くて無視されてきた物かと考えていたが、実際はとんでもねぇもんだったのか、とノーム修復時の出来事を思い出しつつ考えていた。

 そして、ノームのことを思っていたことによりふと疑問というより納得いかない部分が出てきたので、俺はソフィアにそれについて聞いてみることにした。


「だが、実際に採掘できてんだ。本当は簡単に採れるんじゃないのか? というか、少し前に狼の死骸埋めるのに普通に穴掘ってたが」

「え?! そうだったの?! 全然気づかなかった。そ、そういえば魔石に夢中で死骸の処理のこと忘れてたわ......」

『いえ、マスター。これはおそらく、私達だからこそできたことだと思います』

「どういうことだ、イクス?」

「何か知ってるの、イクスさん?」

 俺の質問に答えたものは俺の言葉に驚いたあと小声で何かを言っているソフィアではなく彼女の独り言をぶった切るように話し始めたイクスだった。彼の口ぶりから何やら俺の知らない何かを理解したようだった。

 静かになった倉庫内で一通りの説明が終わった彼女に代わって今度はイクスが話し始める。


『中身を話す前に私の推察を簡単に言いますね。

 この世界は魔法や魔術を引き起こす素のようなもの、ここでは魔素と呼びましょう、その魔素によりその現象を決定される。しかし、その場にある魔素よりも多い魔素で現象を変えることができる。というのがこの世界の法則のようなものでしょう。

 魔鉄鉱がある場所にはかなり多くの魔素があり人間の魔素ではどうすることもできない。といったところでしょうか』

「ん? なんだ? つまりどういうことだ?」

「なるほど......お婆ちゃんの研究資料にあった理論の話ね。詳しくは理解できなかったけど、確かにそのようなことも書いてあったはずだわ。イクスさん、その理論を知らないのに少しの話だけでよく分かったわね」

 世界の法則って、重力とか空気とかのことか? と俺はイクスの話を聞いてすぐに理解することはできなかったが、分からないなりに考えながら続きを聞いていた。

 一方、イクスの話が分かった様子のソフィアは彼の考えが婆さんの研究結果と同じ結論に至っていることに驚きつつ、口元に手を当て研究資料の内容を思い出しながら自分の考えをまとめている。


『そして、これまでの実験や情報収集から、私とマスターは魔素の無い異世界から来たものなので、おそらく、ここの魔素の直接的な影響をあまり受けないのでしょう。

 試しに、マスター。木の枝で木の板を擦り付けて火をつけてみてください。私達の世界で昔あった火の起こし方です。周囲に燃えやすいものはないので安心して思い切りやってください』

「お、おう。わかった。やってみるわ」

「そんなので火がつくの?」

 なんでここにこんなもんが、何かの実験でもしてたのか? とイクスの説明よりも疑問に思うことがあったがとりあえず思考の隅に置いておき、俺は彼の指示通りに倉庫にあったもので火を起こそうとしたが、全く火がつくことはなかった。


「イクス。つかねえぞ。お前の言ってること間違ってんじゃねぇのか?」

『そんなことはありません。では、次は着火具を使ってください』

「だから魔術を使わなきゃ無理だっ......えぇっ?! 嘘......火がついたわ! ちょっと私にもそれ使わせて」

 またイクスの指示でケースに仕舞ってある着火具を取り出し、木の枝に火をつけると、木の枝先に火が点き燃え始めた。これを見たソフィアは大きな声で驚き、じっと燃える枝を見つめ、俺から着火具を譲り受けると別の枝を取り出し着火具で火をつけようとするが枝が燃えるどころか着火具から火がつくことすらなかった。

 何度も着火具のスイッチを押すが一向に火が点らず、拗ね始めたソフィアを見ていたイクスが説明を再開する。


『これらのことから、世界の法則がそれぞれ違い、私達はこの世界のものに、ソフィアさんは私達の世界のものに影響を受けないということが分かります』

「そんな! それじゃあミハエルさんとイクスさんはこの世界だとなんの影響も受けない無敵な存在だってこと?!」

『いえ、そう言う訳では無いですね。魔素の影響を受けなくても発生した現象には影響を受けます。火で火傷をしますし、水の中で溺れますし、重力や空気の影響も今現在で受けていますね。

 魔鉄鉱の場合はおそらく魔素による膜や層のようなものを無視して直接土を削ったということになりますかね。

 そうすると、現象の中に魔素があるということになりますね。現象を維持するための燃料のようなものでしょうか。気になりますね』

「流石に火の中や水の中でも普通に生きていたら人間辞めてるわな。だが、イクスの話を聞いた限りだとこの世界はなんとも歪な感じだよなぁ」

 なるほどなぁと俺はイクスの話が終わるころには納得はできずともそれなりに話の内容を理解した。そして、すべて話し終わったようだったので、倉庫に来てからずっと気になっていたことをイクスに問いただしてやろうかと思っていたら、色々と衝撃を受けたソフィアが彼といくつかの話をし始めてしまい、俺はそれが終わるまでさっきの話を自分の中でまとめながら待つことにした。

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